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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

元いじめっこ【傀儡子】スキル持ちの俺は、元いじめられっこ【大賢者】持ちの最強勇者様に復讐される

作者: 双次郎

「おいおいおい……勘弁してくれ、勘弁してくれよ……」


 窓の外から祭りを楽しむ人々の明るい声が聞こえる。

 だというのに俺は首都の一等地に建つ屋敷の豪奢な部屋の中、天蓋つきのベッドで頭から毛布をかぶり震えることしかできなかった。

 

 俺こと市原一世いちはらいっせいは絶体絶命、完全完璧に追い込まれていた。

 確かにこの世界に来てから人生下り坂一直線だが、それでも同じ状況のやつよりは圧倒的強者で秀でているはずだ。少なくとも今みたいに迫りくる死を待つだけとは違った。

 どこにも逃げ場はない、俺の為に命を張って守ろうとしてくる者もいない。

 みんな散々甘い汁を吸わせてもらったくせに恩も忘れて好き勝手言って出て行った。

 役立たずども!俺以外の人間は所詮どうしようもないバカだ、バカということは考える力がないということ、必然的に性格も根っこはクズなのだ。

 綺麗事しか言わない八方美人の学園のマドンナも、思考放棄して他人の言うことを鵜呑みにして状況が悪くなればすぐカッとなる自慢は力だけのさわやか面した剣道全国大会上位入賞の生徒会長も、その他有象無象みんなみんな漏れなくクズだ。


 信じられるのは自分だけ、その為に最適解を選び続けたはずなのにどうしてこんな事に!



…………



 集団転移で俺のいる高校のクラス、3-7の生徒が異世界『シルヴェストリア』の地に強制転移させられたのが5年前のこと。

 教室で授業を受けていたはずなのに突然荒野に放り出され混乱していると、あきらかに現代的ではない、中世の鎧のような装備をした集団があらわれ3-7の生徒全員を拘束し城に拉致して行った。


「異世界の方々、無礼をお許しください。最初にあなた方がいらした『アハト平原』は強くはありませんが魔物の出没地帯でして、御身の安全の為に危険のない城まで一刻も早く連れ帰る必要があったのです。」


 平身低頭といわんばかりの態度で俺たちの前に現れたのは、金髪碧眼のどこからどう見ても西洋のお姫様然とした絵に描いたような美少女だった。


 「私は『ランバストルフ王国』第二王女メアリー・ゲオルギーネ・アルムスター・ランバストルフと申します。どうぞメアリーとお呼びください。」


 上品に笑う姿はまるで水面を埋める睡蓮の華を思わせた。

 が、いくら良い印象を抱かせようとしても状況が状況だ。


「あの……異世界とか王国とか魔物とか……よくわからないんですけど、私たちは西ノ宮学園3-7の生徒です。どうしてあんな場所にいたのかは覚えていませんが、何か手違いがあったのだと思います。招いていただいたところ申し訳ありませんが人違いだと思われますので帰らせていただいてもよろしいでしょうか?そちらでももう確認していただければすぐにわかるかと思いますので……」


 王女だと名乗る金髪女相手に最初に動いたのは学園のマドンナ雪野美月ゆきのみつきだった。


「それと、電話を貸していただけませんか?連絡を取りたいんですけど圏外みたいでスマホが繋がらなくて」


 それを聞きみんなハッとしたように各々スマホを取り出す。

 俺もとっくに確認したが確かに圏外だった。


「それについて……詳しくお話しさせていただきます」



 自称王女が語った説明はこうだ。


 『シルヴェストリア』は俺たちのいる世界とか違う世界である。

 (それが星なのか次元なのかはよくわからない)


 シルヴェストリアには世界を創造したとされる『女神』が存在し人類は様々な恩恵を享受されるが、同時に対存在として『魔物』も存在し、しかも数百年に一度魔物の中から人類を征服、あるいは滅亡させ女神の恩恵を奪おうとするそれに相応しい強い力を持った『魔王』が生まれる。


 魔王が生まれる頃にシルヴェストリアの『尊き血族』(これは女神が人類を造った時に選ばれた個体を指す。新興国家ではない由緒正しい王族がこれにあたるとのこと)から『予言の巫女』(メアリーと名乗った王女様が今代の巫女)が生まれ、女神の遣わした魔王に対抗できる力の与えられた『異世界人』のあらわれる場所を予言する。


 異世界人が魔王を倒すと、次の魔王が現れるまでシルヴェストリアの人類は女神の寵愛を受けられる。

 だが、異世界人が負けてしまうと女神の寵愛は魔物に与えられてしまう。

 魔物を愛でることを女神は望まないので、人類が勝利をおさめられるよう女神から特別な力が与えられた異世界人が巫女に知らされ送られる。


 異世界人が元の世界に帰るには『女神に与えられた力全てと引き換えに転移された人間が揃って儀式を行う』必要がある。



「まさかとは思ったが……これってよくある異世界転移ってやつじゃね!?」

「すげぇ!女神から与えられた特別な力!?それって俺つえ~ってやつ!?」


 説明を受け数人の男子生徒が騒ぎ出す。

 いつもクラスの端の方にいるくせにやけにデカイ声でオーバーリアクションしてるオタク集団だ。

 テンプレだとかチートだとか聞こえのいいところだけを拾って興奮しているが、問題はそこじゃないだろうが。


「ちょっと待ってくれ!魔王を倒すなんて、俺たちはただの高校生だぞ!そんな危険なことできるわけがないだろう!」


 オタク集団以外が思っていたことを主張したのは生徒会長の輝山勇介きやまゆうすけだ。


「それに転移されて人間が揃ってって……これまでに転移された人たちはみんな帰れているんですか?」


 雪野美月も輝山に続く。


「大変申し上げにくいことですが、過去に召喚された方々が帰還されたという記録はありません。帰還するには『女神に与えられた全ての力』を代償にするのですが、魔物との厳しい戦いや事故、病気などで犠牲が出てしまい儀式に捧げる力が足りず帰還方法がなくなってしまうのです」


「ですが、ですが今代こそは!シルヴェストリア全人類、我が国ランバストルフ、予言の巫女メアリー・ゲオルギーネ・アルムスター・ランバストルフが代表して!あなた方が無事帰還できるよう支援させていただきます!私を信じてください!」


 王女が涙ながらに訴える。

 だが、クラスのみんなの表情は暗い。


「ひどい王女に騙されて犠牲になるのもテンプレ……」


 オタクの一人の呟きが静寂に響く。

 王女は頬に一筋の涙を伝わせるとスッと佇まいを直した。


「……ひとつ、この世界には魔物や魔物以外に明確にあなた方の世界とは違う法則がございます。」


「この世界の人類は女神の加護の影響で『心の美しさ』が『容姿』に表れます。心の美しい人は美しい容姿に、心の醜い者は醜い容姿に……()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 王女は誰しも声を揃えて『美しい』と讃える外観をしていた。

 勿論人によって好みはあるだろう。

 だが、金髪碧眼、白い肌に赤みのさした頬、やわらかく上げられた口角の描く表情。

 まともな審美眼を持つなら、それらを『醜い』と評する者はいないだろう。


「このことが嘘でないことはいずれわかります。あなた方はあなた方の持つ特徴をそのままに心のありようによって容姿が変わっていくことでしょう。過去に魔王討伐を果たした転移者はみんな美男美女であったと記されております。本当の心の強さは心の美しさ、強さは数値化できるものではありませんが、『見ただけで』わかるのです」



…………



 そんな茶番劇を経て俺たちは魔物との戦いに身を投じていった。

 そう、転移してすぐ演じられたそれはまさに茶番だったのだ。


 女は王女ではなかった。

 予言の巫女でもなかった。

 貴族ではあったが、両親と領民を人質にとられた国で一番美しい女が演劇をさせられていたのだ。

 実際に予言の巫女はいたが醜くも美しくもない、飾り立てればどちらかといえば美しいといえなくもない、そんな女だった。


 だがそれ以外に言っていたことは本当だった。

 魔物も魔王も女神も本当、そして俺たちが魔王を倒さなければ帰れないこと。


 途中まではそれしか方法がないのだし信じて魔王討伐を目指し戦っていた。

 生徒会長の輝山きやまを中心に力を合わせて。

 俺だってそれなりにやった。


 事態は、戦いの中クラスメイトの一人が命を落としたところから急変する。


 クラスメイトの死を嘆く、そんな簡単な話ではない。

 転移者がひとりでも欠けるということは、二度と元の世界に戻れないということだ。

 自暴自棄になる者も出、自殺者すら出ようとしたその時、


「犠牲になってしまった後藤くんの為にも、僕らは生きよう。この世界で。これまで支えてきてくれたこの世界の為にも、僕らは絶望してはいけない。戦おう!」


 輝山は完全にマインドコントロールされていた。

 自称王女に絆されてしまい、やつの目的は『帰還すること』から『愛する人の為に世界を守ること』へと変わっていたのだ。

 何言ってんだこいつと普通は思うところだが、強制的に戦地に送られ、死を味わい、傷つき、疲弊していた平凡なクラスメイトには強烈に効いた。


 なにより、輝山は『美しかった』のだ。

 元から優れた容姿ではあったが、この世界に来てあきらかに美しく変わっていた。

 強者に挑む勇敢な心、多くを救う為に自己を犠牲にする優しい心、そしてそれを為せると信じる心、それらは確かにこの世界にとっては正しい美しい心なのだろう。

 その純粋さがどのような意味を持つのかは別問題として。


「俺はパス……自覚してたが、どう考えても戦いに向いてない。足を引っ張るだけだし、前線から引かせてもらう。そもそも最初から間違ってたんだよ、女神から貰った力には差がある。この勢いで弱いやつからガンガン死んでいったら戻れるもんも戻れなくなる……ああ、一人欠けくらいならおまけしてもらえないかなっていう仮定で」


 俺はとてもじゃないがそんなやつらにはついていけなかった。

 バカはバカ同士つるんで魔王とやらと相殺してくれればいいのだ。


「君の言うことも尤もだ、無駄な犠牲は出したくない。……それ以上は言わなくてもわかる。だって君はこの世界に来て何一つ変わっていないんだから」


 そう、俺はクラスメイトが程度に差はあるものの良くも悪くも容姿が変わっている中、驚くほど何も変化してなかったのだ。


 「君は悪くなっていくものだとばかり思っていたんだけどね……いや、いい。他に戦いに向かないと思う人がいたら市原くんと一緒に城に戻ってくれ。後方支援という形でメアリーと一緒に支えて欲しい!」


 輝山の言葉を受けて10名ほどが俺のもとへ寄ってくる。

 思っていたより多い。こいつら俺が言わなければ輝山に大人しくついていって黙って魔物に殺されるつもりだったのだろうか?そんなことすら考えてなさそうだ。


「ぼ、僕も……」


 最後に寄ってきたのはいかにも弱いを体現したような男子生徒。


「いや、お前はダメだろ。支援系とはいえ輝山たちには欠かせない戦力だ」

「え……?え……?そんな!」

市原いちはら!お前また……」


 秋澤洋生あきさわひろお

 そいつだけはどうしても死んでもらわないと都合が悪かった。


「スキル『大賢者だいけんじゃ』、今までの戦いでもそれのおかげで助かったことがいくつかあっただろ。秋澤、お前ならやれるよ。実際お前ここに来てから性格も容姿も良い方向に変わってきてる。今までごめんな……お前には戦って欲しい。絶対に必要だと思うから」


 秋澤と俺の関係。

 元の世界では典型的な『いじめっこ』と『いじめられっこ』だった。

 もちろん俺がいじめる側だ。

 こいつの目が気に入らない、気持ち悪い、生理的に受け付けない。

 それは今だって変わらない。

 だがこいつはこの世界に来て容姿はわずかだからマシになり何より強力な力を授かった。


 オタクどもが笑いながら言っていた。

「『大賢者』って見るだけでなんでも物がわかんの?典型的チートスキルじゃん!」

「いじめられっこが最強になってざまぁするのもテンプレ展開!」


 そう、秋澤がトロいから真価を発揮できていないみたいだが『大賢者』は破格のチートスキルだ。

 魔物を見れば生態から弱点まで見破り、アイテムや装備品を見れば隠された効果や呪いまで知ることができる。


 心は容姿、容姿は強さ、そしてチートスキル。


 大量に前線撤退者が出た今こそ、本当に強くなる前の今こそ、死んでもらわなくてはいけない。

 俺に復讐する前に。


 俺の言ったことに輝山は納得、秋澤は絶望し涙を浮かべながら、俺についてこなかった以外のクラスメイトを連れて更に厳しい戦いの地へと向かっていった。



…………



 城に戻ってからは楽しい楽しい俺のスキル無双が待っていた。

 俺のスキルは『()()()()()()()()()()()()()』能力、『傀儡子くぐつし』。ただし転移者や力に差がありすぎる者には効かない。輝山たちには『()()()()()()()()()()()』能力と伝えていた。

 そりゃそうだ、こんな人に使ってこその能力は危険過ぎる。

 弱い女を肉奴隷にすることもできるし、商人から金を巻き上げることもできる。平凡な村人を大量殺人犯に変えることも簡単だ、なんなら教祖になったっていい。

 権力、富、名声、強大な力を持つ魔物を殺すのには向いていないが、凡俗な幸福を望むのなら手に入らないものは何もない。

 多くの人間は当然俺より弱者だ。数は暴力。みんなが是と言えば俺のスキルが効かない者も従う他にない。

 そんな能力だ。俺がいじめっこだったこともあって、知られれば危険分子として拘束される危険もあった。

 だが、意思の強い転移者の目はもう届かない。 


 俺はまず王女の側近を洗脳した、こいつがまたベラベラ喋ってくれて王女が偽王女だということを吐いてくれた。

 そのことで王女を脅……助けてやると持ちかけ次には王を。本物の予言の巫女を。

 俺についてきた意志薄弱な連中は権力者が俺を妄信するところを見てスキルを使わずとも言いなりになった。


 輝山きやまたちへの支援は秋澤に不利になるよう謀った。

 秋澤あきさわはしぶとくなかなか死んでくれず、時には洗脳して足のつかないようにした暗殺者を送ったりもしたがそれでも死ななかった。


 そして転移から3年が経ったある日……


「輝山が死んだ?」


 俺の元に届いた報せは、世界の命運を背負い魔王討伐隊を率いる元生徒会長輝山勇介の死だった。何をやってるんだ、魔王を倒す前に死んでもらっちゃ困る!


「……それで、残りのやつらはどうなったんだ。死んだのか?それとも一度ランバストルフ首都まで引き返してくるのか?」

「いえ、それが……」


 続く報せはこれまた意味がわからなかった。

 なんとあのどんくさいいじめられっこ秋澤が生徒たちや現地で仲間になった者たちを率いて旅を続けているというのだ。


(確かにスキルはチート級、雪野ゆきのもいることだし役割をうまく分担できればやってやれないこともない……か?率いてるとは名ばかりの実質ヘイト管理役か。まぁ何でもいい、輝山が思ったより使えなかったぶん穴を埋めてくれるなら。どうせ魔王との戦いで死んでくれるだろう)


 ところが秋澤は死ななかった。

 不死者の王や燃えるドラゴン、数多の強大な魔物を倒し、時には味方に加えながらとうとう本当に魔王を倒してしまったのだ。

 転移から5年、輝山が死に秋澤が討伐隊を率いてたった2年!


(ありえない!あいつが魔王を倒した?自分は死なないまま?待ってくれ、するとどうなる!俺はどうなるんだ!)


 考えうる最悪の事態は続いた。秋澤の知り合いだという薬術師から届いた薬。それを飲んだ者は俺のスキルから解放され正気に返ってしまったのだ。

 俺が洗脳していた者、洗脳されていたものの言で俺を信用していた元クラスメイトたちは手の平を返し口々に俺を蔑んだ。


「もうすぐ秋澤が帰ってくる。世界の危機にもかかわらずお前みたいに私利私欲の為に力を使った者とは違う、本物の勇者が。虐殺にまで手を出さなくてよかったな、国の体制が磐石だったおかげでお前が好き放題した程度で国は傾かなかった。王はお前に慈悲をやると言っている。罪は秋澤に裁いてもらうんだと、せいぜい震えて沙汰を待つんだな。」


 魔王を倒すほどだ、きっと俺が暗殺を企んだことも全て秋澤にはバレている。

 王は慈悲をやると言ったらしいが、違う。秋澤が言ったに違いない『自分の手で殺したい』と。

 今やシルヴェストリア全体が俺の敵だ、どこにも逃げ場がない!



…………



市原いちはらくん」 


 ひくり、と体が震える。

 人が近づいた気配なんてなかった。確かに毛足の長い絨毯が敷かれヒールを履いていたって足音は鳴らないはずだがそれにしたって物音ひとつしないのはおかしい。

 来たのか、とうとう来たのか。


 「市原くん、ねぇ……この毛布、めくってもいいのかな」


 やわらかな声、とても憎い人間を相手にしているものとは思えない。

 こいつは楽しんでいるんだ。怖がる俺を、これからどんな風に殺してやろうかと楽しんでいるんだ。


 俺が返答をしないでいると毛布の端を捕まれ引っ張られた。抵抗も虚しく毛布はゆっくりと剥がれていく。隙間から差し込む光、遮るものがなくなりより大きく聞こえる人々の歓声。

 ガタガタと体が震える。


「あっ……!」


 視界が光に満たされたようにきらめく。

 思い出した、そうだここは異世界なんだ。そうでなければこんな……

 とうとう剥ぎ取られた毛布の向こう、そこにいたのは俺の知っている秋澤あきさわに似ているがまったく別人としか思えない、神が創りたもうたような造形をした男だった。


「誰だ……誰だ!」


 腕を振り回して距離を取る。

 が、簡単に捕まれてしまう。振りほどこうとするもまったく動かない。

 男か顔色ひとつ変えず、まるで赤子を相手しているかのような余裕ぶりだ。

 俺と同じ、黒い瞳を縁取る睫毛がまたたく。


「全部終わったんだよ、僕たちの役目は終わったんだ。僕、頑張ったんだよ、市原くん」

「い、命だけは助けてくれ……わかるだろ?お前の作った薬のせいで俺にはもう何もできない!謝罪ならいくらでもする!だから……」


 男の、秋澤の手が俺の首に静かに添えられる。

『いじめられっこが最強になってざまぁするのもテンプレ展開!』

 オタク連中の言葉が頭に響く。

 俺が何をやったっていうんだ、確かに元の世界で秋澤をいじめたがそもそもこいつが気持ち悪いのが悪いんだ、俺がいじめてなきゃ誰か別のやつがいじめていた。バケツで水をかぶせたり弁当を捨てたり殴ったりちょっと小遣いをもらったりしたが、それからもう5年も経ってるんだぞ!

 異世界に来てから確かにスキルを使って好き勝手したが衣食住を整えただけだ。虐殺も豪遊もしてない!国の要人をおさえ差し出されるものを貰っただけのこと。

 魔王討伐に出なかったことの何が悪い!他にやりたいというやつがいたから任せただけのこと、適材適所だ、俺以外にも非協力的なやつはいた。

 暗殺者を送ったのは悪かったが……全部未遂で終わったじゃないか、殺されるほどか?


 とにかく嫌だ、死にたくない。

 バカばっかりの気に食わないクラスメイトばかりの高校生活、受験勉強に明け暮れセンターも近づき気持ちは急くもののやっと抜け出せると思ったところで異世界転移。

 家族や今までの生活を強制的に奪われ戦うことを強いられ当然のように帰れる手段をなくしせめて人並みの生活を送っているところで俺に恨みを持っているやつが何故か一番力をつける。

 こんな人生あんまりだ、なんでもいい、生きられるなら。

 ゴミ相手に靴をなめたっていい、その程度で『ざまぁ』が達成されるならいくらでも舐めしゃぶってやる!だから!だから!


 俺の首にかけられた手に秋澤の体重かがけられる。

 表情はわからない。過呼吸で視界が霞がかり何も見えない。



「君の……」


 秋澤の伸びた黒髪が頬に触れる。痺れた肌でもわかる絹のような感触。

 押された首ごとそのまま倒れこみ、気づけば視界には天井がうつっていた。


「君の元に帰る為に僕は戦ったんだ……僕はもう何をしたって後ろ指をさされないくらい強くなった。お願い……受け入れてよ……」


 何を言われたのかまったく理解できない。

 受け入れるってなんだ、殺すんじゃないのか?なんだ?

 混乱の極みだ、もしかしてこれは助かる流れなのか?殺されなくてもいい?何を言うのが正解だ?

 今になって気づいたが、秋澤の手は氷のように冷たく、体は怯える俺よりも震えていた。

 だんだん頭が冴え、視界もはっきりしてくる。

 そうだ、こいつの()()()()()視線、()()()()()()()()()()視線。

 強さを手に入れこの世界の法則により美しくなり輝くかんばせを手に入れた今でも変わらない、この……この視線は……


「市原くん、もうどこにも逃がさない」


 俺は最適解を選び続けてきたのだ。

 秋澤をいじめたのも、魔王討伐から抜けたのも、暗殺を目論んだのも、間違いなく全部最適解だったのだ。俺が自分を守る為に行った選択にひとつも間違いはなかった。

 ただ、秋澤に効かなかっただけで。

 

 秋澤の生あたたかい息が顔にかかる。


 オタクどもが言っていた。

『主人公を虐げた王女や元仲間が主人公に洗脳され肉奴隷となる』のも『ざまぁのテンプレ』なのだと。


「元の世界でも、この世界に来てからも、僕には君が一番美しく見える。僕にとって心の美しいのは君だ、君だけなんだ、市原くん」


 熱い舌がなめくじのように肌を伝う。


 なるほど、異世界集団転移、チートスキル、元いじめられっこ最強、そしてざまぁ。全部笑えてしまうほど型にはまっている。

 ただひとつおかしいのは俺の性別かざまぁの形態か。


(とりあえず命は助かったのか……)


 今では世界を手に入れた元いじめっこに体を剥かれながら、俺はそんなつまらないことをぼんやりと考えることしかできなかった。

初執筆初投稿。いじめっこざまぁものってこっちの方が人も死なないし平和的解決じゃない?でもなろうで全然見ないなんでだろう……ってことで自分で書いてみました。こういうのみんな好きだと思うんですけど…??元いじめられっこ異世界最強(男)が元いじめっこをハーレムの一員にするファンタジー小説が読みたいです。

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