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“John Smith”


 エレシティへ向かった一行は、20分ほど歩いて町の入り口に到着。そこは、見上げるとひっくり返ってしまいそうなぐらい高く長い階段だった。エレニックシティは高い丘の上にあるので、入り口はこの階段だけだ。


(たけ)ぇな。遠くから見てたらそんな風には見えなかったのに」


 闇奈は遠い階段の果てを見上げて溜め息をつく。


「そうなんだよな~これがあるからエレシティの連中は引きこもりが多いんだよ」


 密月は腕を組んでうんうんと一人で頷いている。


(極論すぎるだろ)


 剣助は密月の身勝手な持論に呆れた。


 とその時、後ろに立っていた風歌が火芽香を見て首を傾げる。


「火芽香? どうしたの?」


 火芽香は、階段の脇にあった銅像に釘付けになっていた。それは燕尾服(えんびふく)らしきものを着てシルクハットをかぶっている男性の像で、リンカーンのように両手を広げて天を仰ぐポーズをしている。


「ええあの、これちょっと見て下さい」


 火芽香は銅像が立っている台を指差した。そこには一枚の金属プレートが埋め込まれており、見慣れたアルファベットで何やら書いてある。


「なんだ英語か? 読めねぇ」


 英語が苦手な闇奈は早くも諦めモードだ。


「え? これ……」


 璃光子は少し読めたのか、その内容に何やら驚いている。


「やっぱり、変ですよね」


 火芽香も神妙な顔で璃光子を見た。


「え? なになに? 何て書いてあるの?」


 水青は読めないらしく、銅像と火芽香を交互に見ている。


「『親愛なる我らが父。エレクトロニクス・シティ開発者。ジョン・スミス』……と書いてあります」


 火芽香が和訳してやると、剣助がキョトンとして首を傾げた。


「え、ジョン・スミス? なんか、いくらでも聞きそうな名前だな」


 確かに。アメリカなどではポピュラーそうな名前である。


「密月、何もんだ? こいつは」


 闇奈は銅像の男を見上げながら問う。銅像の顔をよく見ると、男性は初老ぐらいで、もみあげと顎髭(あごひげ)が繋がっている。シルクハットのせいか、イギリス紳士な雰囲気だ。


「さぁ。知るかよ。エレシティの連中に聞けば早いだろ。行こうぜ」


 密月は面倒臭そうに答えると、階段を登り始める。それもそうだなと、みなその後をついていった。


 階段を登りながら、火芽香は考えていた。


(ジョン・スミスさんの正体も気になるけど、言葉…

…英語も使われているんだわ。ここまで日本語が浸透しているのもおかしいと思ったけど、英語を使う町もあるのはもっと不思議だわ)


 ここまで来るのに、日本語しか聞いていない。アシュリシュ独自の言語というものが見当たらないのは不思議だ。ましてや地球の言語である英語が使われているとなれば、アシュリシュの言語事情は全て地球のそれと同じであることになる。惑星が違うのに、それはおかしい。


 そんな事を考えながら黙々と階段を登ること、およそ20分。ようやく町に到着した。


「は~! 疲れたぁ!」


 頂上に着くなり、剣助はどしんと尻をついて大きく息を吐いた。


「は、は、なんだってこんな……急な階段なのよ~」


 璃光子も疲れた表情で愚痴をこぼす。


 階段はかなり急斜面に作ってあり、一段一段が山登りのようにきつかった。他のメンバーも息をきらせながら到着した。大牙と闇奈は一番後ろにいたようだ。万が一誰かが転んで落ちてきた場合に備えるためだろう。


 火芽香は荒くなった呼吸を安定させようと、深呼吸をしながら町を見渡した。町の第一印象は、『雑多』。エレシティは他の町に比べると敷地が狭いせいか、ほとんどの建物は3階以上に作られているので見通しが悪い。それらはほとんどが地球でいうところのコンクリート作りで、それぞれ重量感があるので圧迫感もすごい。


そして、それら全ての建物が無計画に建てられている。道らしい道は無く、建物と建物の間の狭い路地を、沢山の人が行き来している。人口は多いようで、行き交う人々の人種もアジア人風、白人風、黒人風と様々だ。


「全員揃ったか? あそこのビルにインフォメーションセンターがあるから、そこで聞こうぜ」


 密月は町のほぼ中央にそびえ立つ高層ビルを指差した。そのビルは他の建物とは比べ物にならないくらいの高さで、一際突出している。全身ガラス張りで高級感があり、ごちゃごちゃして薄汚れた町の雰囲気とは一線を画した風格があった。にしても、その言葉には驚いてしまう。


「インフォメーションセンター? なんか、アシュリシュって星がわかんなくなってきた」


 剣助は困惑に頭を抱えた。


 恐竜や不死鳥までいて、風呂も入らない町があったりするのに、高層ビルがある町があるなんて、ここの文明は進んでいるのか遅れているのかわからない。


「まぁ、ここは特別だと思えよ。とにかく行こうぜ。指輪はずすだけなら刀矢が寝てるうちに終われるかもだろ」


 密月は気だるそうにそう言うと、無数にある細い路地の一つに入って行く。こんなところではぐれたら二度と合流できないので、皆も慌ててその後を追って行った。

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