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”超合金の集大成 -前編-”

 ──朝。


 エレニックシティ名物ホテルのレストランが提供する朝食は、和洋中揃ってお粥や焼き魚などの日本人向けメニューが充実の、ふつぅ~のバイキングだった。コーヒーメーカーや炊飯器、パンを温めるオーブントースターなどもある。


 ──この町でなら暮らしていける自信があるわ。


 璃光子は豆腐とワカメの味噌汁をすすりながらしみじみ思うのだった。

 とそこに、剣助と火芽香が遅れてやって来た。昨夜、闇奈から火芽香が落ち込んでいると聞いた剣助は、レストランに入る前に火芽香を引き止めたのだ。二人で何か話をしてきたのだろう。

 二人は揃って空いている席につく。が、火芽香の表情は見るからに曇っている。メンバーはそれに気付いていたが、その理由を問う勇気はなく、特に何も言わずに食事を続けた。

 やがて剣助と火芽香も料理をとって来て食べ始めたが、火芽香のオーラはどんよりしたままで、剣助も一言も喋らない。明らかに異様だ。

 しかし、ここで問題を取り上げたら面倒なことになると予感したメンバーは誰も何も言わない──そんな時間が数分経った時、


「ひ、火芽香……どうしたの?」


 重苦しい緊張感に耐えられなくなった水青がついに口火を切る。

 全員の箸は止まり、意識は火芽香に集中する。

 数秒の沈黙の後、火芽香は急に顔を真っ赤にして呟いた。


「みなさん、知ってたんですよね。私と剣助さんが、その……」


 どうやら二人の恋仲が全員にばれているということを知って、恥ずかしさのあまり何も言えなかったらしい。


「あ、違うのえーっと、あ~の~……ゴメン」


 風歌は何か言い訳しようとしたが、何も思いつかずに結局謝った。

 火芽香は肩をすくめて俯いてしまう。隣のバカ助は、どうしたらいいか分からないといった感じで皆の顔を次々に見渡している。不器用な男だ。

 とそこで、見兼ねた槍太が助け舟を出す。


「いいんじゃん? カップル一組ぐらいいた方が幸せオーラで和むじゃん」


 いつものにやけ顔ではなく、ニコニコしている。女向けの営業スマイルだろう。剣助のことはあれだけ無遠慮にいじり倒していたのに、火芽香には優しい。人によって対応を使い分ける器用な男だ。

 その対応力を見た大牙は、槍太に任せておけば意外と自分のホモ疑惑も晴らしてくれたかもしれない──と少し後悔していた。


「そうよ、いい事なんだから顔上げて。火芽香から言ってくれるの、ずっと待ってたんだけどなぁ~」


 そうフォローを重ねた璃光子も、安心感を与えるような笑顔を作っている。


(絶妙なコンビネーションだ。やるな地球人)


 槍太と璃光子の連携プレーに、密月は感心していた。

 そんな二人の完璧な微笑みに、純粋な火芽香はやっぱり見事に感動させられていた。


「そうだったんですか。ごめんなさい自分勝手で。ちゃんと報告しないとですよね」


 そう安心したように言って、ちょっと照れたようにかわいらしく微笑む火芽香。

 これで一件落着だと、人知れず一番緊張していた刀矢と剣助は同時に安堵の溜め息をついた。

 その時、


 ガタッ──


 闇奈がいきなり立ち上がる。


「ど、どうしたの!?」


 妙なタイミングだったので、隣の水青が驚いて声を上げる。が、闇奈はきょとんとして首を傾げた。


「おかわり。してもいいんだろ」


 それだけ言うと、皿を持っておかずの並んだテーブルへと歩いていく。皆が緊張しながら話をしている間、闇奈だけは黙々と食事に専念していたようだ。


 ──マイペースな女だ。


 本当に闇奈は興味が無い事にはとことん無関心な奴だなと、さすがの槍太も少し呆れた。

 とその時、「お食事中失礼致します」というスマートな声が滑り込んできた。全員がその声の方へ目を向けると、そこには一人のスーツ姿の男が立っている。ホテルのフロントの従業員だ。


「しろがねとうや様でございますか?」


 フロントスタッフは軽く一礼した後、刀矢を見て問う。突然呼ばれた刀矢は戸惑いながらも頷いた。


「はい、そうですが」


「佐藤英作様からお電話が入っております。お部屋にお繋ぎ致しますか?」


「英作から? あ~いえ、フロントでいいです。──ちょっと行って来る」


 刀矢は慌てて立ち上がり、フロントスタッフと共に電話を取りに向かう。本当に、普通のホテルでよくある場面だなと、全員の地球人が内心呆れていた。

 しばらくして、英作との通話を終えた刀矢が戻ってきた。にこやかに話の内容を伝え始める。


「俺たちが出る頃に、こっち来るそうだ。餞別(せんべつ)を持ってくるって」


「餞別?」


 どんな餞別だろうかと、火芽香が不思議そうに呟く。するとそれを、『餞別』という言葉の意味が分からないのだと勘違いした密月が、


「土産のことだぜ? み・や・げ!」


 超得意気で無駄なレクチャーに入る。常識を自慢げにひけらかす密月に、苦笑いする火芽香。そして、密月がこんな痛い勘違いをする原因は昨夜の会話のせいだと分かっていた男たちは、俯いて何も言えなかった。

 そんなこんなで食事も終わり、部屋に戻って荷造りを済ませた後、全員ロビーに集合していた。男たちの荷物は昨日とまったく変わらないが、女たちの荷物は全然違う。


「お前たち、なんでそんなに大荷物になってるんだ?」


 何倍にも増えている女たちの荷物を見て刀矢は愕然としている。璃光子はバツが悪そうに言い訳を始めた。


「あ~……色々必要な物買っちゃって。い、いいじゃない! ロイダの金よ? 孫の私が使って何が悪いのよ!」


 最後は逆ギレでうやむやにして逃げ切る璃光子。男たちは不満そうにしていたが、確かに金は璃光子のものなので文句は言えない。


(にしても、限度ってもんがあるだろ。ったく、誰が持つと思ってんだよ)


 剣助は不貞腐れながらも荷物を持ち上げる。そして、少し驚いたように目を見開いた。


「あれ? 意外と軽いな」


 荷物は大きさの割に軽かった。中身は大量の生理用品なのだから、当然である。

 そこに、ぞっとするぐらい冷たい声が降りかかった。


「中身は見ないで下さいね」


「え……は、はい」


 だいぶ威圧的に忠告する火芽香に、剣助は萎縮して素直に頷く。ずっと大人しくて優しかった火芽香の意外な一面が見えてしまった。ものすごく怖い。正直中身が気にならないわけではなかったが、見てしまったらただでは済まないぞと、手にある荷物を丁重に担ぐ剣助だった。

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