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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
はじまり編
21/107

第20話『はじまりの日』


「あれ、兄さんは?」


 書庫から日渡伝書を持ってきた僕は、さっきまで居間にいた兄がいなくなっていることに気付いて花菜に尋ねた。


「えっとね、なんか調べたいことがあるらしくて出かけてったよ」


 花菜は巫女服ではなく私服姿で、グデッと畳の上に転がって寛いでいる。


 あれ、ここ僕の家であって、花菜の家ではないんだけどな。おかしいな。なんでこんなに寛いでいるんだろうな。


 ま、いいけど。


 僕は昨日から読み始めた日渡伝書を読まなきゃいけないし。


 現在5巻目。まだまだ先は遠い。


 僕は椅子に座って日渡伝書を読み始めた。しかし、それはすぐに邪魔される。


「大貴はいるかしら?」


「うわぁ!」


 いきなり頭上から声がしてびっくりする。


 そこにいたのは、妖精の極峰くれはさんだった。


「いえ、今はいませんけど……」


「ほんとに?」


 食い気味で聞き返される。


「え、えぇ、なんか出かけたみたいです」


 僕が答えると、くれはさんは不思議そうな顔をする。


「伝達がいっていないのかしら?」


「どうかしたんですか?」


 花菜がそう尋ねると、くれはさんはいきなり花菜に質問をする。


「花菜ちゃん、今日の予定は?」


「は? え、あー、特になにもないですよ。強いて言うなら、午後に境内の掃除くらい……?」


 するとくれはさんが爆弾を落とす。


「ほんとに? 安久斗様が来るって聞いてない?」


「「はぁ!?」」


 僕と花菜は思いっきり声を上げた。


「おい花菜、お前なに忘れてんだ?」


「勝手に忘れたことにしないでくれる? 私そんなの聞いてないもん!」


 伝達がクズだ。他国が絡んだ事態だってのに伝達できてないとか、この国は大丈夫なのかよ……


「安久斗様一行は、現在昇竜川の手前あたりです。到着にはまだ2時間ほどかかると思います」


 くれはさんがそう言う。


「でも、きっと大貴さんも知りませんよ?」


 そう言った花菜に僕は訊く。


「兄さんがどこに行ったかは知らないの?」


「うん。調べたいことがあるから出かけてくるって」


 使えねぇ巫女だな。


「では、この神社にいる可能性もあるのではないでしょうか?」


 くれはさんの言葉に、僕と花菜が首を振る。


「出かけてくるって言ったのなら、おそらくここにはいません。だってこの神社が僕らの住まいですし……」


 それには花菜も頷く。


「心当たりはありませんか?」


 くれはさんの質問に、花菜が答える。


「特にはありません。けど、もしかしたら神様なら……」


 そう言って花菜は私服を脱ぎ捨てた。そして床に畳んであった巫女服へと着替える。


 僕がいるってのに、全く堂々としたやつだ。


 とは言っても、それほど大したことではない。日常の中でもよくあることだし、小さい頃から一緒にいることもあって違和感も感じない。感覚的には家族同然であり、異性だと認識していないのが大きいだろう。


「ちょっと神様に会ってきます」


 花菜はそう言い、本殿へ向けて走り去った。




ーーーーー

ーーー




「神様」


 私が本殿の奥の隠し扉を開けると、神様は刀を研いでいた。


「お? 花菜か。どうしたの?」


 その手を休めることなく私に言う神様。


 赤く長いツインテールがゆらゆらと揺れている。


「あの、質問なんですが、今日濱竹から安久斗様がお見えになることはご存知ですか?」


「……」


 神様の動きが止まる。そして直後、まずいと言わんばかりの顔になった。


「……忘れていたんですね?」


 私の言葉に、神様はコクリと頷く。


「は、花菜。大貴はいるかい? いたら呼んできてもらいたいんだけど……」


 冷や汗だらけの顔を私に向けてそう言う神様。だけど、大貴さんの居場所は分からない。


「それがですね、大貴さん、いないんですよ。調べ物がしたいとか言っていきなりいなくなっちゃったし」


 私が答えると、


「どこに行ったかは知らない?」


 と問われる。


「その質問、そのまま返したいです」


 私がそう言うと、神様は口をギュッと一文字に結んだ。そして少し目をキョロキョロさせると、思い立ったかのようにいきなり猛スピードで私の横を通り抜けて、扉を派手に押しのけて本殿へと消えていった。


「ちょっ、神様っ!?」


 私が慌てて振り向いた時には既に飛行していて、本殿の縁側まで駆けて行って空を見上げると、青い空の中を真っ赤な筋が猛スピードで左にカーブしていく姿だけが見えた。


 ……どうしよう。


 というか、神様は一体何をする気なの?


 私は呆然と、神様の消えていった空を眺めることしかできなかった。




ーーーーー

ーーー




 本殿から、ものすごい音が聞こえた。


 扉が乱暴に開く音だと思うが、壊れたんじゃないかと思うくらいの轟音だった。


 驚いた僕とくれはさんは同時に本殿へと向き直る。すると、その瞬間に赤い光に身を包んだ何かが本殿の縁側から空へ向かって飛び立った。その速さは、とてもじゃないが生物を逸脱していた。みるみるうちに上昇し、上空で弧を描いて東へと消えていった。


 ふと本殿の縁側に目をやると、花菜が一人空を見上げて呆然としていた。


「追わなくていいの?」


 僕が花菜に言うと、花菜は僕を見て困ったように笑った。


「大逆罪だね」


 ……あ。




ーーーーー

ーーー




 日渡の東の果てにある見窄らしい神社、御厨神社。そこはかつて一国の拠点であり、そして二人の神によって管理されていた。


 その歴史は古く、今からおよそ1700年前にはこの地の中心部として栄えていた。


 現在、聖域とされているその地――兎山――には、未だ数多くの歴史的資料が保存されている。


 資料を管理するのは、かつて『神』として兎山国を治めていた、兎山明である。


 明は常に、真っ暗な本堂の中で生活をしている。不健康そうにも見える極端に白い肌と、美しく切り揃えたサラサラなショートボブの銀髪が特徴的な美少女。一見、儚げで弱々しい印象を覚える彼女だが、その半生は容姿からは想像もつかぬような壮絶なものである。だが、それを知っている者は今や誰もいない。


 ほとんど引きこもりと言っても過言ではなく、人と関わるのが嫌いな彼女は、今日も一日誰も来ないことを人知れず願っている。


 しかし、不運なことに明は人の気配を感じてしまった。


(物好きね。誰よ、呼んでないのに来るバカは)


 そんなことを思いながら着物を羽織る。その直後、ちょうどボロ扉がノックされる。


「明様」


 そして聞こえる声。その声の主は、日渡の臣、磐田大貴である。


「なに?」


 明が扉越しに返事をする。


「兎山伝書を読みたいのですが、よろしいでしょうか?」


 大貴の声に、明は一つため息を吐く。


「いいけど、何に使うのよ?」


「萌加様の喪われた記憶を調べているんです」


 明の質問に大貴がそう答える。


 そこでようやく、明は本堂の扉を開けた。


 真っ直ぐ眩しい光が差し込んでくる。明は一瞬だけ目を瞑るが、すぐに手をかざして日差しを避けた。


「それは兎山伝書には書いていないわよ?」


「それでも読みたいんです。兎山に託された経緯を詳しく調べれば、なにか手がかりがあるかもしれませんし」


「どうかしら……」


 明はその意見には賛成しない。なぜなら、今まで自分がいくら調べても、有力な情報を得ることができなかったからだ。


 しかしそれは、託された理由を身をもって知っているから、主観的な見方しかしていないからなのかもしれないと、明は思った。


(客観的な見方をすれば、記憶の解明に結びつくかしら? 別の角度から調べれば何か分かることもあるし、この臣はそういう分析能力に長けている方なのよね)


 そう思い、明は大貴に賭けることにした。


「萌加がここに託されたって記述は、兎山伝書の1巻に載っているわ」


「では……」


 大貴が貸して欲しそうにそう言葉を切り出す。だが、明にはひとつ疑問があった。


「でも、どうしていきなりそれを調べようと思ったの?」


 明の質問に、大貴は「話せば長くなるのですが」と前置きをしてから話し始める。


「昨日、たまたま用事があり、真夜中に本堂を訪れたんです。そうしたらそこに萌加様がおりまして、

「まだ起きていたんですね」

 と話しかけたんです。すると萌加様は、俺を見ていきなり刀を抜いたんです。萌加様は、普段帯刀をしていません。それに、人に対して抜刀するなど見たことがありません。ですから驚いて、

「どうしたんですか?」

 と尋ねました。そうしたら、萌加様が刀身に炎を宿して、

「誰に口利いてんだ?」

 と仰いました。俺は慌てて跪いて、

「御無礼致しました、神様」

 と言いました。萌加様は跪く俺を見て、満足そうに自室へと戻って行きました。それで朝になって萌加様に深夜のことを尋ねると、全く覚えていないんです。それで……」


「もしかしたら喪われた記憶と関係があるかもしれない、と考えた訳ね」


「はい」


 明は顎に手を当てて呟く。


「確かに変ね。萌加があなたに抜刀するなんて、普通に考えておかしいわ。どこぞの国の巫女じゃあるまいし」


 明の中では、萌加は妹のような存在である。可愛らしく、素直で、無邪気で、そしてやんちゃな少女である。


 そして、そんな萌加がそのような奇行に走るなど、明からしたら考えたくもないことであった。


「萌加の喪われた記憶については私も知らない。知りたいと思う反面、知りたくないとも思うわ。どうしても知りたいなら、靜に聞くのはどうかしら? 萌加を保護した本人だし、何か知っている可能性は十分にあると思うけど」


 明は大貴にそう提案する。ただ、それは何度も試みた。その度に「知っていたら告げているわよ」とあおいに言われた。つまり、靜に聞いても何も情報を得られないのだが、何も動かないよりはマシなのではないだろうかと明は考えた。


 そして、最後にこう付け足した。


「兎山伝書には、萌加の記憶については大して載っていないわ。それに、あなたの知っている限りの情報以上は手に入らないと思うわよ?」


「それでも、もう一度読み直します。臣として、萌加様の記憶を取り戻す手伝いがしたいんです」


 大貴のその意思に、明はやれやれと頭を振る。


「ほんと、お節介よね、あんた」


「気になることは解明しないと気が済まない性格なんです」


「そう」


 明は大貴に微笑んで、


「まぁ、その意志の強さと萌加への忠誠心に免じて、特別に貸してあげるよ」


 と言う。そして、目を閉じて右手を空へと掲げた。


 すると、いきなり周囲が暗くなり、明が青く輝き始めた。


 地面からは勢いよく風が吹き出し、美しい銀髪が逆立つ。


「御厨堂の御霊みたまを崇めよ」


 明が静かにそう呟くと、地面から大量の火の玉が噴き出す。そして、その火の玉が明の右手の掌に集まっていく。


《なにすんの、なにすんの?》


《たのしいこと、たのしいこと?》


《あそぼ、あそぼ?》


《なかよし、なかよし?》


 小さくて高い声が周囲にこだまする。


「なんだ、これ……」


 大貴は明の能力を初めて目にした。それもそのはずで、明が他人に能力を見せるのは兎山国が滅亡してからは初めてのことであるのだ。


 明の能力は『地属性』の『墓』である。土の中に眠る魂を強制的に目覚めさせ、それに命令して操るという能力である。そしてその権能の幅は広く、攻撃、防御、さらには日用品の代用にまで及ぶ。例えば、コップになるように明が命じたなら、操られた魂はコップを形成する。また、刀になるように命じたなら、操られた魂は刀を形成する。このように、多種多様なことが可能なのだ。


「化けろ!」


 明は集まった火の玉に向かってそう命令する。すると、強烈な白い光が周囲に放たれた。大貴は眩しさのあまり目を閉じる。その間に、地面から吹き上げる風は収まり、周囲は普通の昼間の様子へと戻っていく。


 明の高く掲げた右手には、一冊の本があった。


「はい、兎山伝書の1巻」


 そして、何事もなかったかのように明が大貴にその本を渡す。


「読み終わったら返しにきて」


「あ、ありがとうございます」


 大貴は、見た目自分と大して年齢の変わらないこの美少女も、れっきとした元永神種であるのだと初めて実感した。


「では、借りていきます」


 大貴がそう明に告げて、帰路に着こうとしたその時のことである。


 明が突如として上空を勢いよく見た。


「何か来る……」


 そう呟き、空を睨みつけた。大貴も明と共に空を見上げた。するとそこに、赤い光が見え始めた。


「あれは……」


「萌加様?」


 二人して、その存在が何であるかに気付いた。


 その直後、御厨神社の境内に赤い光が降り立った。


「大貴!」


 そこに降り立ったのは、予想通り日渡萌加であった。


「どうしたんですか?」


 名前を呼ばれた大貴が萌加に訊き返すと、萌加は大貴に頭を下げた。


「ごめん! 伝え忘れてたんだけど、実は今から、安久斗が来るんだ。急いで支度してくれる?」


「……」


 勘弁してくれ、と大貴は心から思った。


「なんでそんな大事なことを伝え忘れるのよ……」


 明も心から呆れてそう言葉を溢す。


「だって、今日の朝は色々あって忙しかったんだもん! 伝え忘れるのも無理はないよ」


「知らないわよ、そんなの。いい? 萌加の事情だけで世界が動いているわけじゃないの。今日はまだ気が付いたからよかったけど、そのまま気付かなかったら一大事よ? 濱竹安久斗は怒らせたらいけないわ。萌加は知らないかもしれないけどね、あいつは異端児よ。皇神種の強さじゃないわ。だから、絶対に敵に回さないこと。それに限るわ。あいつがその気になれば、日渡なんか……」


 そう言って、明が萌加の目の前で握り拳を作る。


「分かってるよ。わたしは安久斗と敵対するつもりは毛頭ない。だから大丈夫だよ、日渡は潰れない」


 そう言って、萌加は笑った。


「じゃ、帰る」


 そして大貴を掴むと、そのまま空へと飛び立った。


「えっ? ちょ、萌加様!? うわぁぁぁあ!」


 大貴の声が空へと消えていく。


「何やってんのよ、まったく」


 明はそう呟いて、本堂へと入っていく。そして扉を閉めて、真っ暗の部屋の中で服を脱いだ。


「喪われた記憶、ね。そういうのって、知らない方がいいと思うんだけど……」


 明はひとりでそう呟き、


「ま、く言う私も少しは興味があったのよね」


 とどこか寂しそうに笑った。




ーーーーー

ーーー




「おいおいおいおい、待て待て、少し落ち着け……って、うわっ!」


「何を言っているの、あなたは大逆罪という罪を犯したのよ? さぁ、分かったら大人しく捕まりなさいっ!」


「いやわっかんねぇよ!? ってか受け入れられねーし、そんな罪!」


「問答無用! 神様を見たからあんたには大逆罪が適用されんのよ!」


「偶然だろーが! ってかあの状況で見るなって言う方が無理だろ!」


「無理じゃない、見ないこともできた。見たあんたが悪い。さぁ、観念しなさいっ!」


 現在、僕と花菜は境内の庭で能力を用いながら戦闘を繰り広げている。少し前と全く同じ状況だ。


 花菜の放つ蔦や草木を交わしながら、花菜に対して火を用いて攻撃を仕掛ける。


「あーもう! なんでそんなに逃げ足が速いのよ!」


 そう言って、花菜はお祓い棒を振り回して10本の蔦を伸ばした。


「多い……!」


 流石に驚いた。しかもその蔦、意外と速い。追いつかれるのも時間の問題。焼き払うか? いや、花菜も対策をしているはずだ。この青々とした蔦を見る限り、前に言っていた『水分を多く含んだ燃えにくい草』なのだろう。


 ……じゃあどうする?


「くっそ、やるしかねぇか」


 僕は能力を発動し、右手から細く火を噴いた。しかし、火力は相当なものである。


 僕はその細い火柱を右手に持って、刀のようにして蔦を斬る。


「ちょっと、そんなことできるの!?」


 花菜は初めて見る火の剣に驚いた。


炎の剣(フレイムソード)か。お前、そんなことできるようになったんだな」


「うわぁ!?」


 いきなりの声に驚く。


 どこからともなく現れたのは兄だった。


「あ、大貴さん! もう、どこ行ってたんですか?」


 花菜が兄に近寄っていく。


 兄は手に持った分厚い本を見せて、


「これを取りに行っていたんだ」


 と言う。


「なんですか、それ?」


 花菜が質問すると、


「兎山伝書だ」


 と返ってくる。


 へぇ、兎山にも伝書があるのか。大志が知ったらすぐに読みに行きそうだな。


「あ、大貴さん。神様がさっき……」


「あぁ、神様ならもう本殿にいらっしゃる。さっき兎山で出会ってね」


 兄がそう言う。花菜は安心したようで、ため息を一つ吐いた。


「それで、知っているかい? 今日、安久斗様がここにお見えになることを」


「はい」


 花菜に問うた兄は、その返事を聞いて顔を顰める。


「じゃあなんで境内をこんなに荒らしたんだ? 安久斗様がいらっしゃるまでには片付けろよ?」


「……」


 花菜の顔に冷や汗が垂れる。


 ま、それに関しては花菜の自業自得だ。いきなり大逆罪だと言って攻撃してきたし、僕はなんにも悪くない。


「どんまい、花菜。片付け頑張れよ」


 僕はそう言って、街へ行こうと階段を目指す。


 ……が。


「待て、大智」


 兄から呼び止められた。


「一緒になって暴れていたんだ。お前も片付けをしろ」


 ですよねー、知ってました。


 まぁ、境内を荒らしたことに関しては僕も言い逃れはできない。ここは素直に手伝うとしよう。


「……はーい」


 そうして、僕と花菜は境内の片付けを始めるのだった。




 そして、それから1時間ほどが経った。


 すっかり片付いた境内と、少々飾られた本殿。安久斗様一行を出迎える準備は全て整った。


 ちなみに、くれはさんは濱竹の面々に日渡に頻繁に出入りしていることがバレると面倒らしく、自身の管理する濱竹北部の昇竜行政区へと帰っていった。


 そして、ついに一行が到着する。


 神社の手前で出迎えるのは、僕と大志だ。そこから本殿へ案内するまでの役割である。本殿には既に兄と花菜が待機している。


 一行が近付いてきて、顔が見えるようになると、僕は驚いた。


 そこにいたのは、全員見知った面々だったからだ。


「よぉ、大智。2日ぶりだな」


「中田島将軍!」


 そこにいたのは、中田島将軍と小林氏、綴さんと喜々音さんだった。


「無事でよかったよ」


 小林氏がそう言い、横で綴さんも頷いていた。


「ご、ごめんなさい」


 いきなり喜々音さんが僕に謝った。


「えっ!? ど、どうして……?」


「だって、私の判断ミスであなたは殺されかけたんですよ?」


 はぁ。どういうことでしょうか。理解が追いつきません。


「あー、つまり、大智くんを逃すように僕に命令したのは小松ちゃんなんだよ。でも、逃げた先にも人類がいたでしょ? 小松ちゃんはそれを気にしているってこと。ずっと大智くんのことを心配してたよ」


「そうなんですか」


 なんか意外。喜々音さんがねぇ……


「元気そうで、よかったです」


 喜々音さんがホッとしたように僕に言った。


「ほんとに。元気そうでなによりだ」


 喜々音さんの言葉に便乗するように僕へ話しかけて来たのは、将軍の引いていた人力車から降りて来たひくま様だった。


「ひくま様、一昨日は数々の無礼を働いてしまい、申し訳ありません」


「いや、いいんだ。君みたいに無礼を知らない人と話すのは嫌いじゃない。それに、君は日渡の臣の弟だ。立場としては同格に近い。だから何も問題はない」


 ひくま様はそう言って笑った。人が良すぎやしないか、この臣。


 そう思っていると、同じく人力車から降りて来た安久斗様が僕に仰る。


「大智。君とゆっくり話をしたいところなのだが、それは後回しだ。兄君たちのところへ案内してくれないか?」


「分かりました。では、案内いたします」


 そう言って、僕は安久斗様一行を案内する。


 大志は小林氏たちが持って来た荷物を持ち、後ろをスタスタと付いてくる。


 長い石段を登り終えると、目の前に本殿が見えてくる。そして本殿へと案内し、僕は中にいる兄と花菜に告げた。


「濱竹安久斗様と浜松ひくま様の御成であります」


 その言葉で、本殿の木の引き戸が開く。中が見えるのだが、左右に正装をした兄と花菜が、そしてその背後には簾が掛かっている。しかしその奥に、小さな人影らしきものを確認した。


 あれは……


「よう、萌加。久しいな。相変わらず国民には姿を見せねぇってか。シャイな奴だな」


「うるさい、安久斗! わたしだって好きで簾の裏にいるわけじゃないんだからね」


「ははは! 言うじゃねぇか。ってことは、まだ法律の改正には至ってねぇようだな。ご愁傷様」


「ぐぬぬぅ、なんか腹立つ、その言い方!」


 あの声、どっかで聞いたことあるような……


「ちーにぃ、じっと見たら大逆罪。行くよ」


 あ。


 大志にそう言われて、僕は敷地内にある自宅へと帰った。


 僕らの後ろを、付き添いで来た4人も付いてくる。


 そうして合計6人で、僕らの家の居間で待機をすることとなった。


 本殿からは、庭越しに複数人の話し合う声と、時折楽しそうな笑い声が響いて来た。




 この日からだ、僕の日常が変わったのは。


 この日からだ、混乱の時代に入ったのは。


 この日からだ、世界が混沌と化したのは。




 全てこの日が、はじまりの日なのだ。

ありがとうございました!

これで『はじまり編』はおしまいです。

本編というより、感覚としては導入部分だと思って書きました。

次回から『後継騒動編』の幕開けです。

いよいよ物語が始まりますよ!(たぶん)




〜次編予告〜

 濱竹幹部が日渡に滞在している最中に大事件が発生!?

 そして明らかになる、靜連邦の実態。

 犯人は誰?

 動機は何?

 それは事実か、冤罪か。


「決めたよ、兄さん。僕は……」


 唐突にシリアス?


神継者〜カミヲツグモノ〜

 後継騒動編、乞うご期待!

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