“お風呂の作り方”
「とりあえず、刀矢に聞いてみるか。前回風呂どうしてたのか」
言いながら闇奈は隣の部屋につながるドアを開ける。その瞬間、璃光子は慌てて布をかぶった。ほっかぶりのような異様な格好だ。
「刀矢。ちょっといいか?」
闇奈が入って来た途端、男たちは過剰反応を示し、全員が一斉に叫んだ。
「あ、あ、アンナ!」
ものすごくハモった。
闇奈は驚いて一歩下がる。
「な、なんだよ。いや、ちょっと、相談があんだけど」
雰囲気の悪さに思わずどもりながら、刀矢を見るが、
「お、俺にか? 俺はこういう相談はちょっと……苦手なんだ」
刀矢は真っ赤になって顔を逸らす。
闇奈はその反応に違和感を感じながらも、
「そ、そうか? そりゃ悪かったな」
すんなり納得してしまった。
そこで、刀矢たちの勘違いに気付いた火芽香が聞きなおす。
「違いますよ。お風呂に入ることはできないのかと思って、相談しにきたんです」
それを聞いて、モジモジしていた刀矢はキョトンとして、
「え? ああ、風呂? 風呂の話か。なんだ」
椅子に深く腰掛けて安堵のため息をついたのだった。
「そうだな。ここへ来て二日目だもんな。女はやっぱ耐えられないか。密月、お前普段どうしてるんだ?」
問われた密月はうーんと腕を組んだ。
「風呂っていうか水浴びだな。山の頂上に池があんだ」
「池か。水の濁り具合は?」
刀矢が問うと、密月は苦笑いで軽く首を振った。
「まあ、最悪だな。それでこの町には女が寄りつかねぇんだ」
それを聞いた璃光子の落胆ぶりは相当なものだった。
しかし、刀矢は自信を持ったように頷き、
「水さえあれば、風呂は作れる。でもそれには水青と火芽香に頑張ってもらわないとな」
と言って二人に微笑んだ。
ーー
約1時間後。
一行は山の頂上まで来ていた。そこには直径10メートル程の池があり、月明かりに照らされて怪しく光っている。その雰囲気はまるでお化け屋敷のようだ。
「こんなとこでお風呂か~。ちょっと怖いね」
水青が言うと、
「え、怖いの? どんな感じ?」
璃光子が恐る恐る説明を求める。璃光子は今、自分で目視できないのだ。
「璃光子、その被り物取れば?」
水青が呆れるくらい、今だにほっかぶり状態だった。
道中、何度も転びそうになったのに、璃光子が布を取ることはなかった。頑固な性格だ。
「じゃあ、ここに大きな穴を掘るんだ」
刀矢は比較的平坦なところを見つけると、持ってきたスコップを地面に突き立てた。
「え~山登りで疲れてるのに?」
槍太はいつもながらダルそうだ。
「時間もないんだ。急がないとだろ」
剣助がスコップを地面に突き刺しながら促す。
「みんなでやっちゃえば、早く終わりますよ」
大牙も掘り始める。
女たちも手伝って、30分ほどで直径5メートル、深さ約60センチ程の見事な大穴が開いた。
と、そこへ、
「刀矢。連中には近づかないように連絡してきたぜ」
密月が遅れてやってきた。ゴロツキ達が山に近づかないように念押ししてきたらしい。
「ああ、悪いな。で、これを敷いて……」
刀矢は地球から持って来た大袋から大きなブルーのビニールシートを取り出すと、キレイに隙間なく穴の中に敷いた。
「準備がいいな」
闇奈が感心すると、
「まあ、だてに二回目じゃないってことだ」
刀矢はそう言ってちょっと得意気に微笑んだ。
「後は、池から水を汲むだけなんだが。やっぱお湯がいいよな?」
刀矢が女たちに確認を入れると、全員が頷いた。
というか、お湯じゃなかったらそれは風呂ではない。こんな当たり前なことを質問する刀矢の天然ボケっぷりに、璃光子はちょっと呆れた。
「よし。火芽香、魔法を使ってもらうことになる。準備しといてくれ」
その突然の要求に、火芽香は体をビクつかせた。
「え、急にそんな……」
しかし、刀矢は構わずに水青にも目を向ける。
「あと、水青もだ。綺麗な水だけを集めるためには、魔法を使ってもらわないとな」
「で、できないよ!?」
水青も困惑気味だ。
だが、刀矢は二人の顔を見ながら一つ頷き、
「大丈夫。できる。このぐらいだったら、修験洞に行かなくても出来るはずだ」
自信を持って言い切った。
刀矢は、風歌や璃光子の天才的な能力を目の当たりにしたり、さっきロイダが当代の修験者を高く評価していたこともあり、彼女たちの力を過剰に信じるようになっていたのだ。
かくして、魔法を使ったお風呂作りは始まった。




