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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第一章 冒険者? なにそれ美味しいの?
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1-7 力が欲しいか?

 ゴロウの死から二週間が経った。


 私は強くなろうと決めた。

 だが、決めただけでは強くはならない。この異世界では、なにかの事件でいきなり才能が目覚めて超人になったりはしない。


 私はショートボウを手に、獲物が寄ってくるのを息を殺して待っている。

 まずは弓を覚えた。だが、たかが一週間でいきなりバンバン当てられるようになどならない。当たっても、せいぜい3m先のほぼ動かない目標くらい。連射も遅く、一番威力の弱いショートボウでやっとまっすぐ飛ぶようになった程度だ。

 おびき寄せるために撒いた突撃兎の血と肉の小片の匂いを嗅ぎつけて、獲物が近づいてきた。

 突撃兎は、街の近くの草原にたまにポップする魔物で、今の私でも近接戦闘でなんとか倒せる。ノンアクティブだが、一度攻撃を当てると逃げずに何度でも体当たりで突撃を仕掛けてくる弱い魔物だ。草食性なのに角が生えていたり、チートな攻撃力を持っていて首を刈りにきたりはしない。ちなみに突撃兎は私とゴロウが勝手につけたあだ名で、本来はトト兎と呼ばれている。


 突撃兎の匂いを嗅いでいるブラックウルフに気付かれないようにゆっくりと弓を引き絞り、その背中を狙って()()()()()矢を放った。

「ギャン」

 体の中心からは外れたが、なんとか矢が突きたった。

 ブラックウルフは木を登ることはできない。はじめの一本さえ当ててしまえば、あとは何本か外しても問題はないのでゆっくりと慎重に木の上から矢を射掛けていく。大事なのは慌てないこと。予想外の出来事に適切に対処し、自分の安全を確保しながら確実に倒すことだ。一度、登った枝の高さに対してブラックウルフのジャンプが届きそうになり、慌てて上の枝に逃げたことがある。

 6本目の矢を背中に突き立てたあたりでようやくブラックウルフが動かなくなった。念の為にもう一本矢を撃ち込んで動かないことを確認してから、縄梯子を素早く降りて短剣でトドメを刺す。ウルフの背中の7本の矢と、外して地面につきたった9本の矢を回収した。半分以上も外したことになる。


 このやり方のいいところの一つは、外した矢も簡単に回収できることだ。ウルフの背中の矢が一本、地面の矢が3本折れていたが、矢尻が回収できればまた簡単に矢を作ることが出来る。いくら撃っても矢が無限に出てくるなんてことはないし、放った矢が消えてなくなることもないのだ。

 それ以外にも、待ち伏せなのですべての物資を持ち歩かなくてもいいところだろう。縄梯子や予備の矢筒、獲物を運ぶ為の道具など、とても持ったまま獲物を探して森を歩き回れるものではない。


 もちろん、欠点もある。

 木に登れる魔物に対しては意味がない。ズルトの近くにはいないが猿の魔物は木の上で生活しているし、ブラックベアはあの巨体で木を登ることもできるらしい。

 当然空を飛ぶ魔物には無力だ。私の腕ではまだ空を飛び回る魔物に当てられる気がしない。ブラックベアは空は飛べないが。

 そして、木を殴り倒すほどの攻撃力を持った魔物もだめだ。ブラックベアなら、今使っている木よりも太い木でも一撃でへし折るだろう。

 また、魔物との相性以外の欠点では、獲物が近づいてくるまで待つしかないことだろう。一日中獲物が来なくても待つことができる準備と来なくてもへこたれない精神が必要だ。赤毛鹿の狩場の東端であるこのあたりは縄張りを巡回する赤毛鹿と縄張りから追い出された鹿を狙うブラックウルフが現れるので、全く獲物が来なかった日はまだ一日だけだ。ただこの辺りに来ない魔物は狩りようがなく、滅多に出現しないブラックベアにチャレンジする機会は訪れないだろう…。


 仕方ないが魔物との戦いを想定するのに、いちいちブラックベアならと考えてしまう。


 私たちを襲ったブラックベアは、ズルトの街の衛兵とかき集められた冒険者によってその日のうちに討伐された。もちろん、私は討伐には参加していない。

 発見報告は私が最初だったようで、報酬は大銀貨3枚にもなった。通常よりも奮発してくれたらしい。

 犠牲者はゴロウを含めて21人に上ったが、通常ブラックベアが出現したときは冒険者以外の住人や商人も含めて3桁の犠牲者が発見報告の前に出てもおかしくないらしい。

 また討伐自体も、ブラックベアの場所がかなり正確に特定できたおかげで、犠牲者もなく速やかに終わったとのこと。いつもなら討伐にでてからも発見のためにいくつかのグループに分かれて広範囲に索敵するために、多少の犠牲がでるらしい。あの性格だ、獲物をどこまでも追いかけて発見された場所から遠くまで移動していても不思議ではない。多分、唐辛子攻撃に相当頭にきていて、私たちの臭いが消えた小川の辺りをいつまでも探し回っていたんだろう。


 これほど奇跡的に少ない犠牲で済んだのは君の報告のおかげだと衛兵隊長や他の衛兵たちからたいへん感謝されたが、その少ない犠牲にゴロウが含まれている事を思えば気持ちが沈む。

 犠牲者の多くは赤毛鹿を狩りに出ていたパーティーだったが、ピート達のパーティーでは一人だけ生き残っていた。弓士でまっさきに攻撃されたが、吹き飛ばされて木にぶつかって気絶していたおかげで見逃され、左腕を骨折しただけでしばらくして目を覚まし、討伐隊が来るまで隠れていることができたらしい。

 結果としてピートがブラックベアをトレインした形になってゴロウが犠牲になったことに生き残った弓士はひたすらに謝罪を繰り返し、賠償として大銀貨2枚を押し付けてきた。パーティーが全滅したことや、左腕の骨折でしばらく弓を引くことができないことを考えれば、その弓士の生活もこれから苦しくなるだろうに…。

 一度はそれ以上の金額を押し付けようとしていたが、その代わりにお古のショートボウを貰い、弓の扱い方を少しだけ教わった。本当はもっと強力な弓を譲って本格的に教えようとしたが、骨折のせいで自分で弓が引けないこともあり、3m先の的に当てれる程度まで半日ほど教えてもらって終わりにした。


 弓を教えてはもらったが、弓士になるつもりはない。

 左肩から背中にゴロウの形見の長剣を吊るし、右肩に弓、腰には短剣と鉈と矢筒。また、木に登るのに邪魔なので地面に突き立てたままにしていたが、槍もまだ手放していない。

 そして、防具はゴロウが着ていたハードレザーを修理して使わせてもらっている。ブラックベアの爪で引き裂かれた背中には、発見報酬の一部としてブラックベアの毛皮の切れ端を貰い継ぎを当てた。きれいに洗い落としたが、時折ゴロウの血の匂いが漂うような気がする。けして不快という感じはせず、ゴロウに守られているような気分になるが。


 この異世界に装備制限などはない。

 武器をいくつ装備していてもいいし、どの武器を装備していも防具に制限が出てくるわけでもない。その時その時で使う武器を変えていい。ただ、当然だが多くの武器や防具で装備が重くなれば、行動が遅くなる。防具によっては視界や動きが制限されることになるだろう。そのうち自分にあった装備だけに絞るべきだ。


 だが今は、どんなにカッコ悪くてもいいから強くなるべきだ。

 長剣一本でばったばったといろんな魔物を切り倒すようなカッコイイ戦い方はもっと余裕が出来てから目指したっていい。


 強くなるためには金が必要だ。

 装備も然りだが、その装備を使いこなすための訓練も教えを請えばたいてい有料だ。もしもの時の薬も効果の高いものは高価だし、力強い体を作るにはしっかりした食事にも金をかけなければいけない。そして、私が考えている方法を試行するにしても、旅をする資金やしばらく生活するための蓄えが必要だ。


 薬草採取でコツコツ安全に貯めてからという選択肢もある。だが私は魔物の討伐で金を稼ぐことを選んだ。ゆっくり時間をかけていては、またいつ力不足に直面するかわからない。

 パーティーに加入し、大人数で安全に稼ぐ選択肢も考えた。だが今はまだ仲間を失うことが怖い。言葉を覚え意思の疎通ができるようになり、日常的に言葉を交わす相手も増えてきてはいるが、ゴロウほど信用できる人間がまだ一人もいないというのもあるが…。


 ソロでどうやったら効率よく安全に魔物討伐で稼げるか?といろいろ試した結果が、今の方法だ。

 今、ズルトの街で最も稼げる魔物は間違いなく赤毛鹿だ。もともと他の街にまで運ばれていくほどの需要のあった赤毛鹿の肉と皮だが、ブラックベアのせいで赤毛鹿狩りのパーティーが減ったため値段が高騰している。遭遇しなかったパーティーも全滅した者たちの話を聞いて怖くなって狩場を変えたりしているのだ。動物ではなく魔物であるブラックベアがすぐにまた出現するとも思えないのだが…。

 そして、赤毛鹿の狩場の近くて出会う魔物の中で次点はブラックウルフ。肉は食べれなくはないが癖が強くて安い。しかしなんといっても高く売れるのはその毛皮。小さいながらも魔石が取れたり牙や爪がそれなりの値段で売れたりするが、このしなやかで丈夫で美しい黒色の毛皮は需要が高い。


 私はブラックウルフの亡骸を改造した一輪車にくくりつけた。持ち手の部分を肩にかけれるようになっていて引っ張ることしかできない、背負子と一輪車の中間のような形だ。牡の赤毛鹿をなんとか森の外に運び出せないかと作ったものでブラックウルフ一匹ならまだ余裕があるが、どうせ血の匂いで他の獲物もしばらくは現れないだろうから街へ戻ることにしたのだ。こういうときは他に人手が欲しいとも思うが、獲物を狩ってから一度街に引き返して人を呼びまた戻るなどとしていたら、獲物が荒らされて商品価値が下がり儲けが減ってしまう。私は街道に向けて最短距離で森を抜けようと一輪車を引き始めた。


 もう少しでひとまずの目標の金額が貯まる。そしたら、王都に一度向かおう。


 そして、力を手に入れよう。

 生き残るための、新たな力を。

やっと第一章終了です。

お約束がないことの説明が中心になってますし、厳しさを表現するためにかなりシリアスで暗い雰囲気になってますね。

ゴロウ君の評価は多少分かれるかもですが、サトシ君は肯定的に感謝しています。


第二章からは、もうちょっと軽くなって、明るい雰囲気になる……はずです。(予定w

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