“シティ・ホテルの夜 -前編-”
中学生が考えたことなので、大目に見てくだせぇ(^^;
今回はちょっと下品です。お見苦しい場合は飛ばして下さい汗
エレクトロニクス・シティ名物の宿泊施設。そこは、よくある普通のホテルだった。地球のホテルを再現していると言うだけはある。
卓郎と刀矢がフロントで手続きをしている間、火芽香は辺りを観察してみた。
天井には大きく派手なシャンデリア。足元はダマスク柄の絨毯。中央に並ぶ、螺旋階段にエレベーター。ちょいと横に目をやると、ラウンジらしきカウンターで、数人の客が茶を飲んでいる。ビジネスホテル以上リゾートホテル未満といったクオリティの、何の変哲もないホテルだ。
だが、一つ異質なものがある。中央の柱に掛けられているフロア案内図だ。それは普段よく見るようなプラスチック製の板状の物とは違い、カレンダーのように何枚も重なっていた。多くの言語が使われているエレシティでは、こうして言語別にページを分けて表記してあるのだろう。表紙はもちろん、日本語だ。
──こんなに沢山の言語が使われているのね。
火芽香は案内図をパラパラとめくりながら、この町のグローバルさに感服していた。ページはざっと見ても20枚程連なっている。日本語に始まり、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、ポルトガル語、中国語、ヒンディー語、韓国語──と、ここまでは何語か分かったが、他はどこの言語か分からなかった。
そこへ、宿泊手続きを終えた卓郎と刀矢が戻ってきた。
「4人部屋を二つと、シングルを二つ取ってきた。部屋割り決めようか」
刀矢はそう言いながら、4本のキーのうち2本を女性陣に差し出す。なるほど。男女5人ずつのメンバーを割り振るには、そんな部屋チョイスしか出来なかったのだろう。5人部屋というのは、普通のホテルではあまり用意されていないものだ。
そこに、不満そうな男が一人。
「俺と闇奈はツインでよかったのに」
しかし、密月のそのぼやきに反応する者はいなかった。
部屋割りを話し合った結果、二つのシングルは別々に闇奈と密月が使うことに決定。エレベーター前まで見送ってくれた卓郎に礼を言って別れ、一行は揃って部屋へと向かう。
ホテルは10階建てで、シングルは10~8階となっており、4人部屋のフロアは5階だった。エレベーターは5階で止まり、4人部屋に泊まるメンバーが降りて行く。
「じゃあ、7時にレストランで」
夕食の約束をして、エレベーターの扉を閉めようとした闇奈に、璃光子が声を掛けた。
「闇奈。まだ時間たくさんあるからコッチおいでよ」
それもいいなと思った闇奈がエレベーターを降りると、
「じゃあ俺もそっち行くわ」
密月も降りてきて、それを槍太が歓迎する形で密月も4人部屋へと入って行った。
部屋は、普通のホテルらしい部屋だった。狭くない程度に4つのベッドが並んでいて、白いシーツでぴっちりメイキングしてある。ユニットバスがあり、奥には小さなベランダがあり、その窓際には小さなテーブルと2脚の椅子が置いてある。壁側には少し大きめの鏡台が設置してあって、その卓上には電気ポットらしい機器があった。
槍太は一番手前のベッドに身を投げ出すように寝そべると、すぐにゴロゴロとくつろぎ始める。
「どうする? 暇だよな~」
まだ夕飯の時間まで3時間ぐらいある。残念なことにテレビだけは無いようなので、暇つぶしに困る。
そこで、鏡台の上にホテルの施設案内書が置いてあるのに気付いた密月はそれを手にとって読み始める。すると、すぐにいいものを発見したといったように声を上げた。
「あ、大浴場があるらしいぜ」
ホテルには、サウナやマッサージルームなど、一通りのサービス施設も整っていた。
「風呂か~ヒルドラー以来だな」
槍太は起きる素振りを見せないが、乗り気の口調だ。他の男たちも、賛成の意思を見せる。
「じゃあ先に風呂行くか。えっと、着替えは──」
普通のホテルならば、浴衣やバスローブがあるはず。刀矢はそれらが無いものかと部屋を見渡す。
「あ、『浴衣ご利用のお客さまはフロントまで』だってよ」
密月が案内書を読み上げた。どうやら部屋には置いてないが、フロントに行けば借りられるらしい。
「じゃあ、俺みんなの分も取ってくから、先行ってろよ」
一番ドアの近くにいた剣助は、そう言うと振り返ってドアを開ける。
「あ、じゃあ、お願いします。剣助さん」
大牙は嬉しそうな顔をして、きちんと頭を下げた。
「よ~し! 行くか~!」
いきなり元気よく起き上がった槍太を先頭に、男たちは大浴場へと向かった。
──
そこは、普通の大浴場だった。ロッカー付きの脱衣場。扇風機、体重計。ホテルの大浴場と言うよりはどこか大衆向けのような、レトロさを感じさせる脱衣場で服を脱いで浴室のドアを開けると、そこも普通の銭湯を彷彿とさせる作りだった。浴室奥の真ん中に大きな湯船があって、両側の壁には等間隔を空けてシャワーが多数設置してある。馴染み深い作りに、男たちはホッとしていた。
しかし、密月だけは、
「なんだ。混浴じゃないのか」
ガッカリしていた。
備え付けの石けんやシャンプーを使い、シャワーで体を洗って、湯船に入る。セオリー通りの風呂の入り方だが、
「あつ!」
湯船の湯は思ったより熱かった。おそらく48℃近くある。
「何だこれ入れねぇじゃんか~。もったいね~」
槍太は意外と貧乏性なことを言っている。
「剣助が来るまで入ろう……」
刀矢は小さい目標を決めて、我慢して入っている。別に入らなければいいのに、無駄な事に努力をするタイプだ。
その隣では、大牙もじっと耐えて浸かっていた。
「そうか? 俺はちょうどいいけど」
密月だけは平気そうだ。アシュリシュは、基本的に地球よりも気温が高い。あの不死鳥の時も平気だったように、アシュリシュ人は熱さに強いのだ。
少しして、剣助がやってきた。
「わ~けっこう広いな~」
久々のきちんとした風呂に高揚してる剣助。その姿を確認した刀矢は、目標達成とばかりにすぐに立ち上がった。
「あ、ぼ、僕も上がります」
大牙もヨロヨロと続く。
そんな二人を、寂しげに見つめる剣助。
「……もう上がるの?」
自分が来てすぐに上がるなんて、なんだか避けられているようでちょっと悲しい。
「ああ、浴衣、ありがとな」
刀矢はのぼせた赤い顔でそう言うと、ヨロヨロと風呂場を後にした。
その姿を見送った槍太は、内心舌打ち。
(ちぇっ。刀矢さんの確認して見たかったのに)
風呂に入っている間、刀矢はずっと腰にタオルを巻いて隠していた。27歳童貞のものはどんな問題を抱えているのか見てみたかったのにと、いやな変態さを発揮している槍太だった。
剣助がシャワーで体を洗っている間、槍太はずっと浴槽の淵に座って、足だけ湯に浸けていた。ある計画があるため、のぼせるワケにはいかないのだ。
やがて、剣助も湯船に入ってきた。
「うわ! けっこう熱いな」
剣助も湯の熱さに驚いて、浴槽の底に膝立ちしたまま肩まで浸かれずにいる。そこで、槍太の計画が発動。
「剣助。ちゃんと洗ったか?」
槍太はわざとらしい真剣な顔をして不可解な質問をする。剣助は不思議そうな顔をしながらも、さっきちゃんと体を洗ったので頷いた。
「ああ」
「ホントか?」
しかし槍太は、すかさず疑いの言葉をかけてくる。剣助は何でこんなことを言われるのか分からず、怪訝そうに聞き返した。
「何が言いてぇんだよ?」
すると槍太はますます深刻そうな顔をして、諭すように言う。
「だって、近々使うだろ?」
「はぁ?」
まったく意味不明な言葉に、ただ困惑している剣助。そこに、湯船に浸かっている密月も参戦。
「そうだぞ剣助。洗っといてやるのがマナーだぞ」
そう言う密月の顔は、槍太とは違ってニヤニヤとスケベ的な嫌な笑みを浮かべている。その表情から、自分の恋愛事情のことでからかわれるのだと、さすがの剣助も察知した。
槍太は相変わらずわざとらしい真剣な顔で続ける。
「汚いままだとな、病気なったりするんだぜ~こえぇぞ!」
「病気!? 例えば!?」
槍太の話に、わざとらしく大袈裟なリアクションで乗ってみせる密月。その完全に人を馬鹿にしたやり取りに、剣助はキレた。
「な! や、やめろよ! てかなんで知ってるんだよ!?」
火芽香とのことがバレていると気付いた剣助は、顔を真っ赤にして怒鳴る。湯が熱いせいもあってか、かなり赤い。
槍太はまたわざとらしく驚いて見せる。
「何でって、そりゃねぇだろ? あんだけ見せつけといてよ~」
「槍太。見せつけたってのはおかしくねぇか? 俺らが覗いてただけだろ」
「あっそうか」
そう小芝居を打つ二人はにやけている。わざととぼけているようだ。
「のっ、覗いてた!? なにやってんだよ~!」
あのキスを目撃されてたと知って、悔しさと恥ずかしさで怒りを通り越した剣助は水面をバシャッと叩く。
「なんだよ~隠れて付き合う気だったのか? バカやろ。相談しろよ。教えることが沢山あるんだぜ?」
槍太はニヤニヤしたまま余裕で返す。その教えることというのは、剣助にはノーサンキューだった。
「ウッセ! いらねぇよ!」
剣助は吐き捨てて立ち上がった。もうこんなとこにはいたくない。
慌てて浴槽から上がっていく剣助の背中を、密月のからかう声が追いかける。
「んなこと言うなよ。タメになるぜ~」
「黙っててくれよ~!」
剣助は逃げるように風呂場から飛び出て行った。
槍太と密月はニヤっと顔を見合わせると、次の悪戯の作戦会議を始めた。




