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神継者〜カミヲツグモノ〜  作者: ひらたまひろ
はじまり編
12/107

第11話『終結』


「君、名前はなんて言うんだい?」


 安久斗様たちが去ってからしばらくすると、男性からそう訊かれた。


「あ、磐田大智といいます」


「磐田……。日渡の臣の家系か」


「そうです」


「じゃあ君が日渡からの使者ってことか」


 そう言われて、僕は頷いた。


「なるほどな。ご苦労だった。そして、すまなかった」


「えっ?」


 いきなり謝られて驚く。そんな僕を見て彼は申し訳なさそうに言う。


「我々は、君を危険な目に遭わせた。残党がこれだけいたことは我々の確認不足だ。人類反乱だからと言って甘く見ていた。しっかり確認していれば、君をこんな目に遭わせることはなかったんだ」


 確かにそうだろうけど、僕だって悪い。なぜ戦いに参加しようと思ったのか、なぜ小林氏に言われてもなかなか逃げなかったのか。使者としての的確な対応はできていなかったし、僕が取った行動は間違いだらけだった。


 だから、僕だけが謝られるのは間違っている。


「僕こそ、使者として間違った行動ばかり取ってしまいました。ごめんなさい」


「……」


 彼は申し訳なさそうに僕を見て、そして溜め息をつく。


「俺は『いえいえ、こちらが悪かったのです』と言いたいのだが、それを言えば永遠に続きかねないな。今回はどちらも悪かったということにしておこうか」


 微笑みながらそう言った。


 ところで、彼は何者なんだろう。


 そう思った途端、何も脈絡なく彼が言った。


浜松はままつひくま」


「えっ?」


「俺の名前」


 僕の心を読んだのか!?


「あ、言っておくけど、僕には読心系の能力は無いから」


 嘘だ! だって完全に読まれてるじゃん!


「あと、こう見えても濱竹の臣だ。二人きりなら親しくしてくれて構わないが、他に誰かが来た時はなるべく口を利かないようにお願いしたい。濱竹は分散神治制だ。神はもちろん、『28家の上神種』が試験で座を奪うことができない臣と巫女も、許可なく言葉を交わすのが許されないような存在とされているからね」


 うわうわうわ、何それ!? すごい格差社会じゃん!


 ってかさっき安久斗様や巫女様に取った僕の行動、濱竹国民だったら物凄く無礼……というか、死罪になってもおかしくないレベルなのでは!?


 無知って怖い……!


 そんなことを考えていた僕に、ひくま様が訊く。


「さて、それは置いておいて。君は今からどうするつもりなんだい?」


「えっと、浜松神社に戻って、ロビーで小林北濱行政区長様たちの帰りを待つように言われています」


 僕がそう答えると、


「そうかい。じゃあ転移回廊を通るのかい?」


 と訊かれる。


「はい、そのつもりです」


「やめておけ」


 間髪入れずにそう言われ、僕はキョトンとする。


「え、でも小林様には……」


「ああ、一時的な話だ。本来なら、君はもっと早くにあそこを通るはずだった。だが人類との交戦があって、時間をかなり取っている。そうだろう?」


「はい」


「だからだよ」


 なるほど、分からん。


 なんでだ? 転移回廊を通れない時間があるのか?


「先程、陸軍が援軍を要請した。まもなくここに到着するだろう。そして、その軍隊は転移回廊を抜けてくる。転移回廊は暗くて狭い。そんな場所で軍隊と簡単にすれ違えると思っているのか?」


 あ、そういうことか。それは確かに一時的な問題だ。僕が順調に逃げていたなら、援軍とすれ違う可能性はなかった。しかし、ここで時間をロスしたから、援軍とすれ違う可能性が出てきた。僕が今から回廊を使えば、回廊の中で軍隊とすれ違って、援軍の到着に遅れが発生するかもしれない。ひくま様は、きっとそれを危惧しているのだろう。


「分かりました。では僕は、回廊を通らずに歩いて浜松神社に向かいます」


「いいや、」


 僕がそう言ったら、ひくま様は僕の言葉を否定した。 まっすぐに僕の目を見て彼は言った。


「君は日渡に帰りなさい。使者としての役目は十分に果たせただろう。そちらの知りたい情報は全て揃っているはずだ。帰って大貴さんに伝えれば、今回の君の任務は終了だ。それに、」


 そして僕から視線を外し、西山集落の方向を見ながら呟く。


「現在、この国は安全じゃない。少しでも早く、安全な場所へ帰って欲しいんだ」


 そう言われては、僕としても残る気は失せる。


 だったら、僕がやることは2つだけ。


「分かりました。では、帰ります」


 そう言って僕はひくま様に一礼をした。


「あぁ。大貴さんと、巫女さん……あー、誰だっけ? 豊田、豊田、豊田……。まあいいや。巫女さんにもよろしくと伝えてくれ。もちろん、萌加様にも」


 そう言われた。


「巫女の名前は豊田花菜です」


「そうだ、思い出した。花菜さんにもよろしく」


「はい。それと、」


 そして、最後の用事。


 僕は真剣な顔つきで彼に言う。


「ひくま様。実はさっき、僕を襲ってきた数人の人類から聞いたのですが、今回の人類反乱の裏には『神類』が関わっているそうです。濱竹を滅ぼそうとする何者かが、この反乱を裏で仕切っているみたいです。奴らはそいつを『あのお方』と呼んでいました。この情報が役に立てばと思い、伝えさせていただきました」


 情報提供。先程聞いた話を伝えておく。これは、僕だけが持っていても無意味なことだ。濱竹が滅ぼされれば、隣国の日渡も、所属する靜連邦も崩壊しかねない。そうならないためには、その計画を根絶やしにする必要がある。それができるのは、濱竹の神、臣、巫女だろう。臣であるひくま様に伝えておけば、何かしらの対策に繋がるはずだ。


「ああ、知っているさ」


 彼はそう言った。


「君と会う前に戦っていた奴らからそれを聞いた。きっと安久斗様は今、おなと共にその裏を探られているだろうよ」


「おな?」


三ヶ日(みっかび)おな。さっきの怖い巫女だよ」


 あぁ、あのひとか……


「あいつ、実力は申し分ないけど、すぐ暴走するからなぁ……」


 どうしたものかという感じで頭を掻きながらひくま様が言った。


「とにかく、だ。情報をありがとう」


「いえ、ご迷惑をおかけしました。それでは」


 僕はそう言って、日渡に向けて歩き出した。


「元気でやれよ。機会があれば、また会おうな」


 その声に僕は振り返って微笑み返した。


 夕日に背を向けてひたすらに歩き、昇竜川を渡る頃には既に周囲は真っ暗だった。


 僕の使者としての長い1日が、ここに終わろうとしていた。




ーーーーー

ーーー




 大智が去ったすぐ後、浜松ひくまの元に援軍がつどった。


 援軍の配置位置は気賀隊の隊長が喜々音から指示を受けていた。ひくまは彼からそれを聞いて、その通りに軍隊を配備した。


「これより、西山解放の援軍へ向かう。出陣!」


 ひくまのその声に呼応する兵士。足元に散らばる人類の死体を踏みつけながら西山集落を目指す。


 そして、戦況は一気に動き出す。




ーーーーー

ーーー




「小林様、臣様から伝達がありました。『10分以内に包囲する』とのことです。保ちそうですか?」


 喜々音はかささぎにそう伝える。


「任せろ。体力にはまだ余裕があるから」


 喜々音はその声に頷く。


「喜々音、包囲した人類の殲滅が終わったわ」


 綴からの知らせを受け、喜々音は少しだけ胸を撫で下ろす。


「分かりました。では、第二段階に移行します。笠井様と将軍様は全部隊を率いて前線に上がってください。臣様の合図で小林様が高圧壁を解除し、それを合図にして全部隊で挟み撃ちにしてください。人類の持っている兵器はそれほど脅威ではありません。突撃を恐れる兵士がいたら圧力をかけることも許します」


「おう!」


「任せなさい」


「了解!」


 三人が喜々音の命令に返事をする。そして砂太郎と綴が部隊を動かし、かささぎが張った高圧壁に沿うように配置を済ます。


 見えない壁の向こう側にいる人類と向かい合うように並び、この壁がなくなればすぐに戦闘が始まりそうな緊張感が張り詰める。


 そのまま5分以上が経過する。


 突如、木々の間から大きな水柱が何本も上がる。


「なんだっ!?」


「は、背後に神類がっ!」


「包囲されているぞっ!?」


「もう終わりだぁぁぁあああああ!」


 そのまま人類が発狂し出す。


「小林様」


「了解したよ!」


 そんな中、喜々音がかささぎに壁を取り払うように命じる。


「臆するな! 相手は人類、突撃っ!」


 壁が消滅すると同時に綴が全部隊に命令を出す。


「砂太郎、人間から視界を奪って」


「言われずとも!」


 そして綴は砂太郎にも指示を出し、砂太郎は一帯に砂を放つ。


 それによって、濃い砂埃で山の中が覆われて視界が奪われた。


 もちろん神類も視界を奪われているが、生物兵器にとっては大した問題ではない。


 戦場で混乱をした方が負ける。


 戦場で人間を殺すために生み出された生物兵器しんるいにとって、もともと五感というのはただの付き物に過ぎない。目の前に殺すべき人間てきがいる。戦地へ送り出され、命令に従うままに動く生物兵器へいしは自我を失い、本能のままに攻撃を繰り出す。それは五感になど頼らない。自分に宿る、能力だけを頼りに攻撃をする。


「ば、化け物がぁぁあ!」


 叫び声がこだまする。


「生物兵器がっ! クソッタレがぁぁあ!」


 人類は恐怖と絶望の淵に追いやられ、そして無慈悲に殺される。


 誰にも届くことない悲鳴を上げて。


 叶うはずのない願いを語って。


 涙ぐみながら感謝や後悔を叫んで。


 しかし、それだけ。


 そうしたからといって救われるわけではない。


 生物兵器しんるいにはそんな思いは関係ない。目の前にいるのが人類だから処分する。ただ、それだけ。


 一方的な蹂躙劇が繰り広げられ、30分ほどが経過した。


 神類は人類を挟み撃って、既に援軍と既存軍が合流を果たしていた。


「まだ、まだ本陣が残っている! 俺たちが全滅したって、人類が全滅するわけじゃない! いつかきっとお前らを滅ぼす! いつかきっと、お前らが滅ぶんだぁぁぁああ!」


 そんな声が、山々に反響を繰り返す。


「残念だが、その本陣には安久斗様が向かわれた。おそらく全員、もう生きてはいないだろうね。濱竹ここに人類が住むことはこれからできなくなる。いや、できなくする。人類が我々を滅ぼすなんて、夢物語もいいものだ」


 そうして、最後の1人が臣の浜松ひくまによって殺された。


 今ここに、濱竹の国で発生した世界でも類い稀な規模の人類反乱が終結したのだった。


 しかしこの時、既に世界の安定は崩壊しかけていたのだった。


 そのことには、まだ誰も気付いていないのだった。




「終わったな」


 砂太郎が呟き、綴が頷く。


「さて、神社に帰って反省会だ。安久斗様からみっちり怒られようじゃないか」


 かささぎが困ったように笑いながら、横で不安そうに俯く喜々音の肩に軽く手を置いた。


「?」


 喜々音がかささぎを見上げる。


「大丈夫だよ。彼はきっと、そう簡単に死なないさ」


 かささぎは小声で喜々音に言う。喜々音はまた俯いて、ほんとに小さく頷いた。


「なにしているの、2人とも。置いていくわよ」


 綴にそう言われて、かささぎと喜々音は歩き出す。


「安久斗様は怒らないだろうけどね」


 その4人の背中を見つめ、ひくまが笑う。


 ひくまの後ろには、濱竹陸軍の兵士がズラリと並んでいる。


 ひくまはこれを率いて神社に帰る責務があるのだが、正直面倒で仕方なかった。


(まぁ、別に神社で解散すると決まっているわけでもないし、わざわざ疲弊した兵士と共にノロノロ歩くのも面倒だ。本当は陸軍長官や軍総長のやる仕事だが、あいつらも相当疲弊しているから頼み辛い。だからこそ引き受けたのだが……)


 そして、まあいいやと頭の中で思った彼は、


「ここで解散にしていいか?」


 と口に出した。


「はっ」


 それを快く引き受けてくれる兵士。


 臣の命令は絶対だから従っているのだろうが、少しは意見をぶつけてくれた方が楽しいのに、と彼は内心で思う。


(きっとあの日渡の使者ならば、今この場で俺に意見をぶつけただろうに。確か、磐田大智と言ったな。いつか会う機会があれば、また話せたら良いものだ)


 彼はそう思いながら、


「では、俺は帰る」


 と兵士一行に向けて告げ、手から大量の水を放った。


 そして目の前に架かる大きな水の橋。その橋は神社まで続いている。


 ひくまはそこに足を踏み出し、水の流れに任せて高速で神社まで移動をする。


 ひくまの能力は『水属性』の『湖』。臣家はその国の永神種と同じ能力を持つため、安久斗も同じ能力を保有している。しかし、力はもちろん永神種の方が上である。


 水を溜めて湖を形成し、水の循環の速さを変えて流水を作成する。彼の能力の全ては、それの応用で成り立っている。もちろんこの橋もその応用で成り立っている。橋の形をした湖を作り出し、水の循環を高速にして移動しているだけなのだ。


(安久斗様は上手くやったのだろうか。……いいや、そんなことを考えるのは野暮というものだ。『神』を信じてこその臣。安久斗様を疑うなど、やってはならないのだ)


 そう思っているうちに、神社に到着する。


「お帰りなさいませ、ひくま様」


 そこでひくまを待っていたのは、濱竹神務卿の下池川山樹だった。


「おぉ、山樹。帰っていたのか」


「えぇ。人類の情報を集めておりました」


「そうか。それで、分かったことは?」


「どうやら奴らは神類と繋がっておりまして……」


「それは知っている。具体的に何処どこ何奴どいつと繋がっているかとかは?」


「それが問題なのです! 実は、わたくしも信じたくはないのですが……」


 そこでひくまは、とんでもない事実を知るのだった。


「安久斗様はっ!?」


「おそらく、既にご存知かと。1時間ほど前におな様から連絡があり、人類の本陣で情報を聞き出すと仰られておりました」


「そうか。……まずいな、今後どう立ち回ったものか……」


「判断は安久斗様に任せましょう。ですが……」


 そこまで言って山樹は、しわだらけの右手を握りしめた。


「連邦創立史上、最も難しい判断になりましょうな」


「……クソが」


 ひくまはそう吐き捨てて、


「明日、正午より緊急で濱竹議会を開く。集めておけ」


 と山樹に命令する。


「心得ました」


 ひくまに一礼して、その場から風のように音もなく消える山樹。


「今日は徹夜だな……」


 ひくまはイラつきながら夜空を見上げた。


 そして神社の裏にある、臣の屋敷の戸を開ける。


「ただいま」


「あ、父さん。おかえり。遅かったね」


 そして出迎えたのは13歳の息子、浜松いなさだった。


「まぁな。さて、俺はまだ仕事をしなくちゃならなくてな」


「手伝おうか?」


 その言葉に、ひくまはすがりたく思う。だが、国家存亡の可能性を秘めた仕事を息子に頼むわけにはいかない。


「いいや、大丈夫だ。すぐに終わる」


 彼はそう言って、息子に笑いかけた。


「そう? ならいいや。頑張れ!」


 そしていなさもにっこり笑って、ひくまを応援した。


(今あるこの生活を守れるか否かは、今からの判断によって変わる。ここまで危機感を覚えたことは未だかつてない。だが、やるしかない。俺はこの生活を守りたいんだ。濱竹このくにを潰すわけにはいかない!)


 ひくまは部屋に篭り、夜を徹してこの非常事態の解決策を考えるのだった。

浜松いなさ:年齢13歳 身長143cm

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