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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第一章 冒険者? なにそれ美味しいの?
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1-3 How to 金稼ぎ

「さて、まずは領主のところで住人登録なんだが、その前に服をどうにかしよう。ここの領主は異邦人だとわかると、いろいろ面倒事を持ち込んでくる可能性があるからな。」

「はい、わかりました、五郎さん。」

 腰を浮かせかけた五郎が、ぴたりと途中で動きを止めた。


「なぜ、急に敬語?」

「いや、弟子としていろいろ教えてもらうということですので…」

 五郎はなにかを考えるように中に視線をさまよわせる。


「うーん、だがどうも敬語というのは背中が痒くなる。それにあんたの方が年上だろう?」

「私は32になります。もうおっさんですね。」

「俺は28、年下だ。ま、高校生から見れば俺も立派なおっさんだけどな。ということで、敬語はなしにしよう。おれも外国暮しが長くて敬語は苦手だしな。お互いにため口で行こう。ゴロウと呼び捨てにしてくれ。」

 少しためらいはあったが、受け入れることにした。

「では、私はサトシと。タメ口にさせてもらうが、あくまで弟子という立場で私のほうが下なので、遠慮はしないでくれ。ともかく、いろいろ教えてもらわなきゃ生きていけそうにない。」

 改めてもう一度ゴロウと握手し、酒場を後にした。


 酒場のすぐ近くの服屋で、木綿のチュニックとゆったりしたズボン、それとフード付きのチュニックを手に入れた。中古だが、これで服装だけは現地人と区別がつかない程度になった。


 ただし、この服装、防御力は皆無だ。

 安全のために防具に金を使うという選択肢もなくはないが、ゴロウが着ているような革鎧でも結構な値段がするので、今の所持金で中途半端なものを買うよりまずは様子を見ながら生活手段を確立するほうが先だという話らしい。

「それに、この革鎧でも魔物相手だと気休めにしかならない時があるのさ。」

 ゴロウはそう言いながら革鎧を叩いてみせたが、少しでも丈夫な装備のほうが生き延びる可能性は上がるだろう。私も早く手に入れたいものだ。


「とりあえず、期限なしの住人登録が大銅貨一枚。一ヶ月までの短期の登録が小銅貨二枚だが、期限なしでいいだろう?」

「あぁ、期限なしで。一ヶ月で言葉を覚えられるか、不安だしな」

『彼は田舎の親戚で文字が書けないんだ。代筆していいよな?』

『ああ、構わない。名前と年齢、滞在の期限なしか短期かを書いて、登録料を。』

 領主の館の門のすぐそばの建物では中年に差し掛かった文官が住人登録を受け付けていた。完全にどこかの市役所の受付だ。

「名前はワタベ=サトシ、年齢は32でいいな? 大銅貨一枚を渡してくれ。」

 ゴロウがさらさらとこの国の文字で台帳に書き込み、大銅貨を渡すとその場で書き込んだ木札を渡され、住人登録があっさりと完了した。

 この国では、銀貨一枚で大銅貨10枚、大銅貨一枚で小銅貨10枚、小銅貨一枚で石貨10枚となるようだ。石貨一枚で100円程度、銀貨一枚で10万円位の感覚だそうだ。


「なあ、街の出入りに金を取られたりするのか?」

 昨日の銀貨一枚はやはり騙されたんだろうと思いながらも、一応確認しておかなければ。いちいち出入りの時に銀貨一枚取られるようじゃ生活できるはずがない。

「昼間に出入りするのは住人なら無料さ。外から来た商人はその荷物によって税金をかけられるらしいがな。あと、夜間の出入りは小銅貨2枚だ。懐が厳しい時は門の外で野宿するか迷うくらいだな。」

「そうか…」

 やはりボッタくられたようだ。相場の50倍、高い授業料だった。


「俺は薬草採取を中心にやっているから、馴染みの薬屋がある。他の冒険者たちも、採取なり採掘なり魔物素材狙いなりで大体決まった店から依頼を受けていく。」

 ゴロウが入っていく店もそれほど大きいとは言えない薬屋だった。


『いらっしゃい、ゴロウ。採取依頼かい?』

『ごきげんよう、ホッジス。最近は何が必要だい?』

『止血草を頼むよ。』

 店員もかなり慣れた様子だ。言葉は分からないが、挨拶だろう。

『少し多めでも大丈夫かい? 今日から少し人手が増えるんだ。』

『この近くで取れるような薬草なら在庫はいくらあっても困らないさ。新しく相棒でも見つけたのかい?』

『いや、弟子をとったのさ。言葉と冒険の初歩を教えるだけだけどな。多少不慣れでも、いままでよりは多めに採取できるだろう。』

 ゴロウは店員から前に見せてもらったのと同じような木札を二枚受け取って店を出た。


「先に金の稼ぎ方を覚えてもらおうと思って一人で話を進めさせてもらったが、言葉については薬草を採取しながらまずよく使う単語から少しずつ覚えてもらおう。」

 ゴロウは店員から受け取った木札の一枚を渡してきた。

「字はまだ読めないだろうけど、この世界では読み書きできない人も多いのでわかるように絵も書かれているんだ。ま、実際に実物を見ないとこれだけじゃなかなか区別できないし、どこに生えてるかも覚えないとダメなんだがな。」

 木に手書きで書いてあるために絵もわかりづらいし、文字もところどころかすれて読みにくくなっている。

「この木札を持って目的の薬草を持っていくと依頼料をくれるが、別に薬草採取には期限があるわけじゃないから時間が経って失敗ということはないし、珍しい薬草は木札がなくても特別に上乗せしてくれたりもするんだ。」


 ゴロウはほかの稼ぎ方についても説明してくれた。

「魔物の討伐報酬は、門の近くにある衛兵の詰所に討伐部位を持っていくと払ってくれるが、前も言ったとおりこの周辺で見かける魔物では大した金額じゃない。滅多にお目にかからない危険で高額な魔物についての討伐部位については詰所で絵で説明してあるものがあるから暇なときに見に行ってもいいが、とてもじゃないけど倒せたものじゃない。ブラックベアは熟練の冒険者が5,6人いても全滅するし、ドラゴンは一番弱いとされるレッサーの土龍でも軍隊一つで相手にするようなものだしな。」

 私はなんの特技もないただのおっさんなので、危険な魔物が倒せるとはとても思えない。

「本当に危険な魔物だと討伐だけじゃなく、ただ発見したことを詰所に報告しただけでも報奨が出たりする。報告が一番初めでその魔物が確認された時だけだけどな。」


 その後、必要となる道具の買い出しに付き合ってくれた。背嚢と水筒、暗くなった時の備えとしての松明を火をつける道具、意外な必需品としてはロープなど。


「やはり、マジックバックなんてものはないんだよな…」

「荷物をどこかの異次元に収納して手軽に運ぶようなバッグか? ドラ○モンの四次元ポ○ットじゃあるまいし、そんなものはないよ。」

 そこは予想してたが、表現が少し古かった。

「少し荷物としてかさばるが、いざって時にないと命に関わるからな。それに、仮に素材の取れる魔物を討伐してもそれを運んでこないといけない。解体を請け負ってくれるところや革をなめしてくれる職人もいるが、それは街の西側の外に柵で囲った作業場がある。街の中でやるのは嫌がられるからな。」

「仮に討伐できたとしても、鹿や熊なんかを持ち帰らなきゃいけないと思うとしんどいな。」

「仮に討伐できたとして、だけどな。ほんとに大きなものはその場で解体して高く売れる場所だけを持ち帰るか、一度街に戻って手伝いを呼んで来る必要があるな。まぁ、そんな大物は心配しなくても討伐できないよ。」

 ゴロウに鼻で笑われてしまった。無理とわかってはいるが、一攫千金の夢くらい持ってもいいじゃないか…。


「とりあえず、俺が止まってる宿を紹介しよう。安さと静かさだけが取り柄で一泊小銅貨2枚の安宿。夕食は石貨5枚で味はともかく量だけはある。表通りにある酒場が併設された宿屋は飯は美味いが、酒場で騒ぐ奴のせいで夜遅くまで騒がしいし高いからな。」

 宿屋は表通りからだいぶ離れた奥まったところにあり、教えられなければたどり着けないだろう。

「一人で稼げるようになるまでどのくらいかかるかわからないから、節約するに越したことはない。安くても泊まれれば文句はないさ。」

「そのくらいの気持ちで図太く生きていかないとやってられないさ。宿代なんかより金をかけたいものがいろいろあって、俺は未だにその安宿から抜け出せないしな。」

 出てきた夕食は固いパンと肉と野菜を雑多に煮込んで塩だけで味をつけたようなものだった。そして、味はともかく量はそれなりにあった。


「そういえば、依頼を出してる店ってのは自分の足で探して馴染みを作らないといけないのか? どこかでまとめて張り出してたりはしてないのか?」

 固いパンをスープに漬け込んで柔らかくしてかじり、石貨一枚の安いエールで流し込みながらゴロウに聞いてみた。

「ああ、気付いてなかったか。初めに入った酒場にいろんな店から集めた依頼を張り出す掲示板があったよ。」

 ゴロウも同じようにパンをスープにつけて食べていた。元はその食べ方を真似しただけだ。食べ慣れた雰囲気ではあったが、けして美味しそうという顔はしてなかった。

「字が読めないんだ。それが恋人募集の張り紙でも町内会のお知らせでも区別がつかないさ。」

「そりゃそうだったな。」

 ゴロウはエールでパンを流し込み、にやりと笑った。

「それに酒場はあくまで依頼の写しを張り出させてやってるだけで、結局一度はその依頼を出してる店に行かないといけない。受け入れる数が決まっているときは木札を受け取るときに数を絞られるし、ものや報酬の受け渡しも酒場じゃ代行してくれないしな。」

「結局のところ、手広くやるより一つのことに集中して稼いだほうが効率がいいのさ。そのほうが効率よく集める方法を覚えられるし、馴染みの店を作れば依頼数や報酬にも融通を利かせてくれるようになるからな。」

 ゴロウは最後のパンのかけらをエールで一気に流し込んだ。

「明日は朝から薬草採取に出るからな。今日はきちんと休んでおけよ。」

「ああ、明日はよろしく頼む。」

 私もスープの残りを一気に飲み干した。


 宿の部屋は狭く、寝具も少し古かったが、それなりに清潔でダニなどもいなかった。そういえば、昨夜はよく眠れなかったんだったと思い出し、少しの状況好転を枕に眠りに落ちた。


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