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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第二章 僕達と契約して魔法使いになってよ?
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2-6 魔女の村

 王都の南を抜ける林道を馬で進みながら、より詳しい話をしておこうと考える。


「マイルズは、魔女についてどう思う? 悪い存在として嫌悪感があったりするか?」

「いえ、特には。少し話に聞いたことがあるという程度で詳しくは知らないのですが。」

「まぁ、私も実物は知らないし、この国の魔女がどんな相手かは会ってみないとわからないけどな。」

 前世での魔女の知識は、あくまで物語の中の架空の存在のみであり、それもものによって両極端だった。

 特に古いものでは悪い魔女が多く、人を騙したり呪ったりとメインの悪役として登場する。近代的なものでは自然を守る番人や薬や呪い払いなど人に役に立つ側で登場するものが増えていく。ものによっては善と悪の両方があって、争っていたりも。

「さすがに魔法少女ではないだろうが…」

 現代の日本では魔法少女ものが多くあるせいで、魔女見習い的な少女が悪と一生懸命戦うイメージが強くあると思う。そして、魔法少女は変身しなくてはいけない…かもしれない。


 教会で聞いた情報でも、魔女について詳しいものは出てこなかった。

 だが存在はしているようで、魔女というものを認識しているようであったし、噂話程度のものがいくつかでてきた。その噂話でも、善と悪両方の話が混ざっている。

「まずは見つけてみないとどうこうとは言えないが、ルルイスの村に魔女がいるという前提で行動してもらいたい。そして、魔女であるならば、クリストス教の人間は警戒するはずだ。」

「クリストス教の騎士見習いだと知られてはいけないということですね?」

「そういうことだ。また、ルルイス村まで付いてくる密偵についても、魔女に対して悪感情を持たないものだけを選出し、なるべく少人数に絞ってもしもの時も決して敵対せずに行動するように、プレイアデス猊下にお願いしてある。いつもよりもサポートが受けづらくなる可能性があるから、注意してくれ。」

「わかりました、より私の役割が重要ということですね? サトシ様の護衛として、より一層の精進をさせていただきます!」

 マイルズは鼻息荒く気合を入れている。重要な役どころであるのは確かだが、気負いすぎて暴走しないでほしいものである。


「”魔女狩り”という言葉を聞いたことはあるか?」

 この世界には魔力が溢れているので魔法が使えても不思議ではないので、行われないだろうと思うが。

「聞いたことはあります。ここではない世界で行われた愚かな行為で、けして同じ過ちを犯してはいけないと。ただ、どうして不確かな疑いで人を私刑にかけて害するのか、理解ができませんでしたが。」

「無知ゆえのヒステリーと言えるだろう。

 だが問題は、その発生にクリストス教の前世での名前であるキリスト教が生み出した異端審問が関わっていることだ。魔女狩り自体を主として行ったのは異端審問官ではないとされているが、疑わしき者を捕えて起訴し自ら捜査を行って、その捜査の過程で拷問を用いた自白強要が行われるという形を作ったのは重大だ。本来、異端審問というのは同じキリスト教徒ではあるけど間違った教義に走った分派を弾圧するためのものだったのだけれどね。

 結果として、魔女狩りが行われたのはキリスト教のせいであると考えるものがいるということ。そして、犠牲になった人数から考えて少なからずこの世界に転生してきているものと思うが、そのものたちがクリストス教を忌み嫌っていても不思議ではないということさ。」

「それで教会がなぜか建てられない村ですか…。ですが、その中に本当に力を持った魔女が含まれていたんですか?」

「そこで魔物の被害が少ないってことが関係するのさ。魔女狩りの被害者の中に優れた薬師がいて、その技術が伝わって作られた良い薬のおかげで死亡率が低いだけかもしれないがな。」

「ルルイスの薬は優れているといっていましたしね。」

「だがそれも、魔女の知識のおかげで優れている可能性もある。結局のところ、現地に行って調べてみるしかないのさ。」

「そうですね…」

 私たちの馬は森の中の山道をゆっくりと進んでいく…。



「あれがルルイス村のようですね。」

 道中特に魔物に襲われることもなく、私たちはルルイス村にたどり着いた。教会の正確な地図があったため、迷うような心配もなかった。

「特に変わった様子もありませんねぇ」

「そりゃ、一目外から見て変わってるなんてことはないだろうさ。」

 ルルイス村は木の柵で囲われたごく普通の村だった。一応門になっている部分に見張りは立っていたが、簡単な武装をしただけの普通の村人だ。魔物が門番をしているなんてことはない。


 だが、門を通り抜けるとき、何かに撫でられるような感覚があった。


 門番も、普通に挨拶をしただけで新参者の冒険者が来たかくらいの対応であったし、特に怪しい動きはしていない。誰かに見られているような感覚はあるが、教会の密偵が常に見張っているので今更である。

「サトシ様、今なにか…」

「マイルズも感じたなら、気のせいではないか。これは当たりかもしれないな。」

 とりあえず住民登録を済ませ、標準的な値段の宿をとる。

「まずは聞き込みだが、いきなり魔女がいるかを尋ねるのではなく、冒険者として魔物の情報を集める中でこの村に特殊なところがないかを調べる。そのうえで、明日は実際に一度魔物討伐を行おう。」

「はい、わかりました、サトシ様。」

 まずはと酒場に向かいながら、この賢いが素直すぎるマイルズと別行動して聞き込みをするべきかを考えていた…。



「こっちに向かってくるぞ。この速さ、目標のグレイウルフかもしれん。前は任せるぞ」

「はい、サトシ様。」

 私たちはとりあえず魔物討伐に近くの森に来ている。

 結局、昨夜の聞き込みはいくつか気になることがあっただけで決定的な話は出てこなかった。

 酒場自体はズルトの街とさほど変わらず、地元の住人と何人かの冒険者がにぎやかに酒を飲み、世間話と自慢話の中に少しの情報収集が混ざっている。それなりに活気はあり、村の景気は悪くはないようだ。

 冒険者の依頼もそれなりにあるが相変わらず冒険者ギルドは存在せず、その代わり酒場の掲示板はしっかりと依頼の整理が施されていた。薬草採取の依頼に、少し特殊な用途不明のものが混じっていたくらいか?


「さて、こんな感じか?」

 私は矢尻に初級の火魔法を重ね、火矢のように燃え上がらせた。

 茂みから出てきたグレイウルフの頭を狙って放つが、少し逸れてわき腹に突き立った。矢尻の炎がじゅぅと少し焦がすが、あまりダメージが増えた感じはない。

「これならば、普通の火矢と変わりませんね。」

 マイルズが牽制に小さく剣で切りつける。

「それならばっと。」

 今度は矢羽に風を纏わりつかせる。攻撃魔法としてではなく、より純粋な風として。矢はいつもより鋭く飛び、ウルフの肩に深く突き立った。動きが止まったグレイウルフの喉元をマイルズが剣で切り付け、その一撃でグレイウルフは倒れた。

「今の矢ならば、威力が増してるのが感じられました。」

「まぁ、集中するのに時間がかかってまだ連射できないがな。そこはもうちょっと練習だ。」

 グレイウルフの心臓を突き刺して止めを刺し、刺さっていた矢を回収する。

「やはり、前衛で魔法を使うのは無理か?」

「厳しいですね。どうしてもイメージをしようとすると隙ができますし、使ってもあの威力ですからね。」

 グレイウルフを見つける前に突撃兎を二匹ほど見つけて狩ったが、初級魔法は何発当てても兎ですら倒せそうになかった。

「詠唱しても隙だらけですし、威力は上がりませんからね。」

「だが、あらかじめ言ったように、魔術師ギルドで教わった詠唱は禁止だからな。」

「わかっています。」

 少し警戒しすぎかもしれないが、魔術師ギルドで教えられた詠唱では魔法の神との繋がりがあるため、使用すると我々の場所が知られる危険性がある。それに、詠唱を聞かれて我々が魔術師ギルドに属する人間だと思われると困る。

「まずは、実戦で使える魔法を単独で訓練するのが先かな。今の威力じゃどう使っても役に立たん。」

 私は近くで拾ってきた木の棒にグレイウルフの両足を括り付け、二人で担げるようにした。原住民に捕えられた探検家が縛られて木の棒につるされて運ばれる、あの感じだ。

「一度報告に戻ろう。ブラックより一回り小さいグレイウルフとはいえ、二匹運ぶのはしんどい。」

「はい。」

 私とマイルズはグレイウルフを担ぎ上げると、周囲を警戒しながら村へと戻った。


 無理に魔法を使っているのは、訓練の意味合いもあるが魔女を引き寄せるためだ。

 魔術師ギルドに初級魔法を習って分かったが、魔力は操作すると動かしたことが周囲の人間にもわかる。初級程度なら使う魔力も小さすぎてわからないかもしれないが、普段警戒しながら魔法を使っている人間なら気付くかもしれない。そのために使えない初級魔法をなんとか使おうと苦労していた。

 村の周囲で魔法を使っていることに向こうが気付いて接触してきてくれると助かるんだが…。



「お、グレイウルフを狩ってきてくれたんだね? 早速、こっちに運び込んでよ。」

 ルルイス村の一つの特徴としては、解体場が村の中にあることだろう。ズルトのように城壁の外にあったり、王都のように離れた村に解体場を置くのが一般的で、ほかの街や村も同様に外に置かれているらしい。死を扱うため瘴気の発生源となるということはあるが、やはり穢れや汚れとしてそれを行う者たちが嫌われるということがあるらしいのだ。だが、ルルイスの解体場は普通に商店の隣に建っているし、周囲にも普通に店や住宅が建っていて、避けられている感じはない。それに中の雰囲気は明るかった。受付で対応してくれたお姉さんがいいプロポーションの美人さんだったから明るいというわけではない。

「この辺りの村でも、ウルフの肉は食わないんだろう?」

「さすがに硬くて臭いから、グレイでもブラックでもレッドでもウルフの肉は食わないね。この辺りで肉にするならグリーンボアが人気だよ。ウルフはやっぱり毛皮だけど…なんか一部が焦げてるね? 火矢でも使ったかい?」

「いや、ちょっと火の魔法をね。矢尻にかけて射てみたんだが、ほとんど効果がなかったのさ。」

「ふぅーーん、矢尻にかけてねぇ…。ともかく傷物として毛皮の買取値段は下がるよ。解体だけかい? 素材の買取もセットにするかい?」

 お姉さんが少しいぶかしげに毛皮の焦げ目を見ていた。

「買取も頼む。まだどこで何を買い取ってくれるかがわかってないのさ。」

「あいよ。毛皮に牙に爪はいいとして、この村じゃウルフの尻尾も買い取るよ。あと、倒した直後に抜いた生き血なら買い取るから、次倒した時は取っておいてもらえるかい?」

「へぇ、ウルフの尻尾に生き血ねぇ…。他で必要と言われたことはないが、薬か何かに使うのかい?」

「あたしらはそれを薬じゃないがちょっとしたことにつかうのさ。」

「ちょっとしたねぇ…。」

 ”あたしら”という言い方に少し手ごたえを感じてニヤリとする。

「自己紹介がまだだったかな。私はサトシ、相棒はマイルズだ。しばらくこの村に滞在して魔物を討伐するから、よろしく頼むよ。」

「あたしはミランダ。解体もやってるけど本職は薬師だよ。隣が私の薬屋だから、よかったら見て行っておくれ。解体代を差し引いた素材の買取金額はこんなものだけどいいかい?」

 私はカウンターの上に積まれた硬貨を確認する。素材ごとに山にしてわかりやすいようにしてあるが、毛皮の分は傷んだ分だけ下がっており、その分を尻尾の値段が補っているようだ。

「尻尾が結構いい値段になるのだね? 金額はこれで十分だ。」

 私はいちど硬貨を仕舞い込んだ。マイルズにはあとで分け前を渡そうと思うが、受け取らせるのに苦労しそうな予感がする。

「さて、さっそく薬屋のほうも見ていこうと思うが。ルルイスの薬は質がいいと王都でも評判だったので楽しみだね。」

「それならあたしがそのまま案内しようかね。解体のほうは他にも人がいるし、大物が入ったら呼びに来るだろう。」

「ああ、お願いする。」

 ほかの店員に声をかけて隣の店舗に行くミランダについていきながら、意外なところに手掛かりがあったものだとほくそ笑んだ。まずは討伐で村全体の好感度を上げてから手掛かりをと思っていたが、これはミランダの好感度を集中的に上げるで行けそうだ…。



 ルルイスの村に来てから数日は、グレイウルフやグリーンボアなどを何匹か狩ってはミランダの店に持ち込んでいた。意外なところでは、突撃兎の後ろ脚も魔除けに使えるとかで買い取ってくれていた。魔除けって言ったね?

 また、ミランダの薬屋のほうもなかなかいい品揃えで、治癒薬や止血薬の効果が高いのもあったが、睡眠誘発薬や矢に使う毒薬、ウルフ系の鼻を利かなくさせる香や幻覚剤などがあった。王都でも見ないような薬が並んでいる。

 ミランダ自身の好感度も順調に上がっているようで、店の外で会っても挨拶をくれるようになったし、店に行ったときはいろいろと会話が弾むようになった。今度一緒にお酒を飲みに行こうと誘ったら、付き合ってくれるだろうか?


 魔物討伐の合間に魔法の訓練をしているが、そちらはミランダの好感度とは違って難航していた。

 初級魔法についてはそれぞれの属性で詠唱なしで出せるようになっていたが、威力をあげようとすると途端に難易度が上がる。私は適性のある火の魔法についてはある程度威力が上がってきたが、使うために集中を必要とするためにいまいち実用的ではない。光も槍状にして突き刺すことができるようになったが、まだ兎に通用する程度の威力だ。

 攻撃魔法ではない魔法もいろいろと試しているが、睡眠の魔法は適性が合わないせいもあってなかなか形にならない。今できるようになったのは、お湯を沸かす魔法だ。便利だが、戦闘用ではない。

「なかなか思うようにいかないな。さすがに5年はかからないだろうが、中級魔法を使えるようになるにはもうちょっと時間がかかりそうだ。」

「難しいですね。イメージを固めるのに少し時間がかかりすぎて、戦闘中だと厳しいです。」

 マイルズも、風と土の魔法で威力をあげたものが出せるようになっていたが、いかんせん発動に時間がかかる。後衛で魔法に専念したら使い物になるかもしれないが、そうなると前衛で頑張る人がいなくなる。

「まぁ、焦ってもしょうがない。まずはコツコツと訓練して慣れていかないとな。さて、ひとまず獲物をもって帰ろうか。」

「はい。」

 私はグリーンヴァイパーがくくりつけられた背負子を担いだ。皮や肉も売れるし、ルルイスでは毒の牙がほかより高く買い取ってもらえるらしい。また蛇系の血はもともと滋養強壮の薬に使われたりするので、ちゃんと別に抜いて小樽に入れてある。

 マイルズの背中には突撃兎が3匹。ただしそのうちの一匹が赤い突撃赤兎で普通のものより肉の旨味が強くて高く売れる。

「突撃赤兎は珍しいから、ミランダさんが喜んでくれるといいな。」



 ミランダの解体屋に行くと、ミランダ本人がカウンターで待ち構えていた。

 もちろん、初めからタイミングが良かったり、薬屋の方にいて店員に呼びに行ってもらったりすることはあるが、今日は本当に待ち構えていた感じだ。横で別の冒険者が狩ってきた突撃兎の買取を店員に任せっきりにしている。好感度が振り切って、なにかイベント発生か?

「いらっしゃい、サトシさん。」

「どうも、ミランダ。今日の獲物はコイツだ。」

 私たちはグリーンヴァイパーと突撃兎を差し出す。突撃赤兎を喜んでくれたが、どうも笑顔が硬い。

「今日、このあと少し時間はあるかい?」

「ああ、特に用事はないが…」

 買取の金を仕舞ったところでミランダが切り出してきた。

 これはデートイベント発生か? それとも一気に告白?

 店を店員に任せて出てきたミランダについていくと、村の中央に向かっているようだ。村の中央には村長の屋敷がある。建物自体はそれほど大きくないが、広い庭と屋敷を挟むように立つ二本の大木が目印だ。

「村長があなたたちに会いたいと言っていてね。あなたたちは悪い人間ではないようだけど少し怪しい動きもあるから慎重に様子を伺ってたんだが、結局会って話を聞くことに決めたようでね。」

 イベント発生ではあるが、甘い方面ではないようだった。まぁ、もともとそっち方面のイベント発生のためにミランダの好感度を上げていたわけだが。

「村長が、か。そういえば、村長の名前を知らないな。」

 ミランダはニヤリと私を振り返った。



「村長の名前はルルイス。偉大なる魔女ルルイスさ。」


なかなか難産で時間がかかっています。

着地地点は決まっているんですが、もうちょっと微修正が…

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