第14話『裏に潜む影』
時は少しだけ進む。
安久斗とおなは、ひくまを残して大智と別れた。
向かう場所は、隊長が言っていた本陣である。
おなの能力を用いて、人類の本陣がある奥山から北東に続く峰を目指して飛んでいく。
そして3分足らずで目的地が見えてくる。
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本陣に座るのは、濱竹に居座る人間の長、ヒトエミである。
彼は30年以上前から人間をまとめ、対神類に向けての準備を着々と進めていた。
しかし、武器を作ろうとしても毎回安久斗に邪魔をされ、準備ができずに反乱を起こそうにも起こせない状態が続いていた。
(わしらを助けてくれた『あのお方』には感謝せねばなるまい。まさか神類の中にも、わしらと同じように濱竹を消したいと思うている奴らがおるとは予想もできなんだ。わしらの反乱の武器を作り、わしらに濱竹の情報を渡して。本当に『あのお方』にはお礼をせねばなるまいのぉ)
呑気にそんなことを考えるヒトエミは、神類に勝った後の話を考える。負けることなど想定していないのだ。
(いくら神類であろうとも、これだけの数の人間と5000年以上前の人類文明期の兵器を相手にしては長くは戦えまい。その証拠に、昨日までの反乱は鎮圧まで一週間もかかっておる。今日から始まった新たな戦に、神類が勝てるはずがなかろう。そうなると、この濱竹が陥ちるのも時間の問題。濱竹が陥ちたらこの周辺の神類の勢力は弱まると『あのお方』は仰せになった。それが『あのお方』の狙いじゃが、わしらにはどうでもいいのじゃ。わしらは濱竹を滅ぼし、ここを人類の土地とするのじゃ。そしてここから、人類文明の再興へと取り掛かるのじゃ!)
そう内心で意気込んだ直後に知らせが舞い込む。
「申し上げますっ! プランBのために配置についていた第九部隊が突風により壊滅! 隣の第八部隊とも連絡が取れません!」
「なにっ!?」
ヒトエミは空を見渡す。が、天気は晴れている。突風が吹いたとも思い難い天気であった。となると、結論は一つ。
「神類かっ!」
「現在調査中ですが、おそらくは。それも、上神種クラスと思われます」
その言葉にヒトエミは頭を抱える。
(このままでは、プランBに於いて最も重要な『包囲』が失敗してしまう。そうなってはまずい。後少しでわしらの世界が手に入るのに! おのれ、神類めっ! 悉く邪魔をしおって!)
しかし、状況が確認できない限りは無闇に動くことは危険である。最悪、本陣さえ陥ちなければ反乱の準備は可能である。今は無闇に動かず、調査の結果を待つべきなのだ。
それから2時間が過ぎた。依然として調査結果は届かない。ヒトエミは苛立ちを隠せずにいた。
目の前にある机を殴りながら怒鳴る。
「まだ分からんのかっ!」
「申し訳ございません。調査隊からの連絡が一向に来ないものでして」
それもそのはずだ。彼らの言っている『調査隊』というのは、焼死体に囲まれながら力尽きている大智を発見し、大智を殺そうと思ったら安久斗に殺されてしまった奴らなのだから。
既に生きていないが、彼らがそれを知る由もなかった。
「ええい! こうとなったらわしが自ら出向いてやるわっ!」
そう言ったヒトエミだが、それは数人の者によって止められる。
しかし、もしもの話だが、彼がそこで出向いていたのなら、彼は死ななかったのかもしれない。
その5分後の出来事であった。
突風が吹いて、本陣の建物のドアが壊されたのだ。
「な、何事だっ!」
ヒトエミがそう言って外へ出ると、そこにいたのはたった二人の神類だった。
「誰だ、貴様ら!」
「黙れ、ゴミクズが! 安久斗様に無礼だぞ!」
ヒトエミの首に突きつけられる刀。
その刀の持ち主である背の高い痩せた女は、鋭い目でギロリとヒトエミを睨んでいた。
「やめろ、おな。こいつからは情報を聞き出さなくてはならんからな」
横にいる好青年が女に刀を鞘に収めさせる。
それを見て、ヒトエミは手下に二人を捕らえるように命令しようとしたが、突風以降手下の姿が見当たらないことに気付いた。
「き、貴様ら何者だ?」
ヒトエミは改めてそう尋ねると、
「濱竹安久斗。『神』だよ。そんでこっちが……」
「三ヶ日おな。『巫女』よ」
と返ってくる。それを聞くと同時に、自分の未来がもう死しかないことを悟った。
(ど、どうすればよいのじゃ!? 神と巫女とな!? そ、そんな化け物相手に勝てるはずがなかろうて!)
冷や汗が彼の背中を流れる。
「おい、じじい。今回の反乱、お前が起こしてるんだろ?」
安久斗がヒトエミにそう問い詰めた。
「ど、どど、どういうこと、でございましょ?」
ヒトエミは思考が回らず、視線を彷徨わせながらそう言った。しかし、安久斗はそれが気に食わなかった。
「おな、脅せ」
その一言で、おなが抜刀しヒトエミの喉に刀を突きつけた。
「ひぃぃ!」
みっともない声がヒトエミから漏れる。
「じじい、もう一回だけ訊く。今回の反乱、じじいが起こしてんだろ?」
安久斗が顔を近付けてヒトエミに訊く。
「ち、違うっ! わしは、わしは担ぎ上げられただけじゃ!」
ヒトエミがそう言う。すると安久斗がヒトエミの顔を片手で掴んで体を持ち上げる。
「あぁ? 舐めてんのか、じじい。今の状況、正確に理解してるか?」
安久斗はそのままヒトエミを投げ捨てる。
ヒトエミは無様に転がる。しかし、痛くはなかった。何かの上に放り出された感覚であり、それが地面との緩衝材になっていたのは間違いない。恐る恐る目を開けてみると、そこにはさっきまで生きていた自分の手下の死体の山だった。
「あぁぁっ!」
叫び声をあげるヒトエミ。
「分かったか? これ、全部俺が殺したんだぜ?」
安久斗は格の違いを見せつけるようにヒトエミに自慢する。
「ば、化け物がっ!」
そのままヒトエミが逃げようとするが、おなが先回りをして退路を塞ぐ。
そしてそのまま刀で彼の左足を斬り落とす。
「安久斗様を化け物呼ばわりするなど、万死に値するっ! 身の程を弁えろ、ゴミ虫が!」
「んぎゃぁぁぁあああ!」
ヒトエミの悲鳴が山にこだまする。
そして安久斗が斬り落とされたヒトエミの左足を手に取ると、ヒトエミの目の前でグシャッと折り曲げた。
「それで、訊くけど。じじいがやったんだろ? この反乱」
「あ、あ、あぁ、あぁ……」
肯定というより、痛みと恐怖に耐えている声という感じで安久斗に返事をするヒトエミ。
「ま、それはどうでもいいんだけど」
安久斗は本当にどうでも良さそうにそう呟いて、先程折った左足をポイッと背後へ投げ捨てると、今度は真剣な顔になってヒトエミに迫った。
「背後にいる『あのお方』って神類。それは誰だ?」
「し、し、ししし知らないっ!」
シラを切ったヒトエミの右足を、安久斗が能力で水の刀を作り出して斬り落とす。
「んぎゃぁぁぁあああ!」
「おっと、人類は止血しないと死んじゃうんだったね」
そう言って安久斗がどこからともなく大量の塩を取り出してヒトエミの足の切断面に塗りたくる。
「あぎゃぁぁあ! 死ぬっ! 死ぬっ! 死ぬぅぅぅぅうう!」
「うっせぇ黙れじじい」
安久斗がそう言って、ヒトエミの口にたった今切断した彼の右足を突っ込んだ。
「んぐぐぐぐ!」
そして塩での止血が終わったところで、安久斗がヒトエミの口から足を取り出す。しかし彼は、既に気を失っていた。
「はぁ、弱い弱い。話にならん」
「同感です」
おながそれに賛同する。
「ま、しばらく待てば目覚めるか」
安久斗とおなは気長に待つことにしたが、もしかしたら建物の中に『あのお方』の正体に繋がる手がかりが隠されているかもしれないと思って漁り始める。
漁っていると、おなが手紙を見つけた。
「安久斗様、こちらは……」
その手紙は『ヒトエミ様』と書かれた封筒に入っていた。
安久斗が封筒の中から文書を取り出す。
そこにはこう書かれていた。
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ヒトエミへ
手筈は整えた。濱竹を討て。
武器の製造はこちらで行い、完成品を無償で送る。我々のところに住まう人類も送ろう。
濱竹が陥落した折には、人類に昇竜行政区をくれてやる。文明再興に勤しむが良い。
濱竹が人類反乱で陥落したとなれば、靜連邦はたちまち混乱する。
濱竹周辺国家で、旧濱傘連盟加盟国家は没落し、靜が不安を消すために支配強化に乗り出すだろう。そうなれば、靜連邦は混乱する。彼の連邦が滅ぶのも時間の問題になるだろう。
そうしたら、我々は連邦西部の覇権を頂く。
今回無償で提供した武器や人員の代償は、その覇権を認めることで頼む。
関東統一連邦所属
甲信連邦
安陵国
神 安陵栗伊門
臣 泰阜伊秩斗
巫女 田本万古
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唖然とする二人。
これは、何かの間違いだろうか。
安久斗は神生史上最大の危機感を覚えていた。
「ここに書いてあることが本当であるなら……」
「あぁ、これは濱竹だけの問題じゃない。靜連邦全体の問題だ」
安久斗はその手紙をおなへと預け、持ち帰るように命令をした。
それからヒトエミのところへ行き、彼を持ち上げた。
「それは捨て置いておけばよろしいのではないでしょうか?」
おなが安久斗がヒトエミを担いでいるのを見てそう言ったが、
「事実を確かめなくてはならんからな」
と言って安久斗は連れて帰ることを決意する。
「行こうか」
安久斗が指示を出すと、おなが能力を発動させて神社へ向かう。
「……どうしますか?」
おなが安久斗に訊いた。
「何をだ?」
安久斗がそう訊き返すと、
「連邦神議会を開きますか?」
とおなが訊いた。
「いいや、まだだ。一度濱竹議会を通してからにしたい。事態が事態なわけだが、事実の確認もまだ済んでいるわけじゃない。不確定な状態で連邦全体を巻き込むのも良くない」
安久斗がそう答えると、おなが頷いた。
連邦神議会とは、靜連邦28ヵ国の永神種を集めて話し合う会議のことである。正式名称は『連邦諸国永神種議会』であるが、略称で呼ばれることがほとんどである。
招集する権限を持つのは、靜連邦の二大統率国と呼ばれる、連邦の中で国力が1位と2位の靜国と濱竹国である。靜連邦は実質この2ヵ国が取り仕切っている。他の国は、両方に(もしくはどちらか片方に)隷属しているだけである。
「あ、通知」
おなが通信機を取り出して通知を聞く。
発信主は下池川山樹であった。
内容は、浜松ひくまが緊急で明日、濱竹議会を開催することを決定したことだった。
「安久斗様。先程ひくまが、緊急で明日濱竹議会を開くことを決定したそうです」
「ふっ、さすがひくまだな。分かってんじゃねぇか」
安久斗が笑う。
「よし、じゃあこいつの尋問もその議会で行う。いち早く事実確認を済ませ、連邦神議会を発動するかどうかを決定しよう」
「はい」
そんな話をしながら、安久斗とおなは夜の空を飛ぶのだった。
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あらら、失敗ですか。
なかなか手強いですねぇ。
でも、最初から期待していないので大丈夫です。どうせ人類。どれだけやる気があったって、どれだけいい武器があったって、どれだけ数がいたって、結局のところ神類には遠く及ばない存在なのですから。
それに、これはまだプランA。プランBへと移行すれば、何も問題ないのですから。
さてと、人類でダメなら次は妖精ですかね。
でも、妖精は思い通りに動いてくれるかは不明ですね。
我々とも仲が悪いし、利害も一致しない。それに、濱竹は既に妖精を取り込んでしまっている。妖精にとっては案外住みやすい環境になってしまっているのかもしれないですね。
では、プランCも一緒に実行しておきましょうか。
人類、妖精、両方ダメなら同種の神類を使う他ないでしょう。
ですがその分、リスクが高いですよねぇ。
向こうを裏切ってもらうわけですし、その過程で我々の存在をバラされたら終わりなわけですし。
また、勝手なことするなって怒られますかね?
でもま、南四連邦だって勝手気ままにちょっかい出して遊んでいるみたいですし、こちらもこちらで動いても大丈夫でしょう。
あとは、誰に裏切ってもらうかですね。
あの情報屋によると、連邦の統治の仕方に不満を持つ国々も多いようですし、案外少しだけ背中を押してあげるだけで十分ってこともあり得ますね。
それに、どうやら連邦の西部、中部、東部で大きく考え方が違う模様。少しでも亀裂が入れば、3つくらいには簡単に分裂するってことですね。
なるほど、だんだん見えてきましたね。
東部は南四連邦に任せておけばいいので、我々は中部と西部をなんとかすればいいってことですね。
予想より早く攻略できる可能性もありますね。
でも、油断は禁物です。西隣の中京統一連邦に動きを悟られると面倒ですし。でも慎重にやりすぎると、奴らに先を越される可能性もある。となると、やはり奴らと国境を接する濱竹から陥落させるのが得策なのでしょうか。
まぁ、それは後ほど決めましょう。
次の駒はあの情報屋の意見を聞きながらじっくり決めるとしましょう。
さてと、そろそろ行かなくては。
これ以上『あのお方』を待たせるわけにはいきませんからね。
怒られるのは嫌ですからね。
ヒトエミ:年齢68歳 身長160cm




