“夢の中の真実 -前編-”
《おい剣秀! コレ見てくれよ!》
──また剣秀か……。
《おお。日本刀も作れるようになったのか? お前はすごいなバルス。日本語も覚えるの早いし》
──え、バルス?
《ハッハッハッ! 天才はあらゆる分野でその才覚をあらわすのよ!》
──間違いなくバルスだ。
《まったくだな。……その天才に、ちょっと頼みたいことがあるんだよ》
《お? そうか! 何でも言えよ!》
《バルス、お前、魔法剣作ってみないか?》
──あの剣の事か!?
《魔法剣? 属性は?》
《闇の──空間短縮魔法が使えるものがいいな》
《空間短縮。そりゃ無理だぜ》
──へ?
《魔方陣と併用したらどうだろう? 入り口と出口にそれぞれ魔方陣を敷いて、その間を移動するだけならできないか?》
──家にある魔方陣の事か?
《なるほどな。でも、どこに行くつもりだ?》
《……地球に行きたいんだ》
《なんでまた》
《……バルス。火星がなぜ滅びたか知ってるか?》
──へ? か、火星?
《いくら俺でもそんな大昔のことは知らねぇよ》
《僕もだ。でも、今、地球は生きている。だから今のうちに、地球に帰りたいんだ》
《里心ついたってやつか。でも、それならワームホール使えばいいじゃねぇか》
──ワームホール。この時はまだ使えたのか。
《ワームホールは……潰すつもりだ》
──え!?
《はぁ? なんでぇそりゃ?》
《もう、アシュリシュと地球を繋ぎたくないんだ。僕が地球に帰ったあと、誰も追いかけて来れないようにしたい》
──……そうだった。
《お前がそこまでするたぁな。そんなに王家職に嫌気がさしたのか?》
──……俺がやったんだ。
《フッ……まあな。剣作りには、黒陽が協力してくれる》
──黒陽……?
《黒陽か。相変わらず仲いいねぇ。でも、だからって成功するとは限らねぇぜ》
《それはもう運に任せるしかないな》
《やっぱ、内密か? 協力したなんてバレたら、いくら六色の弟の黒陽でも罰せられるだろ?》
──六色の……弟?
《バルス。だからお前に頼んでるんじゃないか》
《へっ。お前の頼みだ。わかったよ。俺たちだけの秘密だ……》
ハッ──
そこで、剣助は夢から覚めてしまった。静かに呼吸をし、ベッドに仰向けに寝たまま呆然と天井を見つめている。しかしその意識は、どこか混沌とした靄のようなものに支配されていた。
(わかる……)
何か朦朧とした知識が頭の中に浮かび上がり、その知識に突き動かされたように剣助はゆっくりと起き上がった。
意識がぼんやりしたまま辺りを見渡すと、相部屋の3人がベッドで寝息をたてて眠っている。深夜のようだ。ここがエレシティで、ホテルの部屋なんだということは理解できる。覚えている。しかし、剣助にはこれが現実だという確証を持つことが出来なくなっていた。
(わかるぞ……)
自分のものなのかそれとも啓示のような類なのか判別できない知識が湧き出てくる。その波のような力に引っ張られるように、ゆらりと立ち上がった剣助は覚束ない足取りで静かに部屋を出た。
まるで幽霊のようにフラフラ揺れながら夜の町を歩いていく剣助。時折すれ違う町人は皆、驚いたように剣助を見て振り返るが、剣助はそれに気付く様子は無く、まるで操り人形のように体を引きずって歩いて行く。
(こっちだ……)
ごちゃごちゃした町の路地を迷うことなく右に左にいくつも曲がり、やがて建物のない開けた場所に出ると、更にそのまま真っ直ぐ歩いて行って崖に立つ。エレシティは丘の中央にあるので、町を抜けるとそこは見晴らしのいい高台になるのだ。町中は色とりどりの電飾で昼間のように明るいが、ここは暗幕が下りたように暗い。
(この下だ……)
真っ暗であるにも関わらず、剣助は足元を見ることもなくそのまま更に右に曲がって崖添いに歩いていく。そして、崖下に通じる細い坂道がある所で剣助は足を止めた。その道は崖のずっと下まで伸びていて、奈落と言ってもおかしくないような真っ黒な空間に通じている。エレシティの地下に当たる所だ。そう、ワームホールがあるという、あの空間──
(あそこだ……)
吸い寄せられるように、剣助はふらりと坂道に足を踏み入れた。その時、
《剣秀……》
聞き覚えのある女の声が脳裏に響いた。瞬間、急に激しい目眩が襲ってきて立っていられなくなる。剣助は崩れるように膝をつくと、そのまま細い坂道に前のめりに昏倒してしまう。辛うじて、奈落に落ちるのは免れたが、剣助の意識は何かに飲まれるように薄れていってしまった。




