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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第四章 クランハウスにようこそ
35/39

4-9 魔物の被害

サイテイデモツキイチ、サイテイデモツキイチ…(謎の呪文w

反応の薄い作品でも、もうちっと更新しないといけないんでしょうけどね(^^;

 第2区画で魔物による死傷者が出たということで急行していた。


 だが、現在第4区画はまだ一段目の壁も完成しておらず容易に魔物が侵入できるため、他の区画への連絡橋はまだ設置していない。

 また、第2区画から外へと直接つながる門も、非常時に開けられる部分は作ってはあるが実質的に不要なのですぐに開けて出入りできるようにはなっていない。

 結果としてぐるりと外周を回り込んで頻繁に出入りする第一区画の門から第一区画へと入り、そこから連絡橋を使って第2区画に入るのが最も早かった。

 第4区画で作業していたものの中から戦闘のできる3名を護衛として引き連れながら第2区画の外側を通って第一区画へと向かう。

「とりあえず、外壁が破壊されたというわけではなさそうだな。」

 ぱっと見たところでは、第2区画の外壁に特に異常はなかった。

 拠点を囲っている壁は木製ではあるが二重のかなり頑丈なものでブラックベアでも容易に破壊できるものではない。

 それに外壁が破壊されて魔物が侵入したのなら、外壁が破壊されたと報告が来るはずだ。

 また、巡回路の外側に並べられている鉄条網替わりの木組みにも壊れているものはなかった。

 この木組みは本格的に魔物を防ぐ強度はないが、壊された時には大きな音を出して鳴子の代わりになるように作ってあった。

「外壁にも木組みにも異常がないとなれば、侵入したのは猿系か鳥系の魔物か?」

 現在拠点に侵入する魔物の多くがレッドモンキーを中心とした猿系の魔物だが、この森に居る猿系の魔物は全て夜行性で昼間に侵入したという話は聞かない。

 また鳥系の魔物なら外壁など関係なしに侵入できるだろうが、この森とその周囲に鳥系の魔物が現れたという話も聞かない。


 ともかくまずは事件の詳細を確認しなければいけない。


 私は道に面した門から第一区画へ入ると、そのまま第2区画への連絡橋へと向かった。

 連絡橋の袂には一人警護が見張りについていたが、戦闘継続中という緊張状態ではないし連絡橋自体にも被害はない。

「それで、状況は?」

「あ、お疲れ様です、サトシ様。」

 現場を指揮していたのは第一区画の今日の警護を担当していたポール。

 彼が担当していたのは第一区画であって第2区画は彼の担当範囲ではないが、一番近くにいた警護担当として駆けつけたのだろう。

「魔物に襲われた当時に第2区画にいたのは男3名と女2名の計5名。

 そのうち男2名が死亡し、女1名が左腕を食いちぎられて重傷。

 残りのふたりは逃げる際に連絡橋の階段を転げ落ちて軽傷です。

 腕を食いちぎられた女性も命に別状はありませんが、食いちぎられた左腕はもう切断するしかないでしょう。」

 これまで開拓作業中に魔物に襲撃されて軽傷者を出したことはあるが、死者2名重傷1名はかつてない被害であると言える。

 こちらから魔物と戦いに行っている討伐班でも骨折などの重傷はあるが死者はまだ出していないことを考えると、護衛が存在している拠点での死者2名は非常に重大な事態だ。

「侵入した魔物については駆けつけたクリストス教の斥候が即座に仕留めています。

 ただ、ちょっと…その侵入経路が未だ不明であるため、現在壁の状態などを至急見回りさせています。」

「私も第二区画の外側を確認しながら戻ってきたが、特に外壁に破損した形跡はなかった。

 侵入経路が不明ということは、レッドモンキーや鳥系の魔物でもないということか?」

「それが…リトルグレイウルフなんですよ。」

 リトルグレイウルフはその名のとおりグレイウルフの子供だ。

 大型犬ほどの大きさしかなく、少々すばしこいものの騎士見習いひとりでも充分倒せる魔物。

 ただ、この世界の魔物はリポップした瞬間から成体で出現するため子供から成長する必要はないので親は存在せず、リトルでもしばらく生き延びているとある日突然成長して大人になるらしい。

「なるほど、リトルグレイウルフとなると自力で侵入したとは考えづらいな…」

 事態は急に事故から事件へと展開していきそうな気配がでてきた…。


「被害者はやはりあの連中なのだろう?」

「えぇ、例の勘違い転生者の日本人5名です。」

 他の人間が開拓作業を行っている最中に第2区画に来ている人間など勘違い連中しかありえない。

 それにリトルグレイウルフ程度なら、きちんと訓練した転生者や騎士見習いの連中はもちろんこの拠点に建物を建てに来ている大工たちでもなんとか倒せるような比較的弱い魔物だ。

「連中には例え戦闘訓練を受けていなくてもこの拠点にいるあいだは武装しておけと言っておいたはずだが、むざむざリトルグレイウルフ程度に殺されるとは何をしていたんだろうな…」

 第2区画の現場では連中が麦を育てようとしている畑の真ん中に致死量の血痕がひとつ、第一区画とは反対の側に二つのテントが張られていてその内の一つが大きく破られていて血痕が付着、そして、そこから外側の壁際に少しいったところにもうひとつの血痕があった。

 一応遺体を検分しリトルグレイウルフに咬み殺された傷だと確認はしたが、なぜか死者のうちの一人、ガウェインは素っ裸だった。

 そして左腕を食いちぎられたのがリリアーナであったが、こちらもなぜか裸だったと報告を受けている。

 普通なら別の犯罪が行われた可能性を考えるのだが、わざわざ第2区画にテントまで持ち込んでいるのだから、同意の上での行為の最中に魔物に襲われたのだろう。

「血痕から考えるに、一番初めに襲われたのは畑で作業していた男だろうな。

 他の連中の行為を無視して麦踏みでもしていたか?

 いや、人数的にあぶれたから、麦踏みをして時間を潰していたと考えるべきか。」

 本来ならばこの時間この5人は他の転生者たちと一緒に第一区画でアブラハム王国語の勉強をしているはずだった。

 しかしながら、相変わらず語学の勉強に精を出そうとはせずに、農作業をするからと言い訳をしては第2区画へ頻繁に逃げ込んでいた。

 教える方も力尽くで連れ戻してまで教える義理はないので彼らの好きなようにさせていたが、やはり農作業をするということ自体が言い訳に過ぎなかったらしい。

 ちなみに小麦を栽培するときに麦踏みというのは根を太くするために意味のある行為ではあるが、冬のないこの異世界でも必要かは微妙であったし彼らの場合はそれと関係のない原因で今まで小麦をダメにしてきていた。

「その後にテントの方を襲撃したのはわかるんだが、どうしてもう一つの血痕が外側の壁の方にあるんだ?」

「テントの中で噛み付かれたのはリリアーナの方で、それを見たガウェインがそちらへ逃げ出したという話らしいです。

 リリアーナの証言というか喚き散らしていることを通訳してもらったんですが、全く助けようともせずにさっさと逃げ出しておいて追いかけたリトルグレイウルフに食い殺されたんだとか。

 魔物から守りきれなかった我々を罵る合間にざまあみろざまあみろと五月蝿いそうですよ。」

 他の人間が食いつかれてるのに助けもしようとせずに丸腰のまま連絡橋とは別の方向に闇雲に逃げ出す。

 どう見ても状況判断ができていなかった。

 全く訓練不足とは言え持たせてあったショートソードを使ってリトルグレイウルフを牽制していれば、りリアーナの左腕が食いちぎられる前に引き剥がすこともできたかもしれないのに。

「もともとリトルグレイウルフに大の大人を一撃で絶命させる攻撃力はないので、はじめの一人が襲われた時にかなりの叫び声をあげていましたからね。

 その時点で武器を取って牽制でもしていれば第一区画から我々が駆けつけるまで持ちこたえることができたでしょうに、丸腰のまま逃げ出したほかの二人も含めて魔物が出る森の中の拠点に住んでいるとは思えない状況判断の遅さですよ。」

 彼らの対応の拙さには呆れるばかりだが、私にも集団を率いる長として拠点を建設しているまとめ役としての責任はある。

「まずはリトルグレイウルフの侵入経路について調べねばならない。

 第2区画に本当に侵入の形跡がないか、なにか不審なものが残されていないかを調べてくれ。

 また当時ここにいた者たちだけでなく、門番や警護の役についていたもの、そしてそれ以外にも当時所在が曖昧だった者についても聞き取りをしてくれ。」

「わかりました、早速取り掛かります。

 ですが、当時第2区画にいたものたちは言葉が通じないので、我々では詳しく聞き取ることが…」

「わかった、その者たちは私が対応しておこう。」

 日本語での対応はイクシマもできるが彼はまだ見習い転生者の立場のままなので、連中から詳細な聞き取りをするのはきついだろう。

 もしも何者かが勘違い連中を排除しようとしてリトルグレイウルフを拠点の壁の中に持ち込んだとすれば、重大な事件となるのだから…。


「結局のところ、めぼしい情報はなしか…」

 勘違い日本人連中からの聴取した内容では、はじめの一人が襲われて叫び声をあげてからテントを襲撃するまで何も対処しなかったために、リトルグレイウルフがどこから来たかの情報は全く得られなかった。

 また、彼らが誰かから恨まれて魔物をけしかけられるような覚えもないとのこと。

 彼らを疎ましく思うという意味ではイクシマの名が挙げられるが、彼以上にそう思っているであろう筆頭は私自身だったりする。

 事件当時そのイクシマは語学勉強にこない彼らに呆れながら私とともに第4区画で土木作業をしていたので、二人共容疑からは外れる。

 第一区画の門と第一区画の建物の入口には常に2名の見張りが立っており、不審な人物の出入りは見かけなかったとのこと。

 また、第2区画にも時限式で魔物を解き放つような仕掛けも存在しなかった。


 結局、事件性を示すものは何も出てこなかった。


 ひとつ問題があったとすれば、リリアーナがウザかったことだ。

『私たちが魔物に襲われたのはあなたの管理が甘かったせいよ! 責任を取りなさいよ、責任を!』

 片腕を失い仲間が死んだ直後だというのに、リリアーナは妙に元気だった。

『そうだな、ここを管理し皆が魔物に襲われないようにと管理していたのは私だから、それなりの責任は取ろう。

 死者は丁重に弔うし、片腕を失ったお前はクリストス教会の方で面倒を見てもらえるように手配しよう。

 だが、恐らくお前が望んでいるような責任の取り方はできないだろう。』

『なんですって! 責任をとるなら代表を辞任するのが筋じゃない! 中途半端な責任の取り方じゃ許されないわ!』

 前の世界の日本では何らかの不祥事があると徹底的にメディアやネットが騒ぎたて、根掘り葉掘り調べ上げて少しでも問題点があるとそれが重大なことのように誇張し、あることないこと噂を作り出してながし続け、その人物が辞任するまで止めようとはしなかった。

 リリアーナもまた、騒ぎ続ければ私が辞任すると思っているのかもしれない。

『私が辞任しない理由を二つ、教えてやろう。

 一つは私がここの代表を誰かに任じられたわけではないということ。

 選挙で選ばれたわけでもなく、株式会社の社長として給料をもらいながら株主たちのために仕事をしているわけではない。

 もちろん、誰かに雇われたサラリーマンではないし、クリストス教などの他の組織から代表を任されたわけでもない。

 ただ私がやりたいことに多くのものが賛同して付いてきて、クリストス教やイスラーム教がそれを援助してくれているに過ぎない。

 だから、私が代表に相応しくないと思うのなら、私に代表をやめさせるのではなくこの集団から離れて別の道を生きていくべきだ。

 そしてもう一つは私がやめても代わりがいないということ。

 私が転生者たちを率いて村を作る代表をしているのは、戦闘に長けているからでも力が強いからでも魔法が使えるからでも頭がいいからでも財力があるからでも指導者として優れているからでもない。

 私が神と直接対話できるからだ。

 もしも私が神と対話できない普通の転生者だったら、この組織はここまで大きくなっていないしクリストス教やイスラーム教も人や資金を出してくれなかっただろう。

 だから、もしも私と代表を代わろうとする人物が居るならば神を直接呼び出し対話できる人物でなければいけないが、今のところそのような人物がほかにいるとは聞いていない。

 前の世界の宗教家のように聞こえてもいない神の声が聞こえると信者を騙そうとしても無駄だぞ?

 この異世界では既に何度か神が実際に降臨してその姿や声を直接確認している人間がいるのだからな。

 ”見えない””聞こえない”神ではない以上、偽りの代弁者では人々が認めてくれないのだから。』

『ぐ、そんな屁理屈を…』

 リリアーナにとってはどんな正論も屁理屈に聞こえるのかもしれないが、彼女の浅慮では私の理屈を崩すことはとてもできなかった。

『私の責任にしても、魔物が侵入しないような強固な壁で拠点を囲い、侵入した魔物を小まめに確認して討伐ししっかりとした警護と巡回を行っている上で、それでもなお危険な森の中だということを納得してもらって滞在してもらっているはずだ。

 これ以上は自己責任で身を守ってもらうしかない。

 それでもなお、私が責任を果たしていないというのならこの拠点に来ているものたちに訴えかければいいだろう。

 もっとも、お前はいまだにアブラハム王国語も英語もできないらしいがな。

 そうだ、責任という意味ではお前たちにアブラハム王国語の習得と戦闘訓練をもっと厳しく強要すべきかもしれないな。

 いままではお前たちがなんのかんのとサボっているのもお前たちの意思を尊重して無理やり強制すべきではないと放置していたが、これがお前たちの身の危険に直結するのであればそうも言ってられない。

 いざという時に助けも呼べないのでは困るし、リトルグレイウルフごとき雑魚に簡単に殺されてしまうのでは警護しようがない。

 お前たちがどんなに嫌がってサボろうとしても、()()()()()()覚えさせなくてはな!』

 やや売り言葉に近いが、それが人的被害につながるのであれば今までのように甘いことを言わずに厳しくしなければいけないだろう。

『う、うぅぅぅ、覚えてなさいよ!』

 結局リリアーナは反論することができずに在り来りな捨て台詞を履いて立ち去っていた。

 だが、彼女はこれからの困難をちゃんと理解しているのだろうか?

 この異世界には死者を蘇らせる薬はもちろん、欠損した腕を治す薬も代わりの他人の腕をくっつけるような医術も自在に動く義手を作る技術もないというのに。

 前の世界であっても同じ話だが、片腕で生きていくというのは非常に大変なことなのだから…。


 一度論破したあと、リリアーナが再び私を煩わすことはなかった。

 今この拠点でほかに日本語が通じるのは残念な日本人たちとイクシマしかおらず、イクシマもまだ見習いの立場であるためにどんなことを吹き込んでもそれが他の転生者たちに伝播していくことはありえない。

 結局迷惑な日本人たちだけで騒いでいても、それがどうなるはずもなかった。


 それよりも問題なのはリトルグレイウルフの侵入経路が不明な事であった。


 誰かが人為的に引き起こした事件ではないだろうという結論は比較的早く出たのだが、それでも同じ悲劇を繰り返さないためにはその原因を突き止める必要がある。

 その原因究明のためにと範囲を広げて聞き込みをする中で気になる話が出てきた。

 この前のリトルグレイウルフの他にも拠点の壁の中でどこから侵入したかわからない弱い魔物が最近たまに目撃されるようになっているという話だ。

 別のリトルグレイウルフやニホンザルほどの大きさしかないリトルモンキー、膝くらいの高さしかないヤングトレントなどで、見習いたちでも簡単に倒せるような弱さで即座に始末していたため気にしていなかったとのこと。

 そもそもこの周辺の森の中ではそんな弱い魔物はポップしない。

 この辺りの森では弱い魔物など経由せずにもっと強い魔物が直接成体で生み出されるからだ。


 そんななか、ついに原因を突き止める証言が得られた。


 拠点の壁の中でヤングトレントが光とともにリポップするのを目撃したというのだ。

 森の中で魔物を討伐していると極まれに魔物がリポップする瞬間を目撃することはある。

 それと同じ現象が、拠点の壁の中で起きていたということなのだ。

 魔物は瘴気がマナと結びつくことによって生まれるのだという話を聞いていたが、拠点の中にも魔物が生じるほどの瘴気が周囲の森から流れ込んできているということなのだろう。

 いままで弱い魔物しか出なかったから問題になっていなかったが、今回はその弱い魔物でも対処できないものたちの前にポップしてしまったために大きな被害が出たということだ。

「被害にあった連中には申し訳ないが、まだ弱い魔物のうちに問題が発覚して助かったな。これが成体のグレイウルフが第一区画の中にポップした話だったらもっと甚大な被害が出ていただろう。」

「早急に対策をしなければいけませんね。」

「以前にルルイスが村の中に魔物がポップしないように結界を張っている話をしていたのに、失念していたな。

 王都でも大規模な結界を張って魔物を遠ざけている話があったし、この世界で村や町を作るときの常識だったのかもしれないな。」

 ルルイスや教会の人間が瘴気対策について話をしなかったのは常識として伝え忘れていたか、普通の場所であればこの森ほど瘴気が濃くなくて魔物がポップし始めるまでもう少し時間があったからなのかも知れない。


「すくなくともこのままにはしておけない話だし、ルルイスがそのことについては詳しいだろうから話を聞きに行って対策を手伝ってもらうか…」

 このような重大な問題の発覚に関与してくれた事を思えば、あの迷惑な転生者たちにも感謝しなければいけないだろう。

 たとえ、彼らの犠牲がまったく惜しくないのが本音だったとしても…。


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