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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第一章 冒険者? なにそれ美味しいの?
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1-5 フラグ

ちとサブタイトルだけ変更

 転生から一ヶ月が経とうとしていた。


「グギャギャ」

「サトシ、近づきすぎるなよ。隙を見せるまで、慎重に行くんだ。」

「ああ、わかってる。こいつはゴロウの方を警戒してるようだから、私が先に突くぞ。」

 私は”この世界の言葉”でゴロウに応えた。普段はこの世界の言葉だけで会話するようになっている。


 私たちの前には8歳児位の身長に緑色の皮膚、長い耳に歪な鷲鼻、上半身は裸で腰になにかの毛皮をまとい、片手に棍棒を持った魔物。所謂ゴブリンというやつがいる。この世界ではゴリムと呼ばれている。


 ゴロウが間合いの外でわざと長剣を振り上げて牽制するとゴリムが棍棒を掲げて防御の姿勢をとる。そのあいた脇腹に、私が槍を突き刺し、えぐる。

「ギャーーーー」

 脇腹の激痛に耳障りな悲鳴を上げ、棍棒を手放して両手で槍を引き抜こうともがく。その隙にゴロウが一気に突進し、長剣で首を切り落とした。


「ふぅ、おつかれ。」

「おつかれさん。」

 私とゴロウは軽くグータッチでお互いの健闘をたたえ、作業用のナイフで討伐部位である右耳を切り落とす。

 残念ながら、ゴリムはオイシイ獲物ではない。危険度の割に討伐報酬が少額であるという意味でも、食肉という意味でも。もっとも仮に味が良くてもこの姿を見てしまうと、食べようと思うかどうかは微妙だが。

 まったく値段のつかないゴミであるゴリムの肉と違って、オルク、所謂オークの肉はそれなりの需要のある味であるらしい。チャレンジするかは、まずオルクの姿を見てから考えようと思う。


「だめだな、ほかに所持品はないようだ。」

 たまに他の冒険者や住人から奪ったものを持っていたりする奴もいるが、こいつはほぼ生まれたてなのか初期装備である臭い腰布とバランスの悪い棍棒しか持っていなかった。そこらに生えてる臭わない葉っぱと普通に燃える枯れ枝の方が、まだ価値がある。そして、ゴリムの肉はネズミでも食わない。


「それにしても、最近街の周辺でも魔物が増えてきたな…。」

 槍についたゴリムの血を拭い、槍を背中に背負いなおす。

 私たちは魔物討伐に鞍替えしたわけではなく、相変わらず薬草採取をメインにしていた。ただ、遭遇した魔物とは戦わなくてはいけない。ゴリム程度の雑魚からも逃げ回っていたら、いつまで経っても必要な薬草が集まらないのだ。


 この世界において、魔物と動物には明確な違いがある。

 動物は繁殖で増えて子供から成長して大人になるが、魔物はいきなり成体の状態でポップする。魔力を伴った瘴気である魔素が集まり、魔素の濃さとその地域の特性に応じた魔物が生じるとどこかの偉い学者さんが言っていたらしい。

 ただ魔物か動物かが曖昧なものもいて、例えばドラゴンがこの世界にいるらしいが繁殖して卵を産むらしいし、聖獣や幻獣の一部はいきなり成体で生まれても魔物扱いされないものもいるらしい。

 もっとも動物でもアクティブで危険なものもいれば、魔物でもノンアクティブで無視できるものもいるので、私としてはそいつが危険かどうかが問題なだけだ。


「グギャ」

 本日二体目のゴリムが現れた。

 私が槍の間合いぎりぎりから軽く突き刺し、その隙をついてゴロウが長剣で切りつける。致命傷とはなったがまだ生きていたので、槍で心臓を突き刺しトドメを刺した。ゴリムは数匹で群れていることもある魔物だがあくまで雑魚で、R18な展開で女性を襲って繁殖したり勝手に巨大な群落を作ったりもしない。

 薬草採取がローリスクローリターンな儲からないものだとしてもコツコツ続けていけばそれなりの蓄えにはなり、私は武器として鉈と槍、防具として鹿の皮でできたソフトレザーのベストを手に入れた。ゴロウも、魔法こそかかっていないがなかなか良質な鉄でできた長剣を新たに購入している。槍は近づかれると取り回しが難しく少し危なくなるが、二人で戦う分には遠い間合いから攻撃できるので安全な武器だ。


 このひと月で何匹かの魔物と戦ったが、まだそれほどのピンチを迎えたことはない。

 一番危なかったのは普通の狼より一回り大きなブラックウルフだったが、噛まれた左腕の痛みが三日ひかなかったこと以外は大した問題ではなかった。討伐報酬に加えて、牙と爪、そして毛皮が三日分の稼ぎよりも高く売れたのだ。


「今日の依頼は麻痺草と鎮魂花か。いろいろと物騒になってきたな。」

 鎮魂花は死者がアンデッドにならないようにするために柩に入れられる花で、この二つの薬草が不足しているということは重傷者と死者が増えているということだ。


 私が手早く鎮魂花を採取していると、その手元をゴロウが感心したように見ていた。

「この国の言葉も十分覚えたし、薬草の採取もすっかり上手くなった。魔物との戦いでも危なげなくなったし、もうサトシも一人前だな。」

「言葉を覚えたといっても、日常会話と薬草関連ばかり。戦闘もひとりじゃまだまだ危なっかしいさ。変なフラグを立てるのはやめてくれよ。」

「はっはっは。そうは言っても、サトシはそろそろ薬草採取だけじゃ物足りないんじゃないのか? 薬草採取は安全なだけだし、いつまでたっても貧乏のままだしな。」

「少しは物足りない感じもするが、まだまだ薬草採取がメインさ。それこそ他に手を出すための資金をもう少し稼がなきゃな。さ、さっさと残りの分を集めてしまおうぜ。」

 鎮魂花を仕舞った小袋を腰にくくりつけ立ち上がる。


 いろいろとお約束がないこの世界、フラグなんてないよな?



「今日は『甘露毒草』をとってきてもらいたいんだ。」

『甘露毒草』? 初めて聞いた薬草の名前だ。

「『甘露毒草』ってのは、甘露な毒草ってことだ。甘露草は以前にも取りに行ったことがあるだろう? 見た目は甘露草そっくりなんだが、猛毒なんだよ。甘露草は動物も魔物も好んで食べるから大抵齧られてるが、毒草はまったく手つかずだからよく見ればすぐわかるさ。」

 タマゴダケモドキのように危険なヤツだった。

「実際に味も甘露らしいけど、自殺するために食べるか、わざわざ解毒剤と一緒にチャレンジするしかないって話だからな。俺は遠慮したいね。」

「私もそこまでグルメに命をかけてないよ。甘露草も高価だから、味見するより売却したいね。香辛料にお金をかけるゴロウと違って、私に余裕はないんだよ。」

「馬鹿だなぁ、食事にくらいカネをかけないと人生楽しくないぞ? …しかし甘露毒草か…いよいよこの街もきな臭くなってきたな…」

「というと?」

 ゴロウの言葉に薬屋が表情を暗くする。

「サトシさん、甘露毒草ってのは、毒餌の原料なんですよ。毒餌は手間をあまりかけずに魔物を殺すことが出来るんですが、毒餌で殺した魔物の肉は汚染されて食べれませんし動物も見境なく殺すんで、よほどでない限り使用が許可されないんですよ。衛兵が毒餌を発注してきたってことは、魔物が増えすぎて切羽詰ってきたってことなんですよ…」

 またひとつ、フラグが立ったような気がした。


「大丈夫さ、サトシ。甘露毒草の生えてる場所は少し遠いが赤毛鹿の狩場の近くだ。十分日帰りできる距離だし、赤毛鹿狙いのパーティーがついでに周辺の魔物も狩ってくれてるさ。」

 赤毛鹿は美味い肉が取れるので、魔物討伐の連中には人気の獲物だ。体が大きいためにそれなりに危険だが、肉に加えて皮も高く売れ、雄ならさらに角が薬の材料にもなる。常に何組かのパーティーが狩りに出ているはずだ。


「よし、たくさん生えてるな。甘露草でも高く売れるし、あとで区別すればいいからどんどん採取していこう。」

 私とゴロウはいそいそと甘露毒草の採取を始める。念のため、手袋着用だ。ただ、区別できずに甘露草も一緒にしてしまうと汚染されてしまうのではないだろうかと心配だ。


「うわぁあああ」

 甘露毒草の採取を始めて1時間ほど経った頃、森の中から悲鳴が響いた。

 続いて三人の冒険者が飛び出してきた。三人ともしっかりした装備に身を包んでいる。魔物討伐組だろうか?


「『ブラックベア』だ、逃げろ!」

 私たち二人に気づいた戦闘の男が叫んだ。あまり聞き覚えのない単語に反応がひと呼吸遅れた。

「逃げるぞ、サトシ。」

 ゴロウは男の言葉を聞いた瞬間に、採取途中だった甘露毒草と採取道具を放り投げて全力で駆け出していた。私も慌てて後に続いたが、既に3歩ほど出遅れている。


『ブラックベア』が、この街で見かける可能性のある魔物の中で最上位にあるブラックベアだと気付いたのは、10歩ほど全力で走った後だ。


 …どうやら、この世界。いろいろなお約束はなくてもフラグはあるようだった。

作者:この世界、いろいろお約束がないんだから、フラグも…

少年神:でも小説なんだから、フラグくらいないと話が進まないんじゃない?

作:…フラグがあっても思うように話が進まないけどね…

神:そこは頑張ってよw

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