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“知能犯”

 卓郎の父に会うべく、ビルの33階へと向かうエレベーターの中で、璃光子は余計なことを考えていた。


(佐藤さんって、卓郎って名前のわりにはオタクっぽくないわね。よかった。話しやすい雰囲気で)


 『タクロー』という名前を聞くとすぐにオタクを想像してしまうのだった。宅八郎(たくはちろう)のせいだろう。


 チン──


 璃光子がそんなくだらないことを考えている間に、エレベーターは33階に到着し、ドアが開く。するとそこには、一人のハゲオヤジが立っていた。


「坊っちゃん! お待ちしておりました」


 やたら笑顔で、不自然なぐらい手揉みをしている。絵に描いたようなゴマすりだ。


「理事はあちらの部屋にいらっしゃいます。あ! コチラは坊っちゃんのお客様で!? さすが坊っちゃんのお客様は品格が違いますなぁ~」


 ゴマすりハゲオヤジは大袈裟なリアクションで、一行にもゴマをする。はっきり言って邪魔だ。


(ここんとこウゼェ奴多すぎねぇか?)


 闇奈は殴りたい気持ちを必死に抑えていた。


 皆うんざりした気持ちを抱えながら、やたら高い声でお世辞を連発し続けるハゲオヤジの案内について行く。廊下を右に行った先にある、突き当たりの部屋に着くと、卓郎はノックしてドアを開けた。


「卓郎。早かったな」


 60歳前後といった男性が回転イスに座ったまま振り向いた。髪は、ごま塩頭だが、しっかりオールバックにセットしてある。ビシッとグレーシルバーのスーツを着こなして、いかにも重役の雰囲気だ。


「お客様か?」


 男性は卓郎の後ろにいるメンバーを見ると、重厚そうな木製のデスクに手をついて立ち上がる。


 卓郎は頷きながら一行を部屋の中へ案内すると、にこやかに紹介を始めた。


「皆さん、紹介します。父の、佐藤英作(さとうえいさく)です。アシュリシュで唯一の自動車メーカーの理事をしています」


 英作は颯爽とした歩き方で一行の前に来ると、ビジネスライクな笑顔を浮かべて手を差し出す。


「よろしく」


 ──どっかで聞いた名前だな。


 「さとうえいさく」に聞き覚えがあるなと思いつつ、代表して闇奈が握手を受ける。


「お父さん。こちらのお客様はその発信機を外したいとおっしゃるんだけど、超合金の技師を紹介してもらえないかな? 確か開発チームにいたよね」


 卓郎がそう言うと、英作は握っていた闇奈の手を見る。


「発信機? コレか?」


 英作は背広のポケットからルーペを取り出すと、闇奈の手についている指輪を覗き込んだ。そして少し観察した後、感嘆したような顔で卓郎を見る。


「コレは……ずいぶん年代物だな。卓郎、中のチップはもう殺したのか?」


「いや。まだだよ。実は、どうやってコレを手に入れたのか聞いてからにしようと思って」


 そう意味深に微笑みながら、卓郎は女たちを見渡す。闇奈は面白くなさそうに目を細めた。


「それでこっちの質問に先に答えてたのか。やるじゃねぇか」


 卓郎の作戦にまんまと(はま)ったことに気づく。


 ある程度質問に答え、警戒心を薄れさせた所で超合金の技師の存在を明かし、期待を持たせた所で本題に入る──なかなかの心理戦を仕掛ける知能犯だ。


「すいません。ずる賢さだけが身についていって。お話していただければ、すぐに外します」


 そう言って相変わらず微笑んでいる卓郎に感服した女たちは顔を見合せた。もう、チップを殺せることも、超合金を外せることも判明している。ここまで来て、秘密を明かせないから諦めるなんて選択肢はない。


 仕方なく、女たちは身分を明かした。


 卓郎は話を聞き終えると、何か思案するようにゆっくり頷いて溜め息をついた。


「修験者……そうですか。そのようなことが行われていたとは。この発信機を売ったのは、唯一王家だけだと聞いていたので、もしかしたら何かあるのではと思っていたのですが。まさかそんなに重要人物だったとは。参ったな」


 卓郎は苦笑いして困ったように頭をかく。


「参ってる暇があったらさっさと外してくんねぇか? お前と話してっと、どうも裏かかれそうで落ち着かねぇんだ」


 闇奈は腕組みをして卓郎を睨む。卓郎はゆっくりと闇奈に顔を向けると、満面で微笑んだ。


「もう一つ、聞いていただけたら」


 まだ聞かせたいことがあるらしい。笑顔で図々しく要求を追加してくる卓郎は、なかなか食えない。闇奈は諦めたように溜め息をついた。


 闇奈が了承してくれたと受け取って、卓郎は話を続ける。


「先程も言ったあのワームホールですが、あれのせいで今、エレシティは危機状況にあるんです」


「なんで?」


 水青がキョトンと聞き返す。卓郎は少し辛そうに目を伏せた。


「王が、ワームホールごとこの町を滅ぼそうとしているようなんです」


「王って、五色(ごしき)か!?」


 五色を敵視している密月が反応した。


「はい。何でも、『発展しすぎた文明は星のためにならない』と。だから、異文化の入って来るワームホールを潰すそうです」


 卓郎はそう言って少し不服そうな顔をして、小さく首を振った。


「表面上はそう言ってますが、おそらく一番の理由は、先程の魔法封じの装置が原因ではないかと思われます。魔力を封じられたら、王の権力は地に落ちたも同然になりますから」


 確かに。五色魔導士である王がその魔力を失えば、その地位はたちまち失われるだろう。王にとって魔封装置は、最高に恐ろしいものに違いない。


 しかし、そんな話を修験者一行に聞かせてどうしようというのだろうか。


「それで? なぜそんな話を?」


 闇奈が核心に触れる。


 卓郎は目を伏せたまま答えた。


「簡単に言えば、攻撃を止めさせて下さい。あなた方が王家の人だったなら、そう頼もうかと思いました。……しかし、違うようですので要求を変えます」


「早く言えよ」


 剣助も警戒心剥き出しで睨む。


 卓郎はまた参ったといったような顔で軽く微笑むと、ゆっくりと顔を上げて全員の顔を見渡し、微笑んだまま静かに言った。


「王家を、滅ぼして下さい」


 一行は驚いて声を失った。

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