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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第三章 さぁ、パーティーを始めよう
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3-2 イツキ

少し新キャラに手間取っております…

 その若者の名は藤堂一樹というらしかった。


『我々はマドゥの街ではなくルルイス村を拠点にしている。言葉を教えようと思うとそちらに拠点を移してもらうことになるが、構わないか? もうわかっていると思うが、この異世界は教えたら一瞬で習得するなんてことはできないからな。日常会話ができるまで一ヶ月はみてもらいたい。』

『もう充分わかっているさ、この世界の厳しさはな。それにこの街では拠点というほどの活動はしていない。ただ、言葉が通じる人間を探している間滞在していただけさ。あんたらが拠点にしてる村に行くよ。』


 イツキは20歳前後の若者で、少し小柄だ。体格的にはマイルズよりも細いだろう。栄養状態が良くないのか、少し顔色が悪く痩せている。黒い髪を短くスポーツ刈りに刈り込んでいるが、床屋にやらせたというより、自分で無理矢理刈ったようにボサボサだ。

 そして、現代の日本人の若者なら珍しくもないが、線が細くスポーツをやっていたという雰囲気はない。日本人だから絶対に戦闘力がないとは断言はできないが、見たところ無力だろう。


『荷物を取ってくる、ここで待っていてくれ。』

 イツキが寝泊まりしていたのは、ボロボロの廃屋だった。壁に開いた小さな隙間に体をねじ込むように入っていく。マイルズならなんとか通れるかもしれないが、私では無理だろう。表で待つ事にする。


「サトシ様。あのイツキとかいうもの、おそらくは…」

「言葉がわからない状態で、こんなとこに隠れて住んでいた。ということは、たぶん逃亡奴隷だろうな。」


 転生者はしばらく前から全て捕まって奴隷にされていた。いまは教会が保護する仕組みが出来上がっているはずだが、保護されたなら言葉がわからないまま隠れているはずがない。転生者を根こそぎ捕まえるシステムがいつごろ作られたかは分からないが、数ヶ月以上前からであることを考えると言葉が分からず収入がない状態でしのげているとは思えない。かなり前に転生してそのままホームレスとして言葉が分かる人間をずっと探し続けていた可能性について言えば、イツキは確かにボロボロの古臭い安い服に身を包んでいたが、残飯などをあさって乞食のように生きていたと見えるほどは臭っていなかった。

 となると残る可能性は、一度奴隷になったがその後解放されたか逃げ出したかしかない。


「逃亡した位ならいいのですが、逃げ出すときに犯罪を犯しているかもしれません。」

「そうだとしても、できる限り保護してやりたい。理由があって奴隷に堕ちたのならともかく、問答無用で奴隷狩りに攫われただけなのが始めだろうからな。逃げる際に暴れるくらいは容赦して欲しいものだ。貴族を殺したりしていなければいいんだがなぁ。」

「サトシ様がわかっていてそう望むのであれば、私たちクリストス教徒は命をかけて叶えましょう。」

 マイルズは膝を軽く折って恭順の意志を示す。そういえば、さっき神を見たばかりで忠実な下僕モードだった。これなら大貴族を殺した殺人犯でも助けようとしそうだが、あまり無理はさせたくはないものである。


『おまたせ。さぁ行こうか。』

 少し時間がかかるなと思っていたが、どうやら着替えてついでに体を拭ってきたようである。さっきまでのボロい安物の服と違って、少し洒落た服を着てこざっぱりしている。ただその服装はなにかちぐはぐで不自然な感じもする。顔も汚れているが、一度綺麗に拭ったあとでわざと汚したような感じで匂うような汚れではない。わざと顔を汚して隠しているのだとしたら、犯罪を犯した可能性が高まるが…。

『その前に一度食事をしていこう。我々は昼を食べたばかりだが、イツキは腹は空いてるのだろう?』

『もちろんだ、いつまでともしれず節約してきたからな。奢ってくれるなら、喜んで。』

『そこの店でいいか?』

『あぁ。少し高そうな店だが自分の金じゃないなら大歓迎だ。』

 私は表通りにある立派な店を示したが、イツキは迷うことなく受け入れた。

「マイルズ、一度その店で食事をしていこう。イツキのためで我々は少し軽くつまむ程度でいいだろう。」

「はい、わかりました。」

「このようなしっかりした店で堂々と食事しようとするのだから、この街では犯罪を犯してないと思いたいね。」

「ただ不注意なだけの可能性がありますので、油断はなさらぬように。」

 少し試すつもりで食事をと提案したが、心配しすぎだったようだ。

 結局、イツキは意地汚いという食べ方ではなかったが結構な量を堂々と平らげたのである。店自体も最高級とは言わないまでも我々でも普段昼食で入るような店ではなかったので、結構な料金となった。ルルイスでの収入も安定しているため、問題になるほどではなかったが。


 マドゥの街からルルイスの村までは馬で3時間ほどかかる。

 本当はマドゥの街で少し魔物討伐をして一泊してから翌日に戻るつもりであったが、イツキがいるのでさっさと戻ることにした。

 イツキはマイルズの馬に相乗りしている。なぜか私の馬に乗るのはかたくなに拒否したからである。マイルズの方が小柄であるし護衛である自分の馬に乗せたほうが安心だとマイルズも言うので受け入れたが、やはりおっさんと乗るのは嫌なのだろうか? 少し若者に拒絶されたような気がしてショックである。

 ルルイスの村にはまだ明るいうちに到着し、新規のものを受け入れる門番詰所の方に連れて行く。

 我々と門番はもう顔なじみなのでそのまま一緒に連れて行けば素通りさせてくれるだろうが、あえてそちらで確認させたのだ。イツキも一瞬困った顔をしたが、素直についてきた。

「最近、奴隷が貴族を殺したような事件はないよな?」

 何気なく問いかける感じで門番に確認する。門番は回ってきている手配書をパラパラとめくり一通り確認する。ただ、この異世界に写真などというものはないので、どれも手書きの似顔絵である。われわれの世界の人間よりも似顔絵で犯人を探すのには慣れているだろうが、書き写す時も手書きなのでこんな村に回ってくる手配書が犯人に似ているとは限らない。

「ないですね。ブルネットの女がスケベ貴族の股を蹴飛ばして逃げた話くらいで、奴隷以外でも最近貴族が殺されたような話はありません。奴隷が逃げ出した話だけなら山のようにあって、多すぎて手配書なんか回ってきませんしね。そちらのイツキさんも特に問題ないようです。」

 とりあえずはほっとする。人の命は平等などという人間はいるが、このような社会では貴族と平民の命は等価ではない。同じく被害者が一人だとしても、その犯人追跡の熱意はだいぶ変わってくるのだ。もっとも、前世でも警官殺しや重要人物に対する殺人はその捜査は異常なまでに熱心だったが。

 私と門番との会話をイツキは少し顔をこわばらせて聞いていた。言葉はわからなくても、元奴隷であったなら『奴隷』という単語くらいは聞き分けるはずだ。

『問題はないようだ。まずはさっさと住民登録を済ませて我々が定宿にしている宿屋に行こう。いつもそれほど混んでないから、もうひと部屋くらいは空いてるはずだ。』

『い、言っておくが、宿代を払うほどの余裕は…』

『わかっているさ、しばらくは私が用立ててやる。ただ、いつまでもというわけにはいかないから、言葉と一緒に金の稼ぎ方を覚えておくれよ?』

 私はイツキを連れて村の住民登録を受け付けている建物へと歩き出した…。



「うーむ、それで何ができるかだよなぁ…」

 宿屋で部屋をもう一つ確保したついでに夕食をそのまま取ったあと、安いワインをちびちび飲みながら、頭を悩ませる。言葉を教えるのはともかく、そっちはどうするかの方針が見えてこない。

『率直に聞くが、どんな稼ぎ方ができそうだ?』

『わからない。転生前は輸入品の卸売の仕事をしていた。英語ができる他、中国語とフランス語が片言で少しわかるくらいだ。まぁ、この世界では役に立たないだろうな。』

『ということは戦闘に使える技能なんかは…』

『もちろん、ない。今の日本ではいきなり戦える人間のほうが珍しいと思うけど?』

『そうだよなぁ…』

 よく思い返してみれば、私もよく魔物討伐などができたものだ。成り行きで戦うようになり、稼ぎの為に討伐が中心になってしまったとも言うが。

『とりあえず、私が教えてやれるのは、薬草採取と魔物討伐だけだ。言葉を覚えればここの村長や村人に伝手はあるから仕事を斡旋してもらえるだろうが、言葉を覚えるまでお前と一緒に宿屋にこもっているわけにはいかないからな。戦えないまでも、村の外まで付いてきてもらうことになる。』

『言葉を教えてくれるなら、ついて行くさ。戦えというなら努力はするが、期待はしないでくれよ?』

『ゲームじゃないんだから、訓練もせずにいきなり戦えるとは思っていないさ。普通は武器を持っただけじゃ、最弱の魔物にも勝てない。』

 私も今でこそ長剣で魔物と戦っているが、まずはゴロウに習って短剣で戦う訓練をし、そこから槍の訓練に切り替え、弓の訓練を経て、マイルズに長剣の指導をしてもらって使えるようになったのだ。多少の適性はあったと思ってはいるが、訓練なしには戦えなかった。

「マイルズ、とりあえず言葉を教えながら連れ回そうかなと思う。本人は必要なら戦う努力はするようなことは言ってるが…」

「それならば、誰でも使えるいいものがありますよ。誰かが前で戦うのが前提ですけどね。」

 そのいいものというのが何かを聞いて、なるほどと思うのであった。



『この感じは、ベビーグリーンボアだ。』「ベビーグリーンボア」『ベビーなグリーンのボアで』「ベビーグリーンボア」

『そ、そんなことよりも、いるのは魔物なんだろ? 大丈夫なのか?』

『大丈夫大丈夫、いつも大人のグリーンボアを狩ってるんだから。そんなことよりも、言葉の習得は反復練習が基本だぞ?』

 イツキはカタカタと手の中の”クロスボウ”を震わせながら構えている。クロスボウは連射は利かないが素人でもまっすぐ飛びそれなりの威力が出る武器だ。装填に力が必要ではあるが、そのための取っ手と歯車が組み込まれているものを用意した。まぁ、あまりにその手つきがおぼつかないので、保険でちょっとした仕掛けをしてあるがイツキは気付いていない。

「サトシ様、ベビーとはいえ少し油断しすぎではないですか?」

「一度イツキに動いていてこっちに向かってくる魔物を見せてきたくてな。ホントは突撃兎でもいればよかったんだが見つからなかったんだよ。」

 ベビーグリーンボアは我々の話し声に気付いて、こちらに向かってきた。まぁ、聞こえるように話しているんだから、魔物らしく向かってきてもらわなくては困る。

「よっと!」

 茂みから出てくるところにタイミングを合わせ、その鼻先を軽く切りつけて突進を止める。筋力強化をかければ一撃で切り倒せる相手だが手加減をしている。念のため、防御魔法は軽くかけているが。

『これが魔物だ。討伐できるようになれとも討伐を仕事にしろとも強制はしないが、不意に遭遇した時に慌てないようにしてくれよ?』

『あ、あぁ…』

 答えるイツキの声は震えている。この感じだと初めて見たのだろうか? この調子だと、すぐは戦えるようにはならないだろう。

 さて、魔物を見せるのはこんなものでいいかなと剣を振り上げた瞬間、

ドスッ。

「いてっ!」

 私の脇腹に矢が撃ち込まれた。

『うわ! ご、ごめんなさい!』

 イツキの仕業だった。私に隙ができたと見たマイルズがさっとベビーグリーンボアに切りつけその首を落とす。イツキは慌ててクロスボウを放り投げ、私のもとに駆け寄ってきた。

『あぁ、すまない、こんなつもりじゃ…』

『いや、大丈夫だ。』

 私はうろたえるイツキを制すると、周囲の気配を探りほかに魔物がいないことを確認して長剣を収めた。

『こんなこともあろうかと、わざと矢尻がついてない矢を装填させていたからな。本来ならば、そのくらい自分で気付いて欲しいところだったが。あと、本気で戦闘に参加するつもりなら、装填が遅くても次の矢を確保しておくべきだ。』

 私に刺さったはずの矢は矢尻がついていないために刺さらずに地面に落ちていた。まぁ、防御の魔法をかけていたので、革鎧に守られてる脇腹くらいなら矢尻がついていても致命傷にはならなかっただろうが。

『えぇ? じゃあ、初めから戦力としてみていなかってことか? ならなんで俺にクロスボウを持たせたんだよ?』

『一つは魔物がいる村の外に連れていくのに武器を持たせて安心させるため。もう一つは、これから使うときの練習をさせるためさ。将来的には矢尻の付いた矢でちゃんと戦闘に参加してもらうからな? まずは矢尻のない矢で、前に味方がいて戦ってる時に、どのタイミングで撃つべきかの練習だ。』

 そして放り投げられたクロスボウを広い、巻き上げて矢尻のついた矢をセットする。

『あらためて、その威力を認識して欲しい。』

 私はベビーグリーンボアの死体に向けて矢を放つ。矢はその身に深く突き刺さった。

『撃つのは簡単でもこれだけの威力で矢が刺されば、人は死ぬし魔物も当たり所によっては致命傷になる。そのことを意識して、しばらくは訓練に専念して欲しい。』

 全ては今朝クロスボウを渡した時に、イツキがその練習を軽視していたから安全のために仕込んだことだ。慌てて変なタイミングで撃つくらいかもとも思っていたが、ここまで見事にフレンドリーファイヤをしてくれるとは思わなかった。これは慎重に練習を重ねさせたほうがいいだろう。

『さて、では一度、ベビーグリーンボアを持って村に帰ろうか。ベビーは小さくて少し肉が少ないが、柔らかくて美味いんだよ。』

 そして、村へ帰ろうとして発覚した事実だが、筋力強化が使えなければ大きな獲物を運ぶ役には立たないということだ。三人で荷物を担ぐというのは、意外にバランスが悪くて難しいものだ。手押し車でも用意しないと、イツキには運べないだろう…。


 成り行きで加えた新人がいきなり活躍するなんてことはないようだった。


イツキをどの辺りに持っていくかを少し迷います。

ま、この章のテーマ的に大まかな役割は決まっているんですがね…

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