十日市くん
友だちに誘われ、『映画を語ろう』なんて名前の何やってるかよく分からないサークルに入った。
浮かれ気分の延長だったのだと思う。
そこで知り合った十日市くん、おうちが大工さんだと知って、うちの縁側が壊れそうなんだ、と話したら、うちにある端材でよければ、タダで直してやろうか? と言ってくれた。
十日市くんってなんだかスッキリしていて、オトコマエだった。しかし何となく周りからは煙たがられるタイプだった。
とにかく、わずかに一言多い。しかも、言わずもがな、の発言が多い。
それでも私は、サークルの歓迎会の頃から彼のことがずっと気になっていた。
そんな十日市くんがまさか家まで来てくれるとは想像もしてなくて、思わず心の中で、小さくガッツポーズしていた。
「お昼ご飯くらい出すから」私が言うと妙にうれしそうに頬を染めたから
「ちがうちがう、コンビニのお弁当だって」
あわててそう言うと、「だと思った」と悪気もなさげに言ってから、だったらオレが何か作ろうか? オレずっと角松食堂でバイトしてたから揚げもんとか得意だし、と、これまた意外な返事が返ってきた。
「新村さんてさ、見るからに自炊苦手そうだしね」
やっぱりわずかに一言多いのも健在だったが。
それでも、私はごはんだけ炊いておけばいいってことになって、次の日曜が来るまで何だかそわそわとしていた。