1-4 中島五郎
少しゴタゴタしてて間が空いてしまいましたね。
まぁ、できない気がしたので、毎日更新とは言ってませんが(^^;
引き続き、『』は理解できない現地の言葉、「」は日本語にしています。
もう少ししたら現地(国)の言葉を「」に出来ると思いますが…
『薬草』「薬草」
『薬草』「薬草」
私とゴロウは目的の薬草を探しながら、言葉の練習を続けていた。近道がない以上、地道な反復練習あるのみだ。
『止血草、採取、依頼』「止血草、採取、依頼」
『止血草、採取、依頼』「止血草、採取、依頼」
「ちなみに止血草というのが今回の依頼の薬草だ。はじめに言ったが、必要なのは地下茎の部分だから、きちんと傷つけないように掘り起こせよ。」
「わかっているさ。『止血草』『止血草』っと。」
止血草はやや緑がかった水仙のような黄色い花が咲く草で、地面の下の部分は球根ではなく長さ10cm太さ3cm位の地下茎があり、その先にしっかり根を張っている。雑に引き抜こうとすると地下茎がポッキリと折れ価値が半分以下になってしまうそうだ。
「ちなみに、依頼を受けた時にもらった木札の一行目には、止血草採取依頼と書いてある。」
「なるほど。文字も将来的には覚えたいが、まずは言葉を話せないとな。」
「読み書きができない冒険者なんて珍しくもないから、読めないなら質問すれば答えてくれる。だが、さすがに言葉がわからない外国人は相手にしてくれないさ。」
「相手をしようと思ってもできないだろ。ジェスチャーだけで伝えられるのなんか、腹が減った、それが食いたいくらいさ。」
読み書きの練習をするには紙などの文字を書くものや筆記用具が必要になるが、この世界では紙は貴重品であり、ただの練習に使うようなものではない。落書きに使う広告の裏などはないのだ。
それと羊皮紙のような生き物の皮を使ったものはあるらしいが、それも高いらしい。特別な契約書や偉い人が出した命令書などに使われることがあるそうだが、庶民が使う簡単な契約やメモには木札が使われる。さすがに木が生えてないなどということはない。
「おっと、それは麻痺草、『麻痺草』だ。葉も根もそれぞれに使い道があって高く売れるから丁寧にな。麻痺毒にも使うらしいが麻酔として治療には欠かせないものらしい。それと、その近くに治癒草もあるから、それも忘れずにな。」
「『麻痺草』と『治癒草』っと。そういえば、薬草ってのはどれもそんなストレート名前なのか?」
「いや、俺が勝手にそう呼んでるだけさ。『麻痺草』は発音的には”ポライカ”薬草だが、麻痺することをポライカするとは言わないからな。ただ、その薬効が直接結びついてるものも多くて、『止血草』の『止血』は血を止めるという意味で普通に使われる。止血が先か、止血草が先かは俺には分からないが、大事なのはそう呼ばれていて他人に伝えられるってことだ。」
「そりゃそうだな。哲学的なことは、将来余裕が出来てから考えるさ。」
私は麻痺草と治癒草を種類ごとに分けた小袋に入れて背嚢に仕舞った。
当然のように”鑑定”なんてものは存在しない。
道端にある草をポイントすると名前が表示されて区別できるなどということはないから、草の形状を見て区別し、一つ一つ薬草の名前とどの部分に薬効があるか、それが店に売れるのかを覚えていかなければいけない。
また、マップもなければどこが採取できるポイントなのかも自分で覚えなければいけない。店が依頼を出すときに多少の情報もくれるらしいが、その情報は当然ほかの薬草取りのライバルも知っていることになる。
「流石によく知っているよな。ゴロウは大したものだ。」
止血草を掘り起こし、地下茎が折れないように子袋にしまう。やっと依頼の量の半分まで来たか?
「3年も薬草取りばかりやっているからな。それでもまだ貧乏冒険者なんだから、薬草取りなんて大したものじゃないさ。ただ、ひたすら安全なだけだ。」
私の褒め言葉にもあまり喜ばず、ゴロウは淡々と薬草を採取していく。
「ゴロウが転生した時に、ほかに先に転生した日本人はいたのか?」
ふとそんな疑問が浮かんだ。私の場合幸いにしてゴロウに出会えたが、まったく言葉がわからない状態から覚えようとすると並大抵の苦労じゃない。
「いなかったな。だが俺の場合、大学を出たあとしばらく外国を渡り歩いていたから、いくつかの外国語が話せたのさ。英語も話せたが、一番大きいのはアラビア語が片言でも話せたことだな。近年転生してくる人間は中東系の人間が多いらしい。」
私からすればアラビア語などミミズの這ったような線といくつかの点が組み合わさったような文字のイメージしかなく、たいていの日本人も同じような認識度だろう。
「だが、そんなものを知っていても自慢にはならない。元々、そういう地域を回るために覚えたんだが、自分から危険に飛び込んでいってしまった結果がこの転生だからな。」
ゴロウは過去の自分を思い出し、目を伏せる。
「俺はね、中東の紛争地域に自分の意思で足を踏み入れ、イスラム系過激派組織の人間に銃殺されたんだよ。」
淡々と止血草を掘り起こしながらゴロウの話は続く。
「仕事だったわけでもないし、ジャーナリストだったわけでもない。世界中を歩き回って、いろいろと知った気分になりたかっただけなんだろうね。ただの若造だったから、本当の危険も悪意もわかっていなかった。刺激と危険は別のものなのにな。」
綺麗に掘り出し終えた止血草を小袋に収めて立ち上がると、さっと振り返り銃を持つ真似をしてみせた。
「まるでラッパでも鳴らすかのように断続的に、タタタン、タタタン。ろくに狙いも付けず、殺気も込めずに、まるで自動小銃が楽器に過ぎないかのように。一人で一人を殺すんじゃなく、何人かで無抵抗の人間に何発も何発も。俺は全身穴だらけになって出血多量で死んだようなんだが、結局俺を襲ったイスラム過激派がなんという名前の組織だったかは知らないままだった。」
「私も結局誰に殺されたかはよくわかっていないな。私は爆弾テロで死んだんだが、ああいうのはしばらくしてから犯行声明を出す組織が現れるものだし。もっともやってもいないテロの犯行声明を出す組織ってのもたくさんいたよな…」
あの時吹っ飛ばされたはずのお腹の辺りをさする。
「それはテロが頻発する外国で?」
「いや、日本での話さ。私も日本にいて爆弾テロに巻き込まれるなんて、考えもしなかった。」
「日本も物騒になったものだな。中東では小さいものならかず数え切れない程行われていたが、イスラム教徒同士でも殺し合うんだからな。俺がこの世界に転生してから初めにいろいろ教えてくれた男も中東のイスラム教徒だった。イスラムと関わりたくなくて最低限のことを教わったらすぐ手を切ったが、その男も悪い人間じゃなかったんだよな。」
私が巻き込まれた爆弾テロでは、同時に実行犯と思われる男も一緒に死んでいた。その男も悪人ではなかったのかもしれないが、結果として多くの人間を殺害している。
「結局、俺は自分で危険に近付く愚かさを嫌というほど味わったから、その逆のできる限り安全な薬草取りをしているのさ。他人を信用することがでいないから、ソロでな。」
「そうか。もしかしたら、私はお邪魔だったかな?」
ゴロウはにやりと笑うと、拳で肩を軽く小突いてみせた。
「たまになら誰かと一緒に行動するのもいいものさ。それが言葉もろくにわからないよちよち歩きの新人なら特にな。サトシが俺を騙してもすぐ野たれ死ぬだけだし、こちらからはだまし放題と来たもんだ。」
「やめてくれよ。ゴロウと出会う前に門番に騙されたばかりなんだから。言葉巧みに騙すというのもあるだろうが、言葉が通じない人間を騙すのがあんなに簡単だとは思わなかったよ。」
「ハハハ、冗談さ。本気で騙すつもりなら、親切に言葉を教えたりしてないって。さぁ、さっさと依頼分を終わらせるために次の採取場所に行くぞ。この辺りにはもう止血草はなさそうだ。」
「あぁ、了解だ。」
次の採取場所へ歩き出したゴロウの後を、私はゆっくりとついて行った。
「サトシの取り分は、大銅貨1枚小銅貨1枚石貨5枚だ。」
我々は昼ちょっと過ぎくらいに街に戻っていて、依頼分の納品とそれ以外の薬草の買取をしてもらっている。
ちなみに報酬の取り分は、依頼料を半々にしてさらに私の分の半分をゴロウに、つまり依頼料の4分の3をゴロウに渡し、それ以外の薬草の買取料の3分の1をともに渡している。
これを高いと思うだろうか?
私としては、言葉の指導料もあるがそもそもの薬草の採取方法や選別もゴロウに教わっているので、妥当なものだと思っている。私一人ではまだ薬草の区別はできないのだ、そう考えれば元が0のところをゴロウのおかげで少しでも収入にしてもらっているとも言える。
『この治癒草を治癒薬に調合してください。』
『加工費はこの量なら小銅貨1枚石貨2枚ってところだけど、小銅貨1枚に負けておくよ。ホントなら調合するのを待ってもらうとこだが、品質は変わらないから店の在庫と交換でいいよな? これからもよろしく頼むよ。』
治癒草の加工を薬屋に直接この世界の言葉で頼んでみた。帰ってきた返事に少し分からない単語が混じっていたが、少しまけて小銅貨一枚にしてくれたことと店にある薬と交換にすること、それとよろしく的なことを言われたのだと思う。教えてもらった言葉も、実際に使って身に染みこませていかなければいけない。
薬屋を後にし、手の中の大銅貨と治癒薬の瓶三本を握り締める。
ただの日雇い程度の収入ではあるが、この世界に転生して初めての稼ぎだ。まだまだ先のこともあるのでこれを全部使って何かをしようとは思わないが、これから生きていくための確かな一歩を踏み出した気がする。
「ちなみに、治癒薬はゲームのように一瞬で回復しないとは言え、傷を直接治すものだから元の世界の薬より強力だからな。傷にかけても飲んでもいいが、一回で一本全部使うなよ。」
握り締めていたので治癒薬に過度な期待を持ったと思われてしまったのだろう。それに言われなければ一回で一本全部使うところだった。
「気をつけるよ。効果を見てみたいところだが、そのためにわざわざ怪我をしたくはないしな。」
「引っかき傷くらいなら、普通に薬草取りをしていてもそのうち負うさ。それよりどこか宿屋じゃないところに飯でも食いに行こうぜ。高い店にはいかないが、初冒険祝いとしておごってやるぜ。」
「それはありがたい。そろそろ塩以外の調味料も使った料理を食べたいと思っていたところさ。」
少し軽くなった心とともに、通りに向けてゴロウと歩きだした。
思った以上に話が進みませんね。
まだ一度も戦闘していないという…(さすがにそろそろ戦い始めますw