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甘くない異世界 -お約束無しはきついです-  作者: 大泉正則
第二章 僕達と契約して魔法使いになってよ?
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2-5 王都脱出

 私たちは()()()()()()()王都を出立した。


 前日のうちに魔術師ギルドには王都を出ることは伝えてある。

 少し仕込みすぎのような気もするが、今後の王国や教会のためには、一度魔術師ギルドがどういう組織であるかをはっきりさせておいたほうがいいだろう。そのためには、教会の庇護と協力が得られる今のうちに済ませる方がいい。


 魔術師ギルドがまったく健全な組織であったら、我々が架空のマイルズの親の小貴族に魔法を見せにいくのを快く送り出し、その結果をもって中級魔法を学ぶために戻ってくるのを待つだろう。もちろん、そのときは我々が契約するために戻ってくることはないので、待ちぼうけだ。

 少し強引な組織であったなら、尾行をつけるなりなんなりして私たちの動向を見張り、戻ってこないと思われる場合に再度勧誘したり父親の説得に力を貸したり、その先を考えたりするだろう。我々は尾行を撒いて姿をくらます予定なので、そのときは我々やありもしないオリオン家を探して右往左往することになる。

 そして、かなり強引で手段を選ばない組織であったなら…。



「この辺りは随分のんびりした雰囲気だな。」

 東門を出た先には見渡すばかりの畑が広がっていた。南東へと伸びる街道が畑の中を切り開くかのように伸びている。

 そこかしこに薄手の作業着を着た農民たちがいて、野菜を収穫したり雑草を取ったりしている。畑の中ではキャベツのように葉が丸まったものや青々とした菜っ葉、1mくらいあるきゅうりのようなものがぶら下がった蔦や紫色のトマトのような実がなったものなど、見たことがあるようなものと前世ではありえなかったようなものが育てられていた。結構な種類があってどれがどんな野菜かはわからないが、全体的に葉物野菜が多いようだ。

「王都の東側が主に畑を作る区画になっていて、ここの野菜が王都の食を支えていますからね。それなりに日持ちするものだと他の街から運んできたりしますが、やはり生鮮野菜はここで作られています。」

「しかし、少し無防備過ぎないか? 農民が農具で魔物を撃退するわけじゃないんだろう?」

 畑に出ている農民たちは丸腰で、鎌やクワなど武器にしようと思えばできなくはないものを持っている程度だ。巡回してる兵士なども見受けられない。

「魔物なんて、畑のあるこの区域には出ませんよ。王都の周辺にある畑や牧草地を守るように瘴気を払う結界で囲ってあり、さらにその外側に一定間隔で衛星状に配置した村で防御線を作って外からの魔物を遮断。そのうえで、周囲を王国所属の兵士が常に巡回して魔物を根絶やしにしているんです。

 王都から徒歩で日帰りできる範囲では全く魔物が狩れないので、王都に滞在して魔物狩りする冒険者は一人もいませんよ。」

 そういえば、王都ではそれほど冒険者らしき格好をした人間を見なかった気がする。いても武装せずに歩いていたり、住人の女性と連れ立っていたりと、どちらかというと買い物や観光に来ているような雰囲気だった。魔物討伐をやっている冒険者は殺気立った雰囲気で朝早く出ていくものだが、同じ宿にいた者たちはみんな寝坊気味だった。

「それに瘴気避けの結界の中にはさまざまな魔除けの像があるので、中で魔素が集まって魔物が発生することも滅多にありませんし。」

 ふと畑を見ると、どう見ても狛犬にしか見えない像が立っていた。視線を動かすと大きなアンクも見受けられる。

「ただ、どの魔除けの像が効果的なのかがはっきり検証されてないので、いろいろ乱立しすぎなんですよね。ほんとにこれが魔除け?と思うものもありますし。」

 見える範囲だけでも畑の所々に魔除けと思われる像があるが、ガーゴイルやジャック=オー=ランタン、シーサーなどはまだわかるが、モアイはさすがに魔除けになるのか?と首をかしげる。

「それにイェルサルムはさまざまに瘴気を溜め込まない努力をしているので、大都市としては瘴気が少ないと言われています。賛否はありますが低所得者を衛星村に移住させスラムを作らせないようにしていますし、王都の西側の畜産区画で育てられた家畜も王都の外側に屠殺場を作るのではなく衛星村の方で屠殺を行っています。王都内で死者が出た場合に行う瘴気払いは、教会にとっても重要な仕事にもなっているんですよ。」

「なるほど、そこまでやってこその、こののどかな風景か…」

「加えて、犯罪者は王都から排除して衛星村のさらの外側に収監する施設を作ってあるんです。」

「まぁ、捕まえることができた犯罪者だけだろうけどな。もちろん、気付いているね?」

「もちろんです。宿を出たところから二人ついてきてましたが、門を出た辺りで増えましたよね。6いや7人かな?」

 マイルズは懐から望遠鏡を取り出し後方を確認した。

「騎乗した人間が7人ですね。一人は魔術師風のローブを着ていますが、残りは革鎧の冒険者風です。」


 どうやら魔術師ギルドは強攻策を選択したようだった。


 そのための仕込みとして前日に魔術師ギルドに教えたが、仕込みはその一つだけではなかった。

 目的地の村のある南西に行くためには、当然東より西門から出たほうが近い。そして、王都の南には山と森があるため、馬車で南側を回ることはできない。馬だけなら走れる林道があるが、馬車で行こうとするならぐるりと北を大きく迂回しなければいけないのだ。

 今、馬車が走っている街道をそのままいけば、目的地は南東のマディノの街だと思うだろうし、せいぜい途中で道を変えても北東のズルトまでしか考えられない。

 追ってきているのが尾行だけであったなら、畑区画を抜けた先にある森に入ったところで気付かれぬように馬車を降り、馬に乗り換えて南の林道に入るだけで良かった。そうすれば、尾行はそのまま空の馬車の後を気付くまでずっと追って行っただろう。


 そして、馬車での移動ももちろん、仕込みの一つだ。

 我々が乗っているのは箱型ではなく幌の馬車で、人を乗せるためというよりも荷馬車に近い。前後に口が開いていて、御者台に移動したり後ろから飛び降りたりしやすい。4輪の安定した馬車だがやや重く、牽いてる一頭だけの馬も速さより力強さを重視したずんぐりとした太い足と長い毛を持った種類の馬だ。

 当然遅いが、この遅さが狙いだった。

 我々の行先を誤認させる意味もあるが、この遅い荷馬車は同じ方向に向かっているものたちの目的もある程度燻り出す。同じ方向に向かってたまたま同じタイミングで出発した人間もいるかもしれないが、普通に馬に乗った人間ならゆっくりと馬を歩かせていても追い越していく。足の速い馬車ならともかく、遅い荷馬車や徒歩で人を追跡しようと思う人間は、よほど用心したプロを相手にするプロしかいないだろう。つまり、この馬車から一定の距離を保ったままついてくる騎馬は、我々を追跡しているということだ。


 マディノに向かうこの南東の街道も、相手が強硬策にでる場合には大きな意味を持ってくる。

 東の畑区画こそ作業する農民が数多くいるが、マディノとの間の商人の行き来は多くない。マディノは特筆すべき特産品はないがほぼ自給自足が出来てるだけの、こじんまりした街だ。昔、大きな功績があった貴族に領地を与えたらしいが、いまの領主は王族との仲が宜しくなく、あまり交流がないというのだ。


 そして、畑区画を抜けると森の中に入り、林道に入る道こそあれ荷馬車にとっては逃げ場のない一本道だ。

 これほど襲撃しやすい場所に襲撃しやすい足の遅い荷馬車で移動してるのだ。襲撃するつもりがあるなら、仕掛けてこなければただの馬鹿である。


「きましたね。一気に距離を詰めてきました。」

 馬車が森に差し掛かったところで追っ手が動き出した。マイルズが望遠鏡で動き出しを確認する。

「予定通りだ。先に言ったとおり、馬車の速度は上げず緩めずでお願いします。」

「はい、承ってございます。」

 雇いのただの御者の格好をしているが、この御者も教会の手のものだ。

「睡眠や麻痺の魔法を使ってくる可能性もありますし、物理的に停めに来る可能性もあります。脅される程度ならフリをして従って欲しいですが、命の危険があるときは後ろは気にせずに身を守ってください。」

「こちらはこちらでお任せ下さい。」

「しかし、睡眠や麻痺の魔法なんか、あるんですかねぇ?」

 マイルズは少し疑わしげに私が渡した抗睡眠薬と抗麻痺薬を眺める。御者の人にも渡してあり、さらにかかった時に御者台から転げ落ちないように腰にロープを巻きつけて固定してある。

「ないかもしれない。だが魔法というものが存在するならそれらの魔法を研究してしかるべきだし、その魔法が既にあるなら人を拉致するときには使う。そして、使われる可能性があるなら、あらかじめ対処法を用意しておくべきなのさ。」

「はぁ…」

 私はショートボウを持ち、矢をつがえ、弦は引かずに右手を自由にし体の力を抜いておく。マイルズもいつでも剣を抜ける態勢でゆったりと馬車に積まれた荷物に背をもたせかける。


 追っ手達が一気に馬車に追いつき取り囲んだと思った瞬間、大きな魔力が周囲を包み込むのを感じた。すかさず抗睡眠薬と抗麻痺薬をまとめて飲み下す。マイルズも同じように飲み込んだようだ。

 何かの力が私の中に入り込もうとし、睡魔が襲いかかってくる。私は抗睡眠薬の力を借りてその睡魔をレジストした。マイルズに足の先で小さく合図すると、マイルズも抵抗できたようで小さく返してくる。御者は抵抗できたかどうかは不明だが眠ったように脱力し、前に出ていた賊が馬の轡をとって馬車を止める。一頭立ての馬車なら無理に御者台に乗り移るよりも馬を直接止めたほうが安全だ。


「どうやら効いたようですな。まったく、その睡眠の魔法ってやつは人攫いにはもってこいですな。」

 革鎧の男が一人、幌の中を覗き込んでくる。

「人攫いではなく勧誘だ。有望な人材は多少強引でも魔導の道に誘うべきなのだ。」

 その後ろから別の男の偉そうな声が聞こえる。

「へいへい、あっしにはどっちでもいいことで。こいつら二人で間違いないですかね?」

「間違いなさそうだな。さっさと縛り上げてしまえ。」

「へい。」

 影になって顔はよくわからないが魔術師が中を覗き込んでいる姿が確認できた。革鎧の男が幌馬車の中に踏み込み武器をしまおうとした瞬間。


 さっとマイルズが起き上がり剣で革鎧の男の右腕に切りつけて武器を叩き落としさらに首筋に剣を突きつける。


 私はさっとショートボウを引き絞り、魔術師の首元めがけて矢を射かけた。矢は油断していた男の喉に吸い込まれるように刺さる。


 そして、残りの賊目掛けて森の中から一斉に矢が射かけられ茂みから影が飛び掛かり、一人残らず地に伏せる。


 すべて一瞬のことであり、一瞬で決着はついた。



「よし、完璧だな。さすがに皆いい手際だ。」

「ここまでお膳立てされててしくじるようじゃ、この仕事やってられませんって。」

 いつの間にか魔術師の背後に忍び寄って短剣を突き付けていた男が、ニヤリと笑う。魔術師は喉に矢が刺さっているために声を出すこともできない。

「お、お前たちは、一体…」

 皮鎧の男はうろたえていたが、武器を叩き落されて喉元に剣を突き付けられているので逃げようともできない。右手からは血が滴っていて、背後からきた教会の間者に無抵抗に縛り上げられていた。

 御者も眠ったフリだったようで腰のロープを切って賊に向かっていこうとしていたが、その前に他の者によってすべての賊が倒されていた。馬車の周囲の5人は既に事切れているようだ。

「後の尋問はお前たちに任せる。その魔術師の男も今はしゃべれないだろうが、その程度の刺さり方なら治癒薬で十分回復するだろう。だが、くれぐれも組織の名前は口にせず、悟らせもしないように。魔術師ギルドの手口や活動の実態を可能な限り聞き出してほしいが、逃がすくらいなら何も聞き出せないまま殺してしまっても構わない。よろしく頼むぞ。」

「承りました。」

 教会の間者たちは縛り上げた皮鎧の男と魔術師を連れて、森の中へと消えていく。いつの間にか、乗馬の練習に使っていた立派な馬二頭が近くまで引き出されていて、その背の蔵には旅の必需品と思われるいくつかの荷物が繰りつけられている。

「先ほど使った抵抗薬は、睡眠のほうはしばらく眠れなくなって興奮気味になるだけだが、麻痺のほうはしばらく軽い吐き気が続き指先の感覚が少し鈍くなる。副作用を緩和する薬草を渡しておく。」

 御者は素直に受け取ったがマイルズは少しいぶかしげだ。

「このようなものがなくても、多少の吐き気なら我慢します。」

「だが、これから山道に馬で入ってシェイクされるんだぞ? お前は耐えられるかもしれないが、背中の騎手が具合が悪そうだと馬が迷惑するんだよ。できるだけ、しゃっきっとバランスよく乗っていてもらいたいはずだからな。この薬草は口に含んでもいいが、鼻の前でこすり合わせるように潰してそれを肺に吸い込むようにするとよく効く。逆に飲み込んでしまうと利きが悪いから注意だ。」

 すり潰した薬草の香りを吸い込むと、胸のむかつきがすぅーっと引いていく。御者は素直に、マイルズは少し首をかしげながら同じように吸い込んでいた。

「では後しばらく、空荷になるがよろしく頼むぞ。」

「はい、お任せください。」

 御者は馬車をそのままマディノに向けて進ませる。馬に乗り換えた私とマイルズは林道へと踏み入る分岐まで戻るため、ゆっくりと馬を歩かせ始めた…。


「そういえばお伺いしたいのですが、サトシ様。」

 マイルズは慣れているのか山を行く林道でも危なげなく馬を操る。先ほどの薬草を鼻先ですり潰して嗅いでいる。

「なんだね?」

 私も薬草を嗅ぎながら馬に跨っているが、やや動きが硬い。少し足元が悪いときは足運びは馬に任せ、自分はバランスを崩さないことに集中だ。

「先ほど魔術師の喉を弓矢で潰して詠唱を防いでいましたが、睡眠の魔法を使うほどの魔術師なら無詠唱で魔法を行使できないのですか? あたかも、あれで確実に無力化したと扱っていましたが。」

「あれほどの魔術師であったからこそ、詠唱なしでは魔法は使えないのさ。」

 マイルズの頭の上にはてなマークが浮かぶ。

「そうだな、例えるなら税金のようなものだ。

 ある街の領主はそこで商売している商人の取引に広く浅く税金をかけている。小さなものから大きなものまで全ての取引にかけているが、それは少しの割合でかけているだけだ。

 商売である以上全ての取引を御上に報告しなくても行えるが、きちんと税金が納められるように自分の街の商人には全ての取引を報告するように命じてある。そして、きちんと報告するように監視するとともに、報告することが義務であると意識付けを行っている。

 この時の領主が魔法を司ってる神であり、商人が魔術師、商売が魔法で、税金が上前をはねてる分の魔力なのさ。

 神は確実に魔力の上前を集めたいがために、自分の子飼いの商人である魔術師には全ての魔法に詠唱が必要であると義務付け、洗脳してあるのさ。

 ずる賢い商人は報告しない取引をこっそり覚えてるかもしれないし、ほんの一部の特権を与えた商人はもしもの時には報告なしで商売を行うことを許可してるかもしれない。

 だが、大部分の普通の商人は普通の取引だけを行い、魔法を使うときに必ず詠唱を必要とするのさ。」

「ふーむ…」

 マイルズはいまいち飲み込めていないようだ。まぁ、この説明が噛み続けた干し肉の味のように広がってくれば、何となく理解できるようになるだろう。

「マイルズには、既に詠唱なしで魔法を使えるのを見せたから疑問に思うのだろうが、常に詠唱して魔法を使うのしか見ていなければ、そういうものだとしか思わないのさ。そして、必ず詠唱が必要だとしっかり刷り込むことも5年かける中級魔法の習得期間のなかに含まれているんだろうさ。」

「時間をかけて刷り込まれている以上、必ず詠唱するようになっているはずということなんですね…」

「大事なことは、本当は詠唱なしで魔法を使えるが、魔術師ギルド所属のほとんどの魔術師は詠唱なしで魔法を使ったりしないということさ。

 ただ、それも絶対ではないから、もし詠唱なしで魔法を使う魔術師が現れても、うろたえずに冷静に対処しろよ。」

「はい、そういうものだと心に刻んでおきます。」



「そういえば、お聞きしていませんでしたが、これから行くルルイスの村に何を探しに行くんですか?」

 思い出したようにマイルズが問いかけてくる。



「おや、言ってなかったか? 私はこれから”魔女”を探しに行くんだよ。」

 私はマイルズににやりと不敵にほほ笑みかけた。


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