3-10 数もまた力
ズルトの街近くにあった奴隷狩りの拠点の前で集合し、皆の前にたたずむ。
拠点を制圧したあとの調査には三日を要した。
本当ならば必要なものだけを回収してすぐさま撤収するべきだったが、ここから動かせないもので調査が必要なものがあったためだ。
内部にあったあの祭壇は、クリストス教でもイスラーム教でもなく、そして前世にあったどの宗教のものとも違っていた。
そもそもあの祭壇に祀られていた神々が異形すぎて、まず我々の世界のものではありえない。
また、その部屋に描かれていた魔法陣はかなり複雑なものであり、それを正確に書き写すだけでもかなりの時間が必要だった。
祭壇と魔法陣は一体何に使われていたのか?
その解明にはかなりの時間が必要と思われたが、その答えは向こうからやってきた。
我々が魔法陣を調査してる最中に突然祭壇が光り出し、聞いたこともない言葉が聞こえてきたのだ。
私にはさっぱり意味がわからなかったが、その時同行していたアルがその言語を習得していた。
それは魔法王国グドゥルフの言葉であった。
「どうやら、アブラハム王国に転生者が現れることを知らせてきているようです。」
「それは誰が知らせてきているんだ?」
「わかりませんが、かなりの威圧感を感じますね。」
「そもそも祭壇は通信機器ではないか…」
時を同じくして魔法陣で何らかの魔力が流れているのを感じたため、魔法陣の中心へと足を踏み入れる。
すると、頭の中にイメージが浮かび上がってきた。
真っ白な部屋の中にいる中東風の衣服を着たふたりの男性の姿が見える。
「これは転生するときに一度集められた部屋の映像か? なるほど、こうやって転生者の姿や人数を確認した上で捕獲しに行くという仕組みか…」
だが、これほどの魔法をどうやって作り上げ、誰が動かしているのか?
すくなくとも、ここにいた魔術師ではないだろう。
例えばそうであったなら、私たちしかここにいない状況では制御できないだろう。
では、遠くの、たとえばグドゥルフ本国の上級魔術士などが動かしている?
逆にそうであるならば、ここまでの仕組みはこの拠点に必要ではない。
魔道具を用いた長距離通信によって伝達すればいいだけのこと。
そして、この祭壇とは別に長距離通信用の魔道具は押収して既に運び出してある。
「となると、この仕組みを動かしているのは…だが、そんなことはあり得るのだろうか…?」
私はある一つの仮説にたどり着いたが、それを検証する方法は今はなかった。
まぁ、私の場合、そのようなありえないことについて確かめる方法がなくはないのだが…。
「ともかく、この祭壇と魔法陣の機能はわかったわけだ。この仕組みを再利用できないということもわかったし、この拠点が放棄されていなかったのもこの祭壇を動かすことができなかったためだということも予想できる。これで、この拠点についての疑問点もなくなったし、破壊しても大丈夫になっただろう。」
元々この拠点を私たちで襲撃したのは、拠点が存続されてる疑問解決と奴隷狩りへの報復という理由があった。
だが実際に襲撃を行って、思わぬ収穫も多くあった。
遠距離通信用などの魔道具がたくさんあったが、その中に一度見たことのある水晶を見つけた。
そう、それは魔術師ギルドで最初に魔法の才能を確認するために用いられた水晶だ。
今いるメンバー達の魔法の習得にあたっては手当たり次第に試してその適正を予測するしかなかったが、これを用いれば初めからその人の適性や魔力の大きさが分かる。
恐らく、この水晶がここにあるのは捕獲した転生者達の魔法適性をまず測定してみて、適性の高い人間を魔術師として洗脳して利用していくためだろう。
この水晶自体は魔術師ギルドは何個か所持していたようだがその機能の複雑さ故にほかの組織では複製することはできず、また外部に流出しないように細心の注意を持って保管されていたものだ。
しかし、この拠点は重要な場所であったがゆえに水晶を撤去することができず、それでいて最近は機能していなかったがゆえに警戒が薄かったのだろう。
複製するのはともかくとしてこの水晶を一度使って適正を確認できるだけでも、魔法の習得には大きな助けとなるであろう。
また、魔道具ではない道具でも、大きな収穫があった。
いや、恐らく魔術師たちにとっては道具というよりゴミ同然のものだったのではないだろうか?
それは拠点の倉庫の片隅に無造作に積み上げられていた鉄で作られた道具。
そこには大量の”銃”が積まれていた。
そう、最近転生してきている人間は中東で戦争をしている人間が多いのだ。
それがテロリスト側かテロリストを殲滅しようとしている側かはともかく、銃や様々な武器を持ったまま転生した人間も多いだろう。
そして、武器を持った転生者は自分たちを捕らえようとする奴隷狩りに襲われれば銃を使って反撃する。
対する奴隷狩りたちは銃を使われる前に無力化しようとするだろう。
ただ剣や弓を使って攻撃しその上で無力化して捕獲しようと思えば銃相手に無傷とはいかず苦労するだろうが、魔術師がいる奴隷狩りとなると少し事情が違う。
銃を使う前に睡眠の魔法で眠らせてしまえばいいのだ。
銃を持ってはいるものの周りの状況がわかっていない転生者と、相手が銃を持っていることが分かっていて睡眠の魔法も使うことができる奴隷狩り。
一方的な結果になることが予想できるだろう。
では、魔術師ギルドや奴隷狩りの連中は銃を使おうとはしなかったのだろうか?
そこには銃という武器の難しさが関わってくる。
そう、銃は弾が切れれば何の役にも立たなくなるのだ。
確かに強力で誰でも使うことが出来るが、あっという間に弾がなくなって使い物にならなくなる重い道具。
前世における現代で使われている銃で使われている弾薬は構造が複雑であり、そう簡単に複製はできない。
ましてや銃や弾薬、その他の武器を作っているのは戦場にいる戦士たちではなく、何処か遠くに工場を持つ兵器メーカー。
遠くで、下手すると別の大陸で作られた武器は武器商人の手によって運ばれ、紛争地域の人間のもとに運ばれ売られていくだけ。
武器を作っている人間がその紛争で直接死ぬことはなく、その製造方法を知っている人間は転生してこない。
結果として、前世から持ち込まれた銃は弾を撃ち尽くすと二度と使えない使い捨ての道具になるのだ。
それは魔法の使えない一般人ならまだしも、休んで魔力を回復すれば繰り返し何度でも魔法の使える魔術師から見れば、欠陥品の道具にしか見えないだろう。
では、放置されている銃は弾をすべて撃ち尽くして放置されているのか?
弾がまだ残っている銃は使い捨てとは言え一度は使える強力な道具であり、それを持って行って使おうとする人間はいるであろうから廃棄されている銃は弾切れであると考えるのが普通だ。
私はもちろん、転生者で銃弾などを再現できる人間はほぼいないだろう。
となれば、弾切れの銃など私たちにとってもただのゴミでしかないはず。
だが、意外なことに放置されている銃には弾が残っているものがあったし、予備弾倉もいくつか一緒に放置されていた。
使い捨てにするしかないとは言え強力な武器であるはずの銃を、なぜ弾が残った状態で放置していたのか?
そこには安全装置が関係していた。
たまが残った状態で放置されていた銃には安全装置がかかっていたのだ。
しっかりとした訓練を受けていないものだとおざなりにしているだろうが、正規の訓練を受けた兵士は普段は銃には安全装置をかけておくものだ。
それが徹底された状態で不意打ちで眠らされた兵士たちの中には安全装置がかかっていたのだろう。
そして、この異世界では言葉が通じない。
言葉が通じるのであれば安全装置のことや弾倉の交換のことなどを知ることができたであろうが、言葉が通じない相手から聞き出すことはできないし、意思の疎通ができない転生者に銃を持たせて説明させるのは危険なのでできない。
結果として、まだ弾が残っている銃でも安全装置がかかっているものは弾切れとして扱われ、予備弾倉も使い方のわからない道具として放置されたのだろう。
また、より安全装置の解除が難しいいくつかの武器も一緒に放置されていた。
私はともかく、ステファンやジョルジュの元兵士だった者たちはその扱い方は分かっているはず。
これらは私たちにとっては驚くような収穫となった。
また、道具ばかりではなく、拠点で鹵獲した人と情報も大きな意味を持っていた。
生きて捉えることの出来た人間の中でもっとも大きな意味があったものは誰か?
もちろん、ミズキが復讐したかったごろつきの長ではない。
この拠点にあった転生通知用の装置を扱っていた魔術師?
だが、あの仕組みや通信道具を使うことさえできればどんな魔術師でもいいわけで、このような田舎の街の近くの拠点に常駐する魔術師が重要人物のはずはない。
魔術師でもないのに拠点にいた二人の文官?
確かに魔術師と合わせて奴隷狩りに魔術師ギルドが関与していた証拠になるし、魔術師ギルドの背後にいる組織の情報も出てくる。
だが、それらの証拠としては彼らが拠点から持ち出して処分しようとしていた書類や手紙などで十分であった。
意外に思うかもしれないが、ゴロツキと一緒に酒を飲んでいた奴隷商人が実に重要であった。
それは、転生者を奴隷にした復讐という意味ではない。
その奴隷商人やごろつきは魔術師ギルドと長期契約で転生者の鹵獲や拠点の防衛を行っていたために転生者が途絶えてもこの拠点に残っていたが、転生者が頻繁に現れていた時には転生者の多くを奴隷とし商品としていた。
その奴隷の売買にもまた魔術師ギルドとの関係が重要になっていた。
魔術師ギルドと深い関係にあるほかの奴隷商人やアブラハム王国の貴族たちに、格安で転生者を奴隷として販売したりより能力の高い奴隷の取引を行っていたのだ。
その取引相手の名前を絞り出すだけで、魔術師ギルドが行っている拉致に協力してる奴隷商人や、魔術師ギルドに便宜をはかっている貴族の特定ができてしまう。
いままでどこまで魔術師ギルドがアブラハム王国の中に食い込んでいるかの特定に時間をかけていたが、それをきっかけに一気に進むかも知れない。
その突破口を我々に気付かせてくれたという意味で非常に重要な人物となったのだ。
「さて、思った以上の収穫を我々にもたらしてくれた拠点だが、そろそろお役御免だな。放置して盗賊の根城になったりしても困るから、最後は派手にぶち壊そうか。」
私はゆっくりと長剣を抜き放ち、大上段に構える。
この拠点から得ることができた成果の一つと言える、ある魔力の使い方。
それは元はといえば長距離通信を行う際に魔力が足りなくなった時の為に用意されていた技術であったろう、他人の魔力だけを抜き出して魔術師に移す魔道具の技術であった。
魔術師ではないが魔力を持った人間から強制的に魔力を抜き出して移す道具であったが、その発想と制御機構の一部だけを応用し、任意で魔力を他人から集めて大きな魔法として利用する方法を作り出した。
魔道具から抜き出した制御機構に紐をつけただけのペンダントが皆から集められた魔力によって淡い光を放つ。
強制的に魔力を抜き出す部分とは別にしてあるため、自分で魔力を動かせる者たちからしか集められないが私たちが使う分にはそのほうがいいだろう。
皆から無理のない範囲の魔力を少しずつ集める方が、魔力を送る方の負担は少なくて済む。
今は魔道具から取り出した制御機構をそのまま使っているが、いずれは量産して多くの人達が魔力を集めて使えるようにしたいと思う。
私はその魔力に光の属性を与え、構えた剣に乗せるような形で巨大な光の剣をイメージしていく。
魔力はそのイメージ通り眩しく輝く大剣を形作っていく。
「さぁいくぞ! 神剣エクスカリバー!!」
10mにも達しようかという巨大な光の剣を、奴隷狩りたちの拠点となっていた小高い丘にまっすぐ叩きつける。
それは私個人では魔力が不足する、上級魔法と言っても差し支えない規模の魔法だった。
より修練を積み使いこなせるようになれば城壁を破壊したり軍勢をなぎ払ったり出来るであろうが、今は上からまっすぐ振り下ろすのが精一杯。
それでも、見るものたちに畏怖を感じさせる、強力な魔法と言える。
中を掘り下げて拠点としていた丘はその一撃で風船が割れるかのようにぺしゃんこに潰れ、天井は完全に崩れ落ちて瓦礫の山と化した。
これでこの丘をもう一度同じような拠点にすることはできなくなったであろう。
光の剣で丘を真っ二つに叩き潰す。
それは拠点に突入して制圧するよりも遥かにわかりやすく一度は奴隷にされた仲間たちに一つの区切りを示した。
それがただのパフォーマンスに過ぎないことは分かっていたが、元よりこのようなものを求めて拠点を潰しにズルトの街まで来たのだ。
これで苦しかった奴隷時代のことを気持ち的に整理し、前に向かって進めるようになると信じたい。
「さて、それでは一度ルルイスの村に戻って、次にどうするかを皆で考えようか。」
「「「「「はい!」」」」」
皆の晴れやかな返事が耳に心地よい。
私たちは有形無形の戦果を手に颯爽と帰路についた。
回収した銃器類は重すぎてもう一台の荷馬車が必要となった。
捕らえた魔術師や奴隷商人の措置はクリストス教の者たちに任せたが、我々がいるときに聞き出せた内容だけでも十分なものと言える。
手に入れた様々な魔道具も魔法の適性を調べる水晶も貴重なものだし、魔力を集める機構以外にも貴重な魔法関連の資料も手に入れた。
これだけの戦果があれば胸を張って凱旋といってもいいだろう。
一つのことを成し遂げた皆の笑顔を見ながら思う。
これだけの仲間たちと一緒であれば、ブラックベアを倒すことはできるようになっただろうなと。
人数が増えたこともあり、安定した生活を送るためにはまだまだこれからのことを考え直さなければいけないだろう。
だがそれでも、私自身もこの異世界での一つの区切りを超えることができたように感じていた…。
作者:ふぅやっと3章終了かな?
少年神:ちょっと時間かけすぎじゃない?
作:体調が悪かったり、いろいろ忙しかったりしたんだよ…
神:言い訳してるけど、別のものを書いたりモチベが下がったりしてるだけじゃないか。
おかげで僕の供物がいつまでたっても来ないよ
作:結局、そこが問題なんだねw
前にどんな供物をあげたか、もう半分忘れてるなぁ
神:忘れずにちゃんと用意してよね
作:次の章がさくっと書けるかは燃料しだいかな?
神:そこは神のみぞ知るですねw




