エピローグ 転生者と神
とりあえず、最終話です。
私はトモシビ村の礼拝室で月一の恒例となっている神への供物を捧げるための祈りを行っていた。
村の開拓を始めてからもひと月に一回は供物を捧げるようにしていたが、拠点内に礼拝室が出来てからはぐっと楽になった。
しかしながら毎月のように供物を捧げていると目新しい料理というのは尽きてしまい、ややマンネリ感が漂ってきている。
ほかの転生者に新しい料理を考えさせたり王都などの他の街から料理を取り寄せたりなどしているのだが、前世ほどの料理の多彩さはなかなか出せない。
ほかの国との貿易が活発ではないアブラハム王国という限られた範囲では材料も技術も乏しいために開発できる料理にも限界があるし、宗教がらみで死亡して転生してくる転生者の中に十分な修行をした料理人というのがなかなか含まれないということもある。
「ということで残念ながら新しい料理はないので少し違う趣向を用意したんですが、そのためにはまずいくつかのことを事前に確認しないといけないんですよね。」
「ふーん、確認するってどんなことを?」
神様はいつもの少年の姿で祭壇に腰掛けている。
本来ならば私の心を直接読み取ってしまえば説明するまでもないのだが、供物を捧げるときはたとえ最近は驚くようなものがなくなってきていても何かあるかも知れないと期待して私の心を読まないようにしているらしい。
「まずはじめに青年の姿をとったうえで神としてのオーラを抑えることはできますかね?
姿を自在に変えられることは存じてますが、いつも神々しさ全開で事情を知らない人間でもその姿を目にして涙を流しながら膝まずきますからね。
今回はいつもどこからともなく差し込む後光とか溢れる存在感とかを抑えてほしいいんですよ。」
「それならお安い御用だよ。」
神は少年から青年へとするりと姿を変えながら、その存在感とオーラをしっかりと抑え込んで見せた。
やや見た目が絶世の美青年になってしまっているが、きちんと人間には見えるので許容範囲としておこう。
「見た目はいいですね。ただ服装は簡素な貫頭衣ではなく貴族が着るような高価なものにしてください。」
「ほいっと。でも、貴族なら青年ではなくもっと年齢が上のほうがいいんじゃないか?」
衣装も当然神ならばするりと変えることが出来るし、この異世界の貴族の服装というものもちゃんとわかっているようだ。
「貴族とは言っても当主ほど偉すぎると困るんですよ。今回はあまりフォーマルな場ではないので、名代として派遣された子弟くらいがいいんですよ。」
「ふーん、フォーマルではない場に貴族の子弟ねぇ…」
神様もだんだんと私の狙いがわかってきたようだ。
「それと確認しておかなければいけないのは、私以外の転生者と接触することがあっても大丈夫か?ということなんですが…。
いままで供物を捧げる際に一緒にいた側付きや遠くで見ていたものたちはだいたいこっちの世界の信者ばかりで、信仰と全く無縁の転生者を連れてきたことはないはずですよね?」
「うーん、相手にもよるかなぁ。
あまりに失礼な態度だと神罰を下したくなっちゃうかもしれないね…」
そうそう簡単に神罰を下してもらっても困るが、本当にやりそうなので油断はできない。
「今回はクラン外からのVIPも何人か参加してるということになっていますから、基本的に私が接待している身なりのいい人物は顔や名前がわからなくても無礼な態度は取らないはずです。
そういう相手にでも無礼を働きそうなだめな転生者はクランから排除しましたからね。
でも、神様は転生させる時に一度はすべての転生者と顔を合わせてるはずですよね?」
「うん、でもほとんど覚えてない。
特に最近の転生候補は、うるさく騒ぎ立てるか、わけがわからない話をし続けるか、自分の殻に閉じこもってこっちの話を聞かないかって人間ばかりだからね。
僕の信者であるはずの連中も僕のいうことを全く信じようとせず、わけがわからないことを喚き続けるだけだし…。
サトシみたいに僕の話をきちんと聞いて、しっかりと受け答えして、さらに僕にとって興味深い話を返してくれる人間はまずいないよ。」
「そんなものですかねぇ…」
確かに私と同時期に転生した連中には酷いのが多かったが、あれはいきなり死亡してから転生という状況にパニックになっていただけで、ミズキのように落ち着けばそれほど異常ではない人間も含まれていたはずだ。
それを半ば放り投げるようにこの甘くない異世界に転生させておいて全く覚えていないというのも少し薄情な気もする。
もちろん、転生してきた連中の中にはガウェインやリリアーナのようなパニックになっていなくても異常な転生者も含まれていたが…。
「ともかく、あくまでメインは供物として捧げる食事であって周囲の人間はその食事を美味しくするための調味料でしかありません。
なので、もしもその料理が口に合わないのならば、料理を替えてしまえばいいだけのこと。
自分の好みに合わない料理を無理に食べなければいけないほど、食料に困っているわけではありませんからね。」
「ふーん、それでいいなら他の転生者と接触する可能性のある場所でもいいかな?」
「はい、それでいいのです。ではまいりましょうか。」
私は礼拝室の扉を開けると、外で行われている祭りの会場に神様を連れ出した…。
今、トモシビ村では収穫祭が行われていた。
普通は収穫祭といえば秋に行われるものだが、この異世界では季節が穏やかで曖昧なので特に秋と言われる時期はない。
そのためアブラハム王国の街や村は独自の時期に収穫祭をやっていたり収穫祭自体をやっていなかったりするのだが、トモシビ村では初めて本格的に植えた小麦の収穫完了を目処にして行うことにした。
村の開拓記念日やアブラハム王国の建国記念日や新年の祝いなど他にも祭りを行う日があるが、収穫祭のいいところはだいたいこのくらいの時期と事前に分かっていながらも正確な日程はある程度の融通の利くところである。
「まずは各席に設置してある焼き台でそれぞれが自分で焼きながら食べるのがメインになります。」
収穫祭のメインは所謂バーベキューというやつである。
「ふーん、僕料理したことないんだけど、大丈夫かな?」
食事が必要とも思えない神がこれほど食べ物に執着するだけでも驚きなのに、料理ができるとは思っていない。
竈の神様など多神教のマイナーな神様くらいならありえるかもしれないが、相手は一神教の主神様だ。
「下ごしらえも味付けもしてあるものがほとんどですから、基本的に焼くだけです。
誰でもできるようなことなので、初めてでも大丈夫ですよ。
まずは私が一回焼いてみますから見ていてくださいね。」
まずは定番の串焼きから。
串焼きのメリットはなんといってもその見た目の豪華さ。
そして一本に肉と野菜をまとめることによってその両方を同時に食べるように促せることと、大人数の場合はその準備をひとまとめに大量に行って、それを配布しやすいこと。
デメリットは数種類の具材をひとまとめにするために、なかなか全てを最適の焼き加減にできないこと。
日本であまりこの大きな串焼きを見ないのは具材の焼き加減にこだわる人が多くて、個別に焼きたがるせいではないだろうか?
また串焼きに適さない具材も多く、柔らかくて崩れやすい野菜や生焼けや焼き過ぎが危険な肉や魚介類なども個別に焼くほうがいいだろう。
「少し焦げたり生焼けな部分があったりするのもご愛嬌だとしてあまりこだわりすぎずに焼いてください。火の加減がすこし難しいですが、その辺りは側付きとして控えさせているアルとアランにやらせてください。」
神とともに串焼きを焼いている席はVIP席ではあるが他の招待客は別の席へ案内されており、ここには補助としてアルとアランだけを配置してある。
ちなみにアランはマイルズの後任としてクリストス教の人員のまとめ役をこなし、アルはイスラーム教魔導戦士団が発足したあともイスラーム教人員のまとめ役として私の側に仕えている。
イスラーム教魔導戦士団発足時に私の側仕えの最高位であるアルを召還しなかったのは、私との関係がクリストス教よりも希薄であることの焦りと幹部には実力よりも血筋や地位などを優先する気質があるためらしい。
「炭からこんなに離して大丈夫なのか? これではなかなか焼けないのではないか?」
「炭火焼は直接火であぶるのではなく、赤外線と熱でじっくりと時間をかけて焼くものです。あまり近づけすぎると表面だけ焦げてしまいますよ?」
「ふ、ふむ、このじわじわと焦らす感じも、美味しく食べるための調味料というわけだな?」
「空腹は最高の調味料とも言いますが、そこまで待つというよりもじっくりと焼きながら食べることによってゆっくりとしたペースで常に焼き立てを食べることができるというのがバーベキューのいいところです。
ただ、自分で焼くことにこだわりすぎる必要はなく、あちらで手馴れたものがまとめて焼いた出来上がりの串焼きを取ってきてもいいですし、そちらの方には手間のかかる料理が大皿で置いてあるので自分の食べたいものをアルとアランに取ってこさせてもいいです。」
「ほうほう、なるほど。でもまずは、自分で焼いたものを食べてみないとね。」
焼き加減の手本として私が焼いた串をかじりながら、今度は自分の番と焼き台に串を乗せ真剣な表情で焼け具合を観察する。
そんなに凝視しなくてもいきなり焼けたりはしないのだが、それは料理に不慣れな人間が初めてバーベキューをやった時にありがちな光景だった。
収穫祭には他にも教会関係者や近隣の領主の名代なども招いていた。
クリストス教からは魔導騎士団団長のハンフリーと副団長のマイルズ、それとプレイアデス枢機卿の補佐を行っている司教が、イスラーム教からはサダムなんとかという魔導戦士団副団長とマイム師の甥っ子の幹部候補生、近隣領主の次男や三男と、マドゥの街の助役。
少し変わったところでは、村を離れることができない魔女ルルイスが自分ソックリに作った形代に自分の意識を投影して遠隔操作で弟子の魔女たちと一緒に参加させているということだろうか。
ちなみに神様以外のVIPへの挨拶は祭りの開会宣言とともに神様に呼びかける前に済ませてあり、接待役を何人かつけて奥まったVIP席に押し込めておいた。
彼らの目的は神様と違って食事ではなくあくまで私との顔つなぎであったため、挨拶が終わったあとは焼き台の置いていない屋根のある落ち着いたスペースで歓談することのほうが好ましいらしい。
挨拶の際にこのあと村の開拓に特別な助力をしてくれたパトロンの相手をしなければいけないんだという話をしたことも、私が神様とともに串を焼いているのを邪魔させないことに役立っている。
まぁ、ちょっと宗教関係者に声をかけてもらっただけとはいえ神様との関係がなければ村を開拓してクランを創設することなど到底できなかったであろうから、重要なパトロンであるというのもあながち嘘ではない。
彼らも私が付きっきりで相手をしているパトロンがどこの誰かを気にしてはいたが、しっかりとオーラを隠すことができていたため神様の正体に気づいたのはマイルズとルルイスだけのようだった。
転生者たちもいままで供物を捧げるときに同行させていなかったこともあって全く神様の正体に気付く者はおらず、単純に私が相手をしている高価な服を着たVIPとして見ているだけのようだ。
「うーん、だいぶいい感じになってきたけど、もうちょっとなんだよね。」
「いえいえ、ここまでしっかりと焼けていたらほぼ完璧ですよ。もう私が焼いたものよりも美味しいですし…」
私は神様が焼いてくれた串焼きをかじりながら、その焼き具合についての感想を求められていた。
アルとアランにも神が手ずから焼いた串焼きが渡されていたが、彼らは初期の明らかに焼きすぎた串の時も手放しで絶賛していたので焼き加減の判定をするのは私の役目になってしまっていた。
神様は串焼きを食べることよりも焼くことの方に夢中になってしまっていて、左手にほぼビーフシチューのレッドオックスシチューを持ちながら、次の串を焼き台へと乗せていた。
焼くことの方に集中してしまう人が居ると焼くペースが食べるペースを上回ってしまうのはよくあることで、私たちだけでは食べるのが間に合わなくなって通りすがりの転生者たちに焼けた串を渡しては感想を尋ねている。
彼らもこの串焼きを焼くことに熱中している青年が神様だとは思っても見ないようで明け透けに感想を返してくれるが、祭りの会場には同じような焼き台奉行がちらほらといるので他の人の串焼きと比べてどっちのほうがどうだとか自分はこっちのほうが好きだとか返してきてさらに神様の串焼き意欲を促進させている。
「ちなみに飲み物の方はどうです? 祭りゆえに大量に用意できるビールとワインがメインになりますが、ビールはしっかり冷やした上に炭酸を吹き込んで前世のものに近い味わいにしてありますし、ワインも今年のものなのでまだ味が若いですが粒選びからしっかりと厳選したこだわりのものです。
まぁ、麦は収穫したばかりですしワイン用のぶどうも苗を植えたばかりなので、今回の材料は外で買ってきたものですがね。」
「そうだね、ビールはこっちの世界のエールとは違ってよく冷えてるからすっきりしてて飲みやすいね。
ただ、やっぱり安いお酒って感じで美味しく感じるのははじめの一杯だけだけど。
このワインも果実の甘さと香りが残ってて爽やかで、いつも供えられてる渋くてクドイワインとは違って飲みやすい。
ワインも嫌いになったはずだけど、これなら飲んでもいいかなって味だよ。」
「ワインは何年か寝かせたものが高級とされますから、神に捧げるなら高級なものと思ってかえって飲みにくいのばかり選んだんでしょうね…」
前世でもこの異世界でもお酒が好きな人は多いので、前世での知識を使って上質なお酒を製造できればそれなりの収入になるはずなので、クランではお酒の醸造、蒸留、ブレンドなどに力を入れていく予定だ。
「ふぅ、なかなかに楽しかったね。」
満足のいく焼き上がりの串焼きができ、一通りの料理を味わい、そして幾人かの転生者たちと軽く酒を酌み交わし語らってから、私は神を連れて礼拝室へと戻ってきた。
私の目的は祭りという雰囲気の中、大勢の人達が楽しんでいるという賑わいを感じながら、そして自分で軽く調理しながら食事を取るということを神様に体験してもらうこと。
お酒に軽く酔い祭りの雰囲気にすこし酔って、明るく陽気になった転生者たちと接触させることはほんのついでに過ぎない。
まだまだ収穫祭は夜遅くまで続くがこのあとは料理よりもお酒がメインになっていくし、軽く酔って陽気になるだけならまだ大丈夫だけれどもそれを超えた酔っぱらいは危険なので神様と接触させたくはない。
「こうして改めて落ち着いた状態ですこし気分のいい転生者と接すると、すべての転生者がそれほど酷いわけではないっていうのがわかってもらえますよね?」
「そうだね、彼らも最近の転生者のはずなのに、思っていたよりもちゃんと話ができたね。
いままで僕が見てきたのは死んだ直後にいきなり転生させられてパニックになっていた姿って事のようだね…」
「たとえ悪人でも状況によっては親しく会話ができますし善意を施すこともできるのが人間です。
同時に状況によっては善人だったはずの人が急に悪事を働いたるするのも人間なんですけどね…。
中にはどんな過酷な状況でも折れない善人や平常時でもどうしようもない悪人もいたりはしますが、転生の時の特殊な状況での姿がその人たちの全てではないとわかって欲しいんですよ。」
「そうだね~、この安定した村の中の転生者を見るとそれがよくわかるよ。
でもその安定した状況を作ってやろうと思うと、転生する人間前全部にチートスキルを配って俺TUEEEEさせなきゃいけないってことになるのかな?」
「いえいえ、そんなできそうもないことを無理してまでやれとは言いません。
むしろチートスキルを与えたりすると調子に乗って悪人になる人が続出して不安定な世の中になるでしょうしね。
私が神様にしていただきたいのは、転生の際の説明はなるべく相手が混乱しないようにすることと転生させる場所をなるべく穏やかにすること。
今は既に出来ている、神としてわかりやすい姿と態度で説明することと教会の保護がなされている場所に転生させることをちゃんと意識して継続して頂ければいいんですよ。」
「ふーん、なるほど。とりあえず、今のままでいいってことだね?」
「それでいいんですが、今後は少し人数を抑え目にして転生させる人間をちゃんと選んで欲しいですね。」
今のままでいいのだがあまり突飛なことをしないでくれという意味なのだが、ストレートに言うとやらかしてくれそうな予感もするのであまり強くは言えない。
「それで、サトシはこのあとは村を発展させながらスローライフする予定なの?」
「それができればいいんでしょうけれど、今のクランの安定も村の安全もアブラハム王国の平穏があってこそなんですよ。
ところが、国内ではイスラム過激派の連中や地方都市の領主の怪しい動きなどの不安定要素がありますし、外国の方もクドゥルフ魔導王国をはじめとした好戦的でアブラハム王国を狙っている国がいくつかあるようなので楽観視はできないんですよね…」
アブラハム王国内最大の問題組織であった魔術師ギルドの排除にこそ成功したが、その過程で国内の他の怪しげな組織の情報や国外からのスパイ的な組織の情報などが手に入っている。
この異世界にはまだまだ不安要素がてんこ盛りだ。
「私個人の力などはたかがしれていますが、今はクランという組織があり村という拠点があり多くの仲間たちがいて様々な人々との繋がりがあります。
私たちのこれからの生活にアブラハム王国の安定は必須なので、その為の努力をこれからもしていきますよ。
それがこの異世界に私たちを転生させた神様の望んだことでもあるでしょうしね…」
「うん、これからもよろしく頼むよ。
アブラハム王国のことも、転生者たちのことも、そして今後もいろんな供物を捧げてくれることもね!」
結局、私たちをこの異世界に送り込んだ神は、残念なままだった…。
ということで、この話はここで完結とします。
ここまで読んでくださった方々には、ゆっくりとした更新ペースにお付き合いいただき感謝致します
m(__)m
最後までお付き合いいただいてくださった方はできれば感想などを書いてくれれば嬉しいです。
一応、このあとに続けられる要素は残してありますが、
この話がよほど掘り起こされたりしない限りは書き足すことはない予定です。
この話は完結しますが、今後もほかの小説をゆっくりと書いていく予定です。
拙い文章ではありますが、またどこかでお付き合いいただけたら幸いです。




