4-2 資金確保
なんのかんのと時間がかかってしまいましたね…
神との邂逅を終えたあと、私は改めて宗教指導者たちと向き合った。
「さて、では改めて説明させていただきますが、まずは皆さんをこちらの都合でお呼びだてしたことをお詫びし、ここまで来てくださったことに感謝をします。
これからお願いしていくことはとても困難で大掛かりであるため、その重要度を理解していただくために神から直接の言葉を聞くべきだろうと思ったためお願いしました。」
宗教指導者たちは突然の神の降臨という出来事に放心状態であり、その護衛たちもまた狐につままれたような顔のまま神が座っていた祭壇を見つめていた。
一番初めに再起動したのは、これが二度目の遭遇となるマイルズだった。
「こ、これが先ほどの話にあった、魔術師ギルドが王国の敵であるという証拠となる資料です。
核心となるいくつかの映像と証言を記録した魔道具については、複写したものを用意しました。
証拠の原本については、厳重に保管させています。」
マイルズは私があらかじめ用意して持たせていた資料と魔道具を放心してる護衛たちの手に押し付けるように渡していく。
資料に用いた紙や映像を複写した魔道具は高価であったが、そのくらいのコストをかけた証拠でなくてはこれから行う行動に見合わないと奮発した。
次に我に帰ったのはプレイアデス枢機卿。
「あぁ、お詫びなどとんでもない。このような素晴らしい場面に呼んでいただいたこと、わが人生最高の瞬間です。
これからもサトシ様に誠心誠意お仕えしていきますので、なんなりとお申し付けください。」
プレイアデス枢機卿は事前に私が神との邂逅を何度かなし得ているのを知っておりその様子についてマイルズからの報告を受けていたためにまだ衝撃が少なかったようだが、実際に自分で遭遇するのは伝聞できいていただけとは大違いだったようだ。
枢機卿にはこれまでもいろいろと世話を焼いてもらっていたが、今後さらに腰が低くなってしまいそうな勢いだ。
「前にも言いましたが、私は預言者でも救世主でもありませんし、あなた方より偉いわけではけしてありません。
個人的にお願いすることが少しありますが、あくまで私個人のものとあなた方が仕える神の願いは別に扱っていただきたいです。
私は神の願いを個人的に聞いて対応していますが、あくまで個人的に自身のためにやっていることです。
その過程で教会や王国のためになることもあるでしょうが、私自身のことを優先するつもりなので。」
私は神のために必要以上に自己を犠牲にするつもりはないし、王国のためにこの身を捧げる気もない。
「おぉ、神よ…なんと神々しい…」
「アッラーフ アクバル! なんという奇跡が…」
残る宗教指導者ふたりはまだ夢の中という感じだが、言葉を発する程度に意識が戻ってきているのなら私の言葉も一応は聞こえるだろう。
「今回いままで私が直接お会いしたことのなかったお二人をこの場に招いたのはこれからお願いすることがクリストス教とイスラーム教という組織に対して大きな影響があるということもありますが、同じ神に使える者同士での争いをしないで欲しいという思いからです。
前世においては同じ”ヤハウェ”という名の神の信者でありながら、宗派の違いや派閥の違い、そして教義の違いで激しい対立が行われて、戦争にまで発展していました。
この世界でも同じような争いが少なからずあったと聞いていますが、この世界には他の神に属する明確な敵が存在するので同じようなことをしていては負けてしまいます。
お互いに過去のしがらみはあるでしょうが、まずは手を携えて他国の脅威に立ち向かい、他国に荒らされない国づくりに協力していただきたい。」
「も、もちろんですとも。
私はいままでサトシ様の事をプレイアデス枢機卿が派閥争いを有利にするために作り上げたまがい物だと思っておりましたがとんでもないことです。
我らクリストス教は神とサトシ様のため派閥を超えて力を合わせ、外敵に立ち向かっていきます。」
教皇ルイス8世はやや背が低めで太めの老人で、いかにも財力のありそうな高位の聖職者といった容姿だ。
まだ枢機卿としては若く背が高くてがっしりとした体格のプレイアデス枢機卿と比べると、少し頼りなくも見えるがそれが聖職者の徳として見える部分もあるだろう。
「われわれイスラーム教もクリストス教と手を携えて外敵と戦っていきます。
過去にクリストス教や王国との諍いはありましたが、同じ神を崇めるものとして協力し合えると信じております。
ただ今我々穏健派は、イスラーム教の一部のものと袂を分かっておりますので、イスラーム教徒すべてが協力するとお約束できないのが残念です…」
マイム師は教皇よりもさらに高齢で、やや痩せ気味のおじいちゃんといったところ。頭髪やヒゲは真っ白ではあるがそれなりに伸ばしてあり、高齢ながらもまだ健在であることが見て取れる。
「そうですね、残念ですがイスラーム教のすべての派閥と共闘することはまだできないでしょう。
前世のキリスト教に過激派がいなかったとは言いませんが、今転生してきているイスラム教過激派の人々は少し度が過ぎていますからね。
そのものたちが中心となっているコミュニティーとはまだしばらく接触もしない予定です。」
派閥や宗派を超えて手を取ろうなどと言ってはいるが、正直なところは単独では手が足りないのでできるだけ多くの者たちに協力して欲しいというだけのこと。
足を引っ張る可能性が高いものたちまで無理矢理巻き込もうとは思わないし、過激派の連中がクリストス教と共闘すると聞いて素直に従ってくれるとも思えない。
私の望みはすべての信者の平和ではなく、王国が他の国に害されないようにすることなのだから。
「さて、魔術師ギルドの排除に関する行動の順番ですが、まずは王国の上層部に魔術師ギルドが害悪であることを理解してもらわなければいけませんが、その前に魔術師ギルドが裏でやっていることを知りながら擁護している貴族たちを特定して排除しなければいけません。
もし上層部にもその裏を知りながら魔術師ギルドからのリベートを目的に便宜を図っているものがいるのならば同様に排除する必要があります。
その情報を直接魔術師ギルドから入手するのは困難ですが、今回は奴隷にした転生者を賄賂として引き渡していた一部の貴族が判明しています。
まずはその貴族を足がかりにして、貴族同士の横の繋がりから魔術師ギルドから不当な利益を得ているものたちを炙りだしていただきたい。」
魔術師ギルドの排除を行う際に王国の上層部や貴族からの妨害があれば、そこで躓く危険性がある。
まず叩くのは頭の方、それも味方として存在するお偉いさん方の中に潜んでいる敵である。
「また、その過程で転生者を奴隷として取引していた奴隷商人も潰してしまいたいです。
現状、奴隷商人の間では転生者が高価な奴隷であるとされていて、ここしばらく教会の方での買い上げがあってさらに価値が高騰しています。
しかし、転生者の奴隷に価値があるという現状では、いま健全な状態にある転生者を捕らえようとするものが現れたり既に奴隷になっているものを開放しようとしなくなったりすると思われます。
それに加えて魔術師ギルドが目をつけたものを強引に魔術師にしようとするときに暴力に訴えることがあるようですが、それに協力している奴隷商人やごろつきたちもいるようです。
王国では奴隷自体は合法ですが、だからといってどんなことでも許されていると思わせてはいけません。
王国に明らかな不利益をもたらす奴隷商人たちを排除してこそ、外国と戦える国になるのです。」
正直なところ奴隷商人を潰すのは王国の敵を潰すというよりも、私や私の仲間になってくれたものたち、そしてこれから仲間になってくれるかも知れないものにとっての利益が大きい。
残念ながら今の奴隷ありきの王国の体制をいきなり変えることは不可能であるが、少なくとも転生者を勝手に捕らえて奴隷にしていいとなっている現状は変えてしまいたい。
「貴族や奴隷商人の排除については、必ずしも法律に則って正式にやらなければいけない必要も生かして関係に突き出して裁判を受けさせなければいけない必要もありません。
もちろん、そのほうが効率がいい時はしっかりと王国の兵士なり憲兵なりを使って対処しても構いませんが、効率がいいなら暗殺やまったく関係のない罪での冤罪であってもその排除に用いて結構です。
私は神の使徒ではありませんが、同じように正義の味方でもありません。
この世界の教会についてはそこまで内情を知りませんが、前世におけるキリスト教やイスラム教がかならずしも表の活動だけで大きくなったわけではないことは知っています。
私自身聖人ではないので、その方法の清濁については一切こだわりはありません。
大事なことは今ある力でできるだけ速やかに王国の脅威を排除することです。」
「そ、そうですね、我々もかならずしも裏の手法を用いることにためらいがあるわけではありません。
サトシ様からそのような厳しい言葉を聞くとは少し意外ではありましたが、速やかな外敵の排除の必要については同意します。
我々が持つすべての方法を使用しましょう。」
プレイアデス枢機卿は私が善良な人間だと思っていた節があるので多少の戸惑いはあるようだが、よく思い返してみればもう少し残酷で狡猾な人間だと気づいてくれるはずだ。
まぁ、私も手段にこだわらないだけで悪人になりたいわけではないが…。
「さて、魔術師ギルドをアブラハム王国から追い出すにあたってもうひとつ必要なのが、現在王宮や王国軍に所属している魔術師の代わりを用意することです。
魔術師が他国に属していると分かっても排除することで不利益となるのならばそれを躊躇するものもいるでしょう。
もちろん、いまいる魔術師たちをすべて置き換えようと思えば、人材を用意するのに時間がかかるし手間やコストもかかるので反対されることもあると思います。
ですが、中級魔術師程度を育成するのに3年も必要とせず、成長すれば上級魔術師に相当する力を持てるとなれば賛同してくれる王国のものもいるはずです。
なにより根本的に他国に属していてグドゥルフ王国との戦争では働かないレンタルの魔術師よりも、自国に所属している魔術師の代わりのもののほうがいいに決まっています。
その育成については私の方で協力しますし、王国上層部の説得のために魔術師ギルドのものではない魔法のデモンストレーションを行っても構いません。
多少の補助は必要ですが、上級魔法の一歩手前位の魔法はお見せできます。」
魔術師ギルドのデメリットを明確にする必要もあるが、今あるメリットの代わりとなるものを提示しないと素直に排除に応じない可能性があると思っている。
私が今使っているものから考えても魔法が使えるのならばそれは強力なものであり、魔物との戦いや王国の守り、そしてグドゥルフ以外の国との戦争で必要となるなら手放せないものであるのだから。
そして、その代用となるものが魅力的であればあるほど、魔術師ギルドの排除は速やかに行われる。
「魔術師の代用について具体的なお考えがあるように見受けられましたが、新たなコミュニティーとは?」
さすがプレイアデス枢機卿はあの状態でも私と神の会話を聞いていたようだ。
「転生者を集めた村を作ろうと思っています。
現在はルルイスの村を拠点として活動していますが、よそ者である転生者を集めすぎると不審に思われるでしょうし魔法の訓練のためにクリストス教やイスラーム教に属するものを多く呼び寄せるのも問題があります。
なにより、魔物狩り以外の活動をしようと思うならより広い土地が必要となり、ルルイス村に大きな負担をかけるわけにはいきません。
そしてもちろん、王都の中に拠点を作ることは王都の治安の観点からも土地の観点からも厳しいです。
王都からの距離としては結界となってる村の外側でルルイス村位離れているのが好ましいと考えていますし様々な繋がりもあるので、ルルイス村の程近くのちょうどいい位置の森を切り開こうと思っています。」
「ですが、村を新たに開拓するというのは容易な話ではありませんよ?」
「そうでしょうね…。しかし、それは転生者にとって必要なことの一つだと思っています。
われわれにとってはこの異世界はやはり異質なもの。
その中に溶け込めるものもいるでしょうが、溶け込めない転生者たちが自分たちだけで生活できるコミュニティーというものも必要となるのです。
そのためにはたとえ困難でも一から村を構築するのが確実です。
資金や人材の面でみなさんのお力を借りすることになると思いますが、よろしくお願いします。」
「もちろん、わがクリストス教は可能な限りお手伝いさせていただきます。
枢機卿派だけでなくわが教皇派にも人と金を援助させてください。」
教皇はまだ派閥争いをするなという話を理解しきれていないようで、プレイアデス枢機卿より出遅れていることに焦りを感じているようだ。
そこをすぐに改善するのは難しいだろうけど、今はまず枢機卿だけを優遇しているのではないと理解させることが先決だ。
「我がイスラーム教もご助力させてください。
必要なものがあればすぐに用立てますので。」
そしてマイム師にも同じように焦りがあるが、それと同時に不安が垣間見える。
私の方からイスラーム教にも繋がりを求め協力を求めたからこの場にいるのだが、クリストス教との差は明らかにある。
それが私個人や王国との関係であるならそこまで焦りはしないだろうが、神との関係であれば話は別だ。
クリストス教とイスラーム教が同じ神を信仰してるという意識はあっただろうが、その神が目の前に現れて双方に願いを伝えてともに同じ目標を与えられた。
その実現のために私との繋がりが必要とあれば、クリストス教に後れを取っている状態は非常にまずいのである。
私はそんな二人の焦りを見ながら、ふたりをこの場に呼んだ目論見通りになっているとほくそ笑む。
この場に宗教指導者三人を呼んだのは魔術師ギルドの排除に際してお互いに協力させるためと、それと同時にいくつかの競争をしてもらうためだ。
魔術師ギルド排除については私は繋ぎ程度のことしか今はできないが、私というどの勢力にも属していないがその目的のために必要だと思われている繋ぎがいれば、お互いに足を引っ張ることは少なめでその競争は目的達成の方向に行けるだろう。
そして、私のもう一つの目的である転生者の村づくりについては競うように人や資金を出してくれるに違いない。
実際の開拓というものはお金がかかるものである。
開拓というと食い詰めた貧民をそこを開拓しろと命じて放り込んでおけばそのうち発展するようなイメージがあるが、土地以外をほとんど与えずに開拓させればその土地が使い物になるまで長い時間と少なからぬ開拓者の犠牲が必要になる。
理想とロマンだけを語り何もない土地に人々を放り込むのは残酷なことなのである。
私はロマンだけを抱えてのんびり時間をかけて開拓したいわけではないので、しっかりとした道具と資材、そして十分な食料と労働力を投入して一気に村を作ってしまいたい。
そのための後援者が容易に手に入るのであれば、手に入れておくに越したことはない。
「私は専門の密偵も持っていなければ、貴族との繋がりもありません。
魔術師ギルド排除の第一歩はみなさんの組織の力を頼ることになりますので、よろしくお願いします。
また奴隷商人も近場の小規模な相手なら私どもで対処できなくはないですが、遠くの都市にいる商人や王都にいる大物奴隷商人などは私どもでは対処できないのでお願いすることになります。
我々の目的は奴隷制の廃止ではなく転生者を奴隷として扱わせないことなので、すべての奴隷商人を潰す必要はありませんし転生者を扱っていてもこちらに好意的に交渉してくれるのならば味方に引き入れても構いません。
大事なのは奴隷市場に転生者が流れることを防ぐこと。
そのためのアメとムチが必要だと思ってください。
それと、排除する貴族や奴隷商人もただ抹殺するのではなく、できれば次の標的になるものについての情報をなるべく聞き出していただきたい。
芋づる式に魔術師ギルドにつながる者たちを炙りだすのは大事なことです。」
これらのことは私がとっかかりをつけたとは言え正直私の手に余る。
多少の軌道修正は必要かもしれないが、できれば教会という組織に丸投げにしておきたいところである。
「村の開拓についてはこれから場所の選定に移り決まり次第作業の予定を組んでいきます。
その為の道具や資材の確保、人員の確保などをお願いします。
また、人員の中にはある一定数魔法使い候補を含めていただきます。
どのような人物が候補なのかは改めて詳細をお伝えしますが、村の開拓と魔法使いの育成を同時進行で行っていく予定ですのでよろしくお願いします。」
すこし駆け足ではあるが、村の開拓を速やかに進めることと同時に魔術師に代わる独自の魔法使い育成は急務である。
実際のどのくらい適性があるものがいるかは未知数ではあるが、ほかの団体に比べれば宗教団体というのはそういう人材を確保していそうだし奴隷狩りの拠点から手に入れた適性を見る水晶もあるのでそれなりの人数を確保できるのではないかとみている。
「いろいろお願いすることが多いですが、よろしくお願いします。」
「はっ、これからもサトシ様のため精一杯務めさせていただきます。」
「私どももこれからサトシ様のために尽力いたします。どうぞよしなに。」
「我らイスラーム教も負けぬようにお手伝いさせていただきます。なんなりとお申し付けください。」
「神の望みのために尽力頂き、そのついでに私の方もお願します。
あ、くどいようですが、私は預言者でも救世主でもなく、別に偉くはないのであまりかしこまらないでくださいね。
あくまでほんのちょっと神との会話を橋渡ししているだけなので…」
私はしきりにお辞儀する三人にお辞儀を返しながら、あまり偉くはなりたくないなと思ってはいた。
もちろん、神との会話の橋渡し役=預言者なのはわかっているのだが、そこは違うと言い切っておく。
少なくとも、これで村開拓の資金面は確保できたなと思いながら、私はその候補地をあれこれと思い浮かべるのであった…。
前の部分から拾うものが多すぎてそれだけで埋まってしまった感がw
よく読むと、まだ教会から出てないという…
いや、開拓ってのは時間がかかるものなんですよ(ほんとかw




