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“ロイダ”


 ゴロツキたちは、相変わらずジリジリと後退していくばかり。


まるで、おびき寄せているかのようだ。


「罠かもしれないな」


 刀矢(とうや)が言うと、


「上等だ。飛び込んでやる」


 と剣助(けんすけ)は闘志を(あらわ)にした。



 ()えて相手のペースに乗り、進んで行く。


そのまましばらくすると、黄魔導士(おうまどうし)の町『カサス』の門が見えてきた。


 目的地を目前にして、一同の胸は高鳴る。


 しかしその瞬間、なんの前触れもなく、ゴロツキ達の姿が音もなく消えた。


「消えた!?」


 突然の怪奇現象に、槍太(そうた)が驚きの声を上げる。


 しかし次の瞬間、


「うあ!」


 槍太の声は呻き声に変わった。


 肩には、何か鋭利な物で切り裂かれたようにパックリと傷が開き、血が噴き出している。


しかし、槍太の周囲に刃物の存在は無い。


「槍太さん!?」


 驚いた大牙(たいが)も次の瞬間、


「ぐあ!」


 鳩尾(みぞおち)をバットで打ち上げられたように、突然宙にはじき飛んだ。


 姿を消したゴロツキの仕業である事は間違いない。


 剣助は何か動きを把握出来る手掛かりは無いかと辺りを警戒したが、


「う!」


 すぐに片膝をつかされてしまった。下腹をバッサリ切られ、血が流れる。


「な……どうなってんだ……」


 溢れ出る血液を塞き止めようと傷を押さえ、辺りを睨む。


だが、何も見えない。そこにいるのは間違いないのに。



 剣助が重傷を負ったのを見た火芽香が、咄嗟(とっさ)に駆け寄ろうとしたのを水青(みさお)が慌てて止める。敵は、どこに潜んでいるのか分からない。



「風歌! 頼む!」


 風歌に治療をするように指示しつつ、刀矢は負傷した男達を庇う(かばう)ように一番前へ出たが、


「う! ぐ……」


 右胸から血を噴き出し、またことごとく膝を付かされてしまった。


 瞬く間に、三つの血溜(ちだま)りが草原の緑を汚した。


 女たちは焦り、見えない敵を必死で探す。


 風歌は慌てて治療したが、治療したそばからまた傷つけられていく。


「も、もうどうなってるの!?」


 風歌が引きつった声を上げた瞬間、



 ズバッ



 時代劇でよく聞くような斬殺音が大きく響き、風歌の背中から血が噴き出した。風歌はうなだれながら倒れ込む。


「風歌!」


 璃光子(りみこ)が駆け寄り、風歌を(かば)って覆いかぶさる。


勇敢な行動だが、敵に背を向けてしまっては背後から斬られてしまう。


しかしそんなことを気にできるほど冷静ではいられなかった。



 敵は見えず、武器はなく、戦える男達は負傷し、治療担当の風歌も負傷。


 最悪の状況に、残った火芽香と水青もうろたえるだけで、どうしたらいいのか分からなくなっていた。


 その時、


「仕方ないな」


 じっと後方で一部始終を監督していた四色(よしき)が呟いた。


 一つ溜め息をつき、スッと右手を挙げると、柔らかい風が辺りを舞踊り、負傷した全員の傷が同時に治った。


そしてもう片方の手を上げると、指先から真っ白い光が弾け飛び、その光を浴びたゴロツキ達が、まるで(あぶ)り出されたように姿を現した。


 ゴロツキ達は、お互いに顔を見合わせて動揺している者もいれば、まだ見えるようになった事に気付かないのか、息を潜めて匍匐前進(ほふくぜんしん)している者もおり、更には、璃光子の後ろで今まさに剣を振り下ろそうとしている奴もいた。



 四色はゴロツキ達を睨み、低い、貫禄を感じさせる声色で言う。


「お前たちのボスは誰だ。今の『透明化(とうめいか)』は、ボスの仕業だろう」


 しかしゴロツキ達は答えず、口をつぐんだままジリジリとまた後退し、距離を取り始める。


「クソ! 気持ち悪りぃ奴らだな」


 剣助は苛立った。



 その時、ゴロツキ達の先頭に、突然一人の男がフッと姿を現した。


 長身でヒョロっとした、病弱そうだが綺麗な顔立ちの若い男だ。


男は顔に笑みを浮かべて四色を見つめている。


 その男を見た瞬間、四色の顔はみるみる強張っていく。


「ロイダか?」


 ロイダと呼ばれた男は、ニヤリと嘲笑(ちょうしょう)する。


「四色。久しぶりだな。まだ王の小間使いか? まったくよくできた忠犬だな」


 四色は不愉快そうに眉を潜め、軽蔑の意を込めて言い返す。


「まさか、ロイダ。こいつらを束ねているのはお前か。由緒ある王族のお前が、こんなところで盗賊団か? 落ちたな」


 しかし、ロイダはまたも鼻で一笑するだけだ。


「あの王に仕えるよりはマシだ。毎日、『未来』を見て生きていける。『過去』ではなくな」


 その言葉に、四色は顔をしかめ、黙り込んだ。


 ロイダは勝ち誇ったような表情でこちらを見渡し、璃光子の指にはめてある黄色い石の指輪に目を止めると、璃光子の顔をマジマジと見つめ、まるでバカにした口調で問い掛けた。


音黄野(おとぎの)家の娘か。またノコノコとよく来たな。あんな伝統を律儀に守るとは。愚かなことだ。今回は33代目だったか?」


 しかし、璃光子は警戒して答えない。


 無言を返されたロイダだが、怒るどころか、むしろ模範解答を得たかのような満足気な笑みを浮かべる。


「怯えることはない。私は、そこの犬よりはお前に近い存在だ」


 ──『近い存在』?


 璃光子が微かな不安を覚えた時、



「ロイダ!」


 黙れと言わんばかりの怒鳴り声で、四色が割り込み、話を中断させる。


 ロイダはチラッと四色を見たが、また小馬鹿にしたように嘲笑し、璃光子に視線を戻すと、自己紹介でもするような軽い口調で言い放った。




「私は、お前の血縁者だ」




 璃光子は全身の血が落ちていくのを感じた。




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