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“旅立ち-前編-”

 激動の二日間を終えての翌日。刀矢(とうや)火芽香(ひめか)剣助(けんすけ)以外は、闇奈(あんな)の魔法でぐっすり眠り、爽やかに朝を迎えた。


闇魔法の恩恵に預かれなかった3人は連日の寝不足でげっそりしているが、そのことに絡む者はいない。刀矢はともかく、火芽香と剣助の寝不足の理由なんて分かりきっているからだ。


「おはよー! みんな! 朝ごはん食べよ~」


 朝食当番だった水青(みさお)は元気に鼻歌を歌いながらテーブルに食事を並べている。


その姿をボーッとしながら剣助が眺めていると、水青は剣助を見てニコリと笑った。そのいつもの子供らしい笑顔を確認した剣助は、心の底から安堵していた。


これ以上、謝ったり言い訳したりする必要は無いと、お互いに納得していた。無言の仲直りが成立していた。


 全員がテーブルについた時、ロイダがやってきた。


「おはよう。いい天気だな」


 その病弱そうな顔に似合わず、爽やかに笑っている。


 みなその爽やかさに不信感を抱いた。何か怪しい。


「朝食が済んだら、私の部屋へ来てくれ。話がある」


 ロイダはそう言うと怪しい笑顔のまま去っていった。


「なんだアイツ。気持ちわりぃ顔しやがって。食欲なくなんじゃねぇか」


 闇奈が吐き捨てるように言い、その口の悪さに全員が苦笑い。しかし闇奈は美人なのでこんな欠点もさまになると、密月(みつき)は一人でニヤけていた。



 やがて朝食が終わると、ロイダの部屋へみな集まっていた。


「ロイダ、話って何?」


 璃光子(りみこ)が髪を手ぐしで整えながら聞いた。ヘアブラシが無いのでこうするしかないのだ。


「ああ。お前たちは、これからヒルドラーに行くんだよな? だったら、コレを頼もうかと思ってな」


 ロイダはそう言って、一通の手紙を差し出した。


「なにコレ」


 璃光子がつまらなそうに首を傾げると、ロイダはまた爽やかな笑顔を浮かべて説明を始めた。


「親善書だ。反乱軍の黒陽(こくよう)に」


 その言葉に、男たちの顔は強ばった。反乱軍の黒陽と言えば、一昨日の夜に密月から相当強い奴だと聞かされている。王家に反乱していて、王家の所有物である自分たちを襲う可能性がある危険人物だ。


「は、反乱軍の黒陽(こくよう)に? どうして」


 刀矢が恐る恐る問うと、ロイダは真剣な顔をした。


「ヒルドラーはアシュリシュの武器倉庫みたいなものだからな。奴らは必ず赴くはずだ。そこでこの手紙を読んでもらい、我々カサスと友好関係を築こうと思ってな。……黒陽は危険な男だ。修験洞(しゅげんどう)を狙うかもしれん。カサスが滅ぼされて、お前たちがここへ休息に訪れることも出来なくなってしまったら大事だからな」


 ロイダは、祖父として璃光子を迎える準備はいつでも整えておきたかったのだ。


 みな嫌そうな顔をした。そんなに危険な男に関わるのは気が進まない。


 その雰囲気を察したロイダは、頼み事のレベルを下げた。


「なに、バルスに預けるだけでいい。彼なら私の願いを聞き入れてくれるはずだ」


「オッケー。渡すだけでいいのね」


 璃光子が手紙を受け取り、ポケットにしまった。



 話も済んだところで、みなで部屋を出た。


「じゃあ、ロイダさん。お世話になりました。また会いましょう」


 刀矢はロイダに握手を求めた。ロイダは手を伸ばしたが、


「そうだ。璃光子、修験洞に寄っていきなさい」


 と言って握手を忘れてスルーしてしまった。


 刀矢は行き場の無くなった手をゆっくりとしまった。



ーー



 修験洞に着くと、ロイダは璃光子以外は外で待つように指示した。


「本来は一人だけで入るのが決まりだが、伝授したい魔法があるから私も行こう」


 璃光子も特に緊張する様子もなく、ロイダについて入って行く。


「うわ~なんか、初めての修行ってやつ? 緊張だね! ね!?」


 代わりに緊張したかのように水青はガチガチだ。


「そういえば、修行の内容とかって聞いてないよね。璃光子平気かな」


 風歌(ふうか)も心配そうな顔をする。


「そうだな。中は俺も入ったことないからな。四色(よしき)さんがいたら、教えてもらえたんだが」


 刀矢は残念そうにため息をつく。


 四色の名前が出たことで、みなアイツに逃げられた怒りが若干蘇る。


「しっかしよ~あのオッサンには幻滅だよな~。秘密バレそうになったからって逃げるなんて」


 剣助は腕組みをした。


そんな剣助を、みな何となく哀愁の目で見つめた。言い方が無理にカッコつけているように聞こえたからだ。昨日の夜、めでたく火芽香と恋仲になったので意識していることはバレバレだった。


 そこで、闇奈が予想外なことを言った。


「多分、四色が逃げた理由は他にあるんだろうな」


「どうして?」


 風歌が目を丸くする。


「秘密を守るために逃げたってロイダは言ってたけど、そんなに王に忠実なら、むしろ逃げるのはおかしいだろ。その王の命令で案内役やってたんだろ? しかも、七色(ななしき)の完成を目前にして、だろ? やっと五色(ごしき)の望みが叶うってーのに、投げ出さねぇだろ。普通」


「それもそうですね」


 火芽香は感心したように頷いた。闇奈は腕組みをして宙を睨む。


 闇奈は、こう考えていた。四色が逃げたのは、王の命令に従えなくなったからではないかと。となると、王の目的である「ある女性を生き返らせること」を、四色は避けているということになる。


「なんか、女を生き返らせたくない理由でもできたんじゃねぇか?」


「例えば?」


 水青が乗り出す。闇奈はうーんと言って空を仰ぐ。


「例えば……わかんね」


 闇奈は短気を起こし、面倒臭くなっていた。ここで推論を並べたところで真実なんて分からない。もういない四色なんかどうでもいいか。という気持ちになった。

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