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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第三章 さぁ、パーティーを始めよう
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3-3 魔法習得法と奴隷売買

 イツキと出会ってから、一週間が経った。


 イツキは前世で英語を使って仕事をし、ほかのいくつかの言葉も習っていたということもあって、この世界の言葉の習得もスムーズに進んでいた。一度教えた単語は忘れないし、片言でも積極的に私以外にも話しかけようとする。そして、半分以上意味がわからなくても、なんとか会話が成立しているようにしてしまうのだ。この調子なら、一月と言わず半月である程度の会話はできるようになりそうだ。


 だが戦闘に関してはさっぱり進歩していなかった。

 あれから村のそばでクロスボウの訓練をしているが、素人でも当てやすいはずのクロスボウがさっぱり的に当たらない。矢尻のない矢で戦闘中に射掛けるタイミングを練習しても、まったくとんちんかんな時に撃ち込む。。

 では、ほかの武器はどうかといくつか試したが、近距離中距離長距離と軒並みダメであった。そもそもへっぴり腰で危なくて前に出せる状態ではなく、槍の距離でも安心できない。ショートボウはどうかと試させてみたが、全く前に飛ばない。まだクロスボウのほうがましであるという結論に至った。


 では魔法はどうか?というと、これは教えようと思う我々の方にも問題があった。

 まず一番初めの魔法を使うという感覚がどうしても教えられなかったのだ。もともと我々は魔術師ギルドの初級魔法で詠唱によって魔法の神様とやらに魔力を抜かれ、魔法が発動するところまで持って行かれてるのだ。それを魔法を全く使ったことがない人間に伝えようと思っても、うまくいかない。

 ではと、目の前でいくつか魔法を見せたが、それでもさっぱりだという。肩など体に接触させた状態で魔法を使ってもわからないという。

 どの適性があるかを見るという水晶もないのも問題だ。一応全部の属性の初級魔法を見せチャレンジさせたが、結局まず魔力を動かすところからできないという。


「ということなんだが、魔女に魔法や(まじな)いを最初に教える時はどうしてるんだ?」

 私は藁にも縋る思いでルルイスに相談に来ていた。

「そもそも私はいきなり魔法や呪いを教えたりはしないわよ。私の師匠もそうだったわね。

 私たちの場合は、まず弟子に取ると身の回りの世話をさせてその人柄をよく確認するのです。そのうえでまずは様々な知識を教える。注意しなきゃいけないことや危険な生き物、近寄ってはいけない場所や侵してはいけない決まり。

 安全に関する知識がしっかりと身についてから、次は役に立つ知識を教える。薬草の種類やその効能、森の歩き方、知恵ある善なる存在といたずら好きだけどきちんと付き合えば手を貸してくれる妖精たち。そして、毒や呪術も使い方次第では人々を助けるということも教えていく。

 必要な知識を覚えたらそこから本格的に魔女の修行が始まるんですけど、よくあるパターンがまず薬の調合から始めることですね。まずは魔力を使わなくてもいい知識と手作業だけで作れる簡単な薬を作らせる。そこからどんどん複雑な薬へと進んでいき、そのうち魔力を込める必要のある薬へと進んでいく。才能がある子はどんどん進んでいつの間にか魔力を使えるようになるし、そこそこ止まりの子は時間をかけて使えるようにしていく。

 そうして本格的な魔法を使う準備が出来たら、手本を示し、小さな魔法から覚えさせていくんですよ。」

「そうなると、当然一人育てるのも時間がかかるのだろうね…」

「もちろんです。3年かけて小さな魔法を使えるとこまで行ったら優秀な方よ。希にすぐ魔法を使えるようになる優秀すぎるのが出るけど、そういう子はきちんとした知識が備わる前に力が付いてしまうから黒の道に引きずられやすいんですよ。ちなみに、あなたたちには黒の道に繋がりやすい呪いはまだ教えないようにしています。」

「うーむ、3年か…」

 さすがに3年は長すぎるので私たちは同じ方法は取れないだろう。そんなに長期間穀潰しを置いておく余裕はまだない。

「もっと早く魔力の動きを教える方法はありますが、危険な方法ですよ? 私が知っているのは手を握って直接相手の体の中で魔力を動かしてやって、魔力を移動させる感覚を伝えるものです。」

「…ちょっとよくわかりませんね…」

「一度やってみましょうか。あなたなら既にかなり魔力を扱えていますし、危険はないでしょう。」


 ルルイスは私を向かい合い、輪を描くように両手を繋ぐ。

「行きますよ。片方の手からもう片方の手へ、相手の体も自分の一部と思うようにして動かすのです。」

 ルルイスの右手から魔力が私の手に注がれ、そのまま私の体を通過して左手へと移動していく。なるほど、これなら私が魔力を動かさなくても、魔力が移動していく様子を感じることができる。

「なるほど、これなら素人でも魔力の移動を感じることができますね。」

「ですが、誰にでも使っていい方法ではありません。

 魔力を持ってはいるけど魔力を制御する才能のないものに使うと、自分の魔力の動きが抑えられなくなって放出し続けてしまうことがあり、最悪の場合死に至ります。それが分かっていながら強引にこれを行う者たちもいますがね。才能がないものたちは死んでもいいという考え方です。

 私はそのような考え方には賛同できないので、3年以上かけてもゆっくり育成するのです。」

「そうですね、それほどのリスクを冒してまで用いるべきではないでしょうね。よほど習得しなければ死にかねない状況ででもなければ。このような穏やかな村では必要ないでしょう。」

 いろいろなことを総合的に考慮すれば、イツキを慌てて育成しようとしないほうがいいのだろう。言葉の習得はスムーズなのだから、まずは言葉を覚えさせてから穏やかな暮らしができるようにしてやるべきかなと思う。



 数日後、私とマイルズは王都に向かった。

 教会本部から、探して欲しいと頼んでいた人材が見つかったと知らせを受けたのだ。

 ルルイス村から王都までは馬で移動して一日半。イツキをミランダに預け二人だけで向かっている。馬が二頭しかいなかったのはあるが、必要ならば貸し馬も存在はした。だが、イツキが王都行きを嫌がったのだ。まぁ、その間私が言葉を教えることはできないが、もうなんとか最低限の意思疎通ができなくもない状態で事情を知っているミランダに預けているのだから、問題なく自分で覚えるように努力できるだろう。

 私たちは途中の村で一泊したが、結局何事もなく王都に到着。

 そして今は北門で新規登録のために列に並んでいる。一度登録したものであれば再登録として西門でも扱ってもらえるらしいが、なぜ新規かといえば私は前回は高級馬車で通過した上に魔術師ギルド対策で偽名で登録したからだ。偽名で再登録として通過しても良かったが、わざわざ魔術師ギルドから見つからないように作った偽名を使うリスクは避けるべきだった。

 昼を少し過ぎたくらいであったが、それなりに王都に入ろうと行列待ちしている人間は多い。そして、王都に入ろうとする人と同様に王都に入ろうとする馬車も多かった。特に商人たちの馬車は持ち込む荷物の検査もあるため、前日に門の外まで到着しておきながら、次の日の昼を過ぎてもまだ列の途中などということもあるようだ。

 列もあともう少しというところで、そんな馬車の一つが我々の前に停まった。荷台が檻になっている奴隷商人が使う奴隷運搬用の馬車だ。中に数名の奴隷が入っておりすえた臭いがするが、異様なのはその奴隷たち全員が怪我をしていることだ。そんな怪我をした奴隷たちの中から、不意に英語の会話が聞こえてきた。

『いてて。馬車の乗り心地がが悪くてシェイクされるようだぜ。』

『だいぶ痛むようだな。怪我は大丈夫か?』

『怪我人なのはお互い様だろ? 糞な馬車に揺られているのもな。』

『俺のほうがまだ怪我は軽いさ。あんたの足は化膿し始めてるんじゃないか?』

『痛いってことはまだ足は生きてるってことさ。こんなケガくらいでくたばってたまるかよ。』

 声の主はやや大柄な黒人と少し優男風の白人。二人共力仕事をしていたのかしっかりとした筋肉がついているようだが、ともに足を怪我しているようだ。歩けない奴隷はすぐは仕事をさせられない。だが、英語で会話していたということは転生者であり、私と同じ世界から来たということだ。

「どれか、気になる奴隷でもいましたか?」

 馬車の中を気にした私を目ざとく見つけ、奴隷商人が声をかけてきた。順番待ちで暇を持て余していたのもあるだろうが。

「これだけの数の奴隷が皆怪我をしているのが少し気になってみていたんだが、その中から故郷の言葉が聞こえてきたから少し懐かしく感じていてな。」

「へぇ、それはそれは。どちらのご出身で?」

「遥か東にある群島さ。言葉が大陸にある国とは違うから、私も出てきたばかりの時は苦労したよ。島によって肌の色が違ったり、その島でしか通じない言葉があったりで、同じ群島出身でも意思の疎通に苦労するときがあるんだけどね。」

 わざと架空の出身を作り出したのは商人相手に転生した異邦人だと教えないほうがいいだろうとの判断だ。その相手が人の売買を生業にしているとなればなおさらだ。

「少し話をしてみていいかい?」

「へい、どうぞ。」

 素直に認めてくれるが、頭の中ではいくらで売りつけるかの計算を始めているだろう。

『はい、少しいいかな? 私は日本人だ。君たちはどこからきたんだい?』

『うぉ、あんたも転生者か! 俺はアメリカ人だ。まぁ、中東で糞なテロリストにやられたんだけどな。』

『私はフランス人だ。こちらに来てから奴隷じゃない転生者とあったのは初めてだね。』

『こちらに来てから長いのかい?』

『ほぼ二年だ。その間ずっとクソ奴隷として過ごしてきたがな。』

『私たちはほぼ同時期に転生してきてずっと奴隷として一緒に苦労してきたんだよ。今は怪我人として風前の灯だけどね。』

『ほかにもここに転生者はいるかい?』

『同じ職場にあと二人いたけど、一人は土砂崩れでおっちんじまってもうひとりは怪我をしなかったから売られていない。あのクソ領主、土砂崩れを俺らのせいにして売り飛ばしやがって!』

『崩れそうな斜面の補強作業に駆り出されたんだが、我々が作業を始めた時には手遅れでね。土砂崩れで大勢亡くなったし、怪我人も大量に出た。土砂崩れを止められなかったのは我々のせいと怒った領主が怪我した奴隷を全部売り飛ばしたのさ。だいぶ買い叩かれたようだけどね。』

『なるほど。これから値段交渉になるから、つじつまを合わせておくれよ? あとあまり元気になった様子を見せないようにな。』

 振り返ると、奴隷商人が揉み手をして待ち構えていた。

「お気に召したでしょうかね? どうです、なかなか力のある働き盛りの者たちです。よろしければお買い上げになりませんか? いまなら怪我人としてお安くしておきますよ?」

「そうだね、島は違うようだけど同じ群島出身の者たちのようだ。この際、奴隷を持つことを考えてもいいかもしれないな。怪我をしていて、今はお買い得のようだし?」

「ですが、この二人は異邦人として少し高めに買い取ったんですがね? 珍しい肌の色をしていましたし、間違いないと思っていたんですが。」

「そこは騙されたようだね。島によって特殊な肌のものがいるんだよ。異邦人として特殊な能力があったわけじゃないんだろう?」

 私と奴隷商人との言葉による鍔迫り合いが始まる。ここで手強しと見せておかなければふっかけられる。

「大きい黒いほうが大銀貨3枚、少し小さめの白いのが大銀貨2枚と小銀貨2枚でどうでしょう? 怪我を考慮して大安売りですよ?」

「ちょっと高すぎるように思うな。我々もあまり懐に余裕はないし、どう思う、マイルズ?」

「そうですね、怪我人なら高いように思います。」

 私の目配せを理解したマイルズがハンドサインで二人で大銀貨二枚小銀貨7枚が相場と伝えてくる。

「異邦人として高く買わされたのは騙されたあんたが悪いんだし、足を怪我していたらすぐは使えない。大きいほうが小銀貨8枚、小さいのが4枚ってところじゃないか?」

「いえいえこのくらいの怪我なら若いうちはすぐに治りますとも。白い方も小さく見えても体はしっかりしています。黒いのが大銀貨2枚、白いのが大銀貨1枚と小銀貨5枚。」

「こちらは治療代も出さなければいけないし、どうせあんたは治療せずに自分で治るのを待つんだろうからそのまま死んでしまうリスクもあるししばらく売れない商品を抱えることにもなる。そこも考えると、黒いのが大銀貨一枚、白いのが小銀貨6枚ってところじゃないか?」

「この二人ならすぐ回復すると見てるんですがね? 黒いのが大銀貨一枚と小銀貨6枚、白いのが大銀貨一枚。もうこの辺りで勘弁してくださいよ。」

 そうこうしているうちに列は進む。商人たちの列より私たちの人だけの列の方が捌くのは早いのは当然だろう。

「おっと、そろそろこっちは我々の番になりそうだな。このまま通過してしまうと、中で合流できずにあなたの店にもたどり着けないかもしれない。それに、先に売ってしまえば商品としての税金はこちらの負担になる。衛兵のチェックの前に成立させてしまったほうがいいんじゃないか? 二人合わせて大銀貨2枚。私達の方もこのくらいが限界なんだよ。」

 奴隷商人の視線が我々と係りの衛兵との間を行ったり来たりする。

「わかりました、大銀貨二枚で。まったく旦那には敵いませんよ。」

 商談成立の握手を奴隷商人と交わす。時間があればもっと難癖をつけても良かったかもしれないが、こんなものだろう。我々の懐が厳しいのも確かだ。これからもっと出費が増えることも確かであるし。


 その後の我々の審査は、横に身元のしっかりした騎士見習いがいたおかげで、手配書の人相書きを軽くチェックするだけでごくあっさりと終わった。また、商人側の係りの衛兵にマイルズの身分証を提示して奴隷二人が売約済であることを示すと、奴隷持ち込みの税金も大幅にまけてくれた。王都におけるクリストス教の信用度、恐るべしである。

 そのまま奴隷商人とともにその店まで付いていき、正式な売買契約書を作成し、大銀貨二枚を支払った。一応貯蓄はそのくらいはあるはずだがここまで持ってきていなかったので、マイルズが協会本部より渡されている資金から立て替えてもらった。マイルズは返却不要と言っていたがあまり教会に借りは作りたくないので、ちゃんとあとで返す予定だ。


「では、これが奴隷所有証明書です。そしてこれが二人の手枷と足枷の鍵です。」

「ありがとう。奴隷を縛るものはこの手枷足枷しかないのかい?」

「奴隷になってしばらく経っているならばわかっているでしょうけど、あとは痛みと恐怖です。逃亡した本人に懲罰で強烈な折檻を行い、またそれを他の奴隷に見せて逃げたらどうなるかの見せしめとする。そうすることで逃亡しようとする意志を挫くのが、奴隷を所有するコツですよ。」

「なるほど…。まぁ、二人しかいない奴隷の片方をひどく痛めつけすぎると、使うときに困りそうだけどね。あの二人にはもう逃亡したものの末路はわかっているだろうけど。」

 私は奴隷商人から証明書と鍵を受け取りながら、わざと残忍な奴隷商人のやり方に賛同した。

 奴隷を解放する方法はあるのだろうけど、ここではその方法を聞くことすら避けておいた。解放するために奴隷を買うと知られると、今後値段を吊り上げに来る可能性があるからだ。後にどのくらいの奴隷と化した転生者を買い取るかは不明だが、おそらく、王都の中ではやめておいたほうがいいだろう。

「このあとはどちらまで? 馬でお越しのようですし、よろしければ私どもで奴隷二人を運びましょう。」

「では、クリストス教会本部の治療院まで。さっさと治療してしまって早く使えるようにしたいからな。」

「ですが、あそこは奴隷にはちと高級すぎませんか?」

「知り合いがいて安くしてくれるのさ。奴隷の治療とはいえ、いい治療が割安で受けられるならそちらのほうがいいだろう?」

「なるほど。ではそちらの方にお送りします。」

 奇妙な買い物をしたものだと思う。だが、手に入れたものの価値を考えれば、お買い得といってもいいのだろう。


 この異世界には優しい奴隷制度などはない。奴隷は鎖と暴力によって支配され、粗雑に扱われ怪我をしたり死んだも経済的損失でしかない。



 この異世界に奴隷の隷属魔法などというものはなかった。

ちと区切りが悪くなりましたが、この先を入れるとまた長くなりすぎるので…

なお、英語の会話を英語で書く能力はないので、

黒人のスラングは適当に想像してください…(頻繁にぴー音が鳴る感じで)

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