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“交戦”


 闇奈(あんな)が身の危険にさらされていた、その頃──。


 ゴロツキと戦う決意をした修験者一行は、フォーメーションを決めて並んでいた。


 前方に主力として剣助(けんすけ)大牙(たいが)槍太(そうた)を置き、その後ろに風歌(ふうか)を囲むようにして璃光子(りみこ)火芽香(ひめか)水青(みさお)を配置。


刀矢(とうや)は一番後ろで、バックを守る作戦だ。


ちなみに、四色(よしき)はあくまで修行の補助役なので、とりあえずは戦闘には加わらない。よっぽどピンチの時に手を貸すことになっている。なので、一番後ろで高みの見物だ。



 張り詰めた空気の中、刀矢は冷静に指示を出す。


「剣助、大牙、槍太。お前たちが一番厳しいポジションだと言えるが、闇奈のためだ。頑張ってくれ。璃光子たちも、決してバラバラにならないようにしてくれ。はぐれそうになったら、大声を出すんだ。態勢を立て直す。風歌、君が倒れたら終わりだ。もし無理を感じたら、早めに言ってくれ。後ろは、俺が死守する。気にせず、とにかく進むんだ」


 長い指令だった。


昨日、足音の正体を確かめに行った時とは比べ物にならないほど表情は引き締まっており、冷静だ。


 そして、全員の顔を見回して作戦の全容を説明する。


「今回の目的は、闇奈の救出。できるだけ多くの手勢を倒しておびき出し、中を手薄にするんだ。闇奈が逃げやすくなるように。隙を見て、俺が合図を送る。そしたら、璃光子、風歌は、剣助と一緒に闇奈を探しに行ってくれ。いいか?」


 異議を唱える者は無く、全員がしっかり頷いている。そこには、また強い結束力が生まれていた。


 刀矢も全員の決意を確かめるように深く頷き、


「よし。……行くか」


 迫り来る敵を見据えた。


 黄魔導士の集団は、もうあと100メートル近くまで迫ってきている。人数は更に増え、倍以上になっているようだ。


 だが、(ひる)む者はいなかった。



 フォーメーションを保ったまま歩を進め、ゴロツキ集団と50メートル付近まで近づいた時。


相手の先頭集団、10数名が勢いよく走りだし、向かってくる。


「来るぞ! 走れ!」


 刀矢の指示で先頭の三人も一斉に前へ出て、迎え撃つ。


 10メートルほど前進し、そこで第一陣と激突。


相手は10人以上いたが、剣助達の方が戦闘力は上回っていた。


 大牙はその大きな刀を一振りで3人を吹っ飛ばし、剣助も素早い太刀捌(たちさば)きであっという間に5人は斬った。槍太も長い槍を上手に使って、一人一人確実に畳み込んでいる。


 しかし、その後ろからまた更に大勢の第二陣が走ってくる。


それを見て刀矢は素早く指示を出した。


「大牙! 槍太! 下がって脇を固めるんだ!」


 前線は剣助に任せ、二人がすかさず下がり、女達の列と並んで横からの襲撃に備えた。こぼれた手勢は刀矢が片付けている。


 璃光子は、その光景を目をそらさずにしっかり見ていた。


辺りには武器と武器がぶつかり合う金属音が絶えず響いている。


それらをずっと聞いていると、なんだか耳が疲れて少し気が遠くなる。


それに、初めて目にする現実の戦闘の恐怖もあって、今にもしゃがみ込んでしまいそうになるのを必死にこらえ、息を呑み、唇を噛み、璃光子は闇奈のことを考えていた。


(強くて、優しくて、綺麗で、頭もいい、完璧な闇奈。でも、きっと今頃苦しんでるわ。絶対助ける。私がやらなきゃ)



 やがて、相手の半分は倒し終わった時、残りの半分が後退し、戦線を引いていった。


 剣助は額の汗を(はかま)(そで)で乱暴に拭い、


「よし! 進むぞ!」


 全員に聞こえるように気合いを入れ、歩を進めた。


(魔法とか使ってくると思ったけど。なかったな。温存してるのか?)


 魔法が使われなかった事を不審に思いながら、剣助は武器を構えて進んでいく。


その呼吸は荒く、肩が激しく上下している。疲労は明らかだ。


「剣助、待って治療がまだ……」


 治療担当の風歌が忙しそうに手の平を向ける。


 しかし剣助は、


「時間が……なんか早く行かねぇと、ヤバイ気がするんだ」


 足を止めようとはせず、ただカサスを睨み付けている。


「そうだな。急がなきゃな。でも、治療は受けとけ。お前まで倒れたらどうする」


 そう諭す刀矢も、同じように呼吸が荒い。手の甲に傷を負っており、血が流れている。


槍太と大牙も、重傷ではないものの身体のあちこちに血を(にじ)ませ、息が上がっている。


男たちはけっこう、満身創痍(まんしんそうい)だ。


 風歌は、負傷者の多さに対して治療が思うように進まない事に焦り、剣助に懇願するように声を掛ける。


「ゴメン、歩きながらだと難しくって。少し止まってくれない?」


 それに剣助は、足も止めず、振り返りもせずに、強い口調で返してきた。


「風歌。歩きながらでも走りながらでも治療できるようにしてくれ。そうじゃないと意味がない」


 その、昨日とはまるで別人な剣助の気迫に、風歌はまだ自分に甘えがあったと認識させられた。


 そうだ、今ここは戦場なのだ。甘いことは言ってられない。


激しく剣を交わす彼らに、リアルタイムで治療を施すことができなければ、意味がない。


「わかった。そのまま歩いてて」


 表情を引き締めた風歌は、歩く剣助に集中しようと努力した。


 すると、



 サアアア──



 いつもより速い風が剣助の周りで螺旋(らせん)を描いた。


その風は一瞬で剣助の傷を治すと、そのまま小さな竜巻となって刀矢へ向かっていき、全身の傷を塞いだ。


「す、すごーい」


 水青が感心している声も、風歌には届かない。


 風歌は、次は大牙……槍太、と集中していた。



 昨日覚えたばかりの治療魔法を、たった一日でここまでレベルアップさせてしまうのは、風歌の非凡な才能だ。


しかし、それをずっと後ろから見ていた四色(よしき)は、その目覚(めざま)しい成長を喜べずにいた。



 四色の脳裏には、昨夜見た剣助の顔がちらついていた。

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