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“誤算”


「あ゛~……気持ちわりぃ~」



 密月(みつき)から逃れた闇奈(あんな)は、修験洞(しゅげんどう)の入り口まで来たものの、グッタリとしゃがんで壁にもたれかかっていた。


「少し、気を使いすぎたか。くそ。怒りに任せるとろくでもねぇな」


 脂汗(あぶらあせ)を垂らし、荒い息をしながら(ひたい)を押さえて目眩(めまい)に耐える。


 気功術は、自分の体力を波動に変換して放つ技なので、精神力と集中力、体力に負担がかかるのだった。


とにかく、少し休んで回復を待たなければ動けない。


 力なくへたり込んでぼーっと空を見上げていたら、突然遠くの方で何かが爆発的に発光するのが見えた。


「うわっ」


 思わず目を閉じて、手をかざす。こんなに遠くでも、闇奈には眩しいのだ。


 さっき手下の二人が、『外でボスが誰かとやり合っている』と言っていたことを思い出した。


しかし、その相手が璃光子(りみこ)達だなんて、闇奈には知る由も無い。


「すげぇ光。関わりたくねぇな」


 そんな事を呟いていた時、背後に気配を感じ、反射的に振り向いた。


 そしてその気配の正体を捉えた瞬間、闇奈は背筋が凍っていくのを感じた。


「お前!」


 そこには、さっき確かに気絶させたはずの密月が立っていた。


 こめかみから一筋の血を流し、歪んで立っているところを見ると負傷していることは確かなようだが、痛がる素振りも見せずに無表情で、その雰囲気は冷酷な怒りを静かに携えていた。


「アレで勝ったつもりか? 甘いな」


 低い、くぐもった声。


怒りの深さを不気味に表した密月は、まるで大きな雑草でもひっこ抜くような手つきで闇奈の腕を乱暴に引き上げ、関節の構造を無視して無理な方向に捻り始めた。


 骨がミシミシと(きし)む。


「ぐっ、うう……!」


 今は、気功術も使えない。人間の力とは思えない密月の力に、闇奈は大した抵抗もできずにされるがままだった。


 そして、



 ──ボキッ!



「うっ! あ゛あ゛あ゛あぁぁ!!!!」



 人体で一番硬い組織が壊された音と、闇奈の絶叫が洞窟内で反響する。


 密月が捨てるように離した腕は、完全に違う方向に曲がっており、振り子のようにブランとしていた。


 あまりの激痛に、闇奈は言葉なく、ただ歯を食いしばりながら俯くだけだった。


 密月は相変わらず無表情で、冷ややかに闇奈を見下ろしている。


「痛いか? ガルとパウは、もっと痛かっただろうなぁ。頭蓋骨(ずがいこつ)が砕けるぐらいだからな!」


 密月の表情が、一変。冷酷さを感じさせていた怒りが、熱い憎しみを(あらわ)にする。


 ガルとパウは、闇奈の気功弾で死んでいた。


 その言葉に、闇奈は息が止まる程のショックを受ける。


 ──殺してしまった。


 今まで相当辛い訓練をしてきたが、人を殺す訓練なんて、もちろん無い。


さっきも、殺すつもりはなかったのだ。ただ気絶させようとしただけだった。


怒りに任せた気功術で、人を死なせてしまった。その事実は、即座に闇奈に重くのしかかった。


 密月はまた無表情になると、今度は闇奈の足を掴んで力を込めた。


「ぐっ! イッ……!」


 闇奈は苦痛に顔を歪め、体もブルブル震えだす。


 密月の青い瞳に、また恐ろしい怒りが表れる。


「痛いなんて言わせねぇぞ。二人の分。てめーを殺しても足りねぇんだ!」



 ミシミシミシ……ゴキンッ!



「ぐっ、うっ、あ゛っ…ぁぁあ゛あ゛ああ!」



 再び、悲痛な音が洞窟内にこだました。


 闇奈の足は、腕と同様にあらぬ方向に曲がり、更に折れた骨が皮膚を突き破って大量の血が噴き出した。


 痙攣したように頭を震わせ、顔面蒼白になる闇奈。意識が遠退いていく。


 朦朧としている闇奈に、密月は憎々しげに吐き捨てた。


「お前を、ロイダに突き出してやる。どんな殺し方するか。楽しみにしとけよ」


 密月は闇奈にはもう聞こえていないのを承知でそう脅すと、闇奈の髪を鷲掴(わしづか)み、まるでゴミ袋のようにズルズルと引きずって行った。



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