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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第三章 さぁ、パーティーを始めよう
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3-9 ズルトの街再び

 私達は再びズルトの街に来ていた。


 ルルイス村から馬車を用いて約6日、パーティー全員で来ていた。

 長距離の移動のためにとマリアンヌにも来てもらったのもあるが、目的を話すとなぜかイツキも御者として付いてくることにこだわった。

 クリストス教の護衛達もアルも一緒に来ている

 また、クリストス教の間者たちも今回はその協力を正式にお願いしてあり、イスラーム教も多少のバックアップ要員を派遣してくれているらしい。


 なぜ、ここまでの人数を引き連れてズルトの街に戻ってきたのか?


 もちろん、ゴローの墓参りのためではない。

 個人的にすべてが終わったあとに顔を出してもいいが、それは私だけの話だ。


 転生した場所だから懐かしくなった?

 そんな感情を持っている転生者はいないだろう。

 昔ならともかく、今私とともにいる転生者はここには苦い経験しかないはずだ。



 すべては魔術師ギルドを調査していたクリストス教の間者からの情報から始まった。


 魔術師ギルド関連の動きを探っているうちに、どうやらズルト周辺で奴隷狩りをやっていた連中がまだそこにいるらしいという話が出てきたのだ。

 私が神様と話をして転生する場所がズルトから変更されて約3ヶ月。

 その間にズルト周辺に転生するものはいなかったはずなのだからとっくに撤収しているものと思っていたが、どうもまだ拠点が維持されているらしい。


 なぜ、拠点が維持されているかを調べてはいたらしいが、新たな転生者がいなければ大きな人の出入りもなく、外からの調査も限界に来ているらしい。

 そうなると直接踏み込むしかないが、私が直接手を出すのは控えてまずは調査を進めながら活動を阻害していくべきと進言したために手を出せなかったらしい。

 そこで枢機卿から私に相談が持ち込まれて、まだ維持されていることを私が知らされたということだ。


 放棄されて当然の拠点がなぜ維持されているのかは私も知りたいところである。


 そして、調査を強行するならば、自分たちの手でやろうという話になった。

 私とマリアンヌ以外の転生者は一度ズルトで奴隷狩りに会い、その後奴隷として苦しい日々を強いられている。

 そのことを精算するという意味も込めて拠点を襲撃しようと思ったのだ。



「しかし、こうして見ると大層な拠点だな。これなら簡単に放棄できないのもうなずけるか?」


 拠点の位置は簡単に特定できた。

 奴隷狩りにあった転生者は全て一度ここに集められ、そこから様々なところに移送され売り飛ばされていたから、奴隷にされた転生者たちから証言を集めればすぐだった。

 奴隷狩りたちが使っていた奴隷移送用の馬車は外が普通に見えるタイプだったのもあり、クリストス教が保護した転生者たちばかりではなく、私の仲間の転生者たちも結構ここのことは覚えていた。

 転生する地点は森の中のとある空き地だったが、そこから街道をズルトの街の方角に少し戻り森を抜けたあと、森の手前にわかりづらい脇道を作り、そのまま馬車で移動できるところにある小高い丘が拠点になっていた。

 そこに拠点があることがズルトの街で噂になっていなかったのは、その拠点が丘の地下を掘って隠してあったためだ。

 どれほどの大きさかは外からは確定できないが、多くの転生者とそれを捕獲するための人員が駐留するためと考えれば、結構な規模なのかもしれない。

 クリストス教の間者の調べたところでは30人ほどが滞在できるほどの大きさだと見積もっていた。


「今は10人ちょっとが中に滞在していると予測されています。そのうち何人が戦闘員なのかはわかりませんが、その多くはただのごろつきあがりの奴隷狩りの手伝い達で、そこまでの高い戦闘力はないと見ています。」

 ダガーがクリストス教所属の間者からの情報をまとめてくれている。

「魔術師は確認できたか?」

「残念ながら拠点から出てこないために直接の目視は出来ていないということです。ただ、神聖術を習得したものの話では、時折拠点内で魔力の動きは見られるとの報告があります。外出しないだけで一人は常駐しているのだろうと予測されています。」

「まぁ、貴重なはずの魔術師が未だに拠点にいることがここが維持されている理由かもしれないな。裏口については一箇所は確認できているとのことだが、非常用の脱出口についてはどうだ?」

「拠点が地下であることから考えると抜け道はありそうだと予想されていますが、残念ながら人の出入りのない抜け道を外から確認することは困難なようです。現状は拠点を大きく囲むように哨戒網を敷いておくことしかできません。イスラーム教から派遣された斥候達と協力し、少し大きめに包囲網を構築してあります。」

「外から抜け道が確認できないのは仕方がないことか…。速やかに制圧して、逃げられる前に押さえるしかないな。」

 これほどの拠点なら抜け道の一つや二つはあるだろうが、そんな簡単に見つけられるならそれは抜け道としては役に立たないのだから仕方ない。


 拠点制圧は、大きく三つの班に分かれて行うことにした。


 ひとつは裏口を見張る班。

 ここには少しもったいないかもしれないがブライアンを配置し、ポールとシモンズを補助としてつけた。

 裏口から逃げ出す人間の制圧のみを目的とし、弓だけで対応してもらうためだ。

 また、発見されていない抜け道から逃げていく者がいた場合を想定し、広範囲を警戒してもらう予定だ。クリストス教の斥候も警戒に参加している。

 

 そして、もう一つは正面の入口から逃げ出すものたちを仕留める班。

 これは前にアラン、後ろにジョルジュを置き、クリストス教の斥候を数名サポートに付けてもらう。

 あくまですり抜けて正面から逃げ出そうとする相手を止めるためだ。

 あまりに人数が居る場合は足止めを中心に頑張ってもらってもいい。


 最後にメインとなる突入班。

 多少反対する者もいたが、ここに私が入らなければどう見ても戦力のバランスが取れないのでそこは強引に決定。

 マイルズとアルは当然のように同行し、ダガーとステファンも参加する。

 ダガーとアルで索敵、私とマイルズもそれなりに索敵の魔法も使えるが魔法は控えめとし、一度ここに捕らえられたことのあるステファンを道案内とする。

「一度入ったことがあるとはいえ、所詮奴隷が行ける範囲しかわからねぇぜ? まぁ、俺としてはじっと見張って待ってるよりもとっとと突入して敵を叩き出すほうが好みだけどな。」

「中の構造は全くわかっていないんだ。ほんの少しだけでもわかっているだけマシさ。欲を言えば重要人物の部屋を先に押さえたいが、奴隷ではその場所はわからないだろう。ただ、馬と馬車は先にしっかりと押さえておかないとダメだからな。」

 この拠点は正面入口が馬車が出入りできるほどの大きさになっており、内部には複数の馬車と十分な馬を飼っておくスペースがあるらしい。

 こちらもしっかりと馬を用意してあるので追跡すること自体は可能だが、拠点の制圧と馬の追跡を同時に行うとなれば何人か逃がす可能性が高くなる。


「相手は襲撃されることなど全く想定していないだろう。

 油断しているところを奇襲するのだから、きっちり味方の被害なし敵の逃亡者なしで片付けたい。

 上位の事情を知っている人間を何人か確保したいが、下っ端については容赦する必要はない。

 相手の動きを封じるためにきっちりと息の根を止めるようにしてくれ。

 では皆、十分に注意しながら、きっちりと作戦通りに行動してくれ。」

「「「はい!」」」



 まずは正面入口に忍び寄るダガーとアル。

 事前に確認したが、裏口には見張りがおらず正面入口に立っている見張りも一人だけだ。

 既に危機感が欠如しているのだろうが、見張りは最低でも二人で行うべきものだ。


 ダガー達がもしもの時に対応できる距離まで近付いたところで、ジョルジュが見張りに矢を放つ。

 流石に見事な腕前で一発で見張りの急所を射抜いた。

 すかさずアルが見張りの口を塞ぎ、トドメを刺して物陰に死体を隠す。

 私達は速やかに距離を詰め、アランとジョルジュを残して正面入口から突入した。


 正面入口には、馬車が出入りするための大きな扉と、人が出入りするための小さな扉がある。

 入り口付近には見張りの他には敵はおらず、特別な侵入者用の罠も存在しない。

 馬車置き場及び厩は入口近くに存在しており、素早く馬たちに馬用に調整した睡眠薬を嗅がせた。

 馬を逃がすことや馬具を破壊して使えなくすることも考えたが、馬は繊細な生き物でちょっとしたことで騒ぎ出す。殺してしまう選択肢もあったが、悪意のない生き物を犠牲にするのには少し躊躇したのだ。

 まぁ、もちろん奴隷狩りに参加しているごろつきたちは悪意のある生き物なので遠慮はしないが。


 馬の処置を終えた私たちは、ステファンの先導でごろつきたちの待機しているエリアへと移動する。

 奴隷たちに雑用を押し付けるためによく頻繁に連れ出されていたために、ごろつきたちのいる部屋にはステファンはたまに出入りしていたらしい。


 さっと扉に張り付いたダガーが中の音と気配を探り、『6』と数を指で示す。


 そこへ私が部屋を包み込むように遮音の魔法をかけ一気に突入した。

 この魔法、元はアルの礼拝の声を消すために開発したものだが、扉を蹴り開けても全く音がしないという結構便利な魔法となった。

 ステファンが先頭となって扉を蹴り開け、素早く他の者が続く。

 6人いたごろつきたちは完全に油断しており、ほとんど抵抗できないままあっさりと片付けることができた。

 ここからは速度が命なので、縛り上げるなどということはせずにすぐさま息の根を止める。

 どうせ、大部屋にいるのは下っ端だろうという判断だ。

 すかさず、ダガーがその奥に通じる扉の先の気配を探る。


 次の数字は『3』


 今度はアルが遮音の魔法を使い、同じように突入。

 中にはごろつき二人と商人風の男がいた。

 3人は昼間から酒を飲んでいたようだ。

 油断しているにも程があるが、警戒していない酔っぱらいが奇襲に対応できるはずもない。

 ステファンが手前のごろつきを殴り倒すと、アルが商人を、マイルズがもうひとりのごろつきを昏倒させる。

 マイルズが昏倒させたごろつきは少し他よりも装備がいいところから見て、少し偉そうな奴はごろつきでも殺すなという指示を守ったのだろう。

 私はハンドサインで拘束するように指示し、さらに先へと進む。


 その先には廊下を挟んで、二つの部屋があるようだった。

 さっと索敵の魔法を使ったところ、大きな方の部屋に一人、小さな方に二人の人間が存在した。

 しかし、私はアルとステファンに小さい方の部屋に行くように指示すると、ダガーとマイルズを連れて大きな部屋の方に一気に突入した。


 大きな部屋の方が一人と人数は少なかったが、魔力の動きを感じたためだ。


 音が出るのも構わずに一気に扉をくぐると、大きな部屋の真ん中にローブの男が立っていて、こちらに向かって手をかざした。

「パラライズ!」

 私は何が飛んでくるかも確認せずに麻痺の魔法をその魔術師に向かって放った。

 電撃をイメージして相手の筋肉を痺れさせ動けなくする魔法だ。

 強烈な眠気が襲ってきたが、私が眠りに落ちる前に相手に麻痺がかかり、集中が乱れて眠りの魔法は中断された。

 素早く距離を詰めていたダガーも、私の盾になるために身構えていたマイルズも中断されるまで魔法に抵抗することができていた。

 そのまま魔術師を拘束し、猿轡を噛ませる。


「流石に魔術師は我々の侵入に気付いていたようだな。魔法を使ったせいか、それとも何らかの警戒装置があったかは不明だがな。」

「またしても睡眠の魔法ですか。魔術師ギルドに関係のある相手と見ていいでしょうが、この魔法も強烈なので、ぜひ再現したいものですね。」

 睡眠の魔法はその存在が明らかになっているのに未だに再現できない魔法だった。

 広範囲に複数の人間を一気に無力化できればかなり有効なので、ぜひ再現したい魔法なのだが…。


「こちらは魔術師ではありませんが文官風の人間でした。既に我々の侵入に気付いていて一人が裏口から逃げ出しましたが、ブライアンさんが射抜いて足止めしてくれました。足を狙ったのでまだ生きています。」

「拘束して、一箇所に集めておいてくれ。他に逃げ出したものがいた形跡はあるか?」

「今のところは他にいないと思われます。何らかの書類の束を持ち出そうとしていて慌てていたようですが、そちらも全て押さえています。」


 その後、拠点内をくまなく捜索し、見逃したごろつきなどがいないことを確認した。

 拠点の半分以上は今はもぬけの殻だったが、清掃がイマイチなのか何者かがそこにいたようなすえた臭いが染み付いたままだった。


「おそらく、この大掛かりな部屋の為に拠点を放棄できなかったんだろうな。」


 そこは魔術師の男がいた大きな部屋。


 壁際に大きな祭壇があり、床には複雑な魔法陣。

 そのほかにも魔石を使った大掛かりな魔術的装置や、小さなよくわからない道具などがある。

 祭壇も前世では見たことのない形式で、魔法陣や魔術装置も複雑すぎて私にはわからない。


「文官たちが持ち出そうとしてた書類も含めて、しっかりと調査しなければな。それに生き残っている連中もしっかりと尋問して、知ってることを洗いざらい聞き出さなくてはいけない。」


 その後、周囲を警戒していた斥候達に確認したが脱出したものはゼロ。

 こちらの負傷者もなしで、無事に奴隷狩りの拠点制圧は完了した。


 ただ、そのままで終了とはいかずに、もうひとつの事件が発生した。


 それは生き残った連中を移送しようと馬車に乗せようとしていた時だ。


「この!!!」

 一番いい装備を来ていたごろつきの右肩に矢が突き立った。

 一瞬口封じか?とも思ったが、狙うのがごろつきの頭だというのも不自然だったし、矢を放ったのはイツキだった。

 その矢が刺さった場所も急所ではなく、治療すれば死なない程度の場所なのも矢の下手なイツキらしい。

「急にどうしたんだ? 既に拘束した相手を殺す必要はないぞ?」

 次の矢を装填するために弦を引き絞っているが、クランクを使っていてもその手つきがおぼつかない。

「サトシさん、イツキを…いや、()()()を許してやってくれませんか? 彼女には復讐をする理由がある。」

 そんなイツキを手助けして矢をセットしながら、ジョルジュが私に許しを請う。


「イツキ、いや、()()()。我々はまだこいつらに用があるし、楽に殺すよりこれから苦しむほうがいいだろう? 撃つなら足を狙いなさい。」


 私の言葉にミズキは素直に従い、男の太ももに矢を突き立てた。

 太ももは止血しづらく太い血管を傷つければそのまま失血死しかねないところだが、我々が尋問する間くらいは持つだろう。

 ミズキはさらに矢を番えようとボウガンを巻き上げようとしたが、ジョルジュがそれを止める。

 これが普通の弓矢だったら何本突きたっていたかわからないが、装填に手間がかかるボウガンゆえにその怒りは収まったようだ。


 それにしても…改めて()()()を見て、いくつかの謎が解けたような気がする。


 そう、女性であったから華奢であったし戦いにも不向きだったのだろう。

 日本人であれば戦闘に不向きであるのは自然なことであったが、それが女性ともなればなおさらだ。

 髪を切り男装していれば、自分を逃亡奴隷として探している連中からは見つかりにくい。


 改めて見直してみれば、ミズキは私と一緒にテロに巻き込まれたOLではないか?


 一緒に転生した時は肩にかかるくらいの茶髪だったし、女性の服装で化粧もしていた。

 そこから格好だけでここまで印象が違うのだ。

 逃亡奴隷として見つからない自信を持っていても当然だったし、気付かなかった私を責められても困る。

 それに、転生したときは私は目立たなかったせいもあるが、ミズキもその場に私もいたことに気づいていなかったと思われる。


 そして、奴隷となってから日が浅いせいでまだ怒りの感情を持ち、女性であったがゆえにその怒りが特にごろつきの頭に向かうようなことがあったのだろう。

 私は既に拘束した人間に矢を放ったことを咎める気は全く起きなかった。


 ミズキは力なくボウガンを放りだし、ジョルジュの胸に顔をうずめて泣いていた。

 ジョルジュもそんなミズキを優しく受け止め慰める。




 そう、ミズキを慰めるのは女性であると気付かなかった朴念仁の私ではなく、それは女性にもてそうなジョルジュのような人間の役目だった…。

ふぅ、やっとひとつの伏線を回収w

なかなか書き進まないのもありますが、思うように話が展開しないのは仕方ないですね


次回、いろいろと事後処理をして3章終了の予定…(さっと書かなきゃねw

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