プロローグ テロと神
とりあえず、投稿し始めてみます。小説を書くのは久しぶりなので、続けられるか不安ですね。
3/1 前書きと誤字をちょっと修正
ドォォーーン
轟音とともに真っ白な粉塵が視界を覆い尽くす
何が起きた?
あまりの轟音に聴覚が麻痺して音が聞こえない。鼓膜が破れてなければいいんだが…
次第に粉塵で白く塞がれていた視界が晴れてきて、見えてきたのは青。いや、青い空だ。
どうやら、地面に倒れているらしい。アスファルトの上のようだが、痛覚が麻痺しているのか、何も感じない。
「キャーーーー」
甲高い若い女性の悲鳴とともに、周りの喧騒が聞こえるようになってきた。
悲鳴、怒号、すすり泣く声、助けを求める声、救急車を呼べと叫ぶ声…。
爆弾テロ?
周りで叫んでる声の中にそんな単語が混じった。遠い外国ではよく聞く話だが、この平和な日本で起こったという話はあまり聞いたことがない。どこかの市長に爆弾を送りつけたような話くらいだ。
ちょっとした買い物にでてきただけで、ここは普通の繁華街だったはず。大使館が近くにあるような話もなく、特に狙われるようなものはなかったと思うのだが。
ふと、未だに体の感覚が戻ってこないことに気付く。
右手を動かすと、買った漫画数冊が入ったビニール袋をいまだ握り締めていて、カサリと音を立てた。
では起き上がろうと思ったが、上手く力が入らない。下半身の方が動かないようだが…。
そして、自分の下半身がなくなっていることに気づいた。
爆弾で吹き飛ばされたのだろう。意外に近くで爆発したんだなと思う反面、上半身が無事なことが不思議だなと場違いなことを考えた。その途端、痛覚が戻ってきて強烈な痛みが襲いかかってくる。
私の意識はそのまま真っ白な闇の中に飲み込まれた……
気付くと、真っ白な部屋の中に立っていた。
四方を真っ白な壁で囲まれた空間。窓や扉のたぐいは見当たらない。
そういえば、自分の下半身はいつの間にか元通りで、痛みもなく、服も元通りだった。
あれ? 死んだんじゃなかったのか? とも思ったが、あまり死後の世界という感じもしなかった。
周りに数人、私と同じように呆然を周りを見渡している人がいたからだ。
ビジネスマン風のスーツの男女、カジュアルな服装の若者、若干オタクっぽい服装の人たち。
…ちなみに、私は最後のオタクっぽい人たちに近い。
私の名は、渡部聡士。
今年で32になるが、現在ニート。派遣社員として仕事をしていたこともあるが、所謂ブラック企業に入ってしまい、使い潰され精神をすり減らして退社。今は親のスネをかじってほそぼそと生きている。ま、生きているだけに近いけどな…。
ま、俺にとっては死後の世界でもいいんだけどなと思いながら、周りの人間を観察し始める。似たような服装の人同士で相談を始めているようだが……ふむ、どうやら爆弾テロに巻き込まれて死んだのは確かなようだ。
現代日本人の中に一人だけターバンを巻いた中東風の男が混じっている。
中東での戦争やテロ組織の話題がニュースになっている現在、こんなに露骨な服装で日本を歩く外人はいない。おそらくこいつが犯人で、自爆テロを行って一緒に死んだのだろう。自爆に使った爆弾は、今も腹に巻いてるのだろうか?
突然、部屋の中央に強烈な光が生まれ、その中から一人の少年が現れた。
「私は神である。残念ながらお前たちは死んでしまったが、異世界に転生させてやろう。」
本当に残念で突然だった。
はじめの光はすぅーっと消えていったが少年の周りはうっすらと光っており、この世のものとも思えないような美貌をたたえていた。おそらく、神様なのは間違いないだろう。
だが、少年神の表情にはやる気が感じられず、言葉も平板で感情がこもっていなかった。
やりたくはないけど、仕方がなくそうするのだというのが明らかだった。
「転生だって? 冗談じゃない! これから仕事の打ち合わせがあるんだ、元の場所に帰してくれ!」
状況が分からず右往左往していたビジネスマンの男が、明確な目標が目の前に現れたといきなり噛み付いた。
「3時から大事な打ち合わせなんだ。遅れたら大変なんだ。さっさと帰してくれ!」
「私は今の仕事に満足してるし、彼氏だっているわ。転生なんてしたくないから、帰して!」
「なんの冗談なんだ? 悪ふざけはやめてここから出してくれ!」
一斉にサラリーマン風の男女が少年神に詰め寄ろうとする。
だが、少年神には1m以上近づくことができない。
壁があるというよりも、なにか強い力で押さえつけられてるように進めなくなっているようだ。さすが神様といったところだろうか? 相変わらずやる気のない表情で、うんざりしたようにサラリーマン風の男女を見渡す。
「だから、君たちはもう死んだから元の場所に帰すことはできないんだって…」
飛んできたハエを払うかのようにさっと小さく手を振るとサラリーマン風の男女が消えた。
「転生キタ━(゜∀゜)━!」
次に再起動したのはオタクっぽい男性だ。残念ながら、もう少年という年ではない…。
「また赤ん坊からやり直しですか? それとも若返って少年スタート? どんなチートスキルがもらえるんですか?」
興奮しすぎてて、正直うざい。そしてもちろん、1m以上近づくことはできない。
「どこかの王族の子供として転生ですか? それとも、魔物として転生? スキルはどんなのですか? 鑑定とかの普通のスキルで無双するとか?」
最近の小説は転生ものが多く、普通に転生だけでは満足せずにいろんな設定を加えるものが多くなってきた。オタクたちは、あれがいい、こうして欲しいと、口々に勝手な妄想を吐き出し続ける。
「残念だけど、死ぬ前の姿そのまま。若返ったりしないし、既に存在する人達と入れ替わるわけでもない。特別なスキルもないし、急に強くなったりもしない。ただそのまま転生するだけで精一杯なんだよ。」
少年神はうんざりした表情のまま淡々と告げる。転生に対して肯定的なんだからもう少しいい反応をしてもいいんじゃないかとも思うが、あまりに自分勝手なことを言われたら仕方がないか…。
「そんな! このまま転生したって何もできないじゃないか!」
「せめて若返らせてくれないと困るよ!」
「なにか強力なスキルをください。もしくは、工夫次第で最強になるスキルを!」
オタクたちはなおも詰め寄ろうとするが、近づくことはできない。
「今の精神に見合った体に復元するだけでも大変なんだ。それを若返らせるなんてできないし、既に生まれている人と入れ替えることもできない。それにスキルなんてものを作り出す力は僕にはないんだよ…」
少年神はため息をつきながら手を振り、オタクたちは消えていった。ちなみに、私もオタクに含まれるかもしれないが、サラリーマンが騒ぎ始めた辺りで集団から一歩引いて離れ、オタクたちが詰め寄るのを後ろから眺めていただけなので一緒には飛ばされていない。
「いや、死にたくない。元の場所に帰して。転生もしたくない。帰してよぉ」
カジュアル風の若い女性がうずくまって泣いている。ほかにも何人かの若者が寄り添う様に固まって泣いている。少年神は困ったように見下ろして、ため息をついた。
「残念だけど、もう死んでいるから元の世界に返してあげることはできないんだ。どうしても転生したくないなら以前のように死後の世界に行ってもらうけど、すぐにこの世界で生まれなおすことはできないけどいいかい? それでもいいと思うなら、心の中でそう願ってくれ」
うずくまっていた若者たちがすぅーっと透き通るように消えていく。彼らが天国に行ったか地獄に落ちたかはわからないが。
「お疲れ様です。」
気付くと残っているのは私一人だった。とりあえず、少年神を労っておく。
「あれ? 一人残ってるんだね?」
少年神は意外なものを見つけたようにびっくりしていた。私も少し居心地が悪く、苦笑いで返す。
「私はどちらかというと転生派なんですが、自分が死んだことをしっかり認識していたんで少し冷静だったんですよ。転生というものに過度な期待をするほど楽天的でもないですしね。」
そう、私も小説は読むけど、そこまで異世界がご都合主義であるとは思えない人であった。どんな世界にも秩序があり、常識があり、生活がある。死んだ人間が片っ端から転生して俺TUEEEできるわけがない。
「お疲れ様というのは?」
少年神が不思議そうに首をかしげる。無表情に近いうんざりした表情から、少年らしい表情に少し変わってきたようだ。
「どうにも初めから乗り気じゃなく、仕方なしに転生させようとしているように見えたので。なにか、転生させなくてはいけない理由があるんですか?」
そりゃ、あれだけ嫌そうにしていたら誰だってそう思うだろう。突撃していったサラリーマンやオタクは、もう少し相手のことをよく見るべきだ。ソレが神であったとしても。
「そうなんだよねぇ。僕ももううんざりしてるんだけど。」
少年神は深く深ーーーくため息をついた。
そして、そこから愚痴モードに突入した。
まずは死んだ人間に転生の話をした時の反応が極端なものばかりでどれも自分勝手なこと。死んだことを伝えて転生の話をしようとしても、誰もまともに話を聞きやしない。挙句に、できないことを次々と要求しては、それをしてくれない神様を口汚く罵るのだそうだ。
それに同じ神を祀ってるはずなのにいつの間にか違う宗教として争い、戦争にまでなっていること。どうやら、この少年神はキリスト教やイスラム教で崇められてる神様らしい。あれ? 少年の姿だったっけ?とも思ったが、自由に姿を変えられるらしく、ころころ姿を変えているうちに偶像崇拝禁止と言い出して特定の姿を描かなくなったらしい。そこでキリストや預言者ムハンマドなどが中心となったのだが、中心となった人の違いで宗教や宗派が細分化されていき、争いの原因となっていったそうだ。
我々の世界のは他にも仏教やヒンドゥー教などの宗教があるが、やはり、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の信者を足すと世界で一位の信者数となる。ゆえにこの世界の筆頭となるのだが一神教であるために神は彼だけであり、全てのことを一人でしなければいけないらしい。既に聖別したキリストなり聖人なり預言者なり指導者なりを手下に使って仕事を分散すればいいのに、彼の信者は妙なところで神はただ一人にこだわるせいで最終的に彼の承認が必要になるとか。
愚痴は2時間ほども続いた。(この箱の中の時間が腕時計通りの時間ならだが)
その愚痴の中に少し転生についての話も混じっていた。やれ、あいつが馬鹿だとかどいつもいうことを聞かないだのというどうしようもない話の中に混ざっていた話をまとめると、どうやら他にも世界があり神がいてその神々の取り決めで共通の世界を創りそこに転生者を集めているという話だ。そして、”神のせいで死んだ人間”には一度は転生の機会を与えなければいけないとのことでいままで送るようにしていたらしい。
だが、元の世界で神が原因で死んだ人間は宗教が絡む戦争等で死んだ人間ばかりで、特に最近はテロリストとその被害者ばかりになっているらしい。かくいう私もそれに含まれるのだが、圧倒的に中東関係の人間が多くて残念な構成になっている。それを緩和するために、最近では神と関係ない死因の人間も転生の選択肢を示しているらしいのだが、なぜそんなことをするのかといえば…
どうも、転生させた世界で、勢力争いが起こっているらしい。
複数の神々で転生させやすい力場を持った世界を創り、そこに住人となる人々を作り出して社会を安定させてから転生させていったらしいのだが、それぞれの世界から転生させる人間を世界ごとに決まった位置に送り出していたところ、それぞれの転生者を中心に勢力を作り争い始めたらしい。すると、もともと力の弱かったこの世界の神の送り出した勢力がボコボコにされるようになったという。もともと特別な力を与えることもできず、送る人間も狂信者ばかりではまともな社会を形成しない。せめてまともな人間を送ろうと努力し始めたが、集めた人間が片っ端から残念な人ばかりでもううんざりしていたとのこと。中東ではない地域からまとまった死者が出たので少し期待してたが、またダメな人たちだけかと思っていたらしいのだが…
妙に少年神の目がキラーンと光って、私をロックオンしていた。
私もちょっとこれは転生はヤバイかな?と思い始めていた。しかし、いまさら転生やめますと言える状況ではなかった。そもそももう死んでいるのは確定なのだ。
「分かりました。私も出来る限りのことはします。ですが、私もただのおっさんなので…」
「残念だけど、年齢を変えたり特別な力を与えることはできないよ。そもそも私には力がないから」
少年神は開き直っていた。まぁ、元からできないものはしょうがない。
「そうですねぇ。私にできるのは、アドバイスくらいですか…」
そこでまず、この場所での問題を緩和する方法を提案することにした。
「なぜ、少年の姿なんです?」
「この格好が一番楽で落ち着くから。まぁ、好みの問題かな」
…ただの個人的な嗜好だった。
「まずは、転生の説明をするとき、もっと年上の姿で出来れば人の数倍の大きさで神々しく見える格好で登場するんです。今もしっかり光ってて神様っぽいですが、子供の姿だと侮って強気に出てくる人がいます。いい人なら子供には優しく接しますが、残念な説明が面倒な人ほど自分より弱そうな子供や女性には高圧的になるものです。」
「この姿でも神であるのには変わらないのに?」
少年神は不思議そうに首をかしげるが、ちょっと世の中のことに無知すぎるんじゃないだろうか? 神なのに…。
「人間は見た目で判断するものです。残念な人ほど、その本質ではなく見た目だけで判断します。イケメンなら女性はころっと騙されますし、美女なら男性はいいなりです。もちろん、残念な人はであって、そういうのに騙されない人もいますがね。」
私はどちらだろう? まぁ、こんな会話をしている段階で騙されない方かもしれないが、自分は絶対騙されないと豪語する人に限ってあっさり詐欺に遭うものだ。
「なるほど、次回はそうしてみるよ…」
少年神は頷きながら、うなっている。
その後も転生させる時にどうしたらスムーズに行くかのアイディアをいくつか出したが、本来は相手によってやり方が違うので、どこまでうまくいくかはわからないのだが。
「なかなかいい話が聞けた。感謝する。」
少年神は晴れやかな笑顔だ。元が素晴らしい美貌なのだから、ショタコンならコロッと行ってしまいそうだ。私はノーマルだが。
「では、なにか褒美に…」
「残念ながら無理。」
私はあわよくばなにか引き出せないかと思ったが、そうはいかないようだった。
苦笑いしながら、軽く会釈する。
「では、行きます。」
私が転送されるのを待っていると、少年神が近づいて右手を差し出してきた。私は答えて握手する。
「頑張ってくれたまえ。また転生後でも何かアドバイスがあれば、教会で祈ってくれたまえ。」
そういえば、いつの間にか力場が消えてるなと気付いたが、握手した体勢のまま光に包まれて視界が真っ白になる。教会って?と今更疑問に思いながら、全身に浮遊感を感じた。
そして、私は転生した。