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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第三章 さぁ、パーティーを始めよう
21/39

3-5 借家

 王都からルルイスの村まで、馬車を伴って三日とちょっとかかった。


 怪我人二人とマリアンヌがいたため、教会に馬車を借り御者も出してもらった。

 馬車自体は奴隷を乗せても不審に思われない程度の質素なものを用意してもらったが、衝撃を抑えるためにサスペンションだけはしっかり効いたものを出してもらった。

 追加の護衛の二人は騎乗も出来たので、新たに二頭の馬を用意してもらった。



 大きな事件はなかったが、今回はちょっとしたものはあった。


 ひとつは、マリアンヌの料理が予想よりも美味しかったこと。

 途中で野営が必要になりマリアンヌが料理をしてくれたが、皆その美味しさに感心していた。伊達に20年料理人をしていないということなのだろう。

 イギリスの料理人は…という話にちょっと囚われすぎていたのかもしれない。


 もうひとつの事件は、ルルイス村近くまで来たところでグレイウルフの襲撃を受けたことだ。

 グレイウルフは一頭単独で大きさも標準であったため、二人戦闘員が増えた今はそれほどの驚異ではなかったが、騎乗戦闘というものが意外にムズかしいことがわかった。

 相手が四足歩行で体勢が低いせいもあるが、馬に乗ったまま普通に長剣を振っても当たらない。

 そんなことは相手を見る前から明らかだったのでショートボウを使ったが、揺れる馬上からの射撃は難易度が跳ね上がる。初めて馬の上で弓を使おうとした私の矢が当たるはずがない。

 騎士見習いであるマイルズとアランはそれなりに弓が使えていたが、ブライアンの弓の腕前が素晴らしかった。馬上とは思えないほど素早く矢を番え、動きの速いグレイウルフに一発で命中させた。

 一本矢が刺さって動きが鈍くなったところにマイルズとアランの矢が刺さり、馬車に近づく前に倒すことができた。

 これは今度、ブライアンに弓を習って普段の精度向上&馬上での騎射の手ほどきを受けようと思ったのである。



 ルルイス村に戻ると、イツキが出迎えてくれた。

 まぁ、特に私たちを待っていてくれたのではなく、途中で倒したグレイウルフを解体屋に持ち込んだらイツキが店番をしていただけなんだが。

 ミランダともかなり馴染んだようで、客が来たら人を呼びに行く程度の店番は問題なくこなせるようになっているようだった。

 マリアンヌと元奴隷のふたりを紹介すると感激して英語でまくし立てていたが、正確な文法よりなんとなくなノリで押し流すような英語を話すようだった。

 勢いだけの英語を話されると、私はなんとなく胡散臭く感じてしまう。


「それで、ミランダ、頼んだ件はどうなってる?」

「借家の件だね? 仲介をやってる知り合いに頼んで何件か候補を絞ってもらってるから、一度見て回ってくれるかい?」

「あぁ、明日、朝から回ると伝えておいてくれるか? 今日はこれから新人の歓迎会をしなきゃな。」

 ミランダには王都に向けて出立する前に貸家を仲介してくれる人を探してくれるように頼んでおいた。

 今は宿屋に泊まっているが、人数が増えれば一軒家を借りて生活するようにしたほうが節約できるからだ。長期間滞在するなら、宿屋の空きを圧迫するという問題もあった。

 その時点で条件を伝えていたんだが、元は3人増える予定だったのがさらに二人増えて5人になってしまっていた。

 そして、教会と奴隷にされている転生者の話をしてあるから、今後も増えていくだろう。どのくらいの数になるかは不明だが、なるべく教会の保護を素直に受け入れて欲しいものだ。


 その日の夜は宿屋の食堂を借り歓迎会を行った。

 借家を探し始めたとは言えそんなすぐに入居できるはずもなく、しばらくは宿屋暮らしだ。

 そういう意味での挨拶も兼ねて宿屋の主人に少し多めの材料費を渡し、また知り合いの料理屋からも取り寄せた上で持ち込み料を払った。

 宿屋の主人も、ただ持ち込まれて騒がれるより、そこから一部が自分の売上になるとなれば快く受け入れてくれた。

 元奴隷の二人や護衛補助の二人は歓迎されることに少し恐縮していたが、これからいろいろと手を貸してもらうことを考えるとここで遠慮を少し忘れるようにしてもらいたい。

 まぁ、元奴隷二人はさすがに酒に慣れていたが、護衛のふたりは未成年でお酒に弱かった。

 この異世界では未成年だからアルコールを飲んではダメだということはなかったが、お酒の強さは生まれつきの代謝と体格と慣れであるから、やはりまだ酒に慣れていない未成年は弱い。


 歓迎会のついでとして、マリアンヌにも軽く3品ほど作ってもらった。

 ひとつは働いていた教会で人気のあった羊肉のロースト。

 この辺りでは羊は飼っていないが北のほうでは毛を取るための羊と肉にするための羊を飼っており、それなりに流通しているらしい。

 もう一つは、最近王都で人気になっている、ひき肉を丸めて焼いたものといくつかの野菜をパンで挟んだものを真似て作ってくれた。

 一言で言えば、ハンバーガーだ。私も懐かしく思いながら堪能したが、特にステファンが涙を流しながら両手で頬張っていた。

 そして最後にと出されたのは、うなぎのゼリー寄せ。イギリスの料理らしく、以前出したら不評だったからと、控えめにひと皿だけだった。

 うん、これは不評なのが分かるね。

 特に日本人の私とイツキにとってはうなぎは蒲焼であり、生臭いうなぎはアウトだった。

 正確には全くうなぎと同じではない生き物らしかったが、川で生きている魚らしく泥臭さが残っていた。

 ジョルジュはまだこれに似た料理を食べていたらしくて受け入れることができるようだったが、ほかの人はほぼダメだった。

 まぁ、この異世界では蒲焼はまだいろいろとハードルが高くて作るのは無理だろうと思うし。


 そんなこんなで歓迎会でかなり親睦は深まったと思う。

 特にイツキはステファンとジョルジュに英語でひっきりなしに話しかけ、お酒を飲みながら大声で笑っていた。いままでそんなに笑っているのを見たことがなかったので、やはり私とは世代が合わないんだろうなと思ったりもする。

 ステファンとジョルジュも、やっと自分たちが奴隷として扱われないんだということが実感できたようで、表情がだいぶ柔らかくなっていた。

 アランとブライアンはまだ少し硬かったが、二人の役割を思えば仕方のないうことだろう。



 翌日、私はマイルズたち護衛の三人を連れて借家を見て回ることにした。


 元奴隷の二人はまだ足の怪我が治っていないため宿に残し、マリアンヌとイツキも一緒に残して少し言葉の習得をしてもらうことにした。

 ステファンの怪我の方が少し程度が悪く歩けるようになるまでもう少しかかりそうだが、ジョルジュはなんとか歩ける程度には回復してきていた。

 二人共元は軍人であるからある程度の戦闘は仕込めばすぐにできそうだが、まずは言葉を覚えてもらわないと指示ができない。

 マイルズたち護衛もともに戦闘するとすれば英語で指示するわけにも行かず、こちらの言葉も『進め』『運べ』『メシを食え』などの奴隷としてよく使われた短い言葉しかわからないそうだ。



「さて、それじゃ早速良さそうな物件を三つばかり選んでおいたから見てもらおうかね。」

 ミランダが手配してくれた仲介人は、ガッシリとした体格の30過ぎくらいの女性だった。

 大柄で腕や肩にがっしりとした筋肉がついている。

 そのまま作業服を着せて建築現場に置くと、ほかの男性作業員になじみそうな感じの女性だ。

 余談だが、ついでにボリューム満点の胸部装甲も搭載されている。

「今回はよろしくお願いします、冒険者のサトシです。先に6人とお願いしていましたが、実はもう8人に増えまして…。今後もすぐ人数が増えていきそうなところなんですが。」

「あたしは、エミリー。今回は借家の仲介だが、新築や中古物件の販売も取り扱ってる。しかし、8人となると既にこの物件は合わないな。」

 村の中心近くにある物件は6人でやっとくらいの一軒家で、見る前に脱落した。

 次も一軒家で少し中心から外れて8人ならなんとか生活できる広さだったが、それ以上に増えるとなると対応できず、またあまり状態も良くなかった。

 最後の物件は金持ちの商人が建てたらしいお屋敷で、広さ自体はあったが部屋の数が足りなかった。独り身の商人で小間使いたちも屋敷に住まわせるのではなく通いにしていたらしい。

 家族がいない人間嫌いの人物でないと住めないような特殊な間取りのせいで、売ることも貸すこともなかなかできないようだ。

「うーん、どちらもダメだね。せめて10人がすぐにでも中で暮らせるようでないと…」

「それじゃぁ…」

 一度、エミリーさんの店舗に戻り、ほかの物件を確認して鍵を取り出し、再び回る。

 次に見たのは、建物がまともならいい大きさだったであろうが、あまりに老朽化しすぎていてそのままは使えなさそうな屋敷。中古として買い取って立て直すならいいだろうが、今回はあくまで借家なのでパス。

 さらには、しっかりとした大きさで20人くらいまでいけそうだったが、あまりに豪華すぎて値段が高すぎて合わない元貴族の屋敷。

「ダメですね。私もそれほど手持ちもないので、買取や改築もできませんし、貴族のような贅沢もできません。」

「そうだねぇ…。一度知り合いにも当たってみるから、また明日来ておくれよ。」

 我々は仕方なく、一度解散することにした。


 村だからといっても、一日で借家が決まるとは限らなかった。


 そこからさらに二日間、いくつかの物件を見て回ったが、ちょうどいいものはなかった。

 ほかの不動産業者にも聞いてみてくれて紹介さた物件を見たが、10人を超える人数が今すぐに生活可能なところはなかなかなかった。

 ほかの業者の物件だとエミリーさんの儲けにならなくなるらしいのにわざわざ探してくれたというのに、申し訳ない気がした。

「やはり、すぐ生活できるような物件ってのが難しいのかな?」

「こんな村だと、どれも小さな家ばかりだってのはあるけどね。」

「いっそのこと小さい家を2、3件借りるか?」

「それも選択肢だけど、離れて建ってると不便だろうしね。」

 私とエミリーさんはすっかり頭を悩ませていた。

 そもそももっと大きな規模の街や王都ならともかく、少し大きめの村でしかないルルイスでそんな急に探してちょうどいい借家が見つかるとは限らなかった。

「うーん、あとは問題のある物件かねぇ…」

「問題というと事故物件ですか? 前の住人が自殺したり惨殺されたとか?」

「そういう家もあるけど、今あたしの管轄にあるのはもっと具体的な問題だよ。見てみるかい?」


 そうして案内された建物は治療院のような作りだったが、敷地をぐるりと縄で囲まれ、護符のようなものが取り付けられていた。

「元は治療院だったんだけど、ちょっと出るようになっちゃってね。周りをがっちりと封印してあるのさ。」

「出るというと、お化けが出る?」

「曖昧なお化けじゃなく、完全に魔物のゴーストが住んでるんだよ。」

「村の中なのに? 退治はしないのか?」

「村の中なんだけど、いろいろあって退治できなくてね。幽体であるせいで冒険者に討伐を頼んでも引き受けてくれる人がいなかったし、魔女たちに頼んでもどうも退治できなかったらしいんだよ。まぁ、村の中でもしっかり封印さえされてれば問題なかったしね」

「幽体か…」

 幽体系モンスターについて、以前に話していたことがあったなと思い出した。

「そのゴースト、私たちで退治しましょうか? ちょっとした方法があるんですよね。」

「ほほぅ? そいえば、あんたたちは冒険者だったね。退治する方法があるならお願いするかな? 退治できたら討伐料として頭金なしにしてあげるよ。」

「任せておいてください。」

 ホントは討伐料はもうちょっとするんじゃないかな?とは思ったが、この物件が借りられるならそのくらいはどうでもいいことだった。


 封印を越えて中に入り、まだ建物自体はしっかりしている治療院に入る。

 あまり傷んではおらず、ゴーストが出て放棄されたのも最近の話なのだろう。

 そして、丈夫な扉をくぐり廊下を行くと、早速3体のゴーストが姿を現した。

「アランとブライアンも神聖術が使えるという話だったよな。どれくらいの術が使える?」

 使えるとだけは聞いているが、具体的なことまではまだ確認していなかった。

「私は防御強化と一人を守れる程度の盾だけです。」

 アランは試しにと、光る盾を出して見せた。

 ゴーストたちはその光に少し怯んだようだが、所詮は盾なので近づかなければ何も起きない。

「私は軽い身体防御と光の玉です。」

 ブライアンが光の玉を生み出しゴーストへと放った。

 光の玉の動きは早く、ゴーストの一体に命中したが、ほんの少しダメージが入った程度だった。魔術師ギルドの初級魔法程度だろうか?

 光の玉を受けたゴーストは攻撃されたと認識してブライアンへと向かっていったが、マイルズが光のエンチャントをまとった剣で斬り伏せ消滅させた。

「一度攻撃したら、魔物なのだから向かってくるぞ。せめて武器へのエンチャントができれば、戦えるんだろうがな。」

「はっ、不注意で申し訳ありません。」

「まぁ、多少なりと使えるなら、訓練すればすぐにいろいろ使えるようになるだろう。」

 魔力の扱い方を教えるのに苦労しているのに比べれば、弱くても既に使えるのは頼もしい限りだ。


「さて、まずはさっさと片付けてしまおう。光線(レイ)!」

 私の手元から光線が放たれ、二匹のゴーストを切り裂くように薙ぐ。

 中級魔法に匹敵する位の威力で、射線上の敵を切り裂くが建物は壊さない魔法だ。

 まぁ、障害物があると貫通できないという欠点があるのだが、このような壊しては困る建物の中だと便利だ。ゴーストを退治したはいいけど建物も壊したでは、討伐する意味が半減だ。

「光よ!」

 マイルズが部屋の一つの中にいたゴーストに向かって光球を打ち込み消滅させる。

 放射系でも一体のゴーストを倒すだけの威力が出せるようだが、マイルズはエンチャントの方が好みのようだ。ただ、部屋の中では長剣を振り回すには少し狭い。

「フラッシュ!」

 目潰し用の光では具体的なダメージは出ないようだが、その動きを短時間封じることはできるようだ。

 動きの止まったゴーストを光でエンチャントした短剣で切り伏せる。


 こうして、我々は最終的に8体のゴーストを倒し、治療院の中を掃討した。



「へぇ、やるもんだね、サトシ。あんた、なかなか凄腕の冒険者じゃないか。」

 エミリーはゴースト退治のあいだは表で待っていてもらったが、短時間であっさり相当し終わったことに感心していた。

「では、ここを借りるということでいいですかね。またゴーストが出てきても私とマイルズならすぐ倒せますし。物件的にもとても良さそうな大きさです。」

「もともと貸せなくて困ってた物件なんだ、安くしとくよ。急いで清掃させて、明日には入れるようにしておくからさ。」

 建物的にはやや大きく、20人位で生活しても大丈夫なような広さだ。

 比較的余裕のある大きさの病室になっているのか、一人一人部屋を持っても大丈夫な構造になっていたし、大人数が集まるような食堂や風呂場もしっかりと付いている。

 今の我々が共同生活数場所にするという意味では、申し分のない建物に見えた。


 その後、エミリーの店に戻り、正式な書類を作成し契約を結ぶ。

「では、よろしく願いします。」

「こちらこそ、助かったよ。村の中にゴーストが出る建物を置いておくってのも外聞が悪かったしね。」

 あの大きさの建物にしては随分と安い金額で契約もできた。

 とりあえずひと月単位の更新で頭金もなしのうえ、ひと月分の家賃も免除してくれた。

 この先人数がどのくらい増えるかは不明だが、溢れてもあそこは借りたままでほかの物件を追加してもいいくらいだろう。


「ところで、あの治療院はなんでゴーストが出るようになったんですかね?」

「あぁ、あそこはどこかの宗教がらみの治療院で、村に定着してもらっちゃ困るからってんで、魔女たちがちょいちょいっと嫌がらせをしたみたいなんだよ。ま、最近、その必要が無くなったって聞いたけどね。」

「へぇぇぇ」

 どこかで聞いたような話だった。



 どうやら、元は追い出されたクリストス教の治療院だったらしい。


イギリスの料理で検索してみるといくつか衝撃的な料理が出てきました。

私のイメージ的には、パテの類で完全に原型も素材の味も無視したやつのイメージがあったのですが、

ダメな料理のポイントを出すために、うなぎのゼリー添えを。

今、うなぎは高騰してるのに、生臭い料理にしちゃダメですよねw

(注:わざわざ出してる店を探す勇気はなかったので、実食してません)

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