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“密月”

「よし。こっちから入るぞ」


「誰にも見られてねぇよな。はぁやべぇ~心臓がどうにかなりそうだぜ」


 闇奈(あんな)を連れ帰った盗賊の二人は、アジトがある町に到着したものの、入るのに苦戦していた。


 ここは、住人のほとんどが黄魔導士(おうまどうし)の町、カサス。


ここでは黒魔導士(くろまどうし)はとことん嫌われており、入ったら最後、まず生きて帰れないだろうと言われるほどガラの悪い魔導士ばかりだと悪名が高い。


 特にボスの黒魔導士嫌いは深刻で、もし黒魔導士を連れているなんて知れたら、たちまち取り上げられて殺される。


町を汚したとして、この二人も何らかの罰を受けることになるだろう。


密月(みつき)さんは今、修験洞(しゅげんどう)にいるんだったか?」


「ああ、まだいてくれればな。あそこなら見つかりにくいから助かるな」


 細心の注意を払って町に足を踏み入れた二人は、町の少し外れたとこにある、『修験洞(しゅげんどう)』なる洞窟に向かった。



 洞窟に着くと、二人はすぐには入らず、入り口から中を覗き込む。そして辺りに人がいないのを確認してから呼びかけた。


密月(みつき)さん、密月(みつき)さん! いますか? ガルです。見せたいものがあって」


 洞窟は音が反響しやすい。できるだけ声を抑えた。


 少しして、奧から若い男が出てきた。


 スポーツ刈りで金髪。


頭のターバンは無いが、動きやすそうで、いかにも盗賊といった服装だ。


顔はイギリス白人系で、青い瞳。盗賊と言ってもそんなに人相は悪くなく、爽やかそうな青年だ。


年齢は、せいぜい高校生ぐらいにしか見えない。


 密月(みつき)なる男は、にこやかに二人に笑い掛けた。


「おう、ガル、パウ。お前ら狩りに行ってたんだったな。お疲れさん。で、なんだ?」


 ここで言う狩りとは、もちろん誘拐のことだ。


「はい。実は、狩りで女を捕まえたんですけど……」


「おっ、いいじゃんいいじゃん」


 密月(みつき)はパッと顔色を明るくし、身を乗り出した。かなり女好きのようだ。


 しかし、ガルと呼ばれた男は、頬をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべた。


「それが、黒魔導士なんです。それで密月(みつき)さんに相談に」


 それを聞いた途端、密月は面倒臭そうな話し方に変わった。


「黒魔導士? なんでそんなの拾ってきたんだよ。らしくねぇな~。ロイダにバレたらお前ら首だぞ」


 ここで言う首とは、もちろん打ち首のことだ。


「は、はい。でも、捨てるに捨てられなくて。とにかく見てください」


 ガルは少し焦ったように袋を開けて闇奈の顔を覗かせた。


 それを見た直後、密月は真顔になって黙り込む。


 その反応の悪さに不安を覚えたパウが、恐る恐る聞いた。


密月(みつき)さん、どうしましょう?」


 密月は闇奈に視線を落としたままボソボソと小声で二人に指示を出す。


「お前らが連れてきたって事は、黙っててやる。

ここに置いて、後は知らねぇふりしとけ」


 そう言う口元が少しだらしなく歪んでいるのを見て、ガルとパウは安堵(あんど)した。


(どうやら、気に入ってくれたみたいだな)


 闇奈の置き場所が決まってホッとしたガルとパウは、疲れきった顔で修験洞(しゅげんどう)を後にした。



 闇奈(あんな)を受け取った密月(みつき)は、とりあえず闇奈を袋から出し、奧の部屋へ運ぶと、祭壇の上に寝かせた。


 そして、しばし見とれる。


「こんな美人みたことねぇな。何者かな。服も変だし」


 とにかく目を覚まさせて話を聞こうと、密月は闇奈のまぶたの上に軽く指を置き、指の先をピカッと一瞬光らせた。


光魔法(ひかりまほう)である。


 直後、闇奈はパチっと目を開け、素早く上体を起こすと祭壇からスルリと降り、すかさず密月(みつき)と距離をとった。


 その間わずか一秒。


 常人レベルではない身のこなしに、密月はしばし呆気(あっけ)にとられていた。


 闇奈は密月を睨み、勢い良く声を張り上げた。


「お前、誰だ! ここはどこだ! なぜ私を連れてきた! 何が目的だ!」


 失神から目覚めてすぐに、こんなに虚勢を張れる女は見たことない。密月はポカンとして黙っていた。


 密月(みつき)の答えを待たず、闇奈はまたしゃべる。


「答えねぇんなら用はねぇ。そこどいてくれ。

帰らなきゃなんねぇんだ」


 闇奈は全身で警戒し、即座に解放を求める。


 密月は苦笑いを浮かべ、やっと声を聞かせた。


「今会ったばかりなのに、もう帰るなんてないだろ。もう少し付き合えよ」


「断る。私には、時間がない」


 闇奈は間髪いれずにそう返すと、ツカツカと密月の横を通り過ぎようとした。


 密月は、誘拐されて来た身分でありながら、怖がりもせずにこんなに強気でいられる闇奈に興味を抱いた。


と同時に、この女の鼻っ柱を折ってやりたいとも思った。


 横を過ぎようとする闇奈の腕を強く掴むと、部屋へ押し戻そうと引っ張る。


 それに闇奈は応じるわけもなく、掴まれた腕をバッと振り上げると、そのまま体をひねり、上段回し蹴りを繰り出した。


「おっと!」


 密月はそれをしゃがんで避けると、腕を離して後ろに飛び、距離をとる。


 攻撃に転じる素早さと、蹴りのキレの良さに驚いていた。


 ──この女は、戦い慣れている。それも、結構なやり手だ。


「とんでもねぇの拾って来やがったな」


 密月(みつき)はどこか嬉しそうに、ニヤリと笑む。


 闇奈はそんな笑みを不愉快そうに睨みながら構えをとり、低く言った。



「来い」



 邪魔するなら、戦うしかない。



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