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“最低な不意討ち”


「生き返るね~♪」


 風呂に浸かっている女たち。すっかりスッピンの璃光子(りみこ)が、演歌のような調子で言った。


「なに、璃光子すっごいオバサン!」


 水青(みさお)が吹き出す。


「だって~二日入ってないんだよ? 歌いたくもなるよ~シャンプーがないのが残念だけどね~」


 せっけんは、刀矢(とうや)が地球から持って来てあったので、今回は頭もせっけんで洗ったのだった。


「でも演歌ってひどいよー」


 水青はケラケラ笑い、二人で楽しそうに盛り上がっている。


 一方、


「しっかし、あの月。でけぇよなぁ」


「ホント。あれが月だなんて信じられないね」


「この惑星は地球より月に近いのかもしれませんね」


 闇奈(あんな)風歌(ふうか)火芽香(ひめか)の三人は月に興味がいっていた。月を眺めながら風呂に入るなんて、地球だったら風情があると言えるだろうが、アシュリシュから見える月は馬鹿でかい上に表面のクレーターも見えるので、全然綺麗じゃない。


 地球ではない、他の惑星。ここに今、自分達はいる。


そして、魔法の力を使っている。


地球にいる時なら絶対に信じられないようなこの状況に慣れ始めていることに、火芽香は少し恐怖を感じた。


「そういや、刀矢が言ってたな。この惑星は昔の地球と同じだって。あれ、どういうことだろうな?」


「言ってたね~。でも、ホントに似てるわよね。草も、水も、人も。空気もあるしね」


「そうですね。交配できるってことは、同じ染色体(せんしょくたい)を持っているんでしょうね」


 ──センショクタイとはなんだ?


 闇奈と風歌は火芽香の言っていることが理解できなかった。


「そういえば、ずっと気になってたんだけど、闇奈、ここに来たのはお父さん探すためじゃないって言ってたけど、本当の目的ってあるの?」


 風歌が聞くと、闇奈はゆるりと頷く。


「ああ、親父が気にならねぇわけじゃねえけど、一番知りたいのは自分の力のことだな」


「夜でも目が見えることとか?」


「それもあるけど、一番はこれだよ」


 そう言うと、闇奈は目を閉じて念じ始めた。


 すると、風歌と火芽香の視界が急に真っ暗になった。


「え! なんか見えなくなってきたよ!?」


「闇奈さんがやってるんですか?」


 二人が驚きの声を上げると、闇奈は目を開けて念じるのをやめた。視界は一瞬にして戻る。


「そ。私がイジメにあってた時なんか、クラスメート全員眼科行きだったんだ。無意識にこれやっちまったみたいでな。集団盲目事件って、大騒ぎだったよ」


 ──イジメ?


 二人は驚いた。闇奈がイジメられていたことがあるなんて、信じられなかった。


何でもできるように見えた闇奈も、苦労をしてきたのだ。彼女の優しさは、こういった辛い体験から培われたものなんだと、二人は思った。


「あんまいい力じゃねぇだろ? だから、真相を確かめに来たんだ。それが、こんなくっだらねぇ理由だったとはなぁ。何が交配だよ。お袋もお袋だぜ。簡単に従いやがって」


 その言葉に、璃光子と水青を含めた全員が反応した。母を死なせたのが自分達だということを思い出したのだ。


忘れていたわけではないが、色んなことがありすぎて意識の中に埋もれていた。しかし、このままうやむやには出来ない。この事実もきちんと受け止めなければ。


「闇奈、あのね。お母さんの話……闇奈は気絶してたから聞いてないよね?」


 璃光子がゆっくりと問い掛けた。闇奈は「えっ」と言って璃光子を見る。


「なんか聞いたのか? っていうかお前、スッピンの方がイケてるぞ」


「そ、そう? って、今はそんなこといいの! あのね、落ち着いて聞いてよ」


 璃光子は少し俯き、上目遣いで闇奈を見上げた。


「お母さんさ……私たちが、死なせたみたいなの」


 言ってる意味が分からない闇奈は、首を傾げる。


「なんだそれ」


 璃光子は更に俯いて、小さい声で続けた。


「魔導士の出産はね、危険なんだって。自分より魔力が強い子供を生むと、母親は死んじゃうんだって……」


 聞きながら、みな苦悩の表情で俯いている。水青はやはり泣き出した。


 闇奈は愕然として、呟くように聞き返した。


「ウソだろ?」


「私も……そう思いたい」


「そんな……」


 闇奈はショックで言葉が続かなかった。


 その時、



 ガサガサガサ──



 何かが茂みの中を通る音がした。


 女たちは一斉に音のする方を見る。緊急事態だ。


「なに? 恐竜?」


 璃光子はタオルで体を巻きながら呟いた。お湯の中のため、タオルはユラユラして巻きにくい。


「だったらもうちょっと大きくない?」


 風歌も同じように備えている。


「動物とか!?」


 水青は無防備に手を叩いた。


「水青さん、念のため体を隠しておいた方がいいですよ」


 火芽香が水青にタオルを渡す。


 闇奈は気配を探り始めた。


(一匹じゃない。3、4……もっとか? マズイな)


 気配の数が多いことを察知した闇奈は、小声でみなに言った。


「ここにいると危ないかもしれねぇ。相手は複数いる。囲まれる前に出よう」


 全員が息を呑んで頷き、一人ずつそーっと移動した。しかし、お湯から出るときは嫌でも音がでる。


水青が風呂から出ようとしたその時、



 ガサガサ!──



 敵が正体を現した。


「げ……」


 闇奈の顔が一瞬で引きつる。


 そこには、複数のゴロツキの姿があった。みな武器を手にニヤニヤこちらを見ている。


水青は慌ててお湯の中へ戻った。


「カンベンしてくれよ。ロイダの孫がいるんだぜ? 怖くねぇのか?」


 闇奈はもう、男に体を狙われるのはウンザリだった。


 ゴロツキはケッと吐き捨てて、一歩前に出る。


「あんなフヌケ。もうボスじゃねぇ。あんなに仲間がやられたのに、なんでお前たちは生かされてんだ? のんびり風呂になんか入りやがって。孫だぁ? くそ食らえだ」


 そう言ったゴロツキの一人はペッと唾を吐き捨てた。


「いいカッコしてるな。()ったあとに()ってやるか」


 ニヤニヤしながら近づいてくる。


「やだ~! 視線がやだ!」


 璃光子は鳥肌が立つのを感じた。


「落ち着け。風呂から出るより、ここから攻撃した方が無難だ。みんな魔法を使おう」


 闇奈の言葉に、みな驚いた。実戦で使うなんて、心の準備が必要だと思っていたのに。


「まず、私が奴らの視界をふさぐ。その後は、思い思いに攻撃してくれ。大丈夫、絶対うまくいく」


 闇奈がこう言っても、みな泣きそうな顔をして誰も頷かない。


「誰から相手してもらうか話し合ってんのか? 心配すんなよ。俺アッチは強い方だから~」  


 ゴロツキはズボンに手をかけて笑っている。


(バカ男が。見てろよ)


 闇奈は目をつぶった。


 辺りの闇が濃くなり、特にゴロツキたちの目の辺りは深い闇に覆われた。


 しかしゴロツキは、


闇魔法(やみまほう)か。黄魔導士(おうまどうし)の俺たちにはあんま効かねぇこと……知らないんだ~カワイソぉ~」


 バカにした口調で笑った。


 闇奈は「へ?」と言って目を開けた。闇奈は四色(よしき)の魔法についての説明を聞いていないため、対極(たいきょく)について知らなかったのだ。


「ふんっ」


 ゴロツキが気合いを入れると、深かった闇が一瞬にして戻ってしまった。闇は無効だった。


「マジかよ。みんなゴメン」


 闇奈が苦笑いで全員の顔を見渡すと、みな口を開けて呆然としていた。


「焦らしはこれだけか? じゃあ行くぜ? 行っちゃってイッちゃうぜ?」


 くだらないダジャレでゴロツキたちは大爆笑し、

そして笑ったまま、余裕の足取りで向かってきた。


「いやーーーーー!」


 璃光子が叫んだ瞬間、



 ドォオオオオン!



 大きな轟音(ごうおん)が響き、池の水全てが巨大な水柱となって立ち昇った。



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