“璃光子の強さ”
──《私は、お前の血縁者だ》
盗賊団のボス、ロイダなる男からそう告げられた璃光子は、呆然と瞳を揺らしてロイダを見つめていた。
対するロイダは、放心状態の璃光子をよそに更に嫌な真実を告げる。
「私は、31代目の光紗江と通じた。よって、正当なお前の血縁者だ」
『光紗江』は、璃光子の祖母の名前だ。
と言う事は、このどう見ても20代の若い男が祖父に当たるという事になる。
容易に信じられることではない。
しかし、わざわざこんな嘘をついたところで、何かメリットになるとは思えない。だとしたらやはり、真実なのだろうか……。
色々考えてしまって整理がつかない璃光子は、何も言えずにいる。
その時、四色が重々しく口を開いた。
「ロイダ。それ以上はやめろ。まだ、16歳だ。心労をかけるな。孫を可愛いと思う気持ちがあるなら、黙って通せ」
『孫』。
四色がこう言った事で、この男が自分の祖父であるということが事実なんだと、璃光子は全身が毛羽立つようなショックを覚えた。
ロイダはまた鼻で笑い、不愉快そうに四色を見た。
「私は、子を慈しんだ事もない。ましてや孫など、どうでもいい。通せだと? 帰れ。王勅に関わるのはまっぴらだ」
そう吐き捨てるように言うと、踵を返して町へと歩き出す。
その後ろ姿に、
「待って!」
叫んだのは、一番ショックを受けているハズの璃光子だった。
ピタリと足を止め、首だけで振り返るロイダ。璃光子を見るその目は、ケンカ腰だった。
「自分の出生の秘密でも問いただす気か?」
璃光子は、聞きたかった。本当は真相を問いただしたかったが、
「違うわ。私は闇奈を取り戻しに来たの。闇奈はどこ? 今すぐ返して」
今は、闇奈の身の安全を確保するのが先。あまり刺激はできないと、疑問を飲み込んだ。
璃光子は、知らず知らずのうちに状況を冷静に判断し、行動する事が出来ていた。
この度胸には、誰もが脱帽だ。
「アンナ? 何だソレは」
ロイダは鬱陶しそうに眉をしかめ、反応が悪い。
しかしそれに対し、璃光子はまたも冷静な対応をした。
「ここに、一人の女の子が連れ去られてきたハズよ。あなたが知らないなら、知っている人を探して。必ずいるハズだわ」
そんな璃光子の態度に、ロイダは物足りなさを感じていた。
動揺を誘ったはずなのに、璃光子には応えていないようだ。
「私はカサスの長だが、部下には好きに動かせている。我々が人をさらうなど、日常のことだ。探すのは無理だな」
それだけ言うと、また町へと歩を進めていく。
再び向けられた後ろ姿に、璃光子は絶望にも似た怒りを感じた。
(そんな。せっかくここまで来たのに。みんなケガしながら、必死に来たのに! 引き下がるもんか!)
璃光子はギュッと拳を握りしめ、祖父と名乗った男の背中を強く睨み付けながら立ち上がった。
「ロイダ!」
ありったけの怒りを込めた叫びを、ぶつける。
ロイダはピクリと足を止めた。
「行かせないわよ。隠す気なら、誰だろうと……身内だからって許さない!」
そう叫ぶ璃光子の勇気は、全員の胸を貫いた。
本当は、ショックで何も言えないはずだ。ずっと会いたかった肉親が、こんな形で──仲間を誘拐した敵として、目の前に現れたのだから。それなのに、敢然と立ち向かい、仲間の為に奮闘する姿は、全員の心を打ったのだった。
ロイダはゆっくりと振り返り、
「許してもらわなくとも結構だ」
そう呟いて急に不機嫌な顔になったかと思ったら、スイと右手を上げた。
するとまたゴロツキ達の姿が消え、一番近くにいた刀矢が斬られた。
呻き声を上げ、腕を押さえて苦しむ刀矢。
そのやり方に、璃光子の怒りは爆発した。
「ちょっ、とぉ……いい加減にしてよ!」
璃光子が怒鳴った瞬間。音もなく、全ての色をかき消すような白い光が辺りに一杯広がった。




