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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
はじまり編
2/107

第1話『臣の弟』

どうも、ひらたまひろです。

今回より本編……なのかな? 分かんないや。

とにもかくにも、楽しんでくれたら幸いです。

執筆ペースがだいぶ遅いですが、これからもこんな感じで書いていきます。

でも流石に一気に投稿するのはやめようかなって思ってます。もう少し小出しにしていこうかなぁ……


そんなことはどうでもよくて、とりあえず、序章のような位置付けですが『はじまり編』の始まりです!


2021年4月3日 ひらたまひろ


 父は厳格な人だった。


 国を統治する『神』に仕える『おみ』という役職で、神治しんち(神を中心として、臣と巫女みこがその補佐をしながら国を治めること)をおこなった。


 神治一本の人生を歩んできた父は、真面目な気質と神を支えるという責任感の強さゆえか、僕たち兄弟にはとても厳しかった。おそらくだが、父は、臣を継がせても自分のやってきた神治を続けられるような息子たちに育てたかったのだろう。


 もちろん神治は簡単ではない。知識や経験を積まない限り、とてもじゃないができない。そこで父は、物心つくかつかないかのまだ幼かった僕たちを、なんらかの形で神治に関わらせ、父の仕事っぷりを近い距離から見学させた。


 その教育方針は、3分の2で正しくて、3分の1で間違っていた。


 僕らは3人兄弟である。一番上が現職の臣である磐田大貴いわただいき、真ん中が僕、磐田大智いわただいち、一番下が磐田大志いわたたいしという。


 兄の大貴はとてもしっかり者で、父が亡くなった今、現職の臣として先代の政治を引き継いでいる。父のことを尊敬し、父の言葉「信頼無くして善政無し」をモットーに政治をしている。まるで父と同じである。違うところと言えば、さほど厳格でない辺りだろうか。


 弟の大志もまたしっかり者である。物心ついた頃には既に父が危篤となっていて、父との思い出はさほど無いだろう。しかし、それだからこそ健康体で神治をしていた頃の父がどんな人だったのか気になるらしく、兄貴から父の教えを乞い、完全に思考が父そのものと化した。


 まったく、真面目な兄弟である。


 この二人の成功例があるから、3分の2は正しいと言えるのだ。言えてしまうのだ。


 ……僕はまったく正しかったとは思っていないけど。




ーーーーー

ーーー




「はぁ、相変わらずね。ほんとに大貴さんの弟なの?」


「人の部屋にいきなり入ってきたかと思ったら、急に説教じみたこと言うのほんと訳わかんないんですけど」


 初夏の蒸し暑い空気が体にまとわりつく。じわじわと汗が染み出してきて、僕の不快感はグングンと上がっていく。


 そんな中でもケロッとした顔つきで、暑さなんて微塵も気にならないような感じの少女。なんて奴だ。こいつに感覚ってもんはないのか。


「で、大智。いい加減あんたも神治に関わんなさいよね」


「いやだ。何回言ったら分かるんだよ。さっきからその話しかしていないだろう? 僕は神治に関わる気は微塵もない。もう懲り懲りだ。ほら、帰った、帰った」


 僕はそう言って、目の前にいる巫女服を着た茶髪お団子ヘアーの少女に向けて手をシッシと払った。


「まあ、大智の説得は一筋縄ではいかないことは理解していたけど……」


 少女は渋々と言わんばかりに立ち上がり、くるりと僕に背を向けた。そのままスタスタと引き戸まで歩いていき、手をかけて振り返る。


「また来るわ」


「来んなボケ!」


 僕がそう返すと、彼女は少しだけ肩を竦めた。そして戸を開けて廊下へと出ていった。キシキシと床板が軋む音が遠ざかっていく。


「はぁ。ったく、なんだよあいつ」


 僕はそう言って、床の上に大の字になって寝転んだ。


 さっきの少女は豊田花菜とよだはななという。神治に於いて臣と共に神を補佐する巫女にして、僕の幼馴染だ。


 彼女は最近、毎日のように僕の部屋に来て、神治に関われと要求してくる。その度に「いやだ」と断っているが、それでも懲りずに来続ける。今日で9日目。そして地味に、日を増すごとに滞在時間が長くなっているような気がする。


「なんだかなぁ。僕の性格をよく知っているはずなのに、どうしてそんなことを求めるんだ? もしかしたら僕が神治に関わるかもしれない、なんて望みにかけているのか?」


 ……いや、ないな。そもそも、それを望む理由が花菜には無いだろう。僕が神治に関与すれば、円滑に政治が進まなくなることを彼女は知っているはずだ。そうなったら、巫女である花菜も仕事が増える。彼女にとっては利点がなにもない。


 じゃあ、僕の神治の参加を求めているのは花菜ではないのか?


 花菜ではなくて、兄が僕の神治への参加を求めているのか?


「……」


 分からない。仮に兄が神治の参加を求めているとする。そうならば、兄は僕に直接話をしてくるはずだ。花菜を介してではなく、彼が直接来るはずだ。


 ……まあ、考えにくいんだけどね。


 彼も花菜同様、僕の性格を知っているし、父の方針に異議を立てていたことも見ていたはずだ。だとしたら、僕を無理やり神治に参加させようとしないはずだ。


「……考えたところで答えは出ないし、意味ないな」


 僕はそう呟いて立ち上がる。


 部屋を出て、とりあえず居間に向かった。




 居間には弟の大志がいた。


 彼は一人、椅子に座って本を読んでいた。


「なに読んでるんだい?」


日渡伝書ひわたしでんしょ


「うっ……」


 僕の苦手なものだった。思わずそんな声が漏れたが、それを聞き逃すような大志ではない。


「ちーにぃも読もうよ。磐田家の者だったら読んでおくべきだと思うけど」


 彼が読んでいる日渡伝書とは、この国の歴史を記した書物である。300年ほど前の話から始まり、現在に至るまで320冊に及んで書かれている。ふざけた内容など一切ない、とても真面目な書物なのだ。


 そんなもの、僕は読みたいと思わない。誰かから強制されない限りは読むことはないだろう。


「僕は大志と違って不真面目だからね。生憎とそーゆーのは読みたくないんだ。そんなのに時間を費やすんだったら……」


「『自分のやりたいことをしたい』、でしょ?」


 僕の声を遮ったのは、大志……ではなかった。僕は驚きながら後ろを振り返った。そこにいたのは巫女服を着た少女であった。


「ったく、神社に行ったんじゃねぇのかよ」


 僕はため息混じりにそう返した。その言葉に花菜は言う。


「行く予定だったわよ。でも、言い忘れたことがあったの」


「巫女としての仕事はいいのかよ?」


「いいのいいの。私が行かなくても全部終わるし」


 いいのかよ、それで……


「それよりも、大智」


「いや、神治を優先しろ」


「いいの、大貴さんに任せとけば終わるし」


 人任せですか、そうですか。……僕よりたちが悪いな、こいつ。


「そんでさ、大智」


「兄さんの負担が増えるから神社行けよ」


「大丈夫だって。私は大貴さんを信じてるから!」


『信じている』ということは、やってもらえる保証はまだないようだ。……兄さん、きっとやらないだろうなぁ。「それは花菜ちゃんの仕事なんだから、花菜ちゃんがやってよ」って言うだろうし。


 どんまい、花菜。


「で、大智」


「神にも迷惑だろ? さっさと神社に……」


「だー! 私に話をさせてー!」


「いやだわっ!」


 花菜が口を開いた瞬間に神社に向かうように促し続ければ、いつかは大人しく帰るかなと淡い期待していたが、やはりそう易々と帰るような女ではないようだ。僕は花菜と話す時間すら惜しいのだ。今、僕が一番やりたいことは、街に繰り出して交友のある商人や町人と話すことだ。こんな騒々しい幼馴染とは話していたくないんだよ!


「悪いが花菜、俺は街に行きたいんだ」


「行ってどうするの?」


 鋭い声で聞き返された。


「あそ……コホン。昼飯と夕飯の調達と、情報収集」


「今、明らかに『遊ぶ』って言いかけたよね?」


「やだなぁ花菜さん、そんなわけないじゃーん。気のせいだよ、気のせい」


 僕はそう言って誤魔化した。めちゃくちゃ下手な誤魔化しなことは理解しているが、その間に話題の転換を試みるべく内容を探す。


 そして一つ、振れる話題が見つかった。


「そういえば、花菜。ここ数日、お前ずっと僕に『神治に関われ』って言ってるじゃん? あれって花菜が提案したの? それとも兄さん?」


「ん? あぁ、その話するんだ。てっきり逃げ回るかと思ったけど」


 実際、逃げ回りたいのは山々だけど、一応は気になった疑問点なので解消をしておきたいのが本音である。


「大智を神治に関わらせろって言ったのは」


 花菜は少し間を空けて、僕の目をまっすぐに見て言った。


「神様よ」


「は……?」


 驚いた。国の絶対的存在が、僕に政治をやらせようとしているなんて。


 僕はこんがらがった頭を整理する。


「待て待て、冗談はやめよう。僕は自由気ままで自分勝手で、自分のやりたいことしかやろうとしない、神治には絶対に向かない奴だぞ? 神の目は節穴か? 人を見る目がなさすぎやしないか?」


「冗談じゃないわよ、大智を神治に関わらせろってのが神様の命令なの。本当は催促10日目になる明日にいう予定だったんだけど、まあいいや」


 花菜はそう言って、僕に一歩近付いた。そしてグイッと顔を近づけて、


「神様の命令は絶対なのよ。大智も知っているでしょう? 神様に逆らったら『大逆罪』に該当するってことくらい」


「それは知っているけどさ……」


 そう言い淀んで、僕は俯いた。


 少しばかり頭の中を整理しよう。


 つまるところ、これがもし神の命令だったとしたならば、僕に拒否権はないのだ。この時点で僕は詰んでいる。神治に強制参加させられて、自由が奪われて、そして人生という美しいものが、灰色のガラクタと化してしまう。


 ……だが、それは『神の命令であったならば』の話である。


 僕は口許を緩ませた。そして顔を上げた。


「うげっ……」


 僕の緩んだ口許を見て、花菜がしかめっつらになった。


 僕が口許を緩ませる時、それは大抵何か思いついた時である。花菜はそれを知っていて、僕が今からなにを言うのか大方察しがついたのだろう。


「大智、言っておくけど、神様は実在するからね?」


 僕に向かってそんなことを言ってきた。


「はっ、言ってろ」


 僕はその言葉を鼻で笑い飛ばした。


「あのねぇ……」


 花菜が何かを言おうとしたが、それを遮って僕は話し出した。


「僕は自分の目で見たものしか信じない。噂や伝聞での内容を、完全に信じているわけではない。全てはこの目で確認しない限り、僕はこの世に存在するものだと信じない。事実だと信じない。そして、僕は生まれてから一度もこの目で『神』なる存在を見たことがない」


「仕方がないじゃない。神様は臣と巫女以外の者の前に現れてはならないっていう法があるのだもん」


「でも、だ。幼い頃、父さんに連れられて神治に関与していた時にも、神を見ることはなかった。兄さんが臣になってからも、神に出会うことはなかった。それどころか、神がいるという証拠を見たこともないし、顔や声も、筆跡でさえも見たことがない。実際に神が存在していなくても『神様は存在する』と口ではなんとでも言えるだろう。存在すると言うのなら、神と引き合わせろ。僕に神を見せろ。そうしない限り、僕が神の存在を信じることはないし、その命令を受け入れることもない」


 僕はそう言って、花菜の横を通り越して玄関へと向かった。


「……ハハハ、面白いわね」


 二、三歩廊下を歩いたところで、背後から花菜の声がした。僕は立ち止まった。


「神様に会わせろ、そうしないと命令は受け入れない、ね。大智、あんたよっぽど大逆罪を課せられたいみたいね」


 僕はその声の方へ振り返った。花菜の声は笑っているのか怒っているのか知らないが震えていた。


「変な法律だよな、その『大逆罪』ってやつ」


 僕はそう吐き捨てるように言った。


「作ったのはあんたのお父様よ?」


「あぁ、知ってる。それだから僕は父さんが嫌いなんだ」


 そう、今の大逆罪を制定したのは父なのだ。


 僕が幼い頃、僕が神という存在に会いたいと父にせがんだところ、「そんな無礼なことはできん」と一蹴され、挙句「神様を見たら怖い目に遭うんだぞ?」という脅しまでされた。


 しかし、その当時はただの脅しであったのだが、数日後には脅しではなくて事実となっていた。そう、父は僕が神に勝手に会いに行くことを防ぐために、元からあった『大逆罪』を改定したのだ。その内容は……


「『神の命令に逆らう者は殺せ』、『臣と巫女以外で神を覗き見た者は捕らえよ』。大智に備えたような法律になったわよね」


 父は僕の自由な性格と好奇心の強さに警戒をしていた。いつか破茶滅茶なことをやりかねない、磐田家の者として相応しくない行動をするかもしれないと、そう思っていたようなのだ。


 厳しい家庭教育の中、僕は幼いながらにも自由のなさに不快感を強め、いつしか「自分の人生なんだから自分が楽しく生きるべきではなかろうか」と思い始めた。僕から自由を奪っているのは父であり、僕の人生に於いての一番の障害が父である。そう考えた僕は、自由を求めて父に反抗を繰り返した。


 それに対する父の対応は、僕の謹慎処分や法の改定であった。僕一人のためだけに国家単位の法を改定するほどに、僕への危機感は強かったのだろう。


「それで大智。どうする? 今ここで命令を受け入れれば大逆罪から逃れることができるけど。あ、ちなみに神様からの命令って明かしたから、これが最終警告ね。さっきまでと同様に拒否ったら、それは神様に逆らうことになるわよ?」


「神の存在を信じていないのに、そんな命令を受諾すると思う?」


 花菜のその質問に僕は問い返す。


「思わないけど、大智のことを考えると頷いた方がいいと思うのよね」


 まあ、そうだろう。仮に神が存在したとして、命令が神からのものであった場合、ここで命令受諾をすれば花菜の言う通り大逆罪の適応範囲外となる。しかし、もし神の存在を確かめてからとなると、命令受諾拒否で大逆罪、振り切って神を確認したとしても、神を見たことで大逆罪が課せられる。


「まあ、詰んでしまった訳なんだけど……」


 僕はそう言って、花菜を見つめた。答えはとっくの昔から決まっていた。


「僕が神治に関与すれば、この国にとって悪影響しかないと思うよ。僕も自由を失うし、花菜も兄さんも仕事が上手くいかなくてかえって大変になる。神からの命令だかなんだか知らないけど、僕は更々、神治に関与する気はないね」


 僕がそう言い放つと、花菜は俯いて静かに言った。


「……そう、仕方ないわね」


 そして顔を上げて、ピシッと僕を指差して真剣な眼差しで言う。


「巫女の名において大逆罪を適用し、あんたの首を神様に差し出すことにするわ! 幼馴染でも容赦しないから!」


「ああ、そうかい。やれるもんならやってみろ!」


 僕はそう言って、玄関へとまっすぐ走って家の外へと飛び出した。

磐田大智:年齢15歳 身長166cm

豊田花菜:年齢15歳 身長157cm

磐田大志:年齢13歳 身長150cm

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