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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
はじまり編
16/107

第15話『報告』


 夜更けに僕が磐田神社に帰ると、兄と花菜が出迎えてくれた。2人とも僕を見て安心したかのようにため息を吐いた。


 まさか僕が責務を放り出して帰ってこないとでも思っていたのだろうか。


「お疲れ様。大丈夫だったか?」


 兄からそう訊かれた。『大丈夫』というのは、僕がしっかり使者の役目を全うできたかということを訪ねているのだろうか。


 僕、そんなに信用ないかな?


「大丈夫だったよ」


 僕がそう返すと、


「怪我はない?」


 と花菜が心配をしてくる。


 怪我? こいつは僕が何かを仕出かすと思っていたのか? 僕は使者として濱竹に行ったというのに……


 いや、そういえば僕は使者として正しいことをしていなかったような気がしなくもない。


 将軍と戦ったし、人類反乱に参戦しようとしたし、逃げた先で人類と戦ったし、神と臣と巫女に会ったし。


 あれ? 僕、結構やらかしてない?


 そんなことを思うが、手に入れたい情報は手に入っている。


 仕事も抜かりなくやっているのだ。


 それに、怪我はしていないし。


「してないけど?」


「よかったぁ!」


 花菜はそう言って笑う。兄も一安心という感じで微笑んだ。


 え、なにこの感じ。


 僕の信用という話とは少し違う気がしてきた。なんというか、これは、僕が無事だったことに安堵している感じ。


「知らせを聞いた時は驚いたよ。まさか、まだ人類反乱が鎮圧できてなかっただなんて」


 兄がそう言う。


 なるほど、それで心配していたのか。


 心配してくれるのは嬉しい話だ。


 でも、それに関しても特に問題はなかった気がする。


 ……死にかけたけど。


「まぁ、死にかけた以外は特に何事もなかったよ」


 僕がそう言うと、兄と花菜は硬直した。


「し、死にかけた!?」


「大智、大丈夫なの!?」


 2人が凄い勢いで迫ってきたので、僕は一歩後退りをする。


「だ、大丈夫だよ。今こうやって生きてるじゃん。それにね、思わぬ収穫もあったんだ。これは兄さんや花菜にとっても良いことだよ」


「なんだそれ?」


 兄の質問に僕は頷いた。


「僕が永神種の存在を認めたことだよ」


「「…………」」


 2人が黙った。


 あれ、無反応? 2人にとってこれは大した収穫ではないのか?


 今まで『永神種なんていないっ! 空想上の生き物だ!』とか持論を展開していた僕が永神種の存在を認めたってのは大きなことだと思うけどなぁ。それに、そのことで最も困っていたのはこの2人だし。


 しかし、それは思い違いだったようだ。


 2人は驚きのあまり硬直をしていたのだ。


「だ、大智が、永神種を、認めた……?」


「な、なにが、あったんだ……?」


 ギクシャクしながら2人が僕に訊く。


「濱竹の『神』の安久斗様にたまたま出会ったんだよ。というか、助けられた」


「あ、安久斗様にっ!?」


「どうしよう、どうしよう! 早めにお礼行かないと国が無くなっちゃうわよ!?」


 僕の言葉に、2人が思いっきり慌てだした。


 どうやら安久斗様は本当に位が高い人のようだ。


「大智、あんた無礼を働いてないわよね?」


 花菜が僕に詰め寄った。


「ぶ、無礼って……?」


 僕はそう訊くと、


「あの国は分かりやすいぞ。巫女のおな様に刀を向けられたら安久斗様に対する無礼を働いたことになるからな」


 と兄が返す。


 ……あ。


 うん、じゃあ僕、無礼を働きました。ごめんなさい。


 しかも2回。


 僕の額から冷や汗が垂れる。それを見た花菜が僕の肩を掴んでグワングワン揺すった。


「もー! バカバカバカァ! 安久斗様に無礼を働いたら最悪国が滅びるよ!? 永神種ってそういう存在なの! それも濱竹って……。もし戦争になれば、日渡なんて半日あれば滅ぶわよ! 謝りに行こう、早く! 手遅れになる前にっ!」


「いや、それは大袈裟じゃ……」


 僕がそう反論するも、それは兄によって遮られる。


「謝って許してもらえれば吉だ。許してもらえなかった場合は、俺たち全員が自害する必要があるな……」


 そ、そんなにぃぃぃ?


 え、でも、見た目すっごく好青年だったけど!?


「謝りに行くのなら、少し待ってくださいませんか?」


 神社の本殿の方から、聞き覚えのない上品でしとやかな女性の声が響いた。


 誰っ!? もしかして神様!?


 そう思っていると、兄が声の主に訊き返す。


「どうして?」


「先程、わたしのところに神務卿である山樹様から連絡がありました。それによりますと、明日、急遽濱竹議会を開催するとひくま様が決定になられたそうです。あの方はそう簡単に緊急の濱竹議会の開催を宣言しません。ですが今回は開くと決定されました。これは今、濱竹が問題を抱えていると見るべきです。ですので、その騒動がひと段落ついてからにしてもらいたいと思ったのです」


「その問題が大智の無礼って可能性もありますよね!?」


 花菜がそう叫ぶ。


「まぁ、そうですが……」


 声の主は弱々しくそう答える。


「ほらぁ! まずいわよこれ! どうしてくれるのよぉぉぉ!」


 またも僕の肩を激しく揺する花菜。


 痛い痛い、首がもげる!


「花菜ちゃん、一回落ち着こう」


 兄がそう言って花菜を止める。


 花菜が僕の肩を揺するのを止める。


 た、助かった……


「とりあえず、大智も花菜ちゃんも本殿に上がりなさい」


 そう言われて、僕と花菜は神社の本殿に上がった。


 本殿に神様がいるかと思っておっかなびっくり上がったが、そこには神様どころか誰もいなかった。


「え、さっきの声は誰!?」


 僕がそう言うと、


「わたしですか?」


 と背後から声がする。


 びっくりして振り返るが、そこには誰もいなかった。


「し、心霊現象……」


「違います! ここです!」


 その声は僕の斜め上から聞こえていた。


 ふわふわと浮かぶ、小さな小さな少女。大きさにして、握り拳より一回り大きいくらい。


「うわぁ!」


 僕は驚いた。当たり前だ。こんなのが上空に浮いていたら、初見だったら誰しもビビるだろう。


「彼女は妖精という種族でな、名前を『極峰くれは』という。ちなみに濱竹の昇竜行政区長も務めているお偉いさんだ」


 兄の紹介を聞いて、僕は転移回廊での話を思い出す。


 この目の前で浮かぶ小さな少女が、話に出てきた妖精。


 幼い顔立ちで、可憐な印象を受ける。それでいて赤茶色のフリフリしたドレスを纏っているため、どこかの金持ち令嬢のように思えてくる。なるほど『くれはのお嬢』と将軍から呼ばれているのも納得である。


 そうか、小林氏はこういう子が趣味なのか……


 そう思っていると、突如として兄がくれはさんの頭を撫でた。


「えへへ」


 くれはさんは嬉しそうに笑う。


 いや待て、それはまずいって!


 なに普通に撫でてんだよ! さっきお偉いさんって言ってたよね?


「実はね、大智」


 花菜がいきなり僕に小声で話しかけてくる。


「大貴さんとくれは様って、多分だけど付き合ってると思うのよ」


「はぁ?」


 いや、それなら納得がいくが……。それでは人知れず恋をしているある人が不憫で認めたくないっ!


「だってくれは様、実は結構な頻度でここに来ているのよ。その度にあんな感じでイチャイチャしてるし……」


 その視線の先では、人差し指でくれはさんの頭をよしよししている兄がいた。


 くれはさんも満更でもないように笑っているし、それは完全にカップルのそれだった。


 まったく、見せつけられる側の身にもなってほしい。


「コホン」


 花菜がわざとらしく咳払いをする。


 それを聞いて、兄とくれはさんはビクリと体を震わせた後で少しだけ赤面する。が、すぐに兄が真顔になって話し始める。


「それで、だ。くれは、今回の濱竹議会で話し合われる話題として思い当たるものはあるか?」


「そ、そうですね……。やはり、人類反乱についてでしょうか。あの規模の反乱は、靜連邦内に限らず世界的に見ても珍しいでしょう。ですので、この話題は外せないはずです。あとは、そうですね……」


「大智の無礼についてですか?」


 花菜が訊くと、


「無礼の度合いによってはあり得ます」


 と返ってくる。


「大智、何をした?」


 兄が僕に言い寄る。


「えっと、体力切れで倒れていた僕を助けてくれたのに、体力が回復したことに大喜びしてしまってお礼をなかなか言いませんでした。あとは、名前を尋ねました」


 僕がそう答えると、今度はくれはさんが僕に質問をした。


「安久斗様の質問を無視したりとか、敵意を向けたりは?」


「していません」


 僕が即答で言い切ると、


「だったら大きな問題になることはないでしょう。安久斗様は質問を無視したり、敵意を向けたりした相手には容赦はしませんが、それ以外のことなら大抵笑ってやり過ごされる方ですので」


 と、くれはさんが言った。


「よかったぁ……」


 花菜から安堵の声が漏れた。


 兄も一安心という感じで微笑んでいる。


 もちろん僕も一安心である。


「本題に戻りまして、今回の招集で話し合われるもう一つの話題としては、北濱中央の復興計画と思われます」


「復興……」


 花菜の呟きに、くれはさんが頷く。


「はい。今回の反乱で、北濱中央は甚大な被害が出ました。行政区の管理を行う区役所も一時占拠され、施設や重要書類も激しい損傷を負っているそうです。小規模な修復の場合は行政区長に一任される仕事ですが、これほどの規模となると国をあげての事業になるはずです。早期復興を目指す場合、明日の会議から計画を立て始めるのではないかと思います。ですが、これは二の次になる可能性も無きにしも非ずなので、議題に上がらないかもしれません」


 なるほどな、という兄の声。


「なら、謝りに行くのは後回しにした方が良さそうだな」


「はい。もし即座に必要となった場合は大貴さんに即座に伝えます」


「よろしく頼むよ」


「はい、お任せください」


 くれはさんが兄に笑いかけて、彼女を兄が優しく撫でる。


 よく人前でこんなにイチャつけるものだ。感心してしまう。


 それは花菜も同じようで、ひとつだけ大きなため息を吐いた。




「では、わたしはこれで。夜分遅くに失礼しました」


「別にいいさ。それよりも、情報をありがとう」


 その兄の声に微笑んで、くれはさんは飛び去っていった。


 彼女が見えなくなった途端、僕は自分が今とても疲れていることに気がつく。


 それもそうか。僕が今日体験した内容は、とても1日で起きたことだとは思えない量だから。


 疲れを自覚した途端、今すぐにでも寝たくなった。


「はぁ、疲れたぁぁ。お風呂入って寝るね」


 僕はそれだけ言うと、その場を立ち……


「さて大智、今日のことを詳しく聞かせてもらおうか」


 ……去れなかった。


 歩こうとした僕の肩を兄が掴み、無理に本殿へと連れ戻される。


「え、あ、僕、疲れたんだけど……」


「神治優先だよ、大智?」


「えぇ……」


 そして強引に座らせられて、


「まずは会談の成果から教えてもらおうか」


 と訊かれる。


「あぁ、えっと」


 僕は将軍との会談を思い出す。


 あれが今日の出来事なんて信じられないが、紛れもなく今日の出来事なのだろう。


「中田島将軍によると、反乱の規模はいつもの10倍、5万人もの人数で街を占拠されたらしい。市街地戦に慣れていなかった濱竹軍は苦戦し、1週間もかかってしまい屈辱的だったって言ってた。最終的には立て篭もった人類を数でゴリ押して解放したけど、街が荒廃するほどの被害が出たみたいだったよ」


「そうか。追加の反乱の方は?」


「あれは僕も現場に居たんだけどね、」


 僕のその言葉を聞いて、兄と花菜が目を丸くする。


「現場に居たって、どういうことだ?」


「そのままの意味だよ。反乱が起きた現場、つまり北濱行政区に居たってことだよ」


「「はぁぁ!?」」


 2人が発狂する。


「待て待て、お前なんでそんな場所に居たんだよ!?」


 兄が僕に詰め寄る。


「え、なんでって……。将軍に被害状況はその目で確かめろって言われて北濱中央に行ったら、その時にちょうど反乱が起きて……」


「襲われたの?」


 花菜が僕を見る。


「あー……」


 事実、その時に僕は戦闘をしている。ただ、相手は将軍だけど。


 でも、それは言う必要ないだろう。余計な心配をかけかねない。


「いや、それ以降は将軍の指示で濱竹陸軍が動き出して、()()は戦闘準備をして戦場へ向かったんだ」


()()?」


 あ、しまった。


 いや、まだ誤魔化せる。……多分。


「あ、えっとね。僕も軍には同行したんだ。将軍が『こんな危険時に使者を1人で帰らせる方が危険だ』って言って」


「いや、戦地に連れて行く方が危険だと思うぞ?」


「……」


 それは将軍に言ってくれ……


 実際、僕もそれ思ったから。


「とーにーかーくー! 僕は濱竹軍に同行して戦場へ行ったんだ」


「戦ったの?」


 花菜に訊かれる。


「いいや、逃げてきた」


「うーわ、カッコ悪……」


 うっせーな、この巫女!


「そこまで行ってなんで逃げるのよ」


 ジト目で僕を見ながらそう言った。


「いや、それが結構重要なポイントなんだ」


 僕は物語を語るかのように話をする。


 だが事実、僕が逃げるに至ったのは重要なポイントなのだ。


「何気取ってんの、大智」


 花菜からの視線が痛いが、そんなことは関係ない。


「実はね、2度目の反乱では、人類は高性能な武器を使用していたんだ!」


「武器?」


 兄が僕に訊き返す。


「そう。黒い筒みたいなやつで、金属の弾を高速で撃ってくるんだ。それも、1人ひとつ持っているから、ひっきりなしに攻撃される。僕がいるのは危ないって判断した小林氏の指示で、僕は戦場から逃げたんだ」


「黒い筒、金属の弾……。『銃』かっ!?」


 兄が驚いたように目を見開く。


「あー、確かに小林氏がそんな名前を口に出していた気が……」


「馬鹿なっ! 銃は人類文明最盛期の遺産だぞ!? そんなものを作れるほどにまで人類の文明が進んでいるのか!?」


 兄がパニックに陥る。


「人類が文明を取り戻さないために、神様たちが常時見張ってるんでしょ? それなのに発展しちゃったの?」


 花菜が疑問を口にする。


「いいや、それが違うみたいなんだ」


 僕はそう言って、続きの話をする。


「逃げた先でね、僕は30人くらいの人類に出会でくわした」


「なんでよ? 逃げれてないじゃない」


 花菜に指摘される。


「あ、いや。よく分かんないけど、逃げた先にたまたま人類がいたんだよ。それで囲まれて、絶体絶命のピンチに陥った」


「なんで生きてるのよ……」


 花菜が驚きを通り越して呆れの領域に入った。


 一方兄は、まだ少し混乱している模様。裏に神類がいるというのを話せば落ち着きを取り戻すだろうから、それまで話を進めよう。


「戦ったんだよ。それで勝った」


「30人に?」


「うん。全員焼き払ったからね」


「うーわ、非情だなー」


 何を言う、自分の命が優先だろう。


「でも、その戦いで僕は体力が尽きた。その場で倒れ込んでいたら……」


「安久斗様が来た、と?」


 まあ、そうなんだけど……。それの前にもう一段階ある。


 僕は否定も肯定もせずに話をする。


「倒れた僕を最初に発見したのは人類だった。そんで、僕を殺そうとした」


「本当になんで生きてるの……」


「その答えはさっき花菜が言ったじゃん」


「なるほど、助けられたと」


 僕は頷く。


「その時に人類が、今回の反乱の裏には『神類』が関与しているって言っていたんだ。つまり、あの強力な武器は人類の文明が発展したんじゃなくて、裏で糸を引く『神類』から提供されたものだったんだ」


「そういうことだったのか……」


 兄は納得したように頷いた。それと同時に花菜が疑問を漏らす。


「でも、その『神類』は、濱竹に喧嘩を売ったってことだよね?」


「うーん、そうなんだけど。その『神類』がどこの誰かが分からないからなぁ」


「奴らの正体が分かれば、おそらく安久斗様はしかるべき判断をする。戦争をする可能性もある。そうなった場合、俺たちが巻き込まれる可能性は大いにあるな……」


 兄の呟きに僕らは黙り込んだ。


 濱竹は、この靜連邦を取り仕切る二大統率国の内の一つだ。


 濱竹の判断一つで、この靜連邦に加盟する28ヵ国が戦争に巻き込まれる可能性もないわけじゃない。


「今の私たちには、成り行きを見守ることしかできないわね」


 花菜が不安そうに言葉を溢した。


 僕と兄は、静かに頷くしかなかった。


 夏の熱帯夜のはずなのに、本殿へ吹き込んでくる風が妙に冷たく感じた。

極峰くれは:年齢不明 身長17cm

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