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“同級生”

 剣助たちがワームホールが時空を超えるうんぬんの話に頭を捻っている頃──車で寝ていた刀矢は、ふと目を覚ましていた。寝ぼけた頭で耳を澄ますが、誰の声も聞こえない。


「あれ、みんなは!?」


 誰もいないと思い、慌てて車から降りて辺りを見回す。すると、荷台でイビキをかいている槍太を発見。


「おい! 槍太! みんなは?」


 すぐに揺さ振って起こす。槍太はふがっと鼻を鳴らして目を覚ました。


「え? あ~町に行きましたよ」


 槍太はあくびをしながら面倒臭そうに答える。刀矢は自分の知らない所で行動を起こされていた事に驚く。


「町に!? いつ!?」


「さぁ。3時間前くらいかなぁ?」


「な、なんで早く起こしてくれないんだよ!」


 あまりにも必死な刀矢に、怪訝な顔の槍太。


「なんで? 発信機外すだけならアイツらだけでもいいじゃないですか?」


 すると刀矢は、意外な言葉を叫ぶように言った。


「買い物があるんだよ!」


 ──買い物?


 槍太はますます怪訝な顔をした。


 刀矢は、袴を何枚か着替え用に買っておくつもりだったのだ。刀矢が服のことで笑われたことを知らない槍太は、エレシティで何が買えるというのだろうと、ただ不思議がるだけだった。


 状況を飲み込めていない槍太をよそに、刀矢は早足で歩き出す。


「早く! 行くぞ!」


「あ、は、は~いはい!」


 戸惑いながらも刀矢を追って走る槍太だった。


 およそ40分後──


「はっ……はっ……つ、疲れた……」


 二人は長い階段に息を切らせながら、町に到着した。


「さて、どこに行ったかな?」


 刀矢は町を見渡す。しかし、雑多に建物が立ち並ぶ町はどこを見ても見通しが悪い。道らしい道も無いので、どこから歩けばいいのかも分からない。


 そんな時、槍太が町の中心を指差した。


「と、刀矢さん、アレ」


 そう少し怯えたように槍太が示しているのは、言わずもがな町の中心にそびえ立つ高層ビル。ビルの正面には、どこからでも見えるぐらい大きな電光掲示板が貼り付けてあり、そこには『INFOMATION』の文字が流れていた。


「インフォメーション? 怪しいな」


 刀矢は(いぶか)しむが、


「でも、こんなゴチャゴチャした町探しきれないですよ。とりあえず行ってみましょ~」


 槍太に背中を押される形で、ビルを目指して歩いていった。


 そしてビルに到着し、自動ドアに驚きながらも入っていくと、涼しい風が階段で疲れた体を心地よく冷やしてくれる。


「おわ! クーラー!?」


 槍太は上京したての地方人のように驚いた。そんな槍太を、どこの田舎者だと言いたげな目で行き交う人々が見下す。


「あ、あの人たちに聞けばいいのか?」


 刀矢も、カウンター越しにこちらをニコニコ見ている受付嬢に驚いていた。


 しかし、他に相談に乗ってくれそうな人は見当たらないので、意を決して受付嬢に近づいていく。


「あ、あの~。人を探してるんですけど」


 刀矢が恐る恐る聞くと、受付嬢は営業スマイル全開で答える。


「はい。お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「は、はい。え~、僕は(しろがね)刀矢(とうや)。で、探しているのは(あかがね)剣助(けんすけ)と……あと7人いるんですが」


 受付嬢は満面ニッコリでうなずくと、その笑顔を崩さずに答える。


「お一人様のお名前だけでけっこうでございます。お呼びする範囲などはいかが致しますか? 町全体にアナウンスさせていただくことも出来ますが」


 町全体に呼びかけてもらえたらすぐに見つかるはずだと、刀矢はホッとした。


「あ、じゃあ、町全体でお願いします」


「かしこまりました。では、お呼び致しますので少々お待ちください」


 受付嬢は完璧なスマイルでそう言った後、急に気合を入れたような真剣な顔つきになったかと思ったら、目一杯に息を吸い込んだ。そして目をつぶり、グッと息を止めると、


《ピンポンパンポン!♪》


《お客さまの!》


《お呼び出しを!》


《申し上げます!》


《あかがねさま~!》


《あかがねけんすけさま!》


《しろがねとうやさまがお呼びです!》


《いらっしゃいましたら!》


《至急、センタービル一階!》


《インフォメーションセンターまで!》


《ご連絡ください!》


《パンポンピンポン!♪》


 さっきとは比べ物にならない程の大音量でアナウンスを流した。どうやら町全体に聞こえるようにするには音量を上げるしかないらしい。


 あまりの大音量に、刀矢と槍太は腰を抜かしてへたり込み、呆然としている。


 そんな二人に受付嬢は、また満面の営業スマイルを向ける。


「ご連絡入り次第、お呼び致します。もう少々お待ち下さい」


 そう言う受付嬢の声は、耳鳴りで一時的に聴力を失っている刀矢たちには届かなかった。


 そして、そのどでかいアナウンスは、見事に剣助の耳を貫いていた。


「何だ!? さっきよりでけぇ!」


 剣助は目を見開いて耳をふさぎ、他の全員も同じように耳をふさいでいる。そんな時、


《しろがねとうやさまがお呼びです!》


 アナウンスが来訪者の名前を告げた瞬間、英作(えいさく)の顔色が変わった。


「え、しろがね……とうや?」


 呟いていたが、みな耳をふさいでいるので聞こえない。


 そんな中、闇奈だけは英作の表情の異変に気付いたが、まだ耳はふさいでいたので確かめることが出来なかった。


 やがて大音量アナウンスは止み、代わりに耳鳴りが襲ってきていた。みなそれぞれ呆然として脱力している。


「刀矢さんたち、来てるみたいだな。俺ちょっと行って来るわ」


 よろけながら部屋を出ようとした剣助を、英作が止めた。


「部下に連れてきてもらうから、行かなくていい。待ってろ」


 そう言うと、廊下に待機していたハゲオヤジに呼んで来るように指示した。


 しばらくして、刀矢と槍太はハゲオヤジに案内されて現れた。


「お~お前たち。指輪は外れたか?」


 刀矢はメンバーの顔を見るなりそう問うが、


「い、いや、それがなんかややこしい話になってきちゃって……」


 大牙は困った顔で頭を掻いた。他のメンバーも、まだ時空の話を頭の中で整理しようと一生懸命で指輪どころではない。


 そんなやり取りを見ていた英作の顔は、ますます強張っていた。


(や、やっぱり、刀矢。なんでここに?)


 英作は無意識に刀矢をじっと見てしまい、その視線に気付いた刀矢も英作を見る。


 英作の心臓は跳ね上がり、緊張した。


 しかし、


「なんか、お世話になったみたいで。ありがとうございます」


 刀矢はお辞儀をしただけだった。


「あ、ああいえ、こちらこそ」


 英作も反射的に頭を下げる。


 すると、卓郎が微笑んで刀矢に寄って行く。


「初めまして。僕はシステムエンジニアの佐藤卓郎です。こっちは父の──」


 卓郎が英作を紹介しようとした時、


「ああ、ああ! 卓郎! 早くさっきの説明してやれよ!」


 英作が慌てた様子で遮った。


「え、でも、先に自己紹介を──」


「いい! いいから! 早くしろ!」


 さっきまで重役の風格をまとっていた英作の、この慌てようは異常だ。みな英作の様子を不審に思い、視線は英作に集まる。


 しかし、刀矢だけは卓郎に目を奪われていた。


「え、佐藤卓郎? ほ、本名ですか?」


 刀矢が驚いたように問うと、卓郎は微笑んで頷いた。


「はい。お察しのとおり、日本人です」


 刀矢は愕然とした顔で黙っている。


「やはり、信じられませんか?」


 卓郎がちょっと困ったように問うと、刀矢はハッとして慌てて首を振った。


「えっああいや。ちょっと、友人の子供と同じ名前だったもので」


 刀矢は失礼な態度をとってしまったと、苦笑いして取り繕った。


 しかしその一言で、闇奈の勘が働いた。


 ──英作と刀矢は何か関係がある。


 その真相を探るべく、


「おい英作。なんで黙ってんだ? え・い・さ・く」


 英作の名前が刀矢に聞こえるように、わざと二回呼んでみる。


「!」


 顔を引きつらせ、思わず刀矢を見る英作。


 すると、やはり刀矢が反応した。


「え、英作? 卓郎と、英作?」


 佐藤英作と卓郎。これと同じ名前の親子を、刀矢はよく知っていた。そんな偶然がこんなところで起こったということに、刀矢は驚いて呆然としてしまう。


 英作は、そんな刀矢の顔をしばらく苦い顔で見つめていたが、やがて決心したように溜め息をつくと、重々しく口を開いた。


「そうだよ。刀矢。俺は、佐藤英作だ」


 それを聞いた刀矢は、ますます怪訝な表情になる。


「え、なに言ってるんですか?」


 思わず聞き返すと、英作は苦々しく小さく首を振った。


「信じられねぇのも無理はねぇ。お前は、97年までの俺しか知らねぇんだからな」


 英作はそう言うと、伏し目がちにフッと笑みをこぼす。


 刀矢の顔は疑惑に歪んだ。


 ──何を言ってるんだこの人は?


 刀矢は英作の顔を見ると、確かに自分の知ってる英作と似ているような気がしたが、全く信じられなかった。


 それもそのはず。あの継承式の3日前、刀矢は英作と卓郎に会っていた。しかし、この歳をとった姿ではなく、27歳の英作と、3歳の卓郎にだ。この初老男性と青年が同一人物だなんて、容易に信じられるものではない。


「一体どういうつもりですか?」


 何の為に自分を騙そうとしているのかと、刀矢は英作を睨む。英作は目を伏せたまま、またフッと自嘲するように笑った。


「どういうつもりもねぇ。俺は正真正銘、S大をお前と一緒に卒業した、佐藤英作なんだからな」


 出身校まで言い当てられて、刀矢は驚きに目を剥く。


「何でそれを? あんた一体──」


 刀矢が英作に詰め寄ろうと身を乗り出した時、


「刀矢さん。説明しますから」


 火芽香が仲裁し、説明を始めた。


 そして、英作と卓郎がどうやってここへ来たかの説明を受けた刀矢は──


「え? タイムスリップ? 99年にここへ来て、30年経っている? ……じゃ今いくつだ?」


 やや混乱したように、呆けた質問をした。


「相変わらず計算弱ぇな。59歳だよ。こいつは35歳だ」


 英作は卓郎の肩に手を置いて答えるが、刀矢はまだ納得のいかない顔をしている。


 英作は溜め息を一つ。


「更にわかりやすく言えばだな。97年──俺は27歳、刀矢も同じ27歳だよな? それが今だ。んで、99年──俺は29歳。まだお前の知らねぇ未来の俺だ。この時、ワームホールに出会っちまったってことだよ。卓郎と一緒にアシュリシュに来て、この30年。会社始めて必死に食い繋いで来たんだ。俺がトヨタンに勤めてたのはお前も知ってるだろ? そのノウハウを生かしてな。オリジナルの車作って来たんだ」


 トヨタンとは、地球の日本の自動車メーカーだ。


 確かに、刀矢の知っている英作はその会社に勤めていた。優秀な技術者で、自動車の開発にも深く関わってたはずだ。この人物が本物の英作だとすれば、アシュリシュで自動車を作ってきたというのも頷ける。


しかし、どうにも納得がいかない。不可解すぎるのだ。


 刀矢は頷いてやることが出来ずに、険しい顔をして黙って聞いていた。

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