表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/96

“ヒルドラー -前編-”


 チャプン──



 水の跳ねるような音に、火芽香(ひめか)は目を覚ました。全身が冷たかった。


「……? あ!」


 慌てて起き上がろうとして、ズルっと滑って倒れてしまった。ドボンと頭から水に落ちる。


 一瞬パニックになりながらも、何とか体勢を立て直して水から顔を出すと、そこは川だった。しかし、さっきまでいた所とは明らかに景色が違う。


 あの不死鳥もいないし、他のメンバーも見当たらない。そもそも、何がどうして今ここにいるのか分からない。


 何も分からないまま、そこにあった大岩に手をかけて立ち上がった。すると、岸辺の方に流れ着いている人が見えた。闇奈(あんな)だった。その近くには璃光子(りみこ)大牙(たいが)槍太(そうた)も見える。


火芽香はすぐに、よろけながら向かった。あばらが痛むが、歩けない程ではない。


「闇奈さん! しっかりして下さい闇奈さん!」


 うつぶせに倒れている闇奈を揺さぶって呼びかけたが、反応はなかった。他の3人も同様に呼び掛けたが、起きなかった。しかし、生きてはいるようだ。


 どう救出したらよいか困り果てて川の方を見ると、少し下流の方で起き上がろうとしている人がいるのが見えた。それは、今一番会いたい人物だった。


「ふ、風歌(ふうか)さん! 風歌さん!」


 大声で呼びかけると、風歌もすぐに気付き、こちらへ来てくれた。風歌は火芽香の顔を見ると、ホッと息を吐いてそこに倒れているメンバーを見渡す。


「火芽香。よかった。……いるのはこれだけ? 治療しなきゃ」


 風歌は疲れた表情で手をかざす。みなどこかしら骨折等しているようだったが、すぐに治り、軽く揺さぶってやると目を開けた。


「火芽香、風歌。みんな無事か?」


 目覚めてすぐ、闇奈も疲れたように辺りを見回す。傷は治っても、疲労は消えないのだ。


「うん。でも、これだけしかいないみたい」


 風歌が困ったように言うと、


「まともに全員集まるってことが少ないわね」


 璃光子はため息をついた。


 またバラバラになってしまったことにうんざりしながらも、闇奈は毅然と立ち上がる。


「とにかく、ちょっとその辺り探してみよう」


 そう言って、闇奈は川辺の捜索を始めた。


 みなで手分けしてあちこち探し、しばらく経った時、槍太(そうた)が川の真ん中の岩に引っ掛かっている密月(みつき)を見つけた。


「お~い! 一人いたぞ! 風歌ちゃんこっち来て~!」


 槍太の呼びかけに風歌が駆けつけて治療してやると、密月も大した外傷はなかったようですぐに目を開けた。みな早めに気を失ってから溺れたので、あまり水は吸い込んでいないのは不幸中の幸いだった。


「おい、密月ここはどこだ?」


 闇奈は目が覚めたばかりの密月に容赦なく質問をぶつける。密月は寝ぼけたような目で闇奈を見上げると、気の抜けた声を出した。


「んあ? あ~さぁ……?」


 しかし、遠くにあるものを見つけて、パチッと目を開いた。


「あ! ヒルドラーだ!」


 そう言って指差す方向に、全員の目がいく。そこは木が生い茂っているが、その遠くで大量の煙が上がっていた。


「間違いねぇ。あれは、武器を作るときのカマドの煙だ。あそこにヒルドラーがある」


 密月は確信を持って言うが、それだと計算が合わない。


「え? だってヒルドラーには3日かかるんじゃ」


 大牙(たいが)が聞くと、密月は一つ頷いた。


「確かに歩けば3日だけど、川を下るなら話は別だ。1日で着くもんなんだな~」


 あまりに早く着いたことに、密月も驚いている様子だ。


「そうか。じゃあ早いとこあとの3人も見つけて──」


 闇奈が残りのメンバーを探そうとすると、密月は首を振った。


「いや、この川はヒルドラーに繋がってる。もしかしたら町に流れ着いてねぇかな」


 確かに、この辺はもうあらかた探した。そっちの方が希望がありそうだと思った闇奈は、密月の案に乗ることにした。


「じゃあそっちから先に行くか。みんな行こうぜ」


 剣助(けんすけ)刀矢(とうや)水青(みさお)ぬきで、一行はヒルドラーへと急いだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ