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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第四章 クランハウスにようこそ
31/39

4-5 仮設

 道作りは順調に進んでいた。


 もちろん、一晩でいきなり完成したりはしない。


 何も生えていない平地に道を作っているならともかく、木がしっかりと生えている森に馬車を走らせるためのまっすぐな道を作ろうとするならば、木を切り倒し、切り株を掘り出し、土を埋め直して整地する必要がある。

 土木作業に適した魔獣を使い、一部のものが魔法で作業を行ったとしても一日に数百メートル進むのがやっとだ。

 魔獣でもこれだけの力仕事をさせれば疲れるし、魔法も魔力が枯れるのでそこまで連続で使用できない。

 また、日没後に作業を行うこともできない。

 光源が松明しかないなどということはなくランタンやライトの魔法なども使えたが土木作業をするだけでもその光源では不十分で、さらに周囲の魔獣の索敵も行うとなればどうしても暗すぎる。

 それに加えて夜間は魔獣が強くなるため、夜作業をするのは危険だった。

 深夜にライトの中で道路工事をするなどというのはこの異世界でなくとも電気が発達した安全な国だけができることなのである。


 また、作業は休みなくというわけにも行かず、3日作業して2日休みというサイクルをとっていた。


 土木作業は重労働であるため適度に休みを入れる必要がある。

 これが奴隷を使った作業であっても、休みなしに作業を続けさせていればだんだん効率が落ちていく。

 十分な食事を与えずに酷使すればその効率低下はさらに酷い。

 まぁ、使っているのは賃金を払って雇っているプロの作業員が中心なのでしっかりとした体力が有り体調管理もしっかりしているから急ぎの作業であれば休日なしにしばらくの間は連勤できなくもないが、そこまで無理をさせる必要はない。

 休日のサイクルも三日作業の一日休みでも十分休み過ぎだったが、休みがこのサイクルになったのは適度の魔獣討伐を行っているからだ。

 開拓を開始する前は我々のグループで周辺の魔獣を定期的に討伐して回っていたのもあり、ハミルトン子爵領もビーデル男爵領もある程度魔獣討伐の比率を我々に頼るようになっていた。

 さすがに村の開拓が終了するまで魔獣討伐をしないというわけには行かなかったのだ。

 目下の悩みは道づくりが進むに従って森から出るまでの移動時間が長くなっていくということだ。


「せめてもの救いは魔法の見習いに来てる騎士や戦士の成長が早いことだよな。」

 選抜された魔獣討伐第一部隊のメンバーと共に林道を馬で駆け抜ける。

 現在魔物討伐の際には、討伐2部隊、輸送2部隊、護衛1部隊と部隊分けして行動している。

 討伐は言うまでもなく魔物討伐だが、この区分の輸送部隊は討伐した魔物の死体を解体しその素材を輸送する部隊であり、護衛部隊は輸送部隊の護衛ではなく休日の土木作業員の野営地の護衛である。

 その全てのメンバーに戦闘力が必要であり、各員の実力やその日の討伐対象などに応じてその都度組み替えている。

 古参のメンバーの戦闘力もかなり上がっているが、新参のものたちもぐんぐんと実力を伸ばしていて、これだけ人員を分けてもいいくらいに成長してくれていた。

 クリストス教の騎士見習いやイスラーム教の戦士見習いは既に基礎となる戦闘技術はある程度身に付いているため魔法の基本を覚えてからそれを戦闘に応用するまではあっという間であり、新規で加入してきた転生者も今までの環境から大きく改善されたために意欲が高く、いろいろなものの覚えが早かった。

「まぁ、この成長の速さは延々と枝払いをさせていたおかげと言えるかもしれないですけどね。」

 単純作業に辟易したものたちから愚痴を聞かされる立場となっていたマイルズは、そのものたちが枝払いを卒業しても新たに送られてきた枝払い要員に捕まっているようだった。


 また、この編成は道作りの休日の編成であり、土木作業中はまた別に編成を組み直している。

 土木作業では魔法に頼らない本来の土木作業チームの他に、周囲警戒班、魔法土木作業班、輸送班、そして見習いの枝払い班に分けられる。

 そしてある程度魔獣と戦えるものたちが増えてきたことからその役割を一日の中でもローテーションさせ、その魔力を余さず減らしすぎずで運用することに注力している。

 周囲警戒班は魔獣が出てきたら討伐も行うが、出てこないとその魔力を余らせることもある。

 たまに群れが出てきたり大型が出てくることがあるが、それ以外は思ってたより魔獣の襲撃はなかった。

 まぁ、あくまで思ったよりもなので警戒を怠ることはできなかったが。

 そして、魔法土木作業班は木の伐採と切り株の掘り出しを魔法で行うチームだ。

 当初こそ不慣れなものが多くて本来の作業員と距離を置いて作業していたが、魔法を土木作業に使うことに慣れているものが増えてくると共同で作業することができるようになり、作業全体を加速させている。

 ただし、土木作業に使う魔法はほぼ中級魔法に相当する術ばかりで、連続で行使するとあっという間に魔力が枯渇する。

 上級魔法に手が届くところまで来ているマイルズですらあっという間に枯れてしまうのに、やっと中級魔法に手が出せるようになった者たちでは数回で限界が来てしまう。

 なのである程度使ったら周囲警戒班の者と交代し、周囲を警戒しながら魔力の回復を待つという形をとり、魔獣の群れや大物がでたら班の区別を超えて皆が力を合わせて討伐という形をとっていた。

 そして魔力が枯渇したものは輸送班として討伐した魔物の素材と枝払いが終わった木材を森の外に運ぶ作業を行う。

 ただし、まだ魔法の使い方があやしい半人前の者たちはただひたすら枝払いであったが…。



 道作りはルルイス村の方からの道を先に作り、2ヶ月と4日ほどで村開拓予定地までたどり着いた。


 マドゥの街からも道を作る予定なのでこれでやっと半分でしかないが、ベテランの土木作業員たちに言わせるとこれでも通常の倍近いハイペースらしかった。

 魔術師ギルドから貸し出される魔術師たちはその力の行使に対価を要求することが多く、土木作業に出てくることはほとんどないらしい。

 まぁ、彼らの魔法は応用が利かないため出てきても我々のような作業はできないだろうが…。


 さて、村開拓予定地までたどり着いたことで今後の作業の方向がいくつか考えられたが、まずは村開拓予定地をある程度切り開いてから材木置き場とし、村側からマドゥの街へと道を開いていくことにした。

 森の中に村を作るにあたり大量の木材を必要とするため伐採した木も活用していく必要があり、一度森の外に運び出してからもう一度村に運び込むのは二度手間だからだ。


 ただし、伐採したばかりの木でいきなり家を建てることはできない。


 切り倒したばかりの生木は水分を多く含み、すぐに製材して使おうとしても乾燥すると変形してしまうのだ。

 そのような木材でいきなり家を建てればあっという間に歪んで隙間だらけの建物になってしまう。

 家を建てるための木材はあらかじめ乾燥が終わったものを購入し、用意してあった。

 木材の豊富な森の中に村を作るというのに外から大量に木材を運び込むのは十分な資金を使った荒業だといってもいいだろう。


 では、切り倒したばかりの木はすぐ使えないのか?といえば、そういうわけでもない。

 乾燥すると歪んでしまうとは言え、歪んでも構わないところになら使ってしまってもいいのだ。

 村を開拓する場所は魔獣の出る森の中にあるため、たとえ建設途中の仮設の状態でも柵で囲うことが必要だった。

 特に人に害をなす大きさの魔獣を通さなければいいだけなので少しくらい歪んでも問題ではないし、作業が進んで村を広げる段階では何回か柵を作り直すことになるだろう。

 打ち込み直せば杭は傷んでいくしそこに魔獣の襲撃があればさらに再利用できない木材が出てくるであろうから、そこに使う木材は切り倒したばかりのものでもいいだろう。


「問題はここに作った仮設の小屋で野営するかどうかだよな…」

「下見の時にも多少魔獣が出ていましたが、やはりここまで森の奥深くまで来ると魔獣もそれなりに強いですねぇ。」

「ある程度は覚悟していたが、実際に作業をしてみると下見の時よりもその強さが気になるな。」

「その分素材も貴重なものばかりで儲かるじゃねぇか。しみったれた小物ばかり相手にして小銭稼ぐより、どかっと大物で一発当てる方が俺は好みだぜ。」

「われわれ中心メンバーが揃ってる時はそれでいいかもしれませんが、まだまだ半人前の者たちしかいない時に大物が出た時が問題なのですよ。野営するかどうか、休日は森の外まで一度出るか、そこも考えないとダメでしょうねぇ…」

「我々もそうですが、サポートのメンバーもずっと森の中で活動というのも負担が大きいです。斥候たちも単独で森の中で活動できる実力があるとは言え森の中では油断できませんし、土木作業員たちも周囲の安全を確保していても魔獣の出る森の中という環境での野営では熟睡できないでしょう。」

「うーむ、仮設の小屋で森の中で野営は難しいか…。だが効率の面から言うと、やはり仮設であっても拠点は欲しい。取り敢えず、マドゥ側への道を作りながら仮設の拠点を一度建設してみようか。」

 ということで、道作りと並行する形でとりあえずの仮設の拠点を構築することにした。


 とりあえず必要な広さはメンバーと作業員たちが雑魚寝でも宿泊出来るだけの大きさの小屋、木材を仮置きできる場所と資材を保管する場所、およびいろいろな作業をするためのスペース。

 そう考えると仮設であっても結構な広さが必要であるということがわかる。

 その広さの木を伐採し切り株を掘り起こし整地した上で、丈夫な木の柵で囲う必要がある。

 線的な道作りと違って面で広げるので、その伐採量は結構なものになる。

 救いはしっかりと広げた空間の中心なら切り株や払った枝を焼却できるくらいか。

 そしてそれだけのスペースをしっかり囲い終わるまでは危険で野営はできないので毎日森の外まで戻りながら作業を進める必要があった。 

 この頃には護衛となるメンバーたちも揃ってきたので土木作業も2班に分かれて作業することが可能になっていた。


 ルルイス側の道完成からさらに2ヶ月弱でマドゥ側の道が完成し、ほぼ同じくらいに村開拓予定地の仮設拠点の整地と木の柵が完成した。

「やっと道と仮設用地の囲い込みが終わったが、まだまだここに泊まれる状態ではないな。」

「ただ柵で囲っただけじゃ防御陣地としてなっちゃいねぇ。柵が森と近すぎて魔獣の侵入を許しちまってる。」

 無人の時に侵入されたので人的被害はなかったが、次の日に作業に戻ってきてみると柵の内側に入り込んだ魔獣と遭遇することが何度かあった。

「少なくとも柵から2,3mの範囲は木を切り倒さないといけないかな?」

「いや、もっと広げた上で柵を二重にして、さらに5mは間が欲しいな。この辺りにはエテ公の魔獣も出やがって盛りのついた連中がハッスルして飛びついてきやがるようだ。」

 この周辺に出現する魔獣はいくつかの種類がいたが、その中にレッドモンキーと呼ばれる猿型の魔獣がいて頻繁に柵の中に侵入していた。

 全身の毛から目まで真っ赤なその猿は、一匹地上に居るだけならそれほどの脅威ではないが群れで襲いかかってきたり木の上から奇襲されると厄介な魔獣だ。

 そして木の上から木の上へとジャンプして移動するために、森が柵に近ければ簡単に侵入してしまう。

 もっとも、深い森に中でしか遭遇しないためその素材は市場にあまり出回ておらず、鮮やかな赤色であることもあって毛皮はその脅威度の割に高く売れたのだが。

「そうだな、柵は二重にする必要があるか…。それと同時に柵の手前には堀を作っておこう。地上の魔獣が柵に体当りしづらいようにな。」

 そこから柵の増強を始めたが、同時進行で小屋の建築も開始した。

 まずは少人数が泊まれる小さな小屋から。

 そこからだんだんと大きな小屋へと手を伸ばしていく。

 小屋に泊まれる人数が増えていくに従って移動での時間ロスが減り、作業速度が向上していく。

 だが、変わらぬ問題も存在し建設はゆっくりとしか進まなかった。


 ひとつは石材の確保。

 森の中では強度のある石材はなかなか確保できず、外から持ってくるしかない。

 この周辺ではルルイス村のさらに南の方から持ってくるしかないが、あまり質の良くない石材でもかなり高価だった。

 街や城などの外壁には丈夫な石材を大量に使うため、どうしても高くなってしまうのだ。

 村の外側をとりあえず木の柵で囲うとしても、建物の土台にはどうしても石材が必要だ。

 木を直接土の上に乗せているとあっという間に腐ってしまうからだ。

 城壁と違って土台に使うだけならそれほどの量は必要なかったが、せっかく運び込んだ石材のサイズが合わずに、次の石材が運ばれてくるまでに数日その場所の作業が止まるということが発生していた。


 また、建物を建てるために雇った大工というのはそれなりに荒事には対応できたが、基本的に街や村落の中で作業するのに慣れているために土木作業員と比べるとより安全に配慮が必要とされた。

 そのため、今の仮設の状態で小屋に宿泊してくれる大工はほんの一部であり、護衛の数が減る休日はその一部の豪胆な大工でさえ街まで一度帰す必要があった。


「思ったように進まないというのも未開の土地を開拓するときにはよくあることです。そういうものだと割り切ってゆったりとした気持ちでコツコツと作業しなければいけません。」

 元は畜産業とはいえ、前世から一次産業に従事していたジョルジュの言葉は重みがある。

 ちなみにジョルジュは道作りの段階から魔獣使いとこまめにコミュニケーションをとり、魔獣の使役方法について習得してくれていた。

 土木作業のために雇い入れた者たちは一通りの開拓が終了するまでの期間限定の雇用なので、その後の作業用にと魔獣も何匹か正式に購入していた。

 どうやらこのような瘴気の濃い森の中だと普通の獣を飼育するのは難しく、畑作業の補助をさせるのは魔獣でなくてはいけないという話だ。

 今後もゆっくりとであっても村の領域を拡張していく予定なので、土木作業に使えるサイのような魔獣は少しばかり高価であっても購入するだけの価値はあった。



 そこから二週間ほどかけてやっと主要メンバーが雑魚寝出来るだけの小屋と二重の柵と堀が完成し、ひとつの拠点として機能し始めたのだった。


「まだ仮設の村としか言いようがないけれど、やっと私たちだけの拠点ができたな。」

「今の段階で集まってるこの村に住む予定の人数でもまだまだ土地の広さも足りねぇし、小屋も仮設がいいところだ。家はもっとしっかりしたものを戸建てにして建てていかねぇといけねぇし、さらに畑のための土地も切り開かねぇといけねぇ。まだまだ先はなげぇぜ。」

 すっかり日に焼けて真っ黒になっちまったというステファンの黒人ジョークを受け流しながら、さらなる作業の先を思い浮かべる。

 いま構築した用地の四倍ほど広げないと移住者全員を寝泊まりする小屋は建設できないし、戸建てにしようと思うならさらに数倍は必要。

 そして、自給自足できるだけの畑を作ろうと思うとさらに広げないといけないし、その先の作物を外部に販売できるまでの規模となると十倍以上広げていかないとダメだろう。


「まだまだ先は長いが、この土地に一歩踏み出したのは確かなことさ。」

 ゆっくりとではあるが転生者たちの村はこの地に根を下ろそうとしていた…。


時間の流れが一気に早くなってますw

ま、土木作業ってのは本来それくらい時間がかかるってものです。

ただ、いつ開始したかわからない道路工事がいつまでたっても終わらないのは、

予算と土地の買収のせいでしょうがね…(どこかの外環道路が完成したらしいねw

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