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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第四章 クランハウスにようこそ
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4-4 開拓開始

 さて、開拓する場所も決まったので早速開拓開始!とは行かなかった。


 まずは、村を作ると決めた土地の領主であるハミルトン子爵に許可を貰わないといけない。


 普通であれば、貴族であるハミルトン子爵に面会するだけでも時間がかかるが、そこはクリストス教のツテを使って素早く約束を取り付けることができた。

 だが、その許可自体は前時代的な領主の独断で即決とはいかず、まずはきちんとした計画を提出し事務方と事前協議を経てしっかりと問題点を修正した上で認可を得て、最後に直接ハミルトン子爵に面会するという形だ。

 官僚的な、妙に現代っぽいやり方だが、そこは転生者が効率的な方法として持ち込んだと思われる。

 それが許可をもらう側にとって効率的かは微妙だが、少なくとも管理する側からするとすべてを自分で判断するよりも間に官僚を挟んだほうが楽であり、その形式が統一されていれば官僚たちにとっては効率的であるだろう。

 これをまずしっかりとやっておかなければ、後になって難癖をつけられ土地を奪われることになる。


 クリストス教から派遣されてきた村開拓の計画書作成のアドバイザー、所謂行政書士のような人間の助けを借りながら作成した計画書にいくつかの要点がある。


 まず、この開拓の責任者は誰か?

 名義上の責任者を他人に任せて裏から支配するという選択肢もあったが、これは素直に私が責任者となっておいた。

 ただし、村に必ず責任者が常駐していないといけないと言われると困るので、あとで代理の管理人を立てる予定である。


 誰が出資し、その土地を誰が所有するのか?

 実際にその資金の多くを出すのはクリストス教とイスラーム教だが、直接出資したという形ではなく私がそれらから資金を借り受けたという形にした。

 ならば、土地の所有は私になるのか?というところがひとつの問題になるが、あくまでそこはハミルトン子爵の領地であり、私はその土地を借りながら村を作っていくという形式になる。

 魔物が多発する危険な森の奥だからといって、既にそこを領地の一部としている貴族がいる以上いきなり開拓したから俺の土地だということにはならない。

 普通ならその土地を所有している貴族が資金を出して開拓しようとするものなのだ。

 ただ、今回のようにその土地を所有していない人間が出資して村を開拓しようする場合はその土地の使用権を優遇されるのが普通であり、数十年単位の借地権と更新の際の交渉優先権をはじめの計画書の段階で取り決める。

 領主の事情で途中で契約を解除して土地を取り上げることは可能ではあるが、強行すればその土地に住んでいた住人達だけでなく他の領民や中央の役人達にも良くない印象を与え、取り上げた土地の価値以上の損失が出る。

 本当の中世ならばその情報を封じてしまうこともできたかもしれないが、この異世界では科学こそそんなに発展していないがそこまで情報に疎くないようだ。

 とりあえず、このような開拓としては短めの20年の借地権とその後の交渉権を計画に盛り込んだ。

 私としては転生者が自活するための基礎を確立できればいいのであり、この場所に極端にこだわる必要は現時点ではなかった。


 そして、大事なのは税金の設定。

 この異世界は貨幣制度こそしっかりとしているが、現代のように収入の何%を税金とするということはさすがに無理だった。

 サラリーマンのように雇用主から賃金を得てる場合でもない限りその収入がいくらかなどということははっきりとは把握できない。

 大地主ならそこで取れた農作物を売却していくらの収入と考えることもできるだろうが、小規模の農家だとすべてを現金に換えていくらなどとはできないし、そもそも自給自足で外にほとんど販売しない場合はほぼ収入がないことになってしまう。

 また、農作物の一部を税として収めるという形も受け入れ難かった。

 既に農業を始めてその生活が安定している地域なら毎年何がどのくらいの量収穫できるかがわかっているだろうが、まだ開墾も始めていない村ではその収量はもちろん何を植えるかすらも決まっていない。

 転生者たちの農業であれば自分たちの食べる分だけで完結とはいかないだろうが、もしかするととてつもなく高収入になる場合もその逆も考えられた。

 効率よく農作物が取れるならその一部といっても税金として渡すには高すぎることになるし、逆に少ない時に一定量渡すと自分たちの生活が成り立たなくなる。

 今の村の土地でどのくらいのものが収穫できるかがわからないうちに、農作物の一部と決めるのは危険でしかない。

 土地の広さに応じて税金を払うというのも、同様の問題がある。

 何がどのくらい取れるかがわからないのに加えて、現時点でどこまで村を広げるかすら決まっていないのだから…。

 結局のところ、人頭税がいいだろうという結論に達した。

 もちろん、現時点での村人の人数も決まっていないが、年の初めの時点で村に何人所属していいるかで税金を納める形がもっとも簡潔で計算しやすいとのこと。

 都市部の中流階級以下の人々も人頭税として税金を納めていることが多く、私たちが行っていた住民登録がこの人頭税に相当するものだったようだ。

 ただ、農村ではその村によって税制が違い、人頭税で収めているところもあれば、土地の広さで一定額を収めていたりその年の収穫物の量をきっちりと計算して収めているところもあるらしい。

 私たちの村も収入が安定したら再検討しなくてはいけないということは言われたが、当面は人頭税だけで通してくれることになった。




「それではこの計画に沿って村を開拓しようと思いますので、よろしくお願いします。」

「うむ、森の開拓は簡単ではないだろうが、励めよ。」


 ハミルトン子爵との面会は執務室で、ごく短い挨拶だけで終了した。


 どこぞの馬の骨とも取れぬ私たちに村の開拓の簡単に許可を出してくれたのには、クリストス教との繋がりも一つの要素ではあるが、もう二つほど特殊な条件を加えたからだ。

 一つは村及び周辺の魔物討伐を無料で行い、子爵領内で依頼を出された魔物討伐についても本来の討伐報酬よりも割安で行うこと。

 もう一つは、魔物討伐で得た素材の売却益については別途に税金を支払うこと。


 この異世界で封建制が未だに維持されている理由の一つに、魔物の発生があると推測される。


 前世での封建制はいつか襲ってくるかもしれない敵国から守るという名目でその領地を治め、その領民から税金を取っていたといってもいいだろう。

 もちろん領地の防衛以外にも領主の仕事はあるが市民が代わりに行うことができない大きなものとして兵士を揃えて万が一の時に備えるというのはあるだろう。

 しかし、その万が一がなかなかに来なくなった安定した時代にはその領主の存在は疎まれ、民主化という方向に向かっていく。


 だが、この異世界では万が一ではなく、常に魔物の脅威が発生する。

 その脅威に責任を持って対処するが故に、王族や貴族が権力を維持できるのだ。


 領主が抱える兵士たちは常に魔物との戦いを強いられる。

 加えて万が一の敵国が侵攻してくる場合にも対応しなくてはならないので、その領地の規模で抱えられる兵士の数では対応しきれないほどの業務が常にあることになる。

 そして対応しきれない魔物の数を減らすために討伐報酬というものを設定し冒険者や狩人に魔物の討伐をさせるのだが、その報酬は領主にとって頭の痛い支出と言える。

 あまりにまとめて狩られると一気に財政を圧迫するし、かといって討伐しないと領内を魔物に荒らされ領民たちの反発を招く。

 そこに無料もしくは割安で領内の魔物を討伐してくれる集団が住み着いてくれるなら、領主としては大歓迎だ。

 私たちは人数が増えてからルルイス村周辺だけでなくその活動領域を広げていたが、ハミルトン子爵領も当然その範囲内に含まれている。

 ちなみに、マドゥの街はハミルトン子爵領内にある。

 結果として私たちの魔物討伐の噂もハミルトン子爵には伝わっていて、この追加の条件で大喜びで村の開拓に許可をくれたというわけだ。



 さて、今度こそ村の開拓開始!となると思ったが、残念ながらもう一つやることがある。


 それは村に通じる道の開発である。

 封鎖された隠れ里を作るならともかくほかとの交易を考えれば道は必要であるし、他から物資を運び込んで村を建設するなら道は必須である。

 村の建設とは別に道についても許可が必要であったが、ハミルトン子爵領側はセットで計画を提出し許可をもらった。

 また、ルルイス村に通じる側ではビーデル男爵に許可をもらう必要があったが、こちらも魔物討伐を条件にしてすんなりと許可をもらった。

 軍事的な防衛の問題であったり交易ルートの問題があったりした場合は許可がすんなり貰えない場合もあるだろうが、新たに開拓する村への道の建設は流通の活性化と魔物討伐の効率化をもたらすので領主にとっては利益しかないと判断された。




「まぁ、道を切り開くのも村の開拓の一部だし、開拓開始といってもいいだろうな。」

「もちろんです。ただし、この辺りでも魔物が多く出るので油断は禁物です。」

「討伐報酬はまけてやるつっても素材を売れば儲かるんだから、きっちり張り倒していこうぜ!」


 道の建設に当たってはクリストス教とイスラーム教から派遣された人員も多くいたため、いくつかのチームに分類して作業を始めた。


 一つは周囲の警戒と魔物の撃退を行うチーム。

 主に私と一緒に魔物狩りを行ってきたメンバーに派遣されてきたクリストス教の騎士やイスラーム教の戦士の一部を加えたチームだ。

 実際に魔物が出現してから討伐することも大事だが、非戦闘員が行動を共にしている場合はなるべく早く発見して接近される前に討伐することが重要になる。

 そういう意味ではクリストス教の斥候部隊は信用できるし、イスラーム教の戦士たちにも斥候が得意なものたちが含まれていた。 


 もう一つは実際の土木作業を行うチーム。

 これは雇われの作業員が中心となっている。

 魔物が出る森での作業とあってそれなりに度胸の座ったものたちが集められていたが、あくまで十分な護衛をつけた状態で安全をこちらが保証することになっている。

 そして作業員たちも屈強なものたちが揃っていたが、その補助として連れてこられていた獣達も普通とはひと味違った肝の据わったのが揃えられていた。

 私はいままで魔物は問答無用で人を襲い従えることはできないと思っていたが、それを従魔とすることができる特殊な職業のものたちが存在していた。

 魔物使いとも言われるテイマーたちは人々に忌み嫌われることも多いが、その能力ゆえに報酬も高額だ。

 それをそれなりの数揃えられるというのも、クリストス教やイスラーム教の多額の出資があったればこそだ。

 いまテイマーたちが連れている従魔は特に土木作業を得意とするタイプで、サイのよう外見をしていて鼻先にある一本の角で地面を掘り返すことができる。

 人力でやると数人がかりで汗だくになってやるような切り株を掘り返す作業も、角の一突きで一瞬だ。



 そして、これら二つのチームとは別に、予備戦力的な役目を担いながら特訓を行うチームが存在した。


「闘技が使える人たちは同じような技を使えるでしょうが、感覚だけでなくきちんと魔力の動きを意識して行うようにしてください。」

 私は魔力を光の属性へと変化させて剣に纏わせ、目の前の大木に切りつける。


「「「おぉぉー」」」


 長剣が音もなく直径1mを超える大木を断ち切りゆっくりと倒れていくさまを見て、後ろで見ていたものたちが歓声を上げる。

 クリストス教とイスラーム教から派遣されてきた魔法に対して適性のある訓練生たちを前に、私はデモンストレーション代わりに木の伐採を行っていた。

 魔術師の代替の育成は開拓が落ち着いてから行っても良かったが、どうせならそのトレーニングを開拓に活かそうと考えたのだ。

 最終的には、対魔物、対人について実戦で鍛えなければいけないが、その前に魔力操作の基本や身体強化や防御などの基礎のトレーニングは必要となる。

 動かない木に対して魔力を纏わせた剣で切りつけることや、切り倒した木材を筋力強化した上で運ぶ作業、またシールドを使って木が倒れる方向を固定させるなど、使い方は色々とあった。


「やぁ!」


 クリストス教の騎士見習いの一人が私を真似て木に切りつけたが、綺麗に切り倒すことができず表面の木屑が周囲に飛び散った。


「力任せに叩きつけるのではなく、きちんと剣の形をイメージして細く鋭く纏わせるように。

 闘技の延長で大雑把なイメージで魔力を使うのではなく、きちんとイメージを固めて絞って使うことで消費を抑えながら威力を上げることができます。

 一体一の模擬戦などでは力任せに使い切ってもいいでしょうが、戦場ならその持続力も必要になりますからね。

 慣れないうちはまず枝払いに挑戦してみてください。

 また、魔力に属性を乗せることで効率を上げ、様々な形態を持たせることができます。

 マイルズ、エアカッターを見せてやってくれ。」

「はい! カッター!!」

 マイルズが放った空気の刃が3本程の木をまとめてなぎ倒す。

「これで魔術師たちの中級魔法クラス。

 魔術師たちの代替として活躍しようと思うなら目標としてこの中級魔法程度を使えないといけないと思ってください。

 また、身体強化や防御強化の魔法も使えたほうが、より強力により安全に戦うことが出来るので覚えることをおすすめします。」

 私は身体強化を施した上で、普通なら3,4人で移動させるような大木を片手で持ち上げて枝払いのしやすい位置に移動させた。

「事前に自分がどの適性があるかを調べたと思いますが、その属性に魔力を変換してから形を変えることによって消費する魔力に対しての威力を上げることができます。

 まずは魔力をその属性に変化させて剣に纏わせる訓練をしながら、伐採作業の補助を。

 あ、ただし、ここは森の中なので火の属性は使用禁止です。

 火の属性は後で別の場所で訓練させるので、別の属性を使うように。

 適性が火しかなかった人は仕方がないので魔力に属性をつけずに無属性の魔力のまま剣に纏わせるようにしてください。

 属性を使いこなしさらに思い通りのイメージを乗せることができるようになれば、様々な応用が効くようになるでしょう。ウォール!」

 周囲の土を削ちながら作り上げた土壁が切り株を掘り出すように持ち上げ、さらにもう一操作で切り株を残して崩れ落ちる。

「ただの土木作業でつまらないと思うかもしれませんが、まずは思うように魔力を動かすための反復練習の一環だと思って協力してください。

 魔力操作に慣れて持続力が付いたと判断できたら魔物討伐班の方に配備していくので、ただのトレーニングではなくすぐに実戦が来てもいいような心構えでお願いします。

 ちなみに、大型の魔物が出た場合はまだトレーニングが不十分でも討伐班の方に応援に行くので、その時は諦めてできる限りの力を振り絞ってくださいね。」

「「「「はい!」」」」

 まぁ、ほんとに大型の魔物が出たら私が参戦した上で魔力を集めて上級魔法でも使おうと思っているのであくまでちょっとした脅しでしかないけれど、もしかしたら不十分でも戦闘に連れて行くという宣言で皆の表情が引き締まったのは確かだ。

 ただ、それでも急に上達するはずもなく、あくまでこちらの土木作業はまだついでにやっているに過ぎない。

 本来の土木作業チームは危なっかしくてこちらに近寄れないのが現状だ。

 また、ここには最低限の魔力操作のできる、ある程度の戦闘力がある人間だけを連れてきているが、まだまともに戦闘に参加できない騎士見習い未満の者や戦士候補のもの、そして新たに追加された転生者などはルルイスの村でルルイスから魔女の何人かを借りて初歩から修業中だ。


「まぁ、とりあえず始めたばかりならこんなものだよな。」

 私は危なっかしい魔力操作を使いながら枝と格闘している見習いたちを見ながらつぶやいた。




 まだ道づくりと格闘しながらとはいえ、とりあえず村の開拓作業は開始されたのである。


のんびりと開拓開始…(更新ものんびりですがw

ま、いくら金や資源を惜しみなく投入しても、そんなすぐには進まないんですよね

小説なら一気に巻いて終わらせることもできますが…w

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