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“その頃地球では── -前編-”

第二部に入りました。

ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます。アクセス数があるとすごく嬉しいです。

よかったら、ダメ出しでもいいので感想聞かせて下さいね。


第一部は主に人物を知ってもらうことと、冒険の始まりといった部分を書きました。

第二部からはがっつり冒険になります。

長い話ですが、最後までお読みいただければ幸いです。

今後とも七色の行方を宜しくお願いします<(_ _*)>

ここへ来る時、全く選択の余地を与えられなかった。


どうして考えさせてくれないの?

どうして迷っちゃいけないの?

どうして逆らっちゃいけないの?


でも、今思うと、この時のほうが楽だったかもしれない。


何も考えないで、誰かに従っていれば、こんなに苦しい思いしなくて済んだのかもしれない。


『決断を迫られる』って、こんなに辛い事だと思わなかった。






※※


「母さん、またあの子来てるみたいだよ」


「困ったね。我の強い子だ」


 息子の言葉に、火芽香(ひめか)の祖母、穂乃火(ほのか)はため息をついた。


 火芽香が地球からいなくなってからはや3日。親友である京子(きょうこ)は、毎日学校帰りに赤地家(あかつちけ)に通っていた。


 火芽香は表向きには急病で面会謝絶ということになっていたが、納得のいかない京子は見舞いに行くから病院を教えろと迫っていたのだ。


輪成(りんせい)。可哀相だけど、今日も帰るように言ってきてくれないかい?」


「こんなこと繰り返してても、しょうがないんじゃないか? 本当のこと言ってあげた方が……」


 輪成(りんせい)は、火芽香を学校まで迎えに来た叔父だ。


「何バカなこと! そんなこと出来るわけがないじゃないか。……奏大(そうだい)、じゃあアンタ行ってきてちょうだい」


「いや、母さん。俺も、あの子は騙せないと思う」


 輪成(りんせい)の兄、奏大(そうだい)も首を横に振った。


 京子は、いつも深夜まで玄関の前で待つほど、必死だった。


「私も、可哀相だとは思うわよ。でもこればっかりは言うわけには。大体、言って納得すると思うかい?」


「でもこのままじゃ、その内あの子倒れるんじゃないか?」


 輪成は窓のカーテンを少しだけ開けて、玄関前でじっと立っている京子の姿を眺めた。


「修行の内容とかは伏せて、伝統行事ってことだけ伝えれば……」


 奏大(そうだい)の提案に、穂乃火(ほのか)は激しく首を振った。


「ダメ、ダメだよ! 言ったら許さないからね! ご先祖様に顔向けができないじゃないか」


「ご先祖様って。もう今どきそんなの気にしてんのウチだけだよ。まったく」


 母の愚かとも言える頑固さに、奏大(そうだい)はため息をつく。


「ウチはそこらの家とは違うんだ。お前たちも自覚しておきなさい」


 穂乃火(ほのか)がそう言った瞬間、輪成(りんせい)が急に怒ったように叫んだ。


「母さん! そんな言い方よせよ! 他の家見下すような言い方! こんな変な伝統守ってるような、こんなセコい家の方がどうかしてんだよ!」


 輪成(りんせい)はそう言うと部屋を飛び出し、玄関へと走って行った。


輪成(りんせい)! 待ちなさい!」


 母の制止も聞かず、輪成(りんせい)は車の鍵をひったくって勢いよく玄関を開けた。


「! あ、あの病院を──」


 急に現れた輪成(りんせい)(ひる)みながらも、京子はいつもの質問をしようとした。


しかし輪成(りんせい)は聞き終わる前に京子の手を掴んで走りだした。


 車庫にある車のドアを開けて、飛び込むように運転席に乗り込む。


「早く! 乗って!」


 エンジンをかけながら輪成(りんせい)は京子に叫ぶ。


京子は戸惑ったが、すぐに後ろのドアを開けて後部座席に滑り込んだ。


輪成(りんせい)! 戻りなさい輪成!」


 追い掛けてきた母と兄の横スレスレを通って、車は猛スピードで走り去って行った。



 法定速度を大幅にオーバーして走る車の中は無言だった。信号無視も何度かやっていた。


「あの、どこ行くんですか?」


 京子は勇気を出して沈黙を破ったが、輪成は黙ったままだ。後部座席からはどんな表情をしてるか窺い知れないが、相当張り詰めていることは分かる。


「火芽香の、病院ですか?」


 京子は尚も問いかけたが、相変わらず返事はない。京子は構わずに言葉を投げ続けた。


「違いますよね」


「……」


「火芽香は、入院なんてしてませんもんね」


「……」


「色んな病院に、電話かけました。でも、赤地(あかつち)火芽香(ひめか)なんて、どこにもいませんでした」


 輪成(りんせい)は一つ溜め息をつくと、やっと答えた。


「そっか。知ってたのか。しっかりしてんな」


 京子は矢継ぎ早に質問を投げつける。


「火芽香はどうしたんですか? どこに行ったんですか? なんで教えてくれないんですか!? 火芽香に会わせて下さい!」


 輪成はしばし沈黙した後、重々しく答えた。


「多分、火芽香には会えない。でも一生じゃない。今向かってるとこは、火芽香が最後にいた場所だ。そこで聞けば、何か教えてくれるかもしれない」


 それは、希望と呼ぶにはあまりにも不確かだった。この火芽香の叔父にも、事の本質は分かっていないようだ。


 京子はそれ以上の質問はせず、背もたれに体を預けて窓の外を見つめた。高速道路の外灯がネオンのように尾をひきながら流れていく。


(火芽香……どこにいるの? 今どうしてるの? いつ会えるの? ……私は何をすればいいの?)


 流れる光を呆然と目で追いながら、見えない火芽香に問い掛ける。それがあまりにも無意味で虚しくて、切なさが込み上げてきた。


 京子は輪成にバレないように、嗚咽を噛み殺して涙を流した。

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