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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第四章 クランハウスにようこそ
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4-12 これが組織の力だ

「魔法来るぞ! 盾構え!!」

 マイルズの凛とした声が響く。


 クリストス教魔導騎士団員たちがアブラハム王国騎士団の前にさっと進み出て魔法を受け止めるべく一斉に盾を構える。


 クリストス教魔導騎士団は結成してまだ一ヶ月に過ぎないのになかなかに統率が取れている。

 もっともそれも半ば当たり前で魔導騎士団のほとんどのメンバーは私の村の開拓の時にともに木を切り倒し根を掘り起こし枝を払った仲間たちだ。

 個人同士においては訓練の時期がずれていてあまり顔を合わせていないものもいるが、ほとんどが作業の中での顔見知りで全体としての仲間意識は非常に高い。

 森の中という外とは隔離された空間の中で道作りや拠点作りという泥臭い作業でともに汗を流してきたのだ、これでしっかりと仲間意識ができていなければそいつはあそこで何を訓練してきたのか?と問いかけたくなるほどだ。


 大小、そして属性様々な魔法が塀の中から放たれるが、魔導騎士団たちが構えた盾によって阻まれる。


 盾といっても物理的な盾ではなく魔法の盾だ。

 魔導騎士団の団員たちは元は神聖騎士見習いであったことから、皆一様に盾魔法への適性が高い。

 そしてバラバラであったならば熟練度の違いから強度の弱い盾が抜かれることもありえただろうが、きちんと統率されて一斉に構えられた魔法の盾は生半可な魔法では崩すことができない巨大な一枚の盾となる。

 これも魔道騎士団を完璧に統率するマイルズの指揮力があったればこそ。

 村の開拓の最高責任者こそ私が担っていたが、クリストス教から派遣されてきた人員のトップはマイルズであるとされてきた。

 私の傍に立ち補佐をしながらクリストス教の人間たちに指示を出しプレイアデス枢機卿とのパイプも太く、そしてなにより強烈な魔法の才能を持ち上級魔法までも扱うことが出来るのだ。

 名目上の最高指揮権者である団長ならどうかはわからないが、実働部隊をマイルズが副団長として率いているうちはその統率は乱れることはないだろう。


 散発的に放たれる魔法を完全に弾き返す盾を維持しながら、二つの騎士団の混成部隊は施設の門へと近づいてく…。




 我々はアブラハム王国内における魔術師ギルド最大の施設、魔術学院の制圧に駆り出されていた。


 重要度で言えば王都にある魔術師ギルドの支部が最も高くなるが、あちらは地価の高い王都の中にあるためそれほど建物は大きくなく、大都市の真っ只中にあるがゆえに防御も甘い。

 王都の魔術師ギルド支部は王国の騎士団だけであっさりと制圧できたらしいのだが、どこかから情報が漏れていたのか幹部は誰も残っておらず、重要な資料も既に持ち出されたあとだった。


 地方にある各街の魔術師ギルドの出張所はより規模が小さく、拘束できた人員の質はともかく制圧自体はすんなりと進んでいたらしく、その周辺に建てられていた隔離施設の確保も順調に進んでいた。


 ただ一箇所、このナイアートホテップ魔術学院を除いて。



 魔術師ギルド所属のナイアートホテップ魔術学院は、街や村から離れた小高い丘の上に単独で建てられた全寮制の魔術師育成機関だ。


 しかしながら学院というのは名ばかりで、実際のところ洗脳施設でしかない。

 入学するのは簡単だが卒業まで5年かかり、飛び級するのも難しいが中途退学するのも難しいらしい。

 これが魔法習得が難しい為ならまだわかるのだが、クドゥルフ式の魔術は詠唱によって神の補助を受けて発動させるものであるため応用は効かないが習得は容易だ。

 魔術学園で教える中級魔法ならば才能に恵まれたものなら一週間かからず、ほどほどの才能でも一ヶ月もあれば使えるようになる。


 つまり、その5年のほとんどを洗脳に費やしただの魔術師を育てるのではなくクドゥルフ魔導王国に忠実な魔術師を作る魔術学院であるということだ。



「やはり立てこもっているのは魔術師見習いの子供ばかりで、正規の魔術師は見当たらないか…」

「大人がいたと思ったら大人になってから魔術学院に入学した見習いに過ぎませんでしたしね。正規の魔術師たちは一度目の制圧作戦の前に逃げ出していたようです。」

 じつはクリストス教魔導騎士団が参加する前にアブラハム王国騎士団だけで一度魔術学院を制圧しようとしたら撃退されたらしいのだ。

 魔術師ギルドを排除したがゆえに魔術師を使うことができなかったこともひとつの要因だが、立てこもっていたのが罪のないアブラハム王国の子供たちばかりだったので弓で射殺すことができなかったのも理由としては大きい。

 戦闘訓練を行っていない魔術師見習いばかりなので近寄ってしまえば制圧するのは容易いが、クドゥルフ式の魔法を習っているためほとんどの生徒が中級魔法が使えるようになっていたので相手を傷つけずに近寄るのは難しいと判断し撤退したとのこと。

 また魔術学院は全寮制の上に近くに街や村がない環境に対応していたために食料の備蓄も十分に揃えられており、当然井戸もしっかりと敷地内に作られている。


 ただし、実質は監禁するための施設だとは言え名目上は学院。

 魔物や不審者の侵入を防ぐための門と塀は存在するが、人間同士の戦争を意識した砦の壁のような堅牢さはない。

 門は中級の風魔法で簡単に壊すことができるし、塀も土木作業に用いていた土魔法であっさり倒すことが出来る。

 生徒たちが身につけている揃いの制服のようなものにも防御力はなく、今のように魔法を使う相手だと分かっていても魔法に対する防護能力のある装備に着替えてくるわけでもない。

 さほど時間をかけずに混成騎士団は建物へとたどり着き、立てこもる生徒たちを無力化していく…。



「いやはや、見事な魔法ですな。

 パラライズの魔法と言いましたかな?

 おかげで生徒たちを傷つけることなく取り押さえることができました。

 彼らは反乱しているような意識はなく、ただ学院に押し入ろうとしている無法者を相手にするつもりで抵抗していましたからな。

 殺したり傷つけたりせずにどうやって捕縛するか、悩んでおりましたわ。」

 ジェフリーだかゴドフリーだか言う名前のアブラハム王国騎士団の隊長が、部下たちに手早く生徒の捕縛を指示しながらカラカラと笑う。


 生徒たちを無力化するにあたっては、パラライズの魔法を用いることにした。

 この魔法は扱いが難しいため輪廻の灯火側でも私を含め3人しか習得できていなかったが、魔術師見習いたちを無傷で捕らえるには最適の魔法だった。

 門と塀を無力化し魔法を受け止める盾を構えながら近づけるとは言え、魔法を使える人間を無傷で捕らえるのは簡単ではない。

 スリープでも同じようなことができるが、パラライズでもクドゥルフ式の魔法を使う魔術師見習いなら十分体の動きと魔法を封じることができる。

 よくゲームなどでは麻痺すると武器での攻撃はできなくなるけれど魔法は使えるというものがあるが、手足だけならともかく全身麻痺すれば喋れなくなるので詠唱が必要な魔法は使えない。

 ただ、一度自分にかけて試してみたが、詠唱なしで魔法を使うのならば多少使いづらくはあるが不可能ではないので学院の魔術師見習いならともかくクドゥルフの上級魔術師の魔法も絶対に止められるという保証はない。

 それにこのパラライズという魔法はなかなかに加減が難しく、弱ければ魔法の詠唱どころかちょっと手足の先が痺れる程度で終わるし強すぎれば呼吸困難で死亡させてしまったりする。

 身体のどこを麻痺させると危険なのか人体の構造がある程度わかっていないと危険なため、習得できそうなのはそれなりに学のある転生者だけだろう。

 この異世界の医学知識は向こうにとっては一昔前のものであるため、こちら側出身の人間に人体の構造をしっかりと理解させるのは難しい。




「サトシ様。抵抗する生徒の拘束と投降した生徒たちの集合が完了しました。

 一部のものには猿轡を噛ませてありますが、特に重傷者や死者は出ていません。

 魔導騎士団に軽傷者一名、アブラハム王国騎士団に軽傷者二名がおりますが、重傷者及び死者はおりません。」

「ご苦労。こちらの輪廻の灯火のメンバーには負傷者はいない。

 それにしてもまだ結成したばかりだというのに魔導騎士団の動きはなかなかいいじゃないか。

 特にあの一体化した盾の魔法は実に見事だった。

 制圧の手際もなかなかにスムーズだったしな。」

「お褒めいただきありがとうございます。

 今回は魔法を使うのが厄介というだけのただの子供たちが相手でしたから、大した相手ではありませんでしたしね。

 王国騎士団の方々も協力的で問題なく制圧できて何よりでした。」


 一度制圧に失敗してほかの組織に援軍を頼んだのだからもしかすると王国騎士団が非協力的なんじゃないかと心配したが、実際にはとても友好的に迎えてくれてびっくりした。

 これも相手が魔法を使ってくるがゆえに専門外だと言い張れたことと、以前に協力してもらっていた魔術師とクリストス教魔導騎士団とでは態度が違いすぎるのが理由だろう。

 なんといっても以前に協力を仰いでいた魔術師たちは横柄な態度で理不尽な要求が多く、その上で前には出たがらないくせに自分たちの労力をけちると酷い態度だったらしい。

 それに比べてクリストス教魔導騎士団は自分たちは魔導師であると同時に騎士団であるという自覚があるため態度も丁寧で自分たちの雑用も自分たちでこなし、そして戦いでは前に出て王国騎士団員たちのために盾の魔法を張る。

 これで友好的にならないほうがおかしいというものだろう。



「学院内を捜索しましたが、やはり以前の作戦で予想したとおり正規の魔術師は既にもぬけの殻ですな。

 資料なども全て持ち出され、生徒の中でも特に優秀な何人かは連れ出されているようです。

 残された生徒たちは後で必ず助け出しに来ると言われていたようですが、まぁ嘘でしょうな。」


 王国騎士団の共同作戦への抵抗としては指揮するものが本来は小隊長くらいの権限の人間しかよこさなかったことだろうか。

 共同作戦に抵抗のない程度の人間を使った、もしくはもしも魔導騎士団が役立たずでまた制圧失敗した時のスケープゴートにする人間を送ってよこしたのかもしれない。

 ただし、平の団員は十分に派遣してくれているのでそこには感謝したい。


「ほかの施設も襲撃前に情報が漏れて逃げられているんだ、ここも事前に情報が漏れて逃げる余裕を与えてしまったと見ていいだろう。

 以前の魔術師ギルドの浸透具合から言えば、情報が漏れて当たり前と言えるしな。

 魔術師たちを逃がしたと見るより、アブラハム王国内から追い出すことができたと考えようじゃないか。」


 元より私は今回の制圧作戦によって魔術師の拘束などができると思って参加したわけではない。

 一つは王国騎士団の作戦に参加することによって我がクランの実力を示し、王国に名前を売ること。

 そしてもう一つは未来に王国の魔道士となることができる若者たちを無傷で補導すること。

 今は洗脳されていて我々に敵対しているとしても、時間をかけてでもその洗脳を解けば将来的には王国にとって重要な戦力となるのだから…。




 我々のクラン、輪廻の灯火は順調に体制が整いつつあった。


 クリストス教魔導騎士団が編成され、イスラーム教の魔導戦士団も準備段階に入って応援の人員がごっそりと減り、また雇いの土木作業員たちも契約終了となったためその数を大きく減らしたが、これは逆に言うとトモシビ村の転生者の割合が増えたということ。

 これで大工たちまで帰すことができれば転生者だけということも可能だが、残念ながらまだ建物は増やす必要があったし大工技術はそんな簡単に習得はできなかった。


 そして、そのごそっと減った人員の分をほかの街で戦闘訓練を行っていた転生者たちで置き換えることができた。


 瘴気よけの魔道具を配置してから二ヶ月、少なくとも第一区画には魔物がリポップしないことが確認できた。

 まだ他の区画だとたまに出るとか人間を増やすと変化する危険性などもあったが、他の街に転生者滞在の負担をかけるのも限界なので基本の戦闘訓練もトモシビ村の拠点の中で行うことにした。

 もちろん以前の反省から問題のある人間についてはきちんと選別して受け入れを拒否するようになったが…。


 拠点での農業も順調で、成長の早い葉物野菜などは既に安定して供給されている。

 生育に時間のかかる作物も順調に育っており、遠からずトモシビ村での自給自足が可能となりそうだ。

 また外貨獲得のための薬草の栽培も、いくつかの種類は収穫が始まっている。

 本来魔物のいる場所でしか生育しない薬草などの栽培についてはそのノウハウがないため一から検討しており、順調に育つものとまだまだ研究が必要なものが混在している。

 しかも売値の高い薬草が必ずしも育てにくいとは限っていないので、どの薬草を栽培するのが一番儲かるかはまだまだ検討し続けなければいけないだろう。



 さて、トモシビ村の拠点が順調な一方、転生者の中には都市部で生活したい人間が少なからずいる。

 なんといってもトモシビ村は魔物が出る森のど真ん中にあるど田舎。

 娯楽もほとんどないし、転生者以外との交流もほとんどない。

 そんな田舎に住みたくない転生者を使って、私は街にクランの拠点を作ることにした。

 もちろん、今までも近隣の町や村に拠点を作っていたが、一時的に転生者を預けるためではなく恒常的に常駐させるためのクランの支部。

 その支部を使って魔物討伐や素材採取の依頼の情報を仕入れ、それをクランの活動へと繋げていく。


 ただ、いざ情報を集め始めてみると、予想を遥かに超える数の依頼が集まるようになってしまった。

 今まで酒場で掲示板にまとめて張り出すことはしていたがそこには酒場による保証は全くなかったので、より確かな依頼先として我々のクランに殺到したのだろう。

 その依頼を選り好みして我々でこなせる文だけを解決しても良かったが、私はその依頼を転生者以外の冒険者たちにも開放した。


 結果としてクラン支部は冒険者ギルドのような体を成しつつある。


 ただ、支部としてできたばかりであるので色々と問題が起こる。

 不届き者が悪さをしたり、討伐依頼を受けておいて放置するものがいたり、依頼を受けたはいいけど能力不足で達成できなかったり…。

 何かが起こるたびにクランの方から人員を派遣して処理に当たらせているが、時間が経って落ち着いてくれば問題ももう少し減ってくれると思いたい…。




 まだまだ発展途上で問題も多いが、輪廻の灯火というクランが出来上がったことで可能なことがグッと増えた。

 個人では賄いきれない人数の転生者たちを養っていくことができるし、その転生者たちを鍛えて戦力として迎えたり自立できるように支援したり…。

 まだまだ私の手からこぼれ落ちていく転生者たちもたくさんいるが、以前とは比較にならないほどの人数を拾い上げられるようになってきているのは間違いがない。



 私は組織(クラン)という力を得たのだから…。


さて、次話で一度この小説を完結させようと思います。


もう少し構想はあったのですが、ポイントの伸びない小説を時間をかけて更新してても仕方ないですしね…


ここまで一生懸命読んでくださった方は、あともう少し、私の拙い小説にお付き合いください。


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