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“捜索”

「な、なんの騒ぎだ……これは」


 ロイダは水浸しになった町を見て愕然としていた。町は流れてきた瓦礫(がれき)やら木々やらで悲惨な状態だ。幸い、山を流れていく過程で津波はほぼ勢いを失っていたので、死傷者は出ていなかった。


「ボス。池には今、例の修験者がいるそうです。密月さんが近づかないように言ってたって」


 ゴロツキの一人がそう報告すると、ロイダは血相を変えた。こんな危険なことがあった場所に、かわいい孫がいるなんて。心配だ。


「わかった。すぐに行こう」


 璃光子の安否を確認すべく、ロイダは数人の手下を連れて山へ向かった。



 山の道中、岩や木に引っ掛かっている男たちやゴロツキたちを見つけた。気を失ってるが、死んではいないようだった。


「密月、刀矢、あれは大牙か。まったく、揃いも揃って何やってるんだ。こいつら(ゴロツキ)も、何でこんなとこにいるんだ? おい。運んで手当てしといてくれ」


 負傷者の介抱は手下に任せて、先を急ぐ。とにかく、璃光子だけが心配な祖父だった。


 それから更に山を登り、槍太と剣助を見つけることはなく、池に到着した。焚き火を囲んでいる女たちが見える。


「璃光子!」


 無事であることにホッとしながら、ロイダが呼びかけると、女たちは一斉に振り返った。


「あ、ロイダ」


 璃光子はあっけらかんと返事する。


「無事だったか。一体どうしたんだ? 町は水浸しだぞ」


「え、マジ? ご、ゴメ~ン」


 璃光子がバツが悪そうに言うと、その隣で水青はしゅんと肩をすくめた。


「まったく。しかも何だその格好は? 早く服を着なさい」


 ロイダは、すっかりおじいちゃんの顔になっていた。


「それが……服が流されちゃってないの」


 璃光子が言いづらそうにそう言うと、ロイダはため息をついた。


「何があったのか、後でゆっくり聞こうか。とりあえず、町に来なさい」


 そう言うとロイダは女たちの姿を魔法で見えなくした。透明化の魔法だ。


「これなら誰にも見られる心配はない。さあ、早く行こう」


 ロイダに急かされ、女たちは山を降りていった。



 やがてロイダの家に到着し、女たちは部屋に集まっていた。しばらくすると、ロイダは大量の服を持って来た。


「どれがいいかわからんからな。女物は全部持ってきた。この中から合うものを見つけて着替えるといい」


 これらの服が全て盗んだものであることは、言うまでもない。


「やったー! たくさんあるぅ」


 璃光子は目を輝かせた。ここに来てからずっと制服を着ていたので、いい加減着替えが欲しいと思っていたとこだったのだ。


女たちはファッションショーばりに着たり脱いだりして服を選びはじめる。


「ねぇ、これとこれ合わせたら可愛くない?」


「うん! かわい~! あ、璃光子、これも合いそうじゃない?」


 璃光子と水青は相変わらず仲良さそうにはしゃいでいる。


「服の作り方って、どこでもあんま変わらないもんなんだな」


 闇奈は縫製部分をまじまじと見ていた。地球の服とあまり変わらないクオリティに感心していた。


「下着ないのかな。これじゃ透けちゃうよね」


「アシュリシュの人はそういうの気にしないんでしょうか。あっこれだったら厚みがあるから……ちょっと大きいですね」


 風歌と火芽香はデザインよりも機能性重視で選んでいた。


 なんだかんだで一時間くらいかけて服選びは終わった。一番時間がかかったのは、もちろん璃光子だった。


 着替えを終えた女たちが隣の部屋へ行くと、ロイダが椅子に座ってウトウトしていた。


「やっと終わったか。危うく寝るとこだった」


 どうやらずっと座って待っていたらしい。気が長い。さすがお坊ちゃん育ちだ。


「そういや、道の途中で刀矢と大牙と密月が転がっていたから拾っておいたぞ。あっちの部屋で寝ている。しかし、あとの二人は今捜索中だ」


 ロイダのその言葉に、女たちはハッとする。男たちのことを忘れていた。


「ウソ! 平気!?」


 水青の顔が一気に強ばる。


「刀矢たちは大した外傷もないし、水も吐き出させておいたから心配ない。もうすぐ日が昇るから、そしたら揃って探しに行こう。それまで、まず一部始終を説明してくれ」


 ロイダはそう言って、女たちにも椅子に座るように促した。


 璃光子は、池でゴロツキに襲われたこと、それを水青が魔法で撃退したことを説明した。


「そうか。アイツらがそんなことを。すまなかった。部下の不手際は私の責任だ。後で処刑しておこう」


 部下が孫を襲ったことを知って、速攻で処刑を決めるボス。切り捨てるのは早い。さすがお坊ちゃん育ちだ。


「しかし、水青はまだ修験洞(しゅげんどう)には行ってないのにな。さすがと言うべきか」


 ロイダの感心をよそに、女たちは行方不明の二人のことで頭が一杯だった。


「ねぇ、ロイダ。剣助と槍太探すのになんかいい方法ないの?」


 璃光子は縋るようにロイダに解決を求める。ロイダはうーんと唸るだけだった。


「闇奈さん、何か感じませんか?」


 火芽香は闇奈に問いかけた。恐竜が走ってきた時、闇奈が剣助の気配をいち早く察知したのを思い出したのだ。


「いや……遠すぎるな。1キロぐらい近づけばわかるんだけど」


 その言葉に、ロイダが不思議そうな顔をした。


「なんだ? 何か感じるって」


「闇奈は、剣助の気配がわかるのよ。剣助が迷子になった時も、あっという間に見つけちゃったの」


 璃光子が言うと、ロイダの表情は曇った。


「闇奈、どういう風に感じるんだ?」


 そう神妙な顔で問う。問われた闇奈は、困ったように頭をかいた。


「いや、何となくだけど。正確には、剣助じゃなくて『剣』の気配を感じるんだ。あの剣は、なんだか自分に似てるような気がして……笑うなよ」


 珍しく恥ずかしそうに少し顔を赤らめた。


 ロイダはそれを聞いて、何か納得したように一つ頷いた。


「ということはあれは、闇属性の魔法剣か。恐らくバルスが作ったのだろうな」


 その言葉に、今度は女たちが不思議そうな顔をした。ロイダは説明を続ける。


「ここから東に行ったところに、ヒルドラーという町がある。創魔導士(そうまどうし)が多く住む町で、いい武器が手に入ると定評がある。そこにバルスという名匠が住んでいるのだが、魔法剣を作れる数少ない職人の一人だ。剣助の剣もおそらくそのバルスが作ったはずだ」


「それと、今回のことと何か関係あんのか?」


 闇奈は捜索が進むのではと、期待を込めて聞いたが、


「ん? ああいや、関係はない」


 ロイダは何にも悪びれることもなく、話を脱線させたことを認める。


女たちは冷たい視線でロイダを見た。


 その時、部屋の窓から光明が差した。


「あ! 太陽が昇ってきたよ!」


 水青が窓を指差す。


「よし。じゃあ、刀矢たちも起こして行こうぜ」


 闇奈はこれ以上ロイダと話していても無駄だと判断し、先頭に立って行動した。


「ああ、そうだこれを。刀矢たちの着替えだ。あのままではマズイだろう」


 ロイダが人数分の着替えを差し出す。確かに、男たちの服は連日の戦闘で血の染みもひどく、ボロボロだった。着替えがあれば助かるだろう。



 着替えを持って、闇奈は刀矢たちが眠る部屋のドアを開けた。


そして、すぐ閉めた。


(まさか、あのままじゃマズイだろうってのはこの事か?)


「どうしたの?」


 何やら思い詰めたような顔で俯いた闇奈に、璃光子は不思議そうに首を傾げる。


 闇奈は重々しく答えた。


「……何も着てない」


「へ?」


「しかも……何もかけてない」


「ええ!?」


 驚く璃光子たちに、ロイダが普通に説明する。


「ああ、さっき手当てした時に脱がせたんだろう。ずぶ濡れで泥だらけだったしな」


「それにしても何かかけるのが普通だろ!」


 闇奈は怒鳴るが、ロイダは心底不思議そうに首を傾げる。


「地球人は変なことに気を遣うんだな。男だからいいじゃないか」


 密月といいロイダといい、どうもアシュリシュ人はデリカシーに欠ける。『異文化交流』がまた重く感じた瞬間だった。


ーー


 刀矢たちの着替えはロイダに任せ、女たちは廊下で待った。


(ったく。早く行かなきゃなんねぇっつーのに)


 闇奈は苛立っていた。



 しばらくして、部屋のドアが開き、あちこちに包帯を巻いた男たちが顔を出した。


「剣助と槍太がいないって!?」


 刀矢はかなり真面目に慌てていたが、その姿を見た女たちは吹き出しそうになった。


 刀矢と大牙は、密月と似たような動きやすい盗賊っぽい格好に変わっている。


大牙は割りと似合っていたが、刀矢は全く似合っていなかったのだ。


(これはひでーな。でも言うと刀矢のことだ。かなり落ち込むだろうな)


 闇奈が笑いをこらえていると、


「アハハ~! 刀矢そのカッコ似合わないね~!」


 水青が無邪気に笑いだした。


 そんなにあっさり笑われると、もう堪えきれなくなる。闇奈もクックッと笑いだした。


他のみなも同じように耐えていたらしく、声を抑えて肩で笑っている。


「み、みなさん! 笑ってる場合じゃないですよ!」


 大牙が慌てて取り繕うとするが、


「いいよ……着替えてくるよ……」


 ナイーブな刀矢は可哀想なぐらい落ち込んでいた。


 そこで、密月が手をポンと叩く。


「ああそうだ、俺、お前らが着てたようなの持ってるぜ! アレやるよ!」


 なんと、密月は(はかま)を持っているというのだ。


「あんなの売ってんのか?」


 闇奈は腹を抱えながら聞いた。


「ああ。南のエレシティに日本マニアがいるんだ。そいつから貰ったのがあるから。取って来てやるから、な!」


 密月は慰めるように刀矢の肩をポンと叩いて走って行く。


 刀矢は逃げるように部屋に隠れてしまった。


ーー


 密月が(はかま)を持ってきて、刀矢が再度着替えている間。早く剣助と槍太を探さないといけない状況で、不謹慎にも笑ってしまったことに女たちは深く反省していた。


「今度は笑わないで下さいよ。絶対ですよ!」


 大牙は女たちを睨みながら念を押し、女たちは申し訳なさそうに頷いた。


 少しして、真っ黒な(はかま)に身を包んだ刀矢が、おずおずと部屋から出てきた。


可哀想に。すっかり傷ついてしまっている。


「ほら~いつも通りの刀矢だろ? イケてるだろ?」


 密月が女たちに目配せをするが、女たちは俯いたまま「うん」と小さく洩らすだけだった。


「ああ、やっぱそれが似合うな。刀矢は」


 言ってみたものの、闇奈はうまく笑えなかった。


「やっぱこれが自然だね~。似合うよ刀矢!」


 水青が言うと一番心に響く。嘘偽りがなく素直に語られた言葉のためだろう。


 それを聞いて、刀矢はやっと安心した様子だった。


ーー


 何はともあれ無事に捜索に出発し、山の入り口まで来ると、


「俺たちが流された時、剣助と槍太は真ん中ぐらいにいたんだ。先頭の俺と後ろの大牙が同じところに流れ着いてるのに、二人は別になったってことは、

あの山道から右側の崖の方に流れたんだろうな。よし、山裾(やますそ)を探しに行こう」


 すっかり自信を取り戻した刀矢がいつも通りに仕切り始めた。


山裾(やますそ)なら、(ふもと)辿った方がいいな。こっちだ」


 密月の案内で捜索を始める。


 火芽香は、剣助の身を案じていたが、不思議と見つける自信があった。火芽香が勘を信じたのは、生まれて初めてのことだった。



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