思いがけない出来事と引越し
孤独というものを、つい最近までずっと、感じたことがなかった。
孤独は匂いに似ている。
気づかなければ、いつまでも気づかない。それまでの私みたいに。
その匂いは……秋の日に落ち葉を焚いたような、うす青い煙の香りに似ている、かもしれない。
決してわるい匂いではないのだが、たまに強く感じると、目や心をちくりと刺す。
それに気づかせてくれたのは、彼と、小さな彼女だった。
高校を卒業したばかりだという時、両親がとつぜん事故で亡くなり、私には家と狭い土地だけが残された。
身辺整理を手伝いにきてくれた叔母に、神妙な顔と声とで
「思い出の詰まった家には、これ以上住みたくなくて……」
そこまで言っただけで、叔母は速やかに家と土地とを買おうと言ってくれた。
私も嘘をついた、という訳ではない。『思い出』というよりは『煩雑なメンテナンスや手続きが』の方がその時の正確な思いだった。
向こうだってずっとあの家を羨ましがっていたのだから、好機だと思ったに違いない。
彼女は打算的ではあったが、たった一人の姪を騙すような人間でもなかった。
私も叔母も、現実的だというだけなのだろう。
私は大学進学にあわせひとり、郊外のもっと小さな借家に引っ越した。