表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第三章 さぁ、パーティーを始めよう
24/39

3-8 続イスラームの戦士

やはり、まだまだ苦労しましたw

ま、やっと完全に治って体力が戻ってきたところというのもあるんですがね。


引き続き、中立であろうとしていますが、

今回はちょろっと傾いているかもしれません。

「イスラム野郎と一緒に行動するなんて、真っ平御免だ!」

 意外なことに、アルに対して一番強烈に拒絶を示したのはイツキだった。

 アルは穏健派であること、この世界で生まれたことなどを説明しても、イスラム教徒であるというだけで一切話を聞こうとしなかった。


「俺らは別にかまわねぇぜ。ただし、そいつとダチになれるかは別だ。」

「私は気にしません。サトシ様がお決めになったことに従います。」

 元軍人のふたりは逆にあっさりと受け入れた。

 イスラム教徒であるから敵であるという認識はしておらず、テロリストたちとの戦闘の中でも味方であったイスラム教徒もいたそうだ。

「すべてのイスラム教徒を敵に回して戦っても終わりが見えませんでしたからね。」

「だから、手当たり次第に敵ってことにはできない。まぁ、敵じゃないと認めはするが、味方として信用するかは微妙だけどな。いざって時に、今まで一緒に戦ってた味方とイスラム教の同胞を天秤にかけて、イスラムのほうを選んだりしやがるからな。」

 まぁ、受け入れるのと信用するのは別だってことなのだろう。


「私はよくわかりません。テロにあったのも突然過ぎて、イスラムに対する感情もありませんし。」

「僕もあまり。仕事での相手がイスラム教徒だったことはあるけど、アメリカでピリピリしてるのは税関関係と飛行機関係の人たちだったしね。」

 シモンズとボールはよくわからないという立場だ。

 私もそれに近いが、巻き込まれるまではイスラム教など知識だけで身近にいなかったのだ。

 ニュースの中でいかにイスラム過激派が非道なことをやっていると言われていても、今までは対岸の火事に過ぎなかった。

 もちろん、前世において死亡したのはテロに巻き込まれたからであるし、転生しなければこの異世界での厳しい生活もなかったとは言えるのだが。


「我々クリストス教としては、イスラーム教の方々に対して特別な感情はありません。歴史の中で小競り合いはありましたがどれも小規模なものばかりで、イスラームの人達と直接争った回数も少ないですしね。ただ、同じ神を崇める同胞という感情も全くありません。」

 マイルズによれば、クリストス教とイスラーム教はお互い別の宗教として多少の敵視はしているらしいのだが、両者が争うというよりも片方が王国と争う構図の方が多かったとのこと。

 どうやら転生者をこの世界に送り込む前にしっかりと土台の世界を作りこみすぎたらしく、その時に作られたアブラハム王国がそのまま転生者たちに乗っ取られることもなく今まで存続しているらしいのだ。

 そしてイスラーム教もクリストス教もお互いに争うよりも、王国との争いの方が大規模であり、その戦いの中で過激派に属するものたちは淘汰されていったとのこと。

 昔はクリストス教の方に過激派が多かったこともあるらしい。

「ただ、近年転生してくるものたちの中にイスラーム教の過激派が多いので、いま王国はそちらをより警戒していますがね。」

「前世の方でも、いま話題に上がるテロリストはイスラムの過激派が中心だしな。ま、テロリストが全てイスラム教ってわけではないだろうけど。」



「ともかく、アルはイスラーム教の現状とこれからを知るために私の方から頼んできてもらった人間だ。いろいろと思うところはあるかもしれないが、しばらくは我慢して欲しい。」

「「「はい!」」」

 イツキは未だに渋っていたが、それ以外のものたちはとりあえず私の決定に従ってくれるらしい。


「さて、とりあえずだが、ここでの共同生活では魔物討伐をその収入の軸においている。アルもイスラーム教の本部の方から十分な資金を預かっているかもしれないが、我々に馴染むためにも魔物討伐に参加して欲しい。」

「はい、かしこまりました。」

 実際のところ、クリストス教の護衛たちにもいつまで魔物討伐を手伝わせるのか?という問題もあるが、すべては私がクリストス教やイスラーム教に必要以上に世話になりたくないという思いからだ。

 クリストス教の護衛はあくまで教会が私につけたもの、その生活費もあくまで自分たちとともに討伐して稼いだものという位置づけであり、それはアルとイスラーム教も同様にしてもらいたいと思う。


「ちなみに、頭につけていた白い布は、イスラーム教的には外しても大丈夫なのか?」

 アルは頭の布を外した状態で、その顔がよく見えるようにしてあった。

 マイルズにも負けず劣らずのイケメンで少し西欧っぽい顔立ちをしている。

 聞けば、父親が転生者でイスラム教徒ではあったがフランス人だったとのことだ。

「あれはクーフィーヤといって、アラブという世界での民族衣装だそうです。元々砂漠の多い地域で頭を保護するためのものらしいですが、森の多いこの世界ではただの飾りに過ぎないとのことです。私も周囲につけているものが多かったから付ける習慣があっただけで、イスラームを嫌っている人にすればアラブを思い起こさせるものは目に付くのも嫌でしょうから。」

 実のところ、イスラム教では男子に頭に何かを被らなければいけない規則はない。

 よく伝統的な衣装でターバンをしていたり、頭に白い布をつけたりしているが、それはペルシャやインド、アラビアでの伝統衣装に過ぎないのだ。

 ただし、女性についてはコーランできちんと女性はみだりに髪の毛や肌を露出してはいけないと決められており、ヒジャブと呼ばれる布などで頭を隠すことが義務となっている。

 もっとも、ヒジャブも地域によって多少の扱いの違いがあり、カラフルなものが許されるところもあればニカーブという目以外は黒い布ですっぽりと覆うようなものもあるらしい。



「そいつに弓を持たせた状態で前衛に立つのはゴメンだぜ。いつ背中に矢が突き刺さるかわからねぇ。」

 ステファンは受け入れたあとも、信用していないという態度は継続していた。

「私は飛び道具ではなく、剣を主な武器として使っています。むしろ前で戦わせて欲しいです。」

 あまりに露骨だと困ると思っていたら、アルは快く前衛であることを受け入れてくれた。

 というよりも、完全に前衛向けに鍛え上げられた戦士だった。

 マイルズもそうだったが、元々私の護衛として選ばれた戦士なのだ、その戦闘力ももちろんだが、後ろで守られながら戦うスタイルであるはずがない。

 アルはシャムシールと呼ばれる大きく反った細長い長剣を使い、相手の攻撃を回避しながら戦うスタイルだった。

 また索敵力も高いがダガーとはまた違った形で、まずはじめの敵を見つけるところまでは同じだが、そこからアルはまず接敵し、前衛を勤めながら他の敵が来るかを探りながら戦うのだ。ダガーの場合は、まず全ての敵を探り終えてから、戦闘に参加する。

 また身体強化系の技も既に習得していたので、そこからもう一歩踏み込んだ説明をしただけで、防御強化もすんなりと覚えた。

 ただ、本人は前衛型の近接戦闘しか身につけていなかったので、そこから攻撃魔法を覚えるのはなかなかできなかったが、前衛としてこだわるならばそこを無理強いする必要はない。


 魔物討伐にはそれなりに貢献したアルであったが、獲物という意味ではひとつ困った問題があった。

 ルルイス周辺で取れる魔物でもっとも食用として重用されるのはグリーンボアつまり()であり、われわれが口にする肉やルルイスで出される料理は猪肉が多かった。

 アルに確認したところやはり猪肉もイスラームでは口にすることができないとのこと。

 というよりもむしろ、豚以外の肉であってもハラールでなければ口にできないので、ほとんどダメだということらしかった。

 イスラームでは豚はもちろん爪や牙のある動物や生き血も食してはならず、また食べることのできる肉でもイスラーム教徒が神の名を唱えながらナイフで首を真横に切った動物の肉しか食べられないそうだ。

 きちんと血抜きをするためという意味もあるのだろうが、そういう規定だとイスラム教徒がイスラム教徒のために屠殺した獲物しか食べられないことになる。

 ルルイスの村には他にイスラーム教関係の人間はいないので、アルが口にできる肉を用意するには他の街のイスラム教徒から買い付けるか、自分自身でハラールになるように獲物を捕ってくるしかない。

 豚肉の扱いはさらに厳しく、イツキが「そいつが自分のために狩ってきた獲物は私の馬車には載せないよ!」と騒いでいたが、どうやらハラールとしようとする獲物は豚を運ぶ馬車で一緒に運ぶことすら禁じられているらしい。

 結局、アルが肉を口にするためには、狩りの途中で見つけたイスラームでも食肉にすることができる鳥などの獲物をとった時にアル自身が祈りを捧げながらトドメを刺し、村までアルが背負って戻ってくるしかなかった。


「まぁ、いろいろとまだ問題はあるが、思ったよりはアルも馴染んだようだな。」

 私は治療院の裏庭で、ステファンと剣の稽古をこなし、小休止を入れながら汗をぬぐっていた。

 ステファンは剣よりもモールと呼ばれる棍棒のような武器を好んで使っていたが、筋力強化を行った上で打ち合うのであれば、ことらが剣を使っていても十分稽古になる。

 いつもはマイルズも私の相手をしているのだが、今日は別のグループで他のクリストス教の護衛たちと訓練を行っている。

 我々のグループにはポールとシモンズも入っていたが、ステファンのバカ体力にやられて早々にダウンしていた。

「普段普通に見えるやつが、実は裏ではサイコ野郎だったってのはたまにある話だぜ? まぁアル坊はあまり裏はない人間ではあるようだが、あくまでイスラームがあんたを見張るためによこした人間だってことだしな。」

「それは私も百も承知だし、イスラーム教の情報もこちらに流してもらってるからお互い様さ。そういう意味ではマイルズたちもクリストス教が私を見張るためによこした人間だしな。」

「マイルズたちは見張りも兼ねているとは言ってもあんたに心酔しすぎに見えるけどな。ま、クリストス教の枢機卿からしてどっぷりだって聞いてるぜ。」

「アルも近いものがあるけど、クリストス教のほうではいろいろやらかしてしまってるからそうなってるだけさ。すべてはあの神様が悪いのさ。」

「あのクソガキ神は一度ぶっ飛ばさないとな!」

「ははは、それが出来るくらいの力がもうあるなら苦労しないんだがな。」

 私も、私の仲間たちもだいぶ強くなってきたとはいえ、まだやっと魔物が安定して狩れるようになった程度。神様をぶん殴っても大丈夫なところまではまだまだ遠い。


「結局のところ、前世でイスラム教徒があそこまで過激だったのは、イスラム教が神の教えではなく『神の命令』だからさ。そして同胞の敵と戦ったほうがいいと諭すんじゃなく、敵と戦えと命じられているから、あそこまで徹底的に戦ったのさ。」

 実際にイスラム教及びその経典は『神の命令』であると考えると、その内容の細かさやイスラム教徒たちの絶対服従ぶりが納得できたりする。

 敵を殺したほうがいいと教えられるよりも、敵を殺せ!と命じられる方が、引き金を引くときの躊躇は少なくなるものだ。

「キリスト教も一部はそんな感じなんじゃないのか? 結局狂信者ってのはこっちの道理を無視して徹底的にやりやがるからな。」

「狂信者ってところまで行かなくても、戦わなかくてはいけないと思い込んでしまうのさ。ただ、アメリカだけじゃなく全ての欧米諸国を敵に回してしまってだれが侵略者でだれがその流れに巻き込まれてついてきただけの国かを見失っているようだけどね。」

「だからってただのテロリストがイスラムを名乗っただけで支援して、アメリカ軍に被害を与えたらイスラム全体で喜ぶのは勘弁して欲しいがな。そのくせに都合のいい時だけイスラム全体と一部の過激派を別に扱って欲しいなんざ、虫の良すぎる話だぜ。」

「ま、過激派じゃないって言ってる連中も嬉しそうにアメリカ国旗を焼くものな…」


 今、イスラム教徒たちはIS(イスラム国)の連中を非難し、彼らは自分たちと同じイスラム教徒じゃないと声を上げているようだが、それ以外の人々から見るとやはり彼らはイスラム教徒の一部に見えるのだ。

 ほかの大多数のイスラム教徒たちが嫌がろうとも、イスラム過激派の連中はイスラムの名のもとジハードの名のもとで、テロを行い多くの人を暴力で支配し、そして殺害している。

 前世に目にしたひとつの喩えにオーム真理教の連中と日本人を一緒にされたら嫌だろう?というものがあったが、私はそれとは少し違うと思っている。

 いわば、第二次大戦中にユダヤ人を虐殺したナチス党員とドイツの関係に近いと思っている。

 ドイツ人がみなユダヤ人を嫌ったわけではないし、民族浄化と言って虐殺を行うことに賛同したわけではないだろう。

 だが結果としてナチス党員はドイツ帝国の名のもとに虐殺を行っており、ドイツ人たちはそれが自分たちの罪であると認識している。

 ナチスの人たちで罪を犯した人たちをドイツ人自身の手で裁判を行い断罪し、被害にあった人たちにドイツ人として賠償を行う。そこまでやって初めて、ユダヤ人虐殺を行ったナチス党員をドイツ人は非難できるのだ。


 では、イスラム教はそこまでできるだろうか?

 各地でテロを行っている過激派をイスラム教徒ではないと宣言し、自分たちの力で排除し、イスラムの法の名のもとに断罪することができるだろうか?

 イスラム穏健派だから武力を持っていないということはないだろう。

 実際にイスラムを国教とし、国家元首の上にイスラムの宗教指導者がいる国家もあるのだ。

 本気で過激派と戦争しようと思えば、できなくはないだろう。

 だが、実際に自分たちで過激派を相手にするのは大変なことだ。

 テロが自分たちを標的に行われるようになるだろうし、たとえ破門したとしても同じイスラムを攻撃すべきではないと反対するものたちも出てくるだろう。

 そこまでの覚悟を持って行動してこそ、イスラム教が過激派を生み出してるんじゃないと言えるのだが…。



「ま、なんにせよ、それは前世での話さ。この世界での問題は、この世界に今いる過激派たちをどうするかだろうさ…。」

「そいつらも一筋縄じゃ行かなそうだけどな。」


 この異世界においても、イスラム過激派はしばらく頭痛の種になりそうだった…。




やはり、調べながらでもいろいろ難しいですね…

勝手にイスラムを名乗って勝手にイスラムの教えから外れたことをやってる連中を止めるのは大変でしょうが、

結局、それができてない以上はイスラム教徒全ての人達に一定の責任はあるんですよね…。

(もちろん、その責任の割合は国や立場によって違うでしょうけど。)


さて、ここからはしばらくイスラムの話から離れる予定です

(ただし、またずっと後で少し戻ってくる予定ではありますが。)

ま、流れ的に話が固くなるのもありますしね。


次回はもうちっとテンポのいい話を早めに書き上げたいものです…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ