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篠田祐弥 (1)

坂野帆奈は読めない。


その圧倒的な美貌に打ちのめされるよりも先に僕は彼女に恐怖心を抱いた。僕の第六感が坂野帆奈を危ないと警告していた。


春、僕たち高校三年生にとって最後のクラス替えが訪れた。

学校中に悲鳴や笑い声が響き渡っている。


僕のクラスは4組。

学校の中心的存在である生徒が割と集まってはいるが、陰気臭い奴らもごく普通の奴らも半分を占めており、比較的バランスの取れたクラス構成であった。


僕の出席番号は35番。周りには運悪く仲の良い奴はいないが、同時に僕は当たりくじを引いてしまった。

坂野帆奈が34番、僕の一個前だ。


僕は自分で言うのは癪だが、比較的目立たない、いわゆる陰キャである。部活もこの学校ではマイナーな剣道部だし、つるんでる友達もそこまで活発な奴らではない。


だから坂野帆奈なんていう、カースト上位の人間と話したことも目を合わせたこともなかった。まあ、一度もクラスが被ったことも近かったことも無かったから僕も坂野帆奈の顔を知らない。


ただ、とてつもなく美人で彼氏が絶えないという情報以外は。


教室に入ると坂野帆奈はもうそこにいた。

驚いた。

高校生には見えないほどの色気と雰囲気、それに加えてとてつもなく美人だ。

こんな美人とこれから一年間、毎朝横に座って朝礼を受けるのかと思うと胸が高鳴った。


そんなことを考えていると、坂野帆奈と目が合ってしまった。


その時、一瞬だが、脳内から体の毛細血管の先から先まで全てを見透かされたような、何かが僕の体の中を通り抜けたような気がした。


僕は怖くなってすぐに目をそらした。このままだと、坂野帆奈に全てを乗っ取られる気がしたのだ。


その日を境に僕は坂野帆奈を意識しないようにしていた。割と楽観的で日頃なにも考えていないことが幸いし、翌週辺りから坂野帆奈という存在を朝礼の時に無視して居眠りするまでになった。


それから月日は流れ、僕は部活を引退し、夏休みを来たる文化祭の劇の準備のために使っていた。

坂野帆奈はたまたまその日、僕と参加日が被りクラスメイト二、三人と暑い夏の日差しの中買い出しに行った。


坂野帆奈はその時、アメリカンフットボール部のエースと交際していた。

丁度その時、校舎沿いの道のフェンスの向こうで、アメリカンフットボール部が部活をしていた。

すると一人の女子が坂野帆奈に、


「最近あいつとはどうなのよ!」と聞いた。


「んー、あんまり上手くいってないかな。子供っぽい人がどうも苦手で。最近疲れちゃったんだよね。」


坂野帆奈は僕が思うに男を見る目がない。

今まで付き合ってきた男子たちを見ても、カースト上位ではあるが全員良い奴らだがまるで馬鹿で幼稚っぽい。


今回のアメフト野郎も馬鹿で幼稚で常識がないで有名な奴だ。なんでこんな奴を好きになったのか甚だ疑問だが僕には関係がない。


「どうしたらいいかな?」


急に坂野帆奈が僕に尋ねてきた。

今まで会話したこともなかったから驚いた。


「えっ、どうって、坂野さんのしたいようにすればいいんじゃないかな。」


無難で無意味な回答をしてしまった。

まあ、僕には坂野帆奈とアメフト野郎の関係なんて興味もないしどうなってるかも知らないんだから仕方がない。


「そっかぁ、そうだよねぇ。」



劇は大成功に終わった。僕たちのクラスはオリジナルの白雪姫をした。学校一のイケメンが王子様を、クラス一の活発な女子が白雪姫を演じた。

僕は部下役に抜擢され、それなりに頑張った。

坂野帆奈は、白雪姫ではなくお姫様役に立候補していた。誰もが白雪姫は坂野帆奈だと思っていたが。


しかし、彼女のお姫様役の姿は、圧巻であった。一番豪華な衣装で白雪姫よりも目立ち、美しく見る者を圧倒した。

これを一部の女子は気に入らなさそうに見ていたが、所詮醜い嫉妬である。

僕は彼女のドレス姿を遠目に綺麗だなと見つめていた。


劇の発表後、みんなで写真を撮っていると、まさかの事態に陥った。

坂野帆奈が


「篠田くん、写真とろ」


と言ってきたのだ。

しかもドレス姿で。

坂野帆奈に群がっていた男たちの目線が僕に冷たかった。なんせ彼らは自ら撮ってもらいにいったわけで、坂野帆奈自身に写真をせがまれたわけではないからである。


「う、うん!もちろん!」


思わず語尾が上がってしまった。仕方がない。いつもに増して綺麗な坂野帆奈が今僕の前で僕におねだりをしているのだから。


「あとで写真、送るね。ありがと、お疲れ様」



そう言って坂野帆奈は僕の前から立ち去った。

まるでシンデレラが12時の鐘の音を聞いて急いで帰って行くような可憐さだった。


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