“過失と責任-前編-”
治療をしてから、およそ一時間後──
槍太はゆっくりと目を覚ました。見渡すとそこは、密月の家だった。
「槍太!」
槍太が目を覚ましたことに気づいた刀矢が声をかける。槍太が横たわっていた周りには、見慣れた全員の姿があった。
「大丈夫か? 水、飲めるか?」
刀矢が支えて上体を起こし、水を差し出す。
「あ~ありがとう」
槍太はそう言うと、ゴクゴクと逞しく一気飲みしてみせた。その様子に、全員が安堵のため息をもらす。
「槍太。何かこう、胸に灼熱感あったり、熱っぽくなったりしたら、言えよな」
闇奈が心配そうに言うが、槍太は、
「シャクネツカンて何だよ? カラ館の仲間か?」
「何でもねぇよ」
こんなヤツ死なせればよかった。と闇奈は少し後悔した。
「そ、槍太。もう平気か? なんともねぇのか?」
今度は剣助が心配そうに顔を覗き込む。
「ああ、もう全然」
槍太は平気な顔で腕をぐるぐる回して見せた。
その元気な様子に、全員がホッとして微笑んだ。だが、水青だけは号泣していた。
「~~~ごめんなさい! こんな事になるなんて、想像、できなかった……ホンドにゴベンなざい! ゴベンなざい~」
涙声で何を言っているのかわからなくなるぐらい、泣きじゃくっている。
しかしそれを聞いた途端、剣助の顔色が変わった。
「水青、お前がやったのか? あれ? なんで……なんであんなことしたんだ! なんで!」
すごい剣幕で水青を怒鳴りつける。
「待って剣助。水青は、私たちを守ろうとして」
璃光子がすかさず庇うが、剣助はそんな璃光子も睨みつける。
「じゃあ、お前たちだけよければいいのかよ? 自分だけ助かりゃそれでいいのか!? それがお前らのやり方かよ!」
「剣助! やめろ!」
刀矢が肩を掴んで止めに入ったが、剣助は肩を振ってその手を払い、更に続けた。
「それが、魔法なのか? こんなのが? それなら、これが魔法ってもんだって言うなら、俺は! ぜってー認めねぇ! お前らなんて認めねぇからな!」
「剣助! 落ち着けよ!」
闇奈も水青の前に立って庇う。
水青は大きなショックを受けて、呆然と立ち尽くしていた。
「け、剣助。俺、なんともないぜ? ほら、ほらな?」
槍太は更に腕をぐるぐる回して見せたが、剣助は聞いていないようだった。
「あの津波のせいで、散々だ。何もかも、もう終わりだ!」
「剣助! いい加減にしろ!」
刀矢のゲンコツが炸裂する。
剣助は刀矢を睨み返すと、唇を噛んで俯き、そのまま踵を返して何も言わずに走って部屋を出ていった。
それを見届けた刀矢は溜め息を一つ。
「もう終わりって。なに大袈裟なこと言ってんだアイツは」
トラブルが絶えないことに疲れてきた。
すると、闇奈は密月からある物を受け取って刀矢に見せる。
「刀矢。コレのこと、言ってんだと思う」
それは、剣助の折れた剣だった。剣助を救出した際、一緒に密月が回収していたのだ。
それを見た刀矢の表情は一瞬にして強ばる。
「こ、これは! ……ヤバイぞ」
青ざめた刀矢を見て、事情が分からないメンバーは眉をしかめている。そんなメンバーに、刀矢は衝撃の一言を放った。
「地球に帰れなくなった」
全員の目は大きく見開いた。
「そ、それどういう事ですか? 刀矢さん」
大牙が恐る恐る聞くと、刀矢は辛そうな顔をして呟くように答えた。
「この剣は、帰るときに必要なんだ。来るときみたいに、魔方陣に突き刺して」
刀矢の心は折れそうになっていた。ここへ来てから、精神的に疲れることばかりだ。神経がすり減って過敏になっていくのに必死に堪えていた。
そんな刀矢に、璃光子がケロッとした口調で言う。
「でも、それ、修理すれば使えるんじゃないの?」
「修理って。こんなの誰が修理できるっていうんだ」
刀矢が恨めしそうに璃光子を見ながら言うと、火芽香が補足に入る。
「ヒルドラーのバルスという人が出来るんじゃないでしょうか」
その言葉に、女たちはウンウン頷いている。ただ、水青だけはまだ呆然として俯いていた。
「え? だ、誰だそれは?」
「さっきロイダに聞いたんだよ。この剣は、そいつが作ったんだって」
闇奈が捕捉すると、刀矢は驚いて密月を見る。
「ほ、ホントか!? 密月、その町は遠いのか?」
「いや、まあ近いとは言えねぇけど、3日もあれば行けるとこだ」
密月が答えると、刀矢は希望を得て前向きな気持ちになった。
「そうか。行く価値は大いにあるな。よし、今日は早めに休んで、早朝出発しよう。みんな! ……あれ剣助は?」
刀矢は剣助が出て行ったことを忘れていたようで、キョロキョロしている。
「今出てったばっかりじゃねぇか。刀矢。お前も落ち着けよな」
闇奈は呆れたようにため息をついた。
刀矢は顔を赤らめて、申し訳なさそうに頭をかいた。
「それに……」
風歌が目線で水青を示す。水青はひどく塞ぎ込んだ様子で俯いていた。今は無理に動かすのは可哀想だ。
刀矢は疲れていたとはいえ、少し周りが見えなくなっていたことを反省した。
水青は、じっと俯いたまま剣助に言われたことを考えていた。
《お前たちだけよければいいのかよ》
(そんなつもりじゃ。でも、確かにあの時、私、ちょっと調子のってた。魔法の力に夢中になってた。池の水がほとんど無くなってても、何とも思わなかった。これって傲慢ってヤツだよね。サイテー)
自然の力は、本来人間のものではない。それを操る快感は、思ったより自分を陶酔させた。
水の力を借りただけなのに、あたかも自分自身の力だけでやったかのように思っていた。
力を手に入れた時、自分の中に芽生える酔狂心に、水青は怯えていた。
「しかし、剣助はどこ行ったんだ? せっかく探したのに、またいなくなるなんて。ハァ。もうカンベンしてほしいな」
刀矢はそうボヤきながら、剣助を探しに行こうと部屋を出ようとしていた。
「あ、刀矢さん、僕も行きます」
大牙が後を追っていく。
そんな二人を、闇奈が呼び止めた。
二人が振り向くと、闇奈は少し目を伏せた。
「剣助のことは、私に任せてくれ。心当たりがあんだ。それに、アイツが思い詰めてる理由は剣のことだけじゃねぇと思うんだ。それは私の責任だから……」
そう思い詰めた様子の闇奈に、刀矢は事情説明を求める。
「何があったんだ?」
しばらく黙った後、闇奈は槍太に開胸手術をしたことを告白した。部屋が驚きに包まれる。
「えっ、え? ええー!? 闇奈オレの心臓触ったのかよ!?」
槍太が大驚愕して言うと、闇奈は苦い顔で俯いた。
「ゴメン」
闇奈は誰の目も見れなかった。異常なことをしたのは自覚していた。
「それで助かったのか。よくそんなこと思いついたな」
刀矢は驚きと同時に感心もしている。
「私は、看護科に通ってるんだ。授業のビデオで、医者が手術中に直接心臓つかんでマッサージしてんの見たことあって……」
緊急事態に限り、開胸手術中に直接手で心臓を揉むことが確かにある。闇奈はそれをやってのけたのだ。
「へぇ~。闇奈、俺の心臓どうだった?」
若干気色悪い質問をする槍太に、全員の視線が集まる。
「はあ?」
闇奈は眉をしかめた。
「いや、いい心臓だったかなぁ~と思ってさ」
もはや変態の発言に全員が引いた。槍太は自分に集まっている視線が痛いことに気づき、苦笑いを浮かべた。
「そ、そんな目で見るなよ。闇奈! とにかくありがとな!」
こんな時、明るく笑い飛ばすのが槍太のいいところだ。
槍太はこうでも、その光景を目の当たりにした剣助の心の傷は計り知れない。
闇奈はどう慰めたらいいか考えていた。
「じゃあ、剣助のことは闇奈に任せよう。俺たちは、旅の準備をしておくから」
刀矢はそう言って闇奈の背中をポンと叩いた。闇奈はそれを聞くと、部屋を出ていこうとした。
その時、
「私も行かせてください」
意外にも、火芽香が呼び止めた。
闇奈は不思議そうな顔して振り向く。
「私も、行きたいです。心配なんです」
そのバレバレな態度に、全員が火芽香の気持ちを察した。
(そうかあの日、焚き火の前で)
アシュリシュに来て初日、抱き合って泣いていた二人を思い出し、火芽香が剣助に惚れていることを悟った闇奈は、優しく言い聞かせるように答えた。
「火芽香。剣助にだって、男の意地ってもんがあると思う。あんな風に弱ってるとこ、火芽香にだけは見られたくないんじゃないかな」
闇奈は微笑んで続けた。
「大丈夫。ちゃんと連れて帰ってくるから。火芽香は、帰ってきた時、受け止めてやってくれ」
火芽香はまだ少し心配そうな顔をしてたが、闇奈の言ってることも尤もだと思い、やがて頷いた。




