2-3 魔術師ギルド
注:現在、異世界のこの国の言葉を「」で表していますが、
今後は元の世界の言語に加え、異世界の他の国の言語も『』で表していきます。
「さて、まずは服装からだな。」
マイルズ=シリウスを護衛として受け入れるとは決めたが、そのまま連れて行ける状態ではなかった。
「さきにも言ってあるが、教会関係者を連れていると見られたくないんだ。その騎士見習いの制服に愛着やプライドはあるだろうが、教会の施設の外では着用禁止だ。教会にいるときも、一般の参拝者が来る場所にその服装できてはいけない。
そして、私服なんだが、どこかの小貴族の三男坊や四男坊に着せる程度のものがいいな。親が護衛に一応冒険者を付けるくらいの人物という感じで。用意できるだろうか?」
「直ちに用意させます。」
プレイアデス枢機卿が指示を出し、修道女を走らせる。
「それで次に私に対する態度なんだが…」
未だにマイルズ君は緊張でカチカチなままだ。どう表現すれば伝わるかが難しい。
「設定としては、世継ぎではない貴族の子弟が魔術師ギルドに入ることを望み、親がその護衛に冒険者を雇って一緒送り込んだということにする。直接君が私を雇ったわけではないが、私はあくまで雇われの平民の三流冒険者という扱いと言葉遣いをしてもらいたい。」
「いえ、そのような失礼なことはできません。私はあくまで尊きサトシ様をお守りする護衛ですので…」
「失礼かどうかの問題ではない。私がそう望んでいるのだし、必要なことだ。
そうだな…騎士見習いならば同僚に貴族の子弟もいるだろう? そいつらが平民である他の騎士見習いにするような言葉遣いと態度でお願いする。騎士が騎士見習いにとる態度では少し違う。」
「はぁ…ですが…、それだと相当酷い態度になってしまいますが?」
そういう輩が少なくなくて苦労してるんだろうな。
「そうなるだろうな。言葉のニュアンスも、その前に”平民のくせに””平民なんだから””これだから平民は”と付いているつもりで、つっけんどんにたのむ。…さて、服が用意できるまで少し練習をいたしましょうか、マイルズ様。」
「はぁ、よろしくお願いします、サトシ様。」
「そこからもうダメですよ。「わかった、サトシ。”平民のお前と違って”私は貴族なんだからこのくらいのことは簡単なんだから任せておけ!」位の感じで。まぁ、初めは少しくらいボロが出ててもいいですが、周囲が不審に思い始める前に慣れてくださいね、マイルズ様。」
「はぁ…」
そこから着替えの服が届くまで、会話の練習を行った。残念ながら、そんな急に役者バリの演技はできないようだが、素直に努力してくれているのでそのうち良くなるだろう。
「では、プレイアデス猊下、そろそろ失礼いたします。マイルズからの報告を受け取ったり、緊急時に対応するくらいは構いませんが、基本的に教会関係者が私に接触するのはおやめください。当然、宿も私の方で魔術師ギルドにほどほど近い中の下くらいのものを探します。魔術師ギルドや他国の間者、この国の貴族などに私との関わりがあることを気付かれないように細心の注意をお願いしますよ。」
「かしこまりました、サトシ様。シリウス、くれぐれもサトシ様のことをたのむぞ。」
「はっ! この命に代えましても!」
魔法を習いに行くくらいで命に代えられても困るし、その固い態度じゃ困るんだけどねぇと思いながら、私はやっと教会から脱出した。クリストス教の影響下から脱出できる日もいつか来るといいんだが…。
「まずは王都での住民登録を行います。マイルズ様も、そうですね…マイルズ=オリオンとでも名乗って、登録していただきましょう。オリオンという名の有力貴族はいませんよね?」
「オリオンという貴族は聞いたことがありませんが…なぜ、私も登録する必要があるのでしょう? 私はもう王都での身分証がありますが?」
「はい、そこ、言葉遣いがなってませんよ? 「オリオンなどという貴族は知らん! なんで私が登録する必要がある? 私はお前と違ってちゃんと王都の身分証がある!」って感じですかね。平民だからそんなこともわからないのか?っていうニュアンスで。一度、やってみましょうか。」
「はぁ…オリオンなどという貴族は知らん! なんで私が登録する必要がある? 私はお前と違ってちゃんと王都の身分証がある! …ですかね?」
まだまだ戸惑いと硬さが見られるが、一生懸命なところは評価していいだろう。
「まだまだですが、ニュアンスはいいですよ。そういう連中によくいわれていたのでしょうね? マイルズ様も登録するのは、私とともに田舎から魔術師ギルドにきたという設定のためです。元の王都での身分証を使ったりしたら、そこから教会との関係がバレてしまいますよ?」
「なるほど…」
「そこは「そんなことくらいわかっている!」ですよ。まぁ、元は知らなかったので、「なんだ、そんなことか!」くらいでもいいですが。」
「はぁ…なんだそんなことか!」
「ふふふ、ゆっくりでいいですから頑張ってくださいね。」
王都の住民登録は、北の門の程近くの役所のようなところで行われていた。ここは庶民と外来者用で、貴族は貴族街への門の近くに別に役所があるらしい。
登録料は、期限なしが銀貨一枚、一ヶ月大銅貨一枚、一週間で小銅貨二枚だった。当然のようにズルトよりも高い。そして週ごとよりも一ヶ月の方がすこし割高なのは、こまめに更新させて情報を新しくしておくためか? 私たちは、とりあえず一週間で登録した。
今更であるが、王都の名はイェルサルムという。
そして、さらに今更であるが、この国の名前はアブラハム王国。
なんだかなぁという名前であるが、王国であるというところが少し不思議である。神が昔からちょくちょく転生させていたとしたら、もっと宗教に支配された政治形態であってもおかしくはないのだが…。
「次は宿を取ってしまいましょう。そこですこし魔術師ギルドについての注意事項をお話します。」
魔術師ギルドは王都の北西の庶民街の中にあり、そこから近すぎず遠すぎない程度の位置にある宿を取った。一泊小銅貨5枚。夕食は別料金でこの値段だから安すぎることはないだろうが、王都であれば安いほうか? 今は教会のせいで余裕があるが、当初の予定での旅費が全部自腹で滞在が長引いたら、あっという間に一文無しになりそうだ。
「さて、説明をしようと思いますが、部屋の中とは言え宿屋の壁などいくらでも聞き耳を立てられます。教会からこっそりと追跡してきて、両隣の部屋をとったのは、教会の関係者ですよね?」
「ちょっと待ってください。確認してみます。」
マイルズが奇妙な拍子で壁を叩くと、向こうからも別の拍子で返事が来る。もう一方の壁も別の拍子で叩くと、そちらからも今までと違う拍子で返事が返ってくる。
「大丈夫、教会の騎士団の従者のようです。」
「さようですか…」
尾行者をつけた上で確認用の暗号まで用意してあるとは、思ったよりも教会も諜報能力が高いようだ。両隣の部屋を強引に取るのに、ポカをやってないと信じよう。
「となりを押さえてあるとは言え部屋の中でも油断せず、重要な秘密は話さないようにしてください。また練習も兼ねるので、偉そうな口調で話してください。」
「わかった。」
「魔術師ギルドの怪しい点ですが、まずハッキリしているのが、国の枠を超えた組織であるということです。これは国同士の戦争が行われている状態で存在しているのはおかしいです。」
「そうなのか? 魔術師ギルドくらい国際的な組織でもいいとおもうが。」
「いえ、おかしいのです。冒険者ギルドもそうですが、国同士の戦争に魔術師が駆り出される以上、魔術師ギルドは国毎に独立して存在してないといけません。もしくは、戦争には魔術師を貸し出さないと言える程の力を持った組織であるか。私が聞いた話では、国の要望を拒否できるほどの大きな組織ではないと聞いていますが?」
「そうだな、そこまで大きな組織じゃない。今も宮廷の要望に応えて中級魔術師を何人か仕えさせて、戦争にも参加させているはずだ。だが、それだけで、怪しいと言えるのか?」
「私にはそれで十分と思えますが、他にも噂話から推測できる怪しい点があります。まず、アブラハム王国内の魔術師ギルドには、上級魔法が使える魔術師が一人もいないと言われています。これは戦争に上級魔術師を貸さないという意味とともに、もし王国内で上級魔法が必要になるような強力な魔物が出ても国を守らないという捉え方もできます。」
「それほど。でも上級魔術師が少ないということなんじゃないのか?」
「ところが、魔術師ギルドの本部のあるグドゥルフ魔法王国には結構な人数の上級魔術師がいるようですし、グドゥルフ国内で発生した災害級の魔物は上級魔術師が頻繁に討伐しているようなのです。」
「それは不公平だな…。アブラハム王国で災害級が出たときは、魔法は中級魔法の援護だけで、討伐では多くの兵士が犠牲になるというのに…。」
「そして、これも噂をもとにした話ですが、中級や上級の魔法を習得するには魔術師ギルドと契約を結び、結構な年数その契約に縛られるというのです。そして、学ぶのに専用の施設に隔離され、習得中は外部との連絡は取れなくなると言われています。」
「それほど魔法が危険なもので、習得するのが困難だということじゃないのか?」
「ところが、初級魔法はお金だけ出せば契約なしで学ぶことができ、才能さえあれば簡単に習得できるという話なのです。本当に危険なら、初級から契約が必要ですし、簡単には習得できないでしょうからね。まぁ、それが本当かは実際に魔術師ギルドに行ってみればわかるでしょう。」
論じるより行うが易し。私はマイルズを連れて魔術師ギルドに乗り込んだ。
「まずは、魔法の適正を見ます。その水晶に手をかざしてください。」
魔術師ギルドでの、初級魔法習得の申し込みは実にあっさりと通った。元より身分証自体が偽名であっさり作れるのだ。その身分証の名前が偽りであるかどうかなどは確認しようがない。
初級魔法の授業料は銀貨一枚。期限は一ヶ月でその間であれば適性のある魔法ならいくつでも教えてくれるらしい。適正を確認する前に払わされた辺り、若干詐欺の匂いがする。
「おぉ、素晴らしい。光魔法に対して素晴らしい適性がありますね。また火魔法にも適正がおありのようだ。これだけ光が強ければ努力次第で他の魔法も使えるようになるでしょう。」
水晶の中では白い光が強烈に輝き、その周囲を赤い靄のような光が漂っている。
「これほどの光の適正ならば、契約してしっかりと学べば上級魔法にも届くでしょう。火も中級は使えそうです。どうです? 契約して中級魔法を習得してみませんか?」
「いえ、まずは初級魔法を習得してからです。中級の契約はそれから考えさせてください。」
いきなり初級すっとばして契約させようとするんじゃねぇよと思いながら、やんわりと断る。
「マイルズ様もお試しください。とりあえず危険はないようです」
「言われなくても試す! さっさと退け!」
マイルズは強く私を押しのけ、水晶の前へと出る。事前に一度このような私をぞんざいに扱う演技の練習をしておいたのだ。私という護衛を付けられ疎ましく思っているが、自分の意思では解雇できないと思わせておきたい。
「おぉ、オリオン様も素晴らしいです。風と土の適正に加え、サトシさんと同じように光の適性もありますね。それに魔力の総量はオリオン様の方が多いようですね。これならすぐ中級も習得できますよ。」
「ふふん、そうだろう。私がサトシに劣っているはずがない。」
マイルズは尊大に胸を反らし、私にドヤ顔を向けてくる。うむ、なかなかいい演技です。少しでも上だと言われると強烈に優越感を感じ、上から見下ろすような態度を取る、そんな連中がたくさんいたのだろう。
「お二人共素晴らしい適正をお持ちです。特に光魔法は初めから適性を持っている方が少なく、とても重用されます。どうです? 契約して一気に中級魔法を学びませんか?」
「いや、一度初級魔法を習得して、私に魔法の才能があるのを見せろと言われている。中級魔法を学ぶかどうかはそれからだ。」
「そのようにせよと命じられています。その才能を見せずに勝手に中級の契約をさせるなとも厳命されていますので、ご遠慮下さい。」
「仕方ありません。しかし中級魔法習得の契約はいつでも受け付けております。その才能があると確認された方であれば期限などはないので、いつでも魔術師ギルドにおいでください。」
契約しないか?と食い下がりすぎである。
『炎の神クトゥグアよ、その力もて敵を燃やせ、フレム!』
指導役の魔術師の手から炎が山なりに飛び3m先のわら人形に着弾、その表面を燃やす。すかさず係りの者がバケツの水で火を消す。
しょぼい威力である。
敵に当てられるかも怪しいが、当たったとしても火傷する程度だろう。殺すまで一体何発打ち込めばいいのか? 放った教官が魔法は凄いだろう?とドヤ顔してるのもムカつく所だ。
「さぁ、あなたもやってみましょう。初級魔法は誰でもすぐ使えるようになりますよ!」
先に光魔法の初級を習っていたが、同じように残念な威力だった。
『ひぃのきゃみことがよ、しょのちきゃらもててきゃをむやせ、フレム!』
わざと残念な発音をしているので、当然のように何も起きない。
「えぇい、また違います! よく聞いてちゃんと発音してください。『炎の神クトゥグアよ、その力もて敵を燃やせ、フレム!』です、もう一度!」
先ほどの光魔法のラヒトでは、ちゃんと発音しようとしたので、あっさり発動してしまったのだ。ちなみに、ラヒトは光の玉が飛んでいってどんと突き飛ばす程度の威力。アンデッド相手ならよく効くが生物や無機物相手ならこの程度ですと言っていたが、アンデッド相手でもどれほどの威力が出るか信用できない。
「『はながみこっとんよ…』ってどうも覚えづらいですね。この言葉に何か意味があるなら教えていただけませんか? その意味をイメージしながら唱えればうまくいきそうな気がします。」
「そうですねぇ…」
散々わざと違う発音で焦らしてきたのだ。教官のイライラも限界だったのだろう。
「炎の神クトゥグアよ、その力もて敵を燃やせ、フレムという意味です。特にクトゥグアは偉大な神の名前なので、しっかりと敬いながら発音するように。」
やはり、元の意味のある詠唱だったかとほくそ笑みながら、今度はきちんと唱える。
『炎の神クトゥグアよ、その力もて敵を燃やせ、フレム!』
教官のものよりやや小さいが、しっかりとした炎が飛び的のわら人形に命中した。
「やっと出来ましたか。初級魔法なんて、誰でもすぐ使えるようになるものなのですが…」
「不器用で申し訳ありません。しかし、この詠唱の言葉は素晴らしいものですが、魔法にだけ使う言語なのでしょうか?」
「いえ、これは魔法を司る神々がもたらしてくれた言語で、ギルドの幹部もこの言葉を使っていますよ。魔法の神々が祝福したグドゥルフ魔法王国でも使われていると聞いています。」
一度、詠唱の言葉の意味を教えてしまったせいか、大事なことをポロっと白状した。そこが非常に大事な話だって気付いてるんですかねぇ? 私はにやりとほくそ笑んだ。
『荒ぶる炎の神クトゥグアよ、その炎の力をここに顕現させ業火の球となし、我が敵を燃やし尽くし滅ぼしたまえ、フレムボウル!!』
他の属性の魔法習得のために別行動していたマイルズと合流した後、炎の中級魔法の実演というものを見せてくれた。手のひらよりも大きな火球が現れ、5m先にあった藁人形を吹き飛ばした。この威力なら直撃した相手は即死しその周囲も重傷を負うだろう。
「どうです、素晴らしい威力でしょう? 初級とは違って中級になるとこの威力、上級ならさらに凄まじい破壊力になるのです。われわれ魔術師ギルドと契約して、中級魔法を習ってみませんか? あなた方二人なら十分に才能があります。」
「初めに申し上げたように、まずは初級魔法を習得できたということを見せなければいけないのです。そのためには、もう少し初級魔法をしっかりと学び、見せられる程の物にしなくてはいけません。まだしばらくは魔術師ギルドに通い練度を上げるつもりですが、今日はひとまず失礼させていただきます。」
私たちは魔術師ギルドを後にしながら心の中で思っていた。
”魔術師ギルドはただの詐欺で真っ黒だな”と。
神:この魔法のやつってあの神話だよね? 使って大丈夫?
作:もともとが架空の神話だし大丈夫じゃない?
神:でもTRPGにした時点で著作権はありそうじゃない?
作:ちょろっと名前を使ってるだけで、その神話自体を使ってるわけじゃないし…。
神:それで文句言われても知らないよ?
作:そしたら名前をちょろっと変えるさ。そんなことより、風はハス太君でいいとして、水と土をどうするか?
神:もう開き直ってるよね? それに光も考えなきゃだよ?
作:あー…




