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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第一章 冒険者? なにそれ美味しいの?
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1-1 初心者狩り

とりあえず、プロローグだけでは雰囲気がわからないだろうと思い、さっさと書いて投下します。

 浮遊感から解放されると、どこかの草むらの上に降り立った。辺りはもう薄暗い。


『おい、もう見逃した奴はいねぇだろうな!』


 突然の大声に驚いて、咄嗟に近くの茂みに身を潜める。苛立ったようなダミ声で、とても友好そうな声に聞こえなかったのだ。それにしても…


 え? 言葉が通じない? どうやら英語でもなさそうだ。 (注:『』内の言葉は理解できていません。以後しばらくは同じく)


『ちくしょう、立派な服装だからって油断してたぜ。一匹ハズレが混じってやがるとはよ。』

『よく来る砂埃だらけの連中と違うと思ってたら、いきなり自爆魔法使いやがって…』

『女がいると思って突っ込んでったジャノとせっかくの獲物が二人ほど巻き込まれちまったが、たまに来る大きな音を出しながら礫を飛ばしてくる鉄の棒を持ってる奴よりマシじゃねぇか』

『まぁ、そのどさくさに紛れて逃げ出したやつも捕まえたようだし、もういねぇだろ』


 茂みの中からそっと覗くと、凶悪そうな外見の男たちが引き上げていくところのようだ。手にはムチとロープを持ち、下品な笑いを浮かべながら数人の仲間と歩いていく。


 うむ、どう見ても悪人だよな。

 何を言ってるのか相変わらずさっぱりだが、咄嗟に隠れた私、グッジョブ。先程の男たちは茂みからだいぶ離れているが、見つからないように慎重に覗き込む。すると、つんと鼻を突く匂いが漂ってきた。花火大会を見に行った時にするような匂い…


 そうか、火薬の匂いだ。


 おそらく、自爆テロの犯人の爆弾が復活していて、もう一度爆発させたのだろう。茂みから放射状に草むらがなくなって地面がむき出しになった、爆弾を爆発させたあとが見えた。そして、自爆犯だけではなく、何人か巻き込まれたような痕跡も…

 せっかく転生したのに、直後に自爆してさらにそれに数人巻き込むとか、どんだけ迷惑なのか…


 心の中で巻き添えになった人の冥福を祈っていると、馬車が動き出す音がした。

 咄嗟にそちらを見ると、イメージとは少し違う馬車が動き出すところだった。先ほどの男たちが周りを護衛するように歩いていて、馬車はゆっくりと進んでいくのである程度しっかり見ることができた。

 檻のようなものに車輪が取り付けられていて、中に人が何人か入れられている…


 そいつらは奴隷商人らしかった。


 いや、転生したての初心者が現れるところで捕まえて、いきなり奴隷にするってきつすぎるでしょ!

 まぁ、一緒に爆弾テロに巻き込まれて俺より先に異世界に送られた連中に同情するような奴はいなかったとは思うけど、それにしてもいきなり奴隷はあんまりだ。捕まった連中は猿轡でもされているのか、声も上げずに連れ去られていく…


 神様の愚痴を2時間以上も聞かされたせいで転生するタイミングがずれ、私は助かったようだ。


 まぁ、だからといって、神様の愚痴がありがたかったとは思わないが…

 馬車の音もだいぶ遠ざかって聞こえなくなった頃、私はそっと息を吐き出して握り締めていた右手を緩めた。見つかるまいとだいぶ力が入っていたようだが、右手でなにか見慣れないものを握り締めていたらしい。


 そこには革の鞘に入った短剣と、銀色の貨幣が三枚握られていた。


 短剣なんてものは、今の日本では鞘に入った状態でも持ち歩いていれば不審者まっしぐらだし、銀色の貨幣もどうやら日本で使われているものではないようだ。鉄というより純粋な銀で出来ている銀貨のように見える。まぁ、銀貨なんてものは日本では使ったことはないんだが。

 服はテロにあった時に着ていたカジュアルなトレーナとチノパン。靴はスニーカー。そして左手にはテロに遭う前に買った数冊の漫画の入ったビニール袋。持ち歩いていたデイバッグは、テロにあった時に吹き飛ばされたのか、白い部屋で気付いたときには持っていなかった。しかし、自爆テロ犯の爆弾もそうだけど、日本の漫画なんて持ってきてもいいのかねぇ…


 ともかく、初期装備はこの短剣と銀貨三枚だ。


 短剣を無理やりベルトに引っ掛け、銀貨をポケットに入れて歩き出す。

 ベルトはそれ用には出来ていないので残念ながらさっと短剣を抜くようにはできなかったが、両手がふさがった状態で歩くよりはましだ。馬車があった道まで慎重に戻り、どちらに行くべきかを考える。奴隷狩りに追いつくのは危険だが、どっちみち街に行かなければどうにもならない。転生で出現する初期位置が決まっているならば、街から遠く離れた場所とも思えないが、反対方向に行って町や村がすぐあるとも思えない。


 仕方なく、奴隷狩りの馬車が向かった方へと進む。


 追いついたりしないように急ぎすぎず、かと言って夜が更ける前にたどり着けるようにそこそこの速度で歩く。まぁ、もう日は沈んで、辺りはだいぶ暗いんだが。


 奴隷狩りに追いつかないように慎重に歩いていたために、城壁に囲まれた街らしき影が見えてきた時には周りはすっかり暗くなっていた。幸いにして道は広くて分かりやすくなっており、街の門らしき所には松明の明かりが見えた。門の外の脇には馬車が何台か円を描くように並んでいて、その中央では焚き火が萌えている。並んでいる馬車は幌がかけてあったり荷物が積んである普通のものだけで、奴隷商人の馬車は見当たらなかった。さっさと街に入ったのか、それとも門に向かわずに途中で道を外れたのか…


 もう夜も更けていたので当然のように門は閉ざされていたが、脇に小さな通用門がありその前に二人の兵士が立っていた。


「すいません、街の中に入りたいのですが…」

『え? なんだって?』


 当然のように言葉が通じなかった。英語は話せないが、相手が話している言葉が英語でないのはわかる。


『そのへんな服装、異邦人って奴か? 最近あまり見かけなくなったという話だったが、珍しいな。』

「すいません、言葉がわからないのですが」

『なんて言ってるんだ? 変な言葉を使ってるな。おい、ハンス。お前はコイツが何言ってるかわかるか?』

『俺に異邦人の言葉が分かるわけがないだろう。それに前に見かけた異邦人の言葉とも違うようだ。どっちみち、俺には異邦人語は分からないがな。』

 もうひとりの兵士に何かを問いかけたようだったが、結局言葉が通じないようだ。

 私はジェスチャーで言葉が通じないことと街の中に入りたいことを伝えようとした。


 通用門を指さしたことで街の中に入りたいということが伝わったようだが、兵士がにやりといやらしい笑みを浮かべた。

『夜間に街に入りたいのか。夜間に入るには通行料がかかるが…そうだな、銀貨一枚だ。』

 懐から財布を取り出すと、私が持っているのと同じような銀貨を取り出し、銀貨と通用門を交互に指さした。

『おい、スティン、夜間の通行料は小銅貨二枚だろう? 銀貨一枚はいくらなんでもボリ過ぎだ!』

『大丈夫だって、ハンス。どうせ言葉がわからないなら文句も言えないし、これは迷惑料さ。とっ捕まえて奴隷商人に売り飛ばさないだけありがたいと思ってもらわなきゃ。』

『以前に異邦人を捕まえて勝手に奴隷商人に売り飛ばしたって奴は、結局そのあとでバレてとっつかまって、逆に犯罪奴隷に落とされたって話じゃねぇか。そこまでの度胸なんてないくせに!』

『いいんだって。ちょっと怪しい奴を通すのに多めに通行料をとってる奴だっているじゃねぇか。これも似たようなもんだって。それに異邦人は何故か初めにここで使われてる銀貨を数枚持っているんだって聞いてるぜ?』

 銀貨を示した兵士と後ろの兵士が何やら言い争っているようだが、結局後ろの兵には諦めたようにため息をついて引き下がった。


 町に入るのに、銀貨一枚かかるのだろうか?


 初めに持たされた銀貨がたった三枚であることを考えると、銀貨一枚はどう考えても高すぎる気がする。もうひとりの兵士との言い争いを考えても、やはりぼっているのだろう。だが仮にそうだとしても、言葉が通じないのにどうすることができる? 文句をつけることもできなければ値切り交渉をすることもできない。


 結局、私は銀貨一枚を渡して、通用門を通してもらった。


 私が通用門を通ったあと、兵士はさっさと門の外側へ戻り通用門を閉じてしまった。門の内側からほかの兵士が出てくることもなく、なにかの登録や通行証などを渡されることもなかった。


 え? ただの通行料だけで銀貨一枚だった?


 私は登録料的なものだと思っていたが、ほんとにただの通行料だったらしい。城壁の内側にいる兵士もまったくこちらに見向きもせず放置するようだし、別に気にしていないようだった。


「いくらなんでも高すぎるだろーー」

 思わず声を上げてしまったが、道行く人もちらりとこちらを見ただけで結局何を叫んでいるかわからなかったので何事もなかったかのように立ち去っていった。


 これも一種の初心者狩りなのだろう。


 私も騙されない人間だと思いながら、早速騙されてしまったようだ。ただ、これは言葉が通じない故の不可抗力だったと思うんだが…。せめて言葉くらい通じるようにしてくれよと思いながら、街の中へと歩き出した…。


 そして、言葉が通じないのだから、当然文字も読めるわけがないということに気付かされた。


 そりゃ当たり前だ。ただ、この街の雰囲気からいうとこの世界は中世位の時代のようで、看板も字が読めない人でもわかるように意匠で表した上で店の名前がついていた。この時間でも開いてるなら酒場か宿屋だろうが、ジョッキの意匠で表された酒場はわかるのだが、そこに宿屋が併設されているのか? または宿屋だけの店があるのかは結局分からなかった。言葉が通じない状態で酒場に突撃し、宿もやっているかをジェスチャーで聞き出す自信はなかった。宿屋だけなら、看板はベッドだろうか?


 そして、そこから2時間ほどある建物を探したが、見つけることができなかった。


「冒険者ギルドが見つからねぇ!」


 当然私の叫びを理解できる者はおらず、私の声が虚しく夜の街に響き渡るだけだった…。


書いてて、自分でもさすがに設定がきついなぁと思いますが、本来の異世界なんてこんなものでしょ?

軌道に乗るまでは、まだしばらくきつい状態が続きます…

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