“無限の矢の作り方”
外へ出たジェファは、平坦な地面の上に立つと火芽香に笑顔を向ける。
「あなた、赤魔導士よね? じゃあ、地魔法は使えるわよね」
言われた火芽香は、戸惑いがちに頷いた。
「あ、はい。使ったことないですけど」
ジェファはまたニコリと笑うと、励ますように言う。
「大丈夫よ~簡単だから。まず、やってみるから見ててね」
そう言うと、しゃがんで地面に手をついた。陸上競技の、クラウチングスタートのようなポーズだ。そのままの体勢で目をつぶって念じ始める。
するとすぐに、ザザザと地面の砂が小刻みに震えだした。何が起きたのかと見てると、何やら真っ黒い砂だけが一ヶ所に集まり始める。それはどんどん集まって、小さな山を作るぐらい積もった。
「これ何だかわかる?」
ジェファは目を開けて問いかける。火芽香は黒い砂をよく見てから答えた。
「えっと。砂鉄、ですか?」
ジェファは満足げに微笑んだ。
「そう。地中には必ず砂鉄が含まれているから、それを集めて矢に加工するの。今から矢を作るわね」
ジェファは再び目を閉じる。すると今度は、辺りに熱気が立ちこめた。砂鉄がどんどん溶けだし、液体に変わる。そしてそれは生きた水銀のように動いて、長いポッキーのような細長い形になってキチンと並んだ。
ジェファは目を開けて、ふうと息を吐く。すると、熱いフライパンに水をかけた時のようなジュウ~という音を立てて鉄が固まった。そこには、5本の矢が見事に出来上がっていた。
「これで出来上がり。地魔法で砂鉄を集めて、火魔法の熱で加工するのよ。今はゆっくりやったけど、慣れれば一瞬で出来るようになるわよ」
ジェファはまたニッコリした。
「さ。やってみて」
立ち上がって手招きするジェファ。
「は、はい」
火芽香は緊張しながらも、しゃがんで地面に手をついた。意識を地中に集中する。
(砂鉄……サテツ……)
地面の中の砂鉄に呼び掛けるようにイメージした。すると、徐々に砂鉄が集まってくる。いきなり順調だ。
ジェファは感心したように口笛を吹いた。
(次は……熱で……)
砂鉄は見事に十分集まり、今度は溶かす段階に入る。これも順調で、鉄は溶けて一つにまとまった。
(細長く……)
あとは、矢の形に加工するだけだった。しかし、ジェファがやったように細長くならず、しかも歪んで曲がって使い物にならない。何度かまた塊に戻してから再度細長くしてみるが、やっぱりうまくいかなかった。
「もしかして不器用?」
ジェファはちょっと呆れたような顔で控えめに言う。火芽香は慌てて答えた。
「あ、そ、そうですね。美術の授業は苦手でした」
火芽香は、造形的な美術センスがゼロだったのだ。
ジェファは無理に作ったような笑顔を浮かべると、励ますように言う。
「ま、あとは練習よ。慣れれば、何でも作れるようになるから。応用すれば、鍋とかヤカンまで作れるわよ」
「はい。頑張ります……」
火芽香は恥ずかしそうに俯いて赤面していた。その足元には、歪んだ鉄くずが多数転がっていた。




