表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/96

“刀矢のトラウマ”

 英作の話が出たところで、一つ気になっていた事があった大牙は刀矢に話を振ってみる。


「そうだ。刀矢さんと英作さんってS大卒なんですよね。すごいな~。学部なんですか?」


 名門大学出身の刀矢に尊敬の眼差しを送る大牙。刀矢は少し照れたように苦笑いして答えた。


「教育学部。英作は機械工学部だ。すごくはないよ。あの頃はガリ勉だったから」


 『ガリ勉だったから』──これが謙遜だと気付かない槍太は、何かに納得いったという顔で頷き、一言。


「あ~それで──」


 『童貞なんだ』──という失言はかろうじて飲み込んだが、刀矢には槍太が言わんとしている事に察しがついてしまっていた。恨めしそうな顔で槍太を睨む。

 実は、刀矢には女を抱けない理由があった。刀矢だって、名門とうたわれるS大生。合コンの誘いは山のようにあった。見た目もいい方で、人当たりが良くて優しい刀矢は、むしろモテた方だ。彼女だって、何回か作ったこともある。しかし、どうしても一線を超える気になれなかったのだ。


「お前、そろそろ童貞捨てねぇとヤバいぞ」


 英作にそう言われて、彼女とデートした後、ホテルに誘ったこともある。彼女は二つ返事でついて来てくれた。しかし、ベッドに入った瞬間──亜闇(あやみ)の顔が浮かぶのだ。顔中アザだらけで鼻血を流しながら目を伏せて泣いていた、ズタズタに傷ついた女の顔が。


「ゴメンやっぱ出来ない……」


 そう言って帰ろうとする刀矢に、ほとんどの彼女は決まって理由を聞いてきたが、答えられるわけが無い。わけも無く拒絶されて、平気で付き合ってくれる彼女なんかいるわけない。多分、同性愛者と勘違いされた事もあるだろう。こうして、何人の彼女が去って行ったことか。


「女は一生処女を守ると天使になれるっていうけど。男はどうだかわかんねぇぞ」


 いつか英作にこうからかわれた事があるのを思い出した。


(俺だって、好きで童貞守ってるわけじゃ……童貞は守ってるとは言わないか)


 嫌な回想をして落ち込んでいる刀矢をよそに、話は進んでいく。


「俺も教育学部ですよ~。五流大ですけど。しかも一浪!」


 恥ずかしい経歴を、何故かピースして披露する槍太。


「へぇ。先生になるつもりだったのか?」


 この軽薄な槍太が人を指導する職業を選ぼうとしていた事に、剣助は意外だといった顔をしている。その問いに、槍太はニヤニヤしながら頷いて理由を明かした。


「おう。高校教師に憧れてな」


「高校教師ぃ……?」


 剣助はまた呆れ顔に変わった。高校教師と言えば、教師と生徒の恋愛を描いたドラマのことを思い出させる。


「最高の職業だろ? 女子高生の温室だぜ!」


「何かよくわかんねぇけど楽しそうだな。槍太、俺も連れてけ」


 意気揚々と語る槍太の口ぶりに魅せられた密月は、すっかり罪悪感を忘れてスケベ面だ。


「そういえば、大牙って今年受験だろ? なんで護衛衆参加したんだ?」


 バカ二人の話なんか膨らませてたまるかと、剣助は話をすり替えて大牙に目をやる。大牙は突然話を振られたことに一瞬目を丸くしたが、すぐに答えた。


「あ、父はもう二回務めてたので」


 護衛衆には、一人二回までという暗黙のルールがあった。親が二回務めていれば、自動的に次は息子が引き継ぐことになる。


「へ~災難だな~」


 そう間延びした口調で言う槍太も、罪悪感を忘れた様子でベッドに寝転がり、すっかりリラックスモードだ。


「いえ、僕は自分から好んで引き受けたので」


 そう穏やかに微笑んで言う大牙は、本当に災難だとは思ってなさそうだ。無理やり伝統を継がされたというわけではないのだ。


「へ~偉いな~」


 槍太はうつ伏せに寝転んだまま少し頭を持ち上げて、感心したように大牙を見る。


「大牙は、龍牙(りゅうが)さんを尊敬してるんだよな。いい息子に恵まれて嬉しいっていつも言ってたよ」


 大牙の父とも交流がある刀矢がそう告げると、大牙は照れたように顔を綻ばせる。しかし、その大牙の父親の名前を聞いた密月は顔を強張らせた。


「また……強そうな名前だな」


 『龍牙(りゅうが)』という名前から、剛腕で強面な大男を想像した密月は、いじめっ子が親に怯えるような心境になり、さっき大牙をいじめてしまった事を後悔している。

 しかし、そう勘違いされることに慣れている大牙は、困ったように頬を掻いた。実は、金家(くがねけ)の男は皆、共通して一つのコンプレックスを抱えているのだ。大牙は言いにくそうに口を開く。


「いえ、実はウチの家系は──」


 するとそこで槍太が遮るように、


「チビだよな~。大牙より父ちゃんの方が小せぇだろ? 俺、顔合わせで初めて見たけどよ~大牙も父ちゃんも超小せぇんだもん~可愛いぐらいだったぜ~」


 暴露してしまった。

 (くがね)はチビ。(くろがね)はノッポ──これも、まるで伝統のように続いている事だった。

 伝統的に背が高い家系に生まれた槍太を、大牙は恨めしそうに見る。


(背高い人はいいよな~)


 身長一五五センチメートルの大牙は、風歌との十センチメートルほどの埋められない身長差を悲しく思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ